卓話


政局のゆくえ 

2009年6月3日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

財団法人 大隈記念教育財団
理事長 海老沢勝二氏

 政界は一寸先は闇といわれているように,何が起こるか分からないのが政治の世界です。政治を論ずるに,予断や固定観念,既成概念にとらわれたり,希望的観測で論評すると,大体が間違います。

今のような混迷の時代は,どう展開するかが分からない世の中だろうと思います。

政治家の先生方もいろいろなケースを想定して,幾通りもの対策を考えながら,政治の場に携わっておられます。

政治は立場によって見方が違います。そして「政治というものは歴史を知らなければ分からない」ともいいます。政局を見る場合には,長い間の歴史を勉強し,それを参考にしながら判断していくのが基本だろうと思っております。

 麻生内閣が誕生した昨年の9月以来,「解散はいつだ。選挙はいつだ。」と目先のことばかり取り上げられています。世界同時不況で経済対策や景気対策で変化しているなかで,解散総選挙の時期にこだわり,日本のあるべき姿や国家目標についての議論があまりなされないという,緊張感に欠けた政局が続いています。14兆にもなる補正予算も成立しました。後は関連法案の審議に入りますが,いずれにしても衆議院の任期は9月10日です。

衆議院の解散は総理大臣の専権事項です。

 明治以来の総選挙の歴史を見れば,ほとんどの選挙は政権を維持強化することを目的に実施されています。解散に追い込まれたり,任期満了での選挙もないわけではありませんが,ほとんどの選挙は政権にとって損か得かが判断基準です。

麻生さんは解散の時期を探ってこられましたが,55日間延長された7月28日までの会期中での解散が取り沙汰されています。新聞等では,総選挙は早くて8月2日,遅ければ8月30日または9月6日になるという見通しになると報じております。

既に事実上の選挙態勢に入っていますが,分からないのは世論の動向です。

国民の意識は目まぐるしく変わってきております。2カ月先の状況の風の吹き回しは全く予測できません。

私も,中選挙区時代までは大体の見通しもつきましたが,今の小選挙区時代には従来のような予想はできません。

各新聞社や放送局等で行っている世論調査も,かつては年に数回でしたが,今は毎月のように,電話やインターネットも利用して行われ,世論調査と称する,いろんな数字が出回って,人々はそれに振り回されています。

民放によるワイドショー番組での評論家やタレントの方々の意見も,有権者の政治意識に大きな影響を及ぼしています。

この二つの事象が世論形成に大きく作用していると言っても過言ではありません。

政治家の方も,パフォーマンスやキャッチフレーズ・スローガンに力を注ぎ,政策や考え方など本筋ではないものに力を注ぐという風潮が出てきています。

世論形成に関わる大きな事件として,去る3月3日に起きた民主党代表小沢一郎氏の公設第一秘書が政治資金規制法違反で逮捕された事件があげられます。

次の選挙で政権交代が実現するか。長い自民党政治から新しく民主党政治に変わるかも知れないというムードが出てきている時での逮捕劇は,これからの政局に与える影響がまことに大きかったと思います。

その結果,民主党は小沢氏の代表辞任という事態になりました。5月16日の代表選挙では鳩山由紀夫氏124票,岡田克也氏95票。29票の差で鳩山氏が新しい代表になりました。こうして次の選挙は鳩山民主党で闘うことになったわけです。

しかし,小沢氏は代表代行で、選挙の責任者であり,50人以上のグループを束ねています。小沢氏の選挙技術,統率力からみて,実際には小沢氏が仕切っていくのだろうと見ています。

政治家は「人間を知ることだ」と言います。よく「人か政策か」という議論がなされますが,私は,先ずは人だと思います。

かつて民社党委員長の春日一幸氏が「理屈は後で貨車でくる」という言葉を残しました。まず政治家・リーダーは国民のために何をやるか。それが大事だ。理屈は後だというわけです。

平成5年に自民党が総選挙で敗れて以来この16年間の政局を見ますと,善し悪しは別にして小沢一郎氏を軸に展開されてきました。当分の間、小沢氏を軸に動いていく構図は変わらないと思います。

今の自民党は,昭和30年に自由党と民主党が合併してできた政党です。派閥が寄り合ってできた保守連立政権でした。

現在の民主党も元自民党竹下派の鳩山由紀夫氏が革新系の菅直人氏と連携し,96年9月に立ち上げた政党です。その後,いくつかの反自民小政党が合同して新しい民主党となり,03年9月には小沢氏率いる自由党と合併するなど、野党第1党としての立場を築きました。現在の民主党の議席は112人です。衆議院の定数は480人,その過半数は241名です。民主党が単独で241名とれば鳩山内閣ができますが,今の情勢では,単独で241をとるのは至難の技です。

自民党も過半数を取れない場合はこれまで通り公明党と組むでしょう。公明党との連立が難しい民主党は単独で220〜230の議席をとらないと社民党や国民新党との連携協力もうまくいきません。そういう情勢ですから今度の選挙の見通しは非常に微妙だと言わざるを得ません。自民党と民主党もお互いに過半数をとれない場合にどうするか。僅か数議席の差で政権がかわることもあり得る情勢です。

一時、参議院選挙で自民党が大敗し、民主党を中心とする野党が過半数を占めた後、自民党と民主党の大連合構想が取り沙汰されたことがありましたが,このような大連合は今のような小選挙区制では難しく、このような大連合が成立すれば議会制民主主義は成り立ちません。昭和17年の大政翼賛会の時代に戻ってしまいます。

民主主義は健全な野党があって,はじめて成り立ちます。その状況を作り上げる小連合か、中連合が模索されると思いますが、実際には,そう簡単ではなく,今後、10年位は不安定な政局が続くかも知れません。

今の日本の政界は個性の強いリーダーが不在です。日本の政治は車座社会の中で育ぐくまれてきました。今太閤といわれた田中角栄氏は「政治は力なり。力は数なり。数は金なり」という有名な言葉を残しています。これが田中政治の基本でした。

田中氏は,天下を取ろうとすれば,組織の3分の1の人数を支配すればよいという考え方でした。全部を押さえる必要はない。大体,3割の人は日和見で意思表示をしない人達だ。だから,残りの3分の2の半分つまり全体の3分の1をおさえればよいという理屈です。

27歳で初当選した若い小沢一郎氏が,ずっとこの田中氏の側で勉強してきました。小沢氏の政治のやり方が田中流,金丸流といわれる所以です。

余談ですが,田中氏と小沢氏の違いをみますと,どちらも,勘もよし,剛腕と言われた点や人の心を掴むことにも長けている点では同じです。

田中氏は,敵を作らない,敵はできるだけ少なくするということを心掛けていました。

 冠婚葬祭は小まめに,訪ねて来た人はどんな人にも会う,という開放的な人柄でした。

一方小沢氏は、パフォーマンス的なことはやらない,あまり議論をしない政治家,説明不足の政治家といわれています。

小沢氏にも,海部内閣が倒れた後や,細川政権が誕生する時の2回程,総理総裁のチャンスがありました。小沢氏は,今のような政治構造の中では自分がやっても成果は上がらないとして辞退し,自らは NO.2として今日まで政局を裏から動かしてきました。

小沢氏の,この考えは今でも変わっていないと思います。つまり,あまり目立たないでNO.2にいて,人事も財政も掌握し,裏で実際に指導指揮するということが自分に向いているという思いがあるのではないか。

 今度の辞任は,代表を辞めて,身軽になりマスコミとの対応も必要なく,そういう状態のなかで,次の選挙では小沢流の政治力を発揮するいいチャンスが回ってきたという見方もできるわけです。小沢氏が,最後の政治生命を次の選挙に賭けて,どこまで自民党を追い詰め,そして追い越すかが,大きな焦点だろうと思っています。

選挙は「デモクラシーのお祭り」といわれています。その意味では,派手に盛り上げて,よい政治家を当選させてほしいと思います。