卓話


東京圏の高齢化を考える

2015年8月26日(水)

東京大学公共政策大学院 客員教授
日本創成会議 座長 増田寛也氏


 今日は、人口と、特に「東京圏の高齢化」がこれから著しく進む姿を、日本創成会議のデータを「見える化」して、問題の深さ、難しさを考えていただきたいと思います。

 昨年、日本創成会議は、多くの自治体が消滅の危機に瀕しているのではないかと指摘しました。正確には自治体が消えるのではなく、合併なり、名前を変えたりし、おそらくどのような事態になっても日本全国に暮らす方々は必ずいると思います。ただ、東京圏の高齢化によって社会保障をどう継続させていくのかといった時に、提供する自治体の単位が問題となり、それが大分おぼつかなくなっているということです。

 東京の高齢化問題の基礎となる日本の人口動向を見ていきます。

 日本の人口は、鎌倉幕府の成立から鎖国していた江戸時代まで、さほど変化はありません。人口は、緩やかに伸びつつ、ほぼ一定でした。それが明治の開国から約140年間に、一挙に9,000万人に増えました。総人口が減る要素は、戦争や、ヨーロッパでのペストの流行のような突発的な病気で、それがなければ基本的には増えていきます。

 ところが、2008年に日本の人口は頂点に達して、その後減り始めています。明治の開国以降の140年間で伸ばしたのを上回る勢いで、あっという間に減らしていきかねません。国立社会保障・人口問題研究所による将来推計では、今後も人口の減りが続き、2050年には9,708万人、85年後の2100年には4,959万人と5,000万人を切ってしまいます。

 一方で、日本は人口が過密な国であるため、少し減ったほうがゆったりと住め、国土の利用の点からもいいのではないかと言われます。ドイツは8,000万人超、フランスは6,000万人位なので、そうした人口で経済をうまく回していくことはいろいろな工夫で大丈夫だと思います。

 問題は、2060年には9,000万人を切るまでになることです。ここを努力して1億人にしようと、昨年の暮れ、石破大臣の「まち・ひと・しごと創生本部」で閣議決定されました。

 そのためには、出生率換算でかなり高い数値にしていかなければなりません。2030年に現在の出生率1.42を1.8まで上げ、2045年には人口を維持するための2.07まで上げることになっていますが、それすら難しいと思います。政府は2060年に1億人目標にしていますが、9,000万人では収らず、もっと下がるでしょう。

 このように下がり続けるのは、子どもが生まれなくなり、年齢別人口構成が、通常は年齢が低い下のほうの人数が多く年齢上昇につれて小さくなるピラミッド型になるのに対し、日本の場合は逆ピラミッド型で、上のほうの団塊の世代がかなり重くなっており、逆三角形になりつつあるからです。

 では、子どもの数の推移を、戦後から昨年までの「合計特殊出生率と出生数の推移」で見てみます。

 1947年から1949年に生まれたのが団塊の世代です。1年間に約270万人が生まれました。その人達が今年、高齢者になりました。10年後には、75歳以上の後期高齢者になります。巨大な人口の塊です。次の塊は、この人達の子ども達、団塊ジュニアで、1971年〜1974年に多い年は210万人位が生まれました。団塊ジュニアも昨年、40歳を超えました。高齢医療が発達しており、40歳を超えても出産される方は沢山いますが、出生数の95%は40歳よりも下、日本の場合は20代、30代から生まれます。通常では、第三次のベビーブーム、団塊ジュニアのジュニア世代の人口の塊が築かれるはずですが、そうはならず、出生数は減り続けています。一人の女性が一生に産む子供の平均数を示す合計特殊出生率が、1966年の丙午(ひのえうま)の年に下がったのを除いて、1975年までずっと2を超えていたのが下がり続け、2005年に1.26まで下がったためです。2人の大人から1.26人しか生まれない状況が続いてきました。

 これではいけないと、小泉内閣の最後の時期に少子化担当大臣が置かれ、少子化対策を取り、合計特殊出生率はその後上がりました。ただ、日本の場合、肝心の出生数は減り続けています。普通の国では、出生率が上がると出生数も増えますが、日本のこの程度の出生率の上がり方では、親たるべき層が激減しているため、数として効いてこないのです。

 合計特殊出生率は2013年に1.43まで上がましたが、昨年また1.42に下がりました。出生数はとうとう100万3,532人と、団塊の世代、団塊ジュニア世代の半分以下です。出生率が維持されても、親の数が減れば当然そうなります。来年の6月に今年12月31日までに生まれた子ども達の数が発表されますが、今年の出生数は97万人台前半だと思います。新聞の見出しは「とうとう100万人割れ」となるのは間違いありません。出生数は2018年頃に90万人を切る勢いです。身もふたもない言い方をすると、80数万人の半分が女性として、日本全体で1年間に生まれてくる女性40数万人が何人を出産するかによって日本の総人口が決まります。

 出生率が上がっても出生数が増えない。やはりこれは大変に恐ろしい。これを横ばいにし、さらに少しずつ増えるように、世の中のいろいろな条件を変えていく必要があります。

 この分野の専門家は異口同音に、世界の歴史の中で合計特殊出生率が1.5を切った国でその後回復した国はなく、1.5位が下限だと言います。スウェーデンも1.5になったことがありましたが、2まで回復しました。フランスは1.66まで下がって、今2.01です。少子化予算を増やすのも大事ですが、これら回復した国は、大規模な移民と事実婚を導入しています。移民を大規模に受入れると労働力人口がそれによってカバーされますが、出生率も上がるという因果関係が認められています。それから、フランスで生まれてくる子どものうち52%が事実婚によるものです。イギリス、アメリカも40%。北欧はさらに高く、60%超になります。

 日本の場合は、法律的に非嫡出子と言われる婚外子の数は2%で、出生数の98%が結婚した男女からです。合計特殊出生率を上げるには、卑近なことをいえば、まず若い男女に結婚してもらうことです。ただ、結婚、出産は当事者の意志が最大限尊重されることで、なかなか難しいところです。

 ここ1,2年、若い人に結婚してもらおうという動きがあります。いろいろなアンケート調査を見ると、「結婚意志がある」が90%、でも恋人がいない。そのうちの47%は「出会いのチャンスがない」。地域や職場に世話役のような人がいない、セクハラの問題もあるなど、昔と状況が変わっており、税金を使った婚活の積極的な実施などの話が出てきています。

 ヨーロッパなどの経験からいえば、移民や事実婚の導入も考えるべきでしょう。日本の労働力人口は現在約6,500万人で、これが2030年には900万人少なくなるため、3歩も4歩も踏み込んだ対策が必要になります。

 そして、基本的には女性の働き方の本質的改革が必要です。キャリアを形成していく大事な時に結婚、出産にあたるとどちらかを選択してどちらかを犠牲にする話になるので、男性の育休などを制度的に取りやすい職場環境にする必要があります。国民生活白書によると、キャリアを築こうとする女性が結婚をあきらめて働く場合と、一旦職を離れて非正規で復帰した場合の生涯所得を比べると、2億円以上の差が出るという試算があります。

 一方で、高齢化が進むのは団塊の世代が後期高齢者になる10年後です。だんだん医療や介護サービスを受けることになります。高度成長期に、この人たちの相当多くが大都市、しかも東京圏に集まりました。後期高齢者の3分の1が東京圏、特に東京都内に極端に増えることになります。核家族化で子どもが外に出て行き“老老”で住んでいる家の片方が亡くなると、単身高齢者が増加します。地域包括ケアを厚生労働省は目指していますが、東京は隣近所との関係が希薄ですし、認知症型の人達が増えると大きな問題になります。必要であれば消費税を上げて財源を確保し、ケアの体制をしっかりと取ることが何よりも大事です。

 懸念は、介護人材の極端な不足です。6月に厚労省が発表したデータでも、施策によって215万人まで介護人材を増やせますが、需要は少なく見積もっても253万人で、38万人足りません。介護の現場では、介護報酬等の関係から低所得に甘んじていますから、ますます介護人材が足りなくなります。

 同時に、労働力人口の中心は20代、30代ですが、この世代の人口が少ないと、介護だけではなくあらゆる分野で若い人達の奪い合いのようになります。貴重な若い人達には、付加価値の高い、意味のある仕事をしてほしいと思います。

 そのためにはすべての産業で、人材依存度を低くする必要があります。介護スーツの活用で重作業を軽減するのをはじめ、宅配便、自動車、さまざまな分野で進めなくてはなりません。そうすることで、介護の現場などではリタイアされた元気な方が働けるようにもなるでしょう。それが日本のイノベーションにつながっていきます。労働の投入量が減ってもイノベーションがきちんと行われれば、十分経済はカバーできます。高齢化の問題、人口の減少は、むしろイノベーションを進めるきっかけにして、いい国づくりに向かう転換点だと意識しておくべきです。


    ※本文は、増田寛也氏のお話しを東京RCのクラブ会報委員が纏め編集しました。