卓話


東南アジア諸国における労務事情

2016年11月2日(水)

三宅・山崎法律事務所
マネージングパートナー 弁護士 山田 昭君


 私の所属している法律事務所は1994年春にタイのバンコクに事務所を開設し、その初代所長として私が97年の夏まで駐在しました。97年夏と言えば、タイを震源とする東南アジア通貨危機が生じた時で、皆様もご記憶にあるかと思いますが、もう約20年を経過したことになります。

 そのような経緯で、東南アジア関係の案件に携わることが多いので、本日は「東南アジア諸国における労務事情」というタイトルでお話しさせていただきます。

 東南アジアと一括りにしても、その実態は極めて多種多様な国から構成されています。その国の成り立ち、宗教、政治体制がこれほど異なっている地域は珍しいのではないでしょうか。従って、これらの要素により労働事情も国によって大きく異なり、ある国で上手くいった労働管理が他の国では全く通用しないということになりかねません。

 労務事情の基本となる賃金ですが、横浜を100とするとシンガポールの一般工で36、北京で13、バンコク、マニラ、ジャカルタで7から8、ホーチンミンで3.5、プノンペン、ヤンゴンで2前後、つまり横浜の50分の1となっています。これらの国の賃金は、最近は毎年10パーセントから20パーセント上昇しておりますので、今はこの倍近くになっているかと思いますが、それでも日本と比較できないほどの低さです。オフィスで働くいわゆるホワイトカラーとなると大体この倍はかかるかと思いますが、それでもまだ低い金額と言えます。むしろ問題は、それなりの賃金を出しても、日本企業が期待するような能力ある技術者や専門的知識を有する人を採用できるかという人材難の問題です。また上手く採用できたとしても、優秀な人ほど直ぐに転職してしまいます。終身雇用や年功序列を前提とした日本の賃金体系をそのまま持ち込むことは出来ないかと思います。

 次に今、日本で色々問題になっている残業についてお話しします。東南アジアでも時間外労働に対する規制はありますが、日本ほど厳しくありません。例えばタイでは1日8時間、週48時間が法定の就業時間ですが、残業が週36時間認められています。つまり毎日14時間働いても問題にならないということになります。但し、時間外労働の賃金は日本は通常の賃金の原則125パーセント支給する必要がありますが、タイでは150パーセント、休日の就業時間内の労働は200パーセント、休日の就業時間外は300パーセントと高くなっています。つまり、残業は認めるが、その分しっかり賃金を支払わせるという考え方です。 このように我々から見れば、おかしいのではないかと思う労働環境もありますが、一方では日本が見習うべき点もあるかと思います。

 日本は今、一億総活躍社会と言っていますが、特に女性の社会進出にはまだまだ沢山の障害があります。東南アジアに行けば、特にオフィスで働いている人の半数以上は間違いなく女性ですし、女性管理職も多いです。夕方になれば、子供がオフィス内を走り回り、会議室では食事したり勉強している子供を見ることが沢山あります。それをみんなが暖かく見守っています。日本では企業内保育所をどのように作るか問題になっていますが、東南アジアでは企業自体が保育所を兼ねているのかもしれません。

 また性的少数者の保護のいわゆるLGBT問題、日本ではまだ取り組みが始まったばかりですが、東南アジアではごく普通にこれら少数者が社会に溶け込んでいます。特にタイではごく当たり前の光景で、女性社員同士が手を繋いで歩いていたり、男性ではあるがちょっと化粧して、女らしい社員が働いているのは珍しくありません。女性の同僚にとっては、優しくて力持ちで理想的な同僚だそうです。

 日本では欧米の労働環境は進んでいて、東南アジアの労働環境は遅れているとみる傾向があるかと思いますが、今後日本がより発展していくためには、両者の良いところを取り入れた新しい労働環境を作っていく必要があるのではないでしょうか。