卓話


世界ローターアクトの週間例会
 「逞しい子供たちを育てる30日キャンプ」 

2008年3月12日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

(株)モビリティランド
前代表取締役社長
本田技研工業(株)社友
清水郁郎氏 

 今日の話の舞台になる「ハローウッズ」のある「ツインリンクもてぎ」は,総敷地面積640ha,開発面積280haの施設で,中心に国際サーキットと,200万坪の里山の中に交通教育センター,ホテル,ホンダ・コレクションホール,そしてハローウッズがあります。

 レース・イベントでは,2輪・4輪の大きな国際レース,熱気球世界大会,飛行機のアエロバティックス世界グランプリなどを開催しています。もうひとつ重要な活動として,アクティブセーフティートレーニングパークと称する施設で,2輪・4輪の交通安全教育に大変力を入れております。

 ツインリンクもてぎは,環境をいかに守っていくか,次世代の育成支援にどういう活動ができるか,そして,地域の皆さんといろいろな形でかかわって行く地域交流をキーワードに社会活動を展開しております。

 その中で,ハローウッズは,広大で美しい自然の中で,自ら体験し発見してもらう,きっかけの場として作られたものです。

 ハローウッズは,2000年の7月に「遊びと学びの場」としてオープンしました。

 ハローウッズが活用する「もてぎの森」は面積430ha,11の沢と三つのエリア(北・南・東)があり,広葉樹林に針葉樹林が交じった生き生きした森です。ここは,2千年前の縄文時代から人が住んでいて,およそ2千年の間,薪や食料を提供してきた里山です。

 その荒廃した里山を復活させて,棚田を整備したら,希少種のハッチョウトンボが増えてきました。里山を間伐して手入れしましたら,カブトムシも増えました。

 日本の山は,人とかかわっていくことで生きていくことが,つくづく分かりました。

 これらの仕事は,自然活用アドバイザーとして参画した崎野隆一郎氏に,プロデューサーとして活躍してもらっています。

 ハローウッズ活動には,「森あそび体験,もの作り体験,野外生活体験,森づくり体験,食体験」などプログラムがあります。

 山の中は,基本的に自由に歩けます。自然に触れながらのフリーウォークや間伐した大量の木材を利用した森のクラフト教室,山の豊かな食材を使ったクッキング。今日の舞台になるキャンプ,森に手を入れて共生するワークショップなどのプログラムもあります。

 「逞しい子供たちを育てる30日キャンプ」の趣旨は,「人と自然が楽しくかかわるなかで,自ら体験し発見する,きっかけの場をつくる」ことです。

 子供たちが持っている,自分の中にある無限の可能性を見いだすこと,個性に気がついて自主性に目覚め,積極的に人生を生きていく力と自信を身につけることがねらいで,主役はあくまで子供たち自身なのです。スタッフは相談にはのりますが,判断して進めていくのは子供たち。大人は,場所とチャンスを与えるというコンセプトです。

 では,2005年に受け入れました,小学5年から中学1年,10歳〜13歳の,男子11名,女子3名のグループの体験記録をたどりながら,お話しします。

 7月22日にキャンプが始まって,いきなり試練に見舞われました。自ら火をおこして,飯盒でご飯を炊くのが初日の活動です。

 それができないと飯が食えません。ようやく火がついて,ご飯が炊けるのが夜中というのが例年のことなのですが,この年のグループは何時間たっても,火をつけられませんでした。それだけではなく,作業を放棄してしまいました。子供たちは,次の日の,別のプログラムで施設の外に出かけた時に外食ができるというのです。

 今の子供たちは,たいへん賢くて,できないことにはチャレンジしない。難しい問題はやり過ごすという現象です。困難に直面しても,お互いに助け合おうともしません。

 これでは,先が続かないということで,崎野さんが,「ご飯食べないで30日間どうするつもり…。これができないと,明日のカヌーも駄目だよ」と,話しました。

 子供たちが,もう一度チャレンジして,やっと火がついて,ご飯が食べられたが,全員の手はマメだらけ,もう日が変わっていたというところからのスタートでした。

 まずは,飯を食うという当たり前のことが,こんなに大変なことなのだということを,心の底から理解してもらえたと思います。
 
 昔の子供は,親が忙しい時,農繁期などには,それなりの対応をしたと思うのですが,都市生活の中では,基本的生存力すらなくなってきているということだと思います。

 熱気球で空を飛ぶ楽しい体験もしました。

 その後,キャンプは順調に続けられるのですが,慣れた頃に,那珂川の源流地域に登山しました。標高1917mの三本槍ヶ岳です。

 源流の水を飲んで,そのおいしさを味わい,水道の水の味と比べて,都市生活での課題なども感じてくれたと思います。

 源流を究めた後,下山の途中,大変な雷雨に遭いました。激流が激しく,来た道が戻れず,北側の福島県側に下山しました。雷雨などの際には,事象に対して臨機応変の対応をすることを経験してもらいました。

 その日の夜,川が増水して危ないというので,テントを撤収して安全な場所に移るというハプニングもありました。危機管理と緊急事態への対応を経験したわけです。

 翌日は,カヌーの訓練です。転覆したカヌーから脱出するサバイバルも身につけてもらいました。

 キャンプも20日あまりが過ぎて,最大のプログラムは,栃木県茂木町から茨城県那珂湊までの65キロ,2泊3日の旅です。

 那珂川の堤防にそって歩いていくのです。すべての行動は子供たちに任されています。 河口まで後7キロという地点で,動けなくなった子供が一人でました。

 子供たちが集まって,延々と解決策を話し合いました。ついに,彼らが決めたことは,交替でおぶっていく,ということでした。

 体格の差があるので,背負う時間もさまざまでしたが,とにかく一行は進みました。

 スケジュールは遅れましたが,ゴールは,河口の大洗アクアワールドです。

 到着して,ジュースで乾杯をしておりましたら,突然,おぶってもらった子が,「みんなのお陰で,ここまで来ることができた。本当にありがとう」と,挨拶しました。

 普段,無口で,おとなしい子が自らの意志で挨拶をしたことには,スタッフも驚いたということです。

 30日キャンプの修了式は,両親あるいは家族も加わって行います。子供たちは,コミュニケーションの重要さ,話し合いの重要さに気がついたということを,異口同音に発表しておりました。

 30日キャンプの効用を科学的に証明してみようと,埼玉大学の野井真吾准教授の協力を得て,いろいろと分析を試みました。

 からだの調査のひとつ,冷たい水に手をつけて,その後の血圧の変化を調べる寒冷昇圧試験では,キャンプ最初に31%だった正常率が,キャンプ最後には61%に増えました。

 生活リズム・習慣調査では,唾液の中にある睡眠誘導ホルモンのメラトニンを測定して,規則正しく生活し適当な運動をすれば,健康な睡眠がもたらされることが証明されました。 総じて,調査結果から,自律神経機能を整える可能性が証明されました。

 ハローウッズの今後の展開としては,広大な敷地の,北側で森づくりと湿地帯の造成,そして南側では,森の遊びゾーン,里山の自然開発ゾーンを整備していきたいと思っております。今年の4月には,樹間の中に入って直接,木に触れることができる,樹間回廊をオープンいたします。

 このような活動を実践していて,何よりも思うことは,日本の昔からの文化,教育,社会のシステムには,逞しい子供を育てる要素がいっぱい詰まっていたという実感です。

 人は地球の一部です。人は自然の中で文化を形成してきました。それが,逞しく真面目で,社会の担い手になる素質をたっぷりともった子供たちを育んできたのだと思います。

 明治以降,近代化西欧化のなかで,特に戦後の60年,なかんずくバブル期以降,それら,祖先が大事にしてきたものを捨ててしまいました。それでいて,日本が国際的にリーダーシップをとれる国になり得たか…。

グローバルな経済社会の中で,逞しい,未来を担える子供を育てる文化,環境は,いまだに確立されていないと認識すべきでしょう。

 資源のない日本は,優れた技術と,外交をはじめ国際的なコミュニケーションが最も重要だと思います。

 ハローウッズの活動がコミュニケーションの場を提供し,将来を担ってくれる子供たちの育成の一助になればと願っております。