卓話


日本「再創造」〜「プラチナ社会」の実現に向けて

2012年8月29日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

蟷杏総合研究所 理事長 
プラチナ構想ネットワーク
会長 小宮山宏氏

機ダこΔ慮従
<視点1>世界の経済
 過去1千年間の各国の1人当たりのGDPの変化を調べてみました。西暦1000年の頃の各国の1人当たりのGDPは,どの国もほとんど同じです。

 人類1万年の歴史の中で9千数百年の間は,人間は食べるためにのみ作業をしてきました。人種によって食べる量がそれ程変わるものではありませんから,1人当たりのGDPはほぼ同じであったということです。

 その後,1500年頃にイタリアで商業が顕著になってGDPが少し高くなりましたが,世界に影響を与える程ではありませんでした。

 1700〜1800年あたりから各国のGDPが急激に高くなりました。それが産業革命です。それまで,100人のうちの99人が農業をやっていた社会の農業人口が一気に減って,物を作ることに生産の主体が移ったわけです。

 2000年頃から先進国の1人当たりGDPの対世界平均が落ちてきています。これは,世界平均が上がってきたということです。中国とインド,この2つの国の1人当たりGDPがどんどん上がってきているので,相対的に先進国が落ち出しています。これが今,世界の経済の現状です。

 当然の可能性として,1人当たりGDPが世界均一になることがあるとしても,その中でも勝ち組と負け組ができるわけですから,何とかして勝ち組になりたいというのが,今の日本だと思います。

<視点2>長寿化する人類
 一般に少子高齢化が問題だといわれていますが,少子化は克服すべき課題であり,長寿化は大変よいことなのです。

 1900年,100年前の世界の平均寿命は31歳でした。日本は44歳でした。1999年の世界の平均寿命は66歳まで伸びました。

 一人の女性が産む子供の数が「2」より少なければ,どこかで人類はいなくなります。日本は今「1.38」ですから,このまま続けば日本はなくなります。ですから少子化は克服すべき課題です。

<視点3>飽和する人工物
 有限の地球の中で,人工物が飽和に向かっているのは極めて重要な視点です。

 日本,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツの各国での,2007年の人口1人あたりの自動車保有台数は0.45〜0.50です。つまり平均して二人に1台持っている数です。

 人口が飽和して,二人に1台持てば車の台数は一定になります。日本は5800万台という数で,ほとんど変わりません。廃車になった分だけは売れます。年間500万台が日本の内需の値です。

 このように,人口に比例する内需はどこの国も同じです。中国やインドの一人あたりの自動車保有台数は,まだ0.02〜0.01ですから,マーケットとして有望です。しかし,そんなに長くは続きません。中国は既に0.08になっています。後10年も経たずに,二人に1台の国になるでしょう。

<視点4>エネルギーの確保
 250年前までは,すべてのエネルギーは薪でした。その後,石油,石炭,ガスが使われ,1970年頃になって原子力が加わりました。現在は,エネルギーの8割が化石資源です。原子力が5%,自然エネルギーと呼ばれるものが15%です。自然エネルギーのうち10%は相変わらず木材,水力発電が5%,風力とか太陽電池が1%です。

 エネルギーの確保には省エネルギーが最も有効です。今,家を建てる場合は新しい断熱基準で造ります。新しくエアコンや冷蔵庫を買う場合,エネルギー消費は8割減ります。

 私は3年前に「小宮山エコハウス」を建てました。これがエネルギー確保によいことなのです。生活を快適にするために家をよくしていくことは,間違いなく日本の基本的な需要を生み出します。経済の活性化にも一番効果的です。

 いま使っている化石資源を風力や太陽電池に切り替える,地熱利用も有効です。林業を復活させれば,バイオマスの安いものがいくらでも手に入りますから,それに置換していくのが日本のこれからのエネルギー政策でしょう。

供テ本再発見
<世界で最初に経済成長を遂げた日本>
 日本のGDPは1860年から急激に上昇して先進国並みになりました。これが明治維新以降です。1900年頃に1回凹んで,1940年頃にもまた凹んでいますが,これは戦争です。

<公害を克服した日本(墨田川)>
 1967年の墨田川は悪臭のひどい川でした。今では水質のよい川になって,20年前には白魚が戻ったという話です。

<効率化でエネルギー危機を克服した日本>
 日本は1970年代にエネルギー危機を2度も経験しています。日本はそれを見事に克服しました。どうやったかというと,産業がエネルギー効率を上げたのです。

 例えば,1トンのセメントを作るためのエネルギーを30年間で半分に減らしました。他の国はここまで効率化できていません。

 石油の全量輸入に頼っていた日本は激烈なショックを受けましたが,産業がエネルギー効率を上げることで,ピンチをチャンスに変えたのです。

 今の日本にできることは,電力危機を家やオフィスのエネルギー効率を高めることで吸収することです。かつての日本のようにエネルギー危機を克服できると思います。

<日本再発見のまとめ>
 江戸時代の日本は,世界でも先進国の一つでしたが,産業革命で欧米の経済が急激に立ち上がった時に,日本はそれに乗れず大きく差がつきました。しかし,当時の日本の社会システムは極めて整備されていました。

 寺子屋という教育システム,飛脚という情報システム,与力同心といった警察システムなどが整備されていました。遅れていたのは工業だけでしたから,黒船に脅かされた時にも日本は独立を保って,その後は一気に高度成長を遂げることができたのです。

 思うに,1868年以降の高度経済成長,1960年以降の公害の克服,1970年以降のエネルギー危機の克服,1970年代の長寿社会の実現などは,「経済,環境,エネルギー,寿命」という,人類が目的としていることを実現した結果として,今の日本の社会があり,併せて,課題も抱えていると見るべきです。

 地球規模の問題や高齢社会の問題という,世界全体の共通課題を抱えて,いま私たちは存在しています。これからは市民が自ら立ち上がって,主体となって進むべきです。

掘21世紀のビジョン「プラチナ社会」
 有限な地球の中で文明が進展した結果,先進国では衣食住・移動・情報を一般市民が手にしました。これは大きな成果です。人間が,文明の目標を実現したのです。

 「モノ」が行き渡ったときに,私たちは何を欲するか。答えは「グリーン・イノベーション」であり,「シルバー・イノベーション」であり,「ゴールド・イノベーション」です。

<プラチナ条件1>美しい生態系
 1950年の四日市は工場排煙の公害でひどい所でしたが,今は美しい自然が保たれています。私たちは間違いなく,より良い生態系の環境に住みたいと思っています。

 日本の森林は荒れ放題に荒れていますが,山は植林と伐採という循環で維持できるのです。輸入材に頼るのをやめて,林業を復活して森を蘇らせるのです。山が蘇れば海も蘇ります。より豊かな生態系に向かうのが,一つのプラチナ条件です。

<プラチナ条件2>エネルギー自給
 エネルギー自給国家を目指す鍵は,省エネルギーです。今の自動車はすべてエコカーです。家は断熱のよい建物に変わって,結露しない壁にはカビが生えず,健康にもよいです。

 エネルギー問題で一番大切なことは,エネルギー効率を上げて,エネルギー消費を減らすことです。これを徹底すれば2050年には半分以下になるでしょう。今のペースで,自然エネルギーの32%程度の導入は十分に可能です。新しいエネルギーとは,太陽光,風力,地熱,バイオマス,水力などです。そうすると70%くらいの自給率の国になれます。

 林業を復活すれば,材木にならない端材が出てきます。それをバイオマスの原料にするのです。建材の副成物としてバイオマスが出てくれば,原子力発電所5箇所くらいの発電がバイオマスでできます。良い住宅と森林再生の好循環の形です。イノベーションは,社会に良い循環を作ることにも通じます。

 金属はリサイクルです。日本はもともと地下資源のない国ですから,リサイクルで回せばいいのです。南アフリカの金山では,1トンの岩を掘ってくると,その中に入っている金の量は5グラムです。古い携帯を1トン集めると,250グラムの金が回収できます。 50倍の品位比の都市鉱山といえます。リサイクルの技術こそ,日本の文化と技術で世界を先導すべきだと思います。

<プラチナ条件3>資源自給国家の達成
 2050年には,資源自給国家達成を目標にしたいと思います。いまの日本の食料自給率は20%です。しかも世界から,日本は森林破壊の元凶だと非難されています。

 元来,日本は木を伐採し植えていくという循環で,材木の輸出国になれる国です。人類の文明の中で,森林を費消させて潰えた文明が多くあります。今,世界全体にそのような危険を感じます。

 70%の国土を森で囲まれている日本が,世界の80%の材木を輸入しているのは罪悪です。

 水,木材,食糧,鉱物,エネルギーを自給できる国になることは,日本にとって必要なことです。日本は「原料を輸入して製品にして輸出する国」というトラウマから離れないといけません。

 やがて世界が日本のような状況になるのです。人口が増えて,生活レベルが上がって,大量の資源が必要な時代がきます。そのモデルを日本がつくるのです。それが世界史的な日本の存在意義だと思います。

<情報化がイノベーションの鍵>
 プラチナ構想ネットワークでは,カードを配って会員を広げることを考えています。参加者の個別の情報を整理して,個別化の予防医療情報産業を作ったり,先進的な個別化医療を施したりする方法を議論しています。

 北海道のプラチナ社会と沖縄のプラチナ社会が同じである筈はありませんが,いくつかの共通する必要条件がある筈です。

<プラチナ構想ネットワーク>
 プラチナ社会の必要条件は,エコロジーな社会であること,資源の心配がないこと,老若男女が参加すること,心もモノも豊かであること,雇用がある社会(イノベーションによる新産業の創出),などです。

 プラチナ構想ネットワークは,自治体を場に,民力を中央が支える形で進めています。知事さんや市長さん109名が会員に加わってくださっています。また,69社の企業が企業会員として参加してくださっています。

 今のようなグローバリゼーションの時代に,日本のことばかり考えても駄目です。世界的視野で考え,その中で日本が果たす役割を考えるというスタンスでないと通りません。世界のことを考え,結果として日本が得をするという戦略でいくべきだと思います。

以上