卓話


Googleは、何をしようとしているか

2007年8月8日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

グーグル(株)
代表取締役社長
村上 憲郎 氏

 Googleは今年で創業9年という若い会社でございます。二人の創業者が現在のGoogleに繋がる仕事を始めたのは、1995年に、スタンフォード大学のコンピュータサイエンスの大学院の博士課程で出会ったときです。1995年は、同じくスタンフォード生まれのYahooが創業を果たした年ですので、1998年創業のGoogleは、3年後輩に当たります。

 YahooもGoogleも、インターネット上に溢れる情報をどのように整理したら、利用する側が的確に求める情報にたどり着けるのかということを仕事の目標にしています。

 Yahooさんのアプローチの仕方は、インターネットを書籍にたとえると、目次を作るという方法です。Yahooさんのトップページを開くと、天気、路線、株価、ニュース、オークションなど、あらゆる情報が項目毎に整理された形で並べられています。それらをクリックすることによって、当該の項目の、より詳しい内容にたどり着けるという仕組みです。

 それに対して、Googleの両名が考えついた仕組みは、同じくインターネットを書籍にたとえると、書籍の内容にたどり着く手順として索引を手掛かりにする方法です。

 Googleのトップページは、白い箱がポツンと置いてあるだけです。その中に、探したい項目の言葉を幾つか入れて、検索をかけると、情報があると思われるページのリストが一気に画面に出るという仕組みです。

 この二つのアプローチは、仕組みとしての違いに起因して、それぞれのビジネスモデルとして、大きく異なる結果を生んでいます。

 Yahooさんの目次ベースのサービスは、ポータルと呼ばれるビジネスモデルに結実しています。極めて使い勝手のいい、すばらしいサービスであると思います。ただし、Yahooさんの目的は、すべてをYahooのポータルで用を足してもらうことにあります。いわば滞留時間を最大化することがポータルというインターネットビジネスの目標であるとも言えるわけです。

 一方、Googleのビジネスモデルは、一刻も早く探し物が見つかることが、成果を挙げることになるわけですから、結果として、滞留時間を限りなくゼロに近づけることが目標です。そういう意味において、両者は大きく異なっていることを、ご理解ください。

 現在のGoogleのミッションステートメントは「世界中のあらゆる情報を整理して、世界中の人々がその情報にアクセスできる」というものです。

 「整理して」とは、索引を作ってということ、「情報にアクセスできる」とは、索引を参照することによって、探していた情報にアクセスできて、その情報を使えるようにするということです。

 このサービスは無料です。財務的には、広告収入によって支えたいと思っております。これが、Googleのビジネスモデルの基本スタイルです。

 もし、サービスに料金を課したり、サービスを何かの収入に直接つなげていこうと考えた途端に、サービス本来のあるべき姿から捩れるのではないかということを、私たちは危惧します。サービス開発のエンジニアに対しても、サービスを収入源につなげるようなことは一切考えてはならないと厳命しております。収入はひたすらシンプルに広告収入でと考えております。

 現在、Googleはその索引のサイズにおいて世界最大です。その故か、Google脅威論のような話が出回り始めております。Googleが、情報を管理支配するBig Brotherのような存在になるのではないかと、面白おかしく言う人もいますが、私どもは、情報を支配するような立場ではありません。

 Googleは索引を作っているだけです。情報それ自体を占有したり、所有したりしているわけではありません。Googleはあくまでも、ユーザーと情報をつなぐブリッジの役をしているだけです。ユーザーが探している情報のありかを指さすだけが、その仕事です。

 関連度の高い順に並べるというサービスの利便性の評判を聞きつけたベンチャーキャピタルが、起業を進めた結果が、これまでの会社としての道程の出発点ですが、このことから、良いサービスをひたすら磨き上げていけば、必ずユーザーの支持はいただけるということが、今日に至るまで、Googleの基本的な考え方になっております。

 サービスを無償で提供することになりますと、コスト構造を限りなく低く押さえ込むことが必要になります。我々の使うコンピュータは我々自身で自作しています。部品も最もコストパフォーマンスの良い、数世代前のチップも使います。

 Googleは、技術テクノロジーを最も重要なコア・コンピタンスとして据えていますが、それがどのように培われてきたかということを申しあげます。

 創業者自身が優れたエンジニアであったということがありますが、スタンフォード大学の学友たちが参加して、当初から優れたエンジニア集団として会社がスタートしました。
私どもは、大量のコンピュータを安価で作ることをやってきたお陰で、世界最大規模のコンピュータシステムを所有しております。今日に至るまでも、優れたエンジニアの方々が参加してくださるのは、自分の考えているアイディアを実現するにはGoogleの持っている巨大なコンピュータシステムを使えばできる、ということで参加してくださるケースが増えてきております。
 
 その結果、世界最大規模のインフラを使った、さらに新しいサービスが創り出されるという、スパイラルな、ポジティブなフィードバック効果で、テクノロジーに益々磨きがかかってくるという、テクノロジーサイクルともいうべき状況が、Googleのひとつの強みになっていると思います。

 Googleの研究開発センターは、本社のあるサンフランシスコ郊外のマウンテンビュー、ニューヨーク、スイスのチューリッヒ、インドのバンガロア、そして日本の東京等に展開しています。これは、その地域のための研究ということではなく、その地域にいる優れたコンピュータサイエンスの研究者の参加を求めるところに目的があります。

 Googleは、これまでインターネットを中心として仕事をしてきましたが、ミッションステートメントで世界のあらゆる情報を整理するという宣言に従って、そろそろ、ネットに載り切れていない情報についも整理をしたいと考えてきております。

 人類の智の遺産といえば書籍にかわるものはありません。そこで、我々は、ブック検索を開始しました。

 ある言葉を手掛かりにして、本文の中にその言葉が出ているすべての書籍を検索できるようにしたいと考えております。この仕事は始まったばかりですが、日本の出版各社のご協力を得て、カリフォルニアに日本の書籍を集め、そのすべてのページをスキャンして、データ化するという作業を行っております。

 著作権上の権利をプロテクトしないといけませんので、すべてのページが閲覧できるわけではありませんが、一部のページを読むことができます。しかも、印刷や保存やコピーはできないようにしています。その書籍に興味をもったユーザーには、その本のオンラインでの購入ルートも表示しています。

 サービスの画面のいちばん下に、何行かの広告が掲示されます。ユーザーがこの広告をクリックすると、広告主になにがしかの広告料をお支払いしていただきます。その広告収入大半をその本をご提供いただいた出版社に差し上げ、残った部分が私どもの収入として、サービスを支えていくわけです。

 出版社の負担は皆無です。この本を検索できるようにしてほしいと、本を送ってくだされば、私どもですべての作業を行います。

 このプログラムは、古い書物についても展開したいと思っておりまして、図書館プロジェクトという形で、ハーバード、スタンフォードや欧米の大学図書館を中心として25の図書館の協力を得て展開しております。
 
 この7月には26番目として慶応大学図書館のご参加もいただきました。著作権の切れた書籍を対象としますので、新しいもので福沢諭吉先生の初版本、溯って17世紀の和綴じの古文書といった範囲までを視野に入れております。

 最後に広告のことをお話しいたします。
 Googleの広告は、必ず、今見ているページの内容と関連のある広告です。その画面を見ている人なら、こういう広告に関心がある筈だという内容の広告です。従って、広告主からは広告効果が高いという評価をいただいています。

 Googleの広告の集め方や配信の仕方は、広告主や配信先、一件当りの金額は小さいにもかかわらず、それを集積した値は大きな売上となるlong tail現象を利用したビジネスモデルの成功事例として紹介されるケースにもなっています。
 今後ともご支援をお願いいたします。