卓話


日本初の全寮制小学校 神石インターナショナルスクールの2年を振り返る

2022年5月11日(水

(株)ジャパンタイムズ
代表取締役会長兼社長 末松弥奈子


 私が挑戦したのは、日本の文科省の学習指導要綱を教える一条校(学校教育法第一条に掲げられた学校)の小学校で、かつインターナショナルスクールであり、さらに全寮制という学校です。

 2020年4月6日、神石インターナショナルスクール(通称JINIS)は1年生から3年生までの12名の生徒と一緒に開校しました。昨年4月に2回目、今年4月に3回目の入学式を迎えました。私自身も驚いたのですが、入学式が終わって保護者の方と別れる時に泣いたお子さんはこれまで1人もいません。それほど子供たちはこの学校に期待し、楽しもうという勇気で参加していると思っています。ほとんどのお子さんがJINISの2週間のサマースクールに参加し、その上で学びたいと決意して来ています。現在39名の子供たちがおり、最終的な定員は144名になる予定です。

 実はこの学校にはモデルがあります。
 私自身が息子を小学校3年生からスイスの全寮制の学校に送り出し、素晴らしい学びがありました。このような選択肢が日本国内にあれば、もっと大勢のグローバルリーダーを育てられたり、大勢の女性が子供を産んでも活躍できたりするのではないかと考え、学校開設のプロジェクトを進めました。

 日本で初めての取り組みで私達だけではなかなか実現が難しいため、息子が学んだスイスのル・ロゼ学院の当時の校長先生、それから、オックスフォード・ドラゴン・スクールの校長先生にアドバイスをいただきながら、この企画を進めてきました。

 2人に強く言われたのが、「世界で唯一無二の学校を作らなければいけない。日本をホストカントリーとした素晴らしい学校を一緒に作ろう」ということでした。日本の素晴らしい伝統と教育をベースにした新しいタイプの学校を作りたいと思いました。

 より良い世界の実現のために積極的に貢献することができる情熱とスキルと人間力を持った人材を育てたい。基本的な体力、コミュニケーション力、英語もその一つです。五感の力で学びたいことを見つけ出すと同時に、1人ひとりが違う意見を持っていること、そして自分の意見は発表しないと伝わらない、そうしたことをベースにして教育を進めています。

 小学校1年生からのお子さんを預かるため24時間体制です。大勢の大人が関わりますので、例えば、ランドリーやキッチンのスタッフに対して、きちんと挨拶をし、尊敬することができるよう教育をしています。

 学校があるのは、広島県の神石高原町です。デイトリップで広島市内や、日本で最初の西洋美術館である大原美術館などのある岡山県倉敷市にも行くことができます。また、北に行けばスキー場があり、もちろん海にも近いです。こうした環境はヨーロッパの街にとても似ています。

 敷地は83万平米、東京ドーム17個分ぐらいの広さで、スクール・ボーディングエリア、1万坪ほどの日本庭園、スポーツをしたりするクラブハウス、さらに、海外からの先生を中心に先生方が住むビレッジエリアがあります。日本庭園には茶室が四つあり、子供たちは学期ごとに違う茶室でお茶の稽古をしています。敷地の約半分を牧場と畑が占め、高学年は朝早く起きて乳搾りをやらせてもらいますし、菜園ではちょうど夏野菜を植えたところです。

 学校は元々リゾートホテルだったものを改修しました。ホテルの部屋を寮の部屋に、宴会場だったところを教室に変えて活用しています。

 カリキュラムは、文科省認定の授業内容のうち、インターナショナル・プライマリー・カリキュラム(IPC)にあるものは全て英語で教えます。そこに含まれない日本語の教育を木曜日と金曜日を使って行います。各学年1クラスに、日本人とインターナショナルの先生が1人ずつおり、土曜日から水曜日まではインターナショナルの先生、木、金曜日は日本人の先生がホームルームティーチャーをする体制です。

 IPCについては、1、2年生はiPad、3年生以上はMac Book Airを使い、コンピュータの授業も兼ねる上、英語のボキャブラリーも学ぶものになっています。

 スポーツについては、毎週木曜日の半日を使って、1学期はスイミング、2学期はサイクリングとテニスとゴルフ、今年から乗馬が加わります。3学期はスキーとスケートをし、将来海外に出た時にすぐに友人が作れるよう多様な経験をしてもらっています。

 また、クラブ活動やプライベートレッスンも充実させています。木工、ゴルフ、ダンス、乗馬のクラブ活動や、プライベートレッスンでは、ピアノ、バイオリン、チェロ、ドラム、今年からお琴が加わりました。お子さんが興味を持ったものに対して適切な環境を用意したいと思っています。

 親元を離れて、「子供たちは寂しいんじゃないの」と思われると思いますが、日中は忙しくて子供たちは元気です。夜になると時々ホームシックになりますが、アドバイザーの先生からは、「ホームシックにならないようなご家庭のお子さんを入学させてはいけません」と言われました。小学校の時に親元を離れて喜ぶようなご家庭のお子さんでは駄目だということです。

 新型コロナのまん延防止等重点措置の解除後は、ゲストスピーカーを招いています。オックスフォード大学日本事務所のトップであるアリソンさん、指揮者の大友直人さん、塩沼亮潤大阿闍梨、ミシュランスターシェフの松嶋啓介さん、4月は駐パラグアイ大使の中谷好江さんに世界平和への貢献について話をしていただきました。

 1年間のスケジュールを紹介します。夏休みは、7月と8月、2ヶ月の休みがあり、秋休みもあります。

 1学期のスプリングトリップでは、2泊3日で地元のお寺で座禅、写経、そして、精進料理を食べながらテーブルマナーも教えます。今年から4、5年生は広島市内に平和教育に行く予定です。1学期の終わりには、保護者のお迎えに合わせてスポーツデーを行います。

 2学期にはオータムトリップをし、1年生から3年生が3年間、毎年違う場所に1週間旅行します。最初の年は広島県北部で日本神話について探求しました。昨年は平城京で日本の歴史の勉強をし、筆や茶筅を作る体験をしました。今年は3年に1回の瀬戸内国際芸術祭がありますので、直島、犬島あたりに宿を取り、1週間かけて日本のモダンアートを学ぶ機会を設ける予定です。

 そして、10月は4、5年生を連れて、どの中学校に進学するかを検討するためにスイスとイギリスを中心にした欧州旅行をし、各校の校長先生のお話を聞く予定にしています。

 2学期の最後にはクリスマスコンサートをし、プライベートレッスンの成果を保護者の方々に見ていただきます。

 3学期になると新年会です。餅つきをしたり、琴の演奏を聞いたり、そして、初釜として正装でお茶のお稽古もします。

 ウィンタートリップは3泊4日でスキーをします。パウダースノーの良い雪で楽しい滑りを経験させて、ヨーロッパに送り出したいと思っています。

 3学期の最後には、イングリッシュドラマのプレゼンテーションがあります。学年ごとに発表し、1年間の英語の成果も含めて保護者の方に見ていただきます。

 私達の学校は海外のボーディングスクールへ進学するための準備教育を行うプレップスクールという位置づけがあります。

 今、最年長の子供たちは5年生、2011年生まれです。この年には日本で生まれた105万人の子供のうちの6人の子供たちがJINISという新しい環境でチャレンジしてきた自分たちをもっと試してみたいと、全員が海外の学校への進学を希望しています。

 中学校から海外に行けば、もう一つ外国語を学ぶことができます。先月来てくださったゲストスピーカーの中谷大使の話に感銘を受け、既にスペイン語やフランス語を勉強したいというお子さんも出ています。彼らが3年生で入学してきた時には、海外の学校に行く覚悟はほとんどありませんでした。子供自らが海外の学校を選んでいるのは、私達が視野を広げ視座を高くしてほしいと教育してきた成果だと思っています。

 実はこの2年間で一番苦労したのは寮の運営でした。
 当初、運営はスイスや英国流で行おうと考えていたのですが、日本人の保護者の期待を考えるとそれでは少し雑になってしまうところがあります。例えば歯磨きの仕上げ磨き、洗濯物をたたんで自分の引き出しにきちんとしまう、そうした日本の家庭での躾や、敬語の使い方などもやるべきだと思い、日本人の寮長夫妻を招いて、日本流で運営しています。海外に出た時に日本人として自信を持って振舞ってほしいと思っています。

 私達の学校は、1年生から6年生、身長でいえば120センチから160センチまで伸びる成長期です。思いっきり体を動かし勉強してもらいたいと、日本の中学受験の対策はしていません。スイスやイギリスの学校は、アカデミックのみならず人間力を重視します。英語で勉強できること、小学校時代に全寮制の学校を経験していることが欧米のボーディングスクールに入る際の大きなポイントになります。その部分を満たす教育をJINISは行っています。イギリスの学校には、小学校5年生、あるいは6年生の9月からの転出が予定されており、JINISで学んでいるお子さんのうち一番早いお子さんは来年9月に英国に進学する予定です。

 まだ3年目の小さな学校ですが、日本の小学校教育の選択肢の一つを増やせたのではないかと思っています。もし、ご興味がございましたら、ぜひ、広島の神石に足をお運びいただき、子供たちの様子を見ていただければと思います。


   ※2022年5月11日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。