卓話


子ども虐待への対応〜子どもがいま必要としていること〜

2023年4月19日(水)

早稲田大学人間科学学術院 教授
早稲田大学社会的養育研究所
所長 上鹿渡和宏氏


 子どもが減り続けている日本ですが、児童相談所等への虐待相談件数は伸び続け、令和2年度は20万件を超えました。虐待の前後については報道もされず、その子どもたちが通告前にどのような状況で生活しているのか、通告後にどのような対応がなされているのかは知られていません。

 私はかつて児童相談所で、児童精神科医として仕事をしていました。虐待がひどい場合は、子どもの安全と安心を確保するために「社会的養護」といって親子分離をします。子どもは家から離れ多くの場合学校も転校した状況で生活が始まります。当時、私は、以前に虐待があり一時保護され施設で養護された子どもが、一旦家に帰った後にまた危険な状態が見られたため、その子の安全と安心のために「一時保護所に行くよ」という話をしたときに「あそこに行くくらいなら家で叩かれている方がマシ!」と言われました。

 実はこうした形で子どものために大人が頑張ってやっていることが、その成果や結果が子どもにとっては良いものになっていないことがあります。社会的養護にとどまらず、社会全体に子どものために大人が頑張ってしてきたことがそうではないかもしれないということが今、日本でいくつもみられています。

 令和2年度の虐待相談の通告後の子どもへの対応について厚労省がまとめた資料によると、児童相談所または施設等で子どもを保護する「一時保護」が2万7000件です。その後は、親が虐待であることを理解し、虐待をしないとなれば家に帰って見守りになります。それが難しい場合は施設入所や里親家庭での養護になり、それが4300件、相談の約2%です。98%の子どもは家に戻って見守りになるのが今の日本の対応で、それ以上のことができずにきました。

 2018年には東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが親によるしつけと称した虐待により5歳で命を落とした事件がありました。この子は東京に来る前に四国で2度、一時保護されています。その度に家に戻っての見守りが続いていました。

 日本では虐待で亡くなっている子どもは、2歳児以下が50%以上で、0歳が最も多く、平成30年度は54人、週に1人は亡くなっている現状です。虐待対応後、特に乳幼児、年齢の若い子どもにとっては家庭という環境が大事だとされ、多くの国々で50%以上が里親等の家庭養護ですが、日本は20%、少し前までは10%程で先進国の中ではかなり珍しいと認識されています。

 社会的養護になる子どもが少ないのも日本の特徴です。一時保護された後に社会的養護になる子どもの数が他の国々はもっと多いのです。日本はその分、家で頑張っている子どもが多いことになります。最近わかってきているのは、一時保護後、もしくは一時保護もされずに家で頑張り続けている子ども、その子たちが自立するときに、施設にいた子はいろんな制度を活用できるのに比べて、そうしたサポートも得られないヤングケアラーのような子どもも多いということです。

 「里親」について、改めて紹介します。里親とは、実の親がいる状態で、その子どもを家庭で養育者として対応する、法律的な親子関係はない代替養育者で、英語でフォスターケアラーと言います。ある年齢に達すると、その子どもはそれ以上その里親家庭にはいられなくなります。これまでの里親の中には養子縁組したかのように自分の子どもとして大学進学も支援してくださるような方もいましたが、制度としてはそこまでは担保していません。

 一方で、特別養子縁組は新しく親子関係を形成する、子どもの福祉のために作られた民法上の制度で、戸籍上も実子となります。子どもとずっと一緒に生きてくれる人を見つけて親子とする制度で、「パーマネンシー保障」と呼ぶ永続性を子どもに提供するものです。対象は、日本では少し前まで6歳まででしたが、法改正がなされ原則15歳までになりました。

 社会的養護当事者の声を紹介します。
 一つ目は、施設で育った子が大人になってからの言葉です。

 「施設で生活した私が施設に求めるのは、『一緒に生きてくれる人』を失った子どもたちにとって、『一緒に生きてくれる人』が見つかる場所であってほしいということです」。通常の子は生まれたら家庭にいる人たちが一緒に生きる人になりますが、この場合は施設に行ったその先で一緒に生きてくれる人が見つかって欲しかったということです。施設や里親家庭、どこに行くにせよ、子どもにとって一緒に生きてくれる人がそこにいるかどうかが重要だということです。代替養育は原則18歳で終わるため、ずっと一緒には難しいのですが、子どもが一緒に生きてくれると思える人がいる場としていくことが少なくとも必要です。

 もう一つは里親家庭で生活している子どもが言った言葉です。「下手な躾(虐待)の方法しか分からず、親も困っていたのかもしれない。親も助けて欲しかった。もし親を助けてくれる人がいたら、自分は離れずに仲良く暮らしていけたのではないか」。2016年以降、日本においても家庭養育を主にしようと様々な取り組みがなされており、里親養育をもっと良いものにするために関係者が話し合いを続けていたときに里親家庭で暮らす子どもから出てきた言葉です。

 里親家庭をさらに良くするのは、今生活している子どもにとってもちろん良いことですが、今そこまでしてくれるのであれば、もっと前に自分の親を助けて欲しかったということです。非常に重たく、とても大事な言葉です。

 子どもへの虐待の対応を「早期発見・介入」の前後で考えると、介入前は親がそのような養育を行う状況にしないことであり、介入後親子分離が必要な場合には「一緒に生きてくれる人」が見つかる場所を作る社会的養護をしっかり行うことです。虐待は早期発見・介入を強化してもなくなりません。

 日本では、2016年以降、たくさんの取り組みがなされるようになりました。ただ、国の資料によれば7割以上の母親が自身の育っていないまちで子育てをしており、そして6割の母親が「近所に子どもを預かってくれる人がいない」孤立した状況で育児をしています。

 子育て支援では、最も大変な状況の親を助けるのに有効なショートステイがあります。1日、2日、子どもを施設等で預かり親を休ませるもので、虐待予防の切り札とされています。しかし、危険な状況にあり市町村によってフォローされている要支援児童要保護児童で、ショートステイ利用は1人当たり年に0.39日と半日もありません。これが早期発見・介入の前の状況です。

 介入後には、被措置児童等虐待があります。社会的養護となり安全安心に暮らすために施設や里親家庭で生活している子たちが、そこでもう1回虐待に遭う事態です。子ども間の暴力への対応が難しくて子どもが大変な目に合うことも含まれます。介入の前後にまだまだやることがたくさんある状況です。

 日本では、2016年の児童福祉法改正で、新たな社会的養育体制構築の大変革期を迎えました。ここで子どもの権利がしっかりと書き込まれました。それから、家庭養育優先原則です。施設養護が中心であったものを家庭養護に変えていく動きが始まりました。

 さらに2018年の結愛ちゃんの事件を受け、そのようなことが今後起こらないよう関係者がそれぞれの立場で動き、各自治体においては都道府県社会的養育推進計画が作成され、2020年度から実施されてきました。2022年の児童福祉法の改正でさらに加速し、今年度の秋口ぐらいには国から各都道府県でさらに良い計画を作る指示が発出される予定です。

 子どもの代替養育における家庭養育は世界的潮流で、国連のガイドラインにも乳幼児、年齢の小さい子の代替養護は家庭を基本とすべきとあります。

 その根拠とされる専門家の有力な意見があります。『ルーマニアの遺棄された子どもたちの発達への影響と回復への取り組み』は私が監訳者代表として出版したものです。大きな孤児院で赤ちゃんが育てられる中で、子どもたちがどんな影響を受けるかを見たもので、大規模な施設での不適切な養育は子どもの発達に様々な悪影響を及ぼす一方で、質の高い里親養育に移行するとそれらは改善することが示されています。米国研究チームはそれを示し、ルーマニアにおいては大きな施設を使わず家庭養護に移行していくことにつながりました。

 2020年都道府県計画が実践され始めた年に、そのサポートが必要と考え私は社会的養育研究所を開設しました。研究・実践・施策を連動させた社会的養育の構築を目指しています。日本財団助成を受け最大5年の計画で評価研究、実践現場への情報提供やプログラム開発・導入等に取り組んでいます。2021年度からは厚生労働省調査研究事業として新たな社会的養育推進計画の策定・実践に向けた調査研究も実施しています。

 「子どものために」で終わらせない、「子どものために」で始めたら、「子どもとともに」というところに必ず繋げることが重要で、子どもの声を聴き、それを反映させること、それと、成果を客観的に評価することが必要です。「子どものためにやったからこれでいい」と思い込んでいると、実は子どもからするとそうではないということが社会的養護にはかなりあるためです。

 「こども家庭庁」がこの4月から動き始めました。設立準備の段階から小倉大臣が子どもや若者から直接話を聞く機会をつくり、子ども政策の方向性、考え方に盛り込まれています。内閣官房の「こども政策の推進に係る有識者会議第2次報告書」にも、「子どもとともに」という姿勢が求められると書かれています。

 社会的養護の領域で子どもの声を反映するために、子どもアドボカシー協議会が活動をしています。早稲田大学を会場に5月14日に全国セミナーを開催予定です。

 子どもの声をしっかり聴くとともに、子ども自身による自分たちや他の子どもたちへの支援、支援する子どもにとっても「居場所」になるような取り組みも出てきていますので、ロータリークラブで、子どもの声を聴き、また、こうした子どもや若者の取り組みをサポートすることを始められるのもよいのではないでしょうか。子どもの声を聴き、それにとどまらず、子どもたちが自分で考え取り組む実践をサポートすることで、子どものおかれた大変な状況を子どもにとって良いものに変えることができ、また、子どもが自尊心を取り戻すための大きな力添えにもなると思います。子どもとともにある社会の実現を先導する役割を期待しております。

※2023年4月19日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。