卓話


千代田6クラブ合同例会
がんばれ日本のものづくり

2023年11月15日(水)

(一財)産業遺産国民会議
専務理事 加藤康子氏


 日本が大きく国力をつけたのは、明治と昭和の戦後の復興の時代です。

 明治における産業日本の勃興は世界史において特筆すべき出来事でした。二十世紀初頭、日本はわずか半世紀で工業立国の土台を作りました。1896年コークスを使った銑鉄産出にも成功し出銑量を飛躍的に伸ばしました。木炭高炉法からコークス高炉までヨーロッパは二世紀半かかりましたが、日本は30年余で成し遂げ、世界史にアジアの奇跡を刻みました。

 明治の日本にはお金はなかったのですが工業を興すという国家目標があり、世界から人材を迎え入れ、人を育て、産業を興し、憲法を作り、工業立国の土台を作りました。人口はたった3400万人でしたが、意思ある国民があれば立派な国をつくることができることを示しています。

 粗鋼生産量は国力の指標です。太平洋戦争に突入した時、満州を含んだ日本の粗鋼生産量は684万トンしかなく、米国は7515万トンでしたから無謀な戦争でした。1950年、焦土と化した日本の粗鋼生産量は484万トンでした。そこから1973年、1億1932万トンまで伸びます。その後、1億トン前後を維持しています。戦後の日本は全国に工業地帯をつくり、軽自動車と大衆車の生産を始めました。1951年には8万台でしたが、61年に413万台になり、今世界の新車販売8000万台の内日本メーカーの車はその三割を占めています。日本の自動車産業は基幹産業として日本経済を牽引しているのです。

 2023年、日本のGDPはドイツに抜かれましたが、実質GDPは6%伸びています。GDPは製造業により支えられ自動車輸出が3.2%伸びています。自動車産業があるからこそ、日本はG7でも発言権を持ち先進国でいられるのは統計からも明らかです。

 自動車産業は地方経済も支えています。例えば、トヨタのヤリスを作っている人口2万8000人の宮城県大和町と、人口が大和町より一万人多い観光経済を母体とする熱海市と比較すると、総生産額は大和町が熱海市の2倍です。また、スバルを生産している太田市は人口22万人で、那覇市は32万人と10万人多いものの総生産は太田市が上です。自動車産業は全国で550万人の雇用と、多岐にわたる産業を支えています。これが、再エネとEV化により産業構造が変化すると国力の弱体化が予測されています。

 一方、明治日本の殖産興業・富国強兵のモデルを取り入れたのが中国です。中国は「中国製造2025」という国家戦略で、ハイテク製品の70%を、メイドインチャイナにするという目標を持っています。その為に原発100基体制計画、石炭火力も最大限という形で産業活動に十分な予備電力を準備しています。そして中国の国家目標は自動車強国になることです。

 今、日本の自動車産業は、世界全体の新車販売の三分の一を占め、連結決算を見ても稼ぎ柱で、2023年3月期の7社合計は84兆円です。自動車産業の弱体化は日本経済並びに国力の弱体化に等しいといえます。しかし、日本メディアは経済を牽引する産業の実態を報じず、「中国のBYDなどEVに負けている」「日本車は出遅れている」と意図的なEVシフトを促しています。

 その背景には、ウォーク・キャピタリズム(意識高い系資本主義)の流れがあります。これは気候変動、脱炭素、SDGs、ESG(環境・社会・企業統治)、LGBT、昆虫食などグローバルエリートの定義による社会正義を優先し理想社会を目指す運動で、国連を中心に推進されています。日本のCO2排出量は世界のたった3%で環境優等生です。世界の3割は中国で、次がアメリカ、EU、インドとロシアなどで50%以上を占める中、日本が一番国連の動きに連動し活発にSDGsの運動をしています。

 脱炭素政策の主力は再エネとEVです。日本のEV推進は菅前総理のカーボンニュートラル宣言に端を発し、岸田政権ではHVを含むマルチパスウェイ(多様な選択肢)に舵を切りましたが、脱ガソリンの流れは続いています。当時この声明に対し豊田章男自動車工業会会長は、「最初からガソリン車やディーゼル車を禁止するような政策は自らの選択肢を狭める。国内の乗用車400万台を全てEVにしたら原発が10基必要になる。自動車産業で働く550万人の雇用に大きく響く」と会見しました。トヨタも全固体電池を開発、2027年に需要があれば、1100万台の内350万台をEV生産する準備があるようですが、水素、ハイブリッド(HV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)など全方位で対応することにしています。

 5月の広島サミットで世界の流れは大きく変わりました。世界の自動車産業のカーボンニュートラルはEV一本化から、各国のやり方で炭素とCO2を削減に努力するマルチパスウェイ(多様な選択肢)にシフトしました。ハイブリッドもカーボンニュートラル燃料による内燃機関も認められました。しかし、日本のメディアだけはEVシフトなのです。

 世界一厳しい排ガス規制を敷いてきたのが日本です。過去20年の自動車全体のCO2排出量の推移(2001年比)を見ると、アメリカ9%、ドイツ3%、オランダ3%と上がっていますが、日本はマイナス23%と既に貢献しており、広島サミットで提唱した数字は十分達成可能です。

 しかし、日本政府は補助金を出しEV台数を増やそうとして懸命の努力をしています。世界でEVは10%と言われ、大半が中国です。中国では20%がEVと言われ、EU12%、アメリカ7%、日本は2%少々です。世界市場の大半がガソリン車やHVを選んでいます。この半年、EVは伸び悩み、特に補助金絡みの官製のマーケットのため補助金が止まったら即座に需要は落ちてしまいます。

 アメリカの大統領選挙でもEVが争点になっています。バイデン大統領率いる民主党はEV化に旗を振っていますが、共和党のトランプ氏は、「EVは雇用を奪う」と訴え、「これからはHVがいい。ガソリン車販売もOKだ」と演説しています。どちらが勝つかでアメリカの市場もガラッと変わると思います。

 この半年、EV需要は頭打ちで、アメリカの主要メーカー、テスラ、フォード、GMはEVの生産調整をしています。ドイツのフォルクスワーゲン、中国のBYDも減産しています。 そうした中、日本のメディアだけは、世界の趨勢を正確に伝えず、EVを煽り立てる報道が目立ちます。これは日本の自動車関係者の判断を曇らせ、士気に影響します。

 例えば、ESG投資についても同様です。ロシアのウクライナ侵攻以降、米国ではESG投資の多くが破綻し、年金運用にESGを考慮しない法律が18州で通りました。また、EVについても同様にソロスなど大手の金融資本家はテスラの株を、ウォーレン・バフェットはBYDの株を売却。EUは、BYDに対し、低価格で市場を歪めるため補助金を調査して関税をかけると言っています。EVの市場予測は明るくありません。

 ところが、日本メディアはこの中国製EVをさかんに持ち上げ、政府は85万円の購入補助金まで出しています。アメリカの上院の委員会では、BYDは軍民共同地区で開発を続け、ファーウェイと一体であり、人民解放軍とデータを共有する恐れがあると危惧する専門家の意見があります。

 中国の統計が本当に正しいのかも疑問です。中国自動車市場2500万台の20%がEVと言いますが、EVの墓場があちこちにみられます。また、EVには、航続距離の問題、雪による電欠問題、火災リスクもあります。日本の自動車産業には、メディアに左右されず、内燃機関の技術を守りぬき、ぜひ全方位で世界の自動車産業を牽引してもらいたいと思います。

 国力を強くするには、安価で安定した電力が重要です。長崎県沖合の絶海の孤島軍艦島には1900年に灯りがともりました。今、日本はカーボンニュートラルを前提にエネルギー基本計画を立てていますが、経済成長と国力増強を考えると修正が必要ではないでしょうか。

 電力なくして産業なし。電力なくして国家の成長なし。電力なくして国民の豊かな暮らしなし。戦後、サンフランシスコ講和条約の締結時、日本の人口はわずか8600万人でした。政府が最初に手掛けたのは電源開発です。また被爆国でありながら三年後には原子力に取組み、高度経済成長の土台を作ることができました。このままでは2050年日本の電力は逼迫します。再エネだけでは日本の暮らしや生産活動を賄っていけません。日本は火力も原子力も世界最高の技術を持っていますが、火力には8年、原発には30年かかるため、次世代のために新たな電源の開発が必要です。

 ドイツのように日本も再エネで電力を賄えばいいと思っている人が多くいます。しかし、ドイツの家庭向け電気代は日本の倍です。ドイツは国内産業を守るため産業用電気料金は日本の3分の1に抑えています。日本では産業にそのような支援はありません。このままでは工場が日本に戻ってきても国際競争力で負けてしまいます。

 原発が稼働している関電と北海道電力では電気代でもkwh当たり10円の差があります。原発1基分の発電量を再エネで賄うならば、山手線の内側に太陽光パネルを敷き詰めなければなりません。ドイツとは異なり日本は島国で中国やロシアと系統を繋ぐわけにはいきません。再エネは雪が降っている時、夜間には太陽光は発電せず、火力で補わねばならず、再エネの発電原価も高く、再エネ賦課金は国民にとって大きな負担です。日本は災害大国で、災害に脆弱であることも再エネの課題の一つです。外資の再エネ参入は国家安全保障上のリスクとなります。

 明治以来、殖産興業と富国強兵は、日本の永遠のテーマです。戦後まもない時、私達の先祖は果敢に未来に挑戦をしてきました。皆さんに、どうかこの時代を忘れないでいただきたい。どんな時代も最後にたよるのは技術と人です。日本はものづくりでこれからも経済を支え、技術と人を大切にしながら発展しなくてはいけません。


  ※2023年11月15日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。