卓話


世界の音楽事情と著作権

2015年1月21日(水)

一般社団法人日本音楽著作権協会 会長
作曲家 都倉俊一 氏


 今、音楽産業、世界の音楽のシステムが激変し、音楽著作権の管理が非常に難しくなっていることと、日本音楽著作権協会が抱える課題について話をします。

 音楽について歴史的に大きく振り返ってみると、19世紀はヨーロッパが中心で、近代に至るまであらゆる音楽が発達してきました。20世紀はアメリカの時代です。人種のるつぼの国で、特に黒人と白人の音楽の才能の融合がアメリカの音楽を発達させてきました。もう一つの貢献は、音楽を、貴族、庶民、芸術家の楽しみから産業にまでに拡大させたことです。蓄音機やラジオの発達も大きな役割を果たしました。

 21世紀は、音楽に限らずあらゆる分野において、アジアの時代だと言われています。ASEAN、中国、インドまで含めれば世界の人口の半分を占める巨大なマーケットですが、知的財産を守る意識がはなはだ遅れている地域で、著作権管理システムがきちんと整備されているのは日本だけです。

 主要5ケ国(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス)の2012年度の著作権徴収金額で見ると、1位が日本でアメリカが2位です。しかしアメリカでの著作権徴収はASCAP、BMIという団体が、ライブパフォーマンスやテレビ、ラジオ、コンサート、カラオケなどで歌われる演奏権だけを徴収しており、録音権は入っていません。合わせれば何と言ってもアメリカがトップです。また音楽のマーケット規模も日本が世界で2番目になります。

 もし、中国、人口13億人の国で、日本の10分の1でも著作権の徴収・分配が行われていたら、我々作曲家の生活はとても楽になっているでしょう。日本のJ-POPや歌謡曲は中国で非常に好評で、あらゆるところで海賊版が売れています。日本で売り上げベスト10に入るには、昔はCD30万枚、CDの売れない現在では8万枚位と言われていますが、中国では800万枚位になるのではないでしょうか(笑)。中国にもMCSCという著作権徴収団体があり、CISAC(著作権協会国際連合)に加盟しており、加盟国には相互管理契約があります。日本からは、中国に2013年度に約2,600万円の印税を支払いました。イギリスには約30億円、アメリカに対してはその倍以上です。一方、2013年度に中国から日本に送金された著作権使用料は700万円です。これが我々の一番の悩みの種です。

 中国で改革開放が進んだ1990年代、沢山の期待を持って日本の音楽産業が進出しました。ほとんどのレコード会社、プロモーターが上海、香港に事務所を構えましたが、今残っているのは1-2社だけではないかと思います。日中の芸術家の交流は今後も大いにやっていかなければならないと思いますが、産業やビジネスとして投資するには厳しいです。著作権システムが整備されていなければ投資価値がありません。

 世界中の不正録音・録画の横行は デジタル技術にも原因があります。我々の生活はデジタル技術がなければ成り立ちませんが、お陰でいくらでも海賊版を作ることができます。1970年代に台湾に行ったことがありますが、道端で売られているカセットテープを見たら、私が作った山口百恵さんのヒット曲が入っていました。1本40円位で買って帰ったのですが、ノイズがひどくて聞けませんでした。カセットテープはコピーを重ねると、こすれた音が増幅され、音楽が聞こえないぐらいの粗悪な音質になります。あまりにノイズがひどくて、「多分印税は入ってこないけど、いいや。こんなものじゃ売れないだろう」と思いました。でも、今はデジタル技術のおかげで私たちが録音した音質と同じものが、何万回でもコピーでき、配信もできます。

 今、JASRACでは、不正録音、不法録音が大きな問題です。レコード協会の調べによると、世界的に本来得るべき利益の28%が海賊版に食われています。

 日本で、作曲家が音楽を作り、利用者がそれを聞きたいという曲数はずっと右肩あがりです。2012年度には1039万タイトルの曲が著作権料の分配対象となりました。JASRACが、この1039万曲について、ラジオやテレビでの使用、映画、カラオケで歌われることも含めて、1年にその曲が使われた回数を集めた件数が16億4869件です。これもデジタルだからできることです。曲を年間16億件以上かけている国は先進国の中で、日本、アメリカ位です。日本はそれほど巨大なデータ量を持っていますが、いまの16歳、17歳の女の子は、生まれてから一度もCDを買ったことないがという人が8割です。私は、あと5年たったら日本からレコード会社というビジネスがなくなるのではないかという危惧さえ持っています。

 子供たちはインターネットで配信された曲を携帯電話で買います。作曲家として悲しいのは、彼・彼女らはそれを「曲を拾う、デリートする」と言うことです。昔、我々は、ビートルズのLPが発売されたら行列を作って当時2,000円以上したものを買って、うれしくて抱いて寝たりしていました。そんな風に音楽を大切にしてくれる風潮がなくなりつつあることは、ゆゆしき問題だと思っています。

 そしてさらに、クラウド時代の音楽鑑賞は劇的に変わってきています。
 今年から日本の規制が緩和され、「音楽ストリーミングサービス」が始まります。例えば、自分の好きな曲のベスト10を作るとすると、これまでは配信された曲を買って携帯電話やiPodなどに入れていた曲から作りますが、音楽ストリーミングサービスは、いわば空気中に音楽が飛んでいて、そのデータを受信しながら逐次再生する方式です。データを端末に保存しなくても、好きな時にその曲を聞けるのです。

 3000万人の契約があるといわれるスポティファイという、ストリーミングの世界最大手が4月に日本に進出すると言われています。曲数を無限に、しかも、CM提供によって半分は無料で聞くことができる。そうしたなかで、我々が音楽の著作権の管理をどのように行っていくのか、技術的にも難しいし、しかももっと新しいシステムがどんどん出てくるなかでどのように行うのか、現在の段階で、なんとも申し上げられません。2年後、またお話する機会があれば、まったく違う話をするかもしれません。

 JASRACの課題の2つ目は、著作者の死後の著作権保護期間です。音楽のみならず絵、小説、映画などすべての創作物に関わるもので、欧米先進国では死後70年にしており、先進国中では日本とカナダだけが50年です。私たちは70年への延長を目指しています。音楽配信には国境がありませんから、例えば、ジョージ・ガーシュインやビクター・ヤングの曲をアメリカのサーバーからダウンロードすると保護期間が著作者の死後70年のため有料なのに、日本は50年のため無料でできる。これでは、著作権整備ができていない国を批判できません。そのため、我々は以前から死後70年への延長を各方面にお願いしてきました。

 現在、著作権保護期間の延長問題は、我々の手を離れ、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の中にあります。TPPが妥結すれば、これが前に進みます。一日も早く世界水準への到達を願っています。

 最後の課題は、私が会長任期中の実現を悲願としている、著作権保護期間と密接な関係がある「戦時加算」の撤廃です。これは、第2次世界大戦の戦勝国の作品について、交戦状態にあった10年間分、著作権を長く保護する制度です。1952年のサンフランシスコ講和条約で、日本は1941年の真珠湾攻撃から10年間著作権を守らなかったとペナルティを課されたのです。第2次世界大戦の同じ枢軸国であるドイツ、イタリアはこのペナルティを課されていないのに、日本だけが粛々と今も支払っているのです。2013年のアメリカに対する著作権の支払いはペナルティ分だけで1億近い金額に上ります。

 先程の著作権者の保護期間が死後70年になった場合、戦時加算条項を凍結してほしいというのが私たちの主張です。5年前、世界140カ国加盟のCISACの総会でお願いし、全会一致で凍結の決議をいただきました。TPPの合意後、日本とアメリカ、イギリスなど戦勝15ケ国との二国間の政府交渉を進めていただければやっと「著作権の戦後」も終わります。TPPがこのように我々に影響を与えています。ぜひ合意に向かって日本政府に頑張っていただきたいと思っています。


      ※2015年1月21日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。