これからの障害者雇用とジョブコーチ〜「みんないきいきプロジェクト」が目指すもの〜
2025年1月29日(水)
NPO法人ジョブコーチネットワーク
理事長 小川 浩氏
私は、元々は障害者の福祉施設で42歳まで働いていました。その間、障害のある方が施設で作業している様子を見て「なんともったいないことか」と思ったことがきっかけで、障害者雇用就労支援、特にジョブコーチに焦点を当てて仕事をしています。
「いろいろな大きさ・形のボールを一つの箱に収めたい。他のボールは全部入るが、このラグビーボールのようなものは形も大きさも違うため、箱の中に入れることができない。さあどうしたらいいだろう」と、私は最初の授業で学生に問いかけます。
障害者雇用は進展しています。厚生労働省発表では、障害者雇用数、雇用率ともに右肩上がりです。2024年は法定雇用率2.5%に対し、民間企業の実雇用率は2.41%とかなり近づきました。背景に法定雇用率の引き上げがあり、令和6年4月1日から2.5%に引き上げられ、令和8年7月には2.7%になることが決まっています。
法定雇用率は、分母が常用雇用労働者数と失業者数で、分子が障害者手帳所持者の常用労働者数と失業者数という数式で出され、5年に一度見直されます。次の段階では3.0%に上がることも予想されており、これは企業のキャパシティを超えるのではないかという意見も多く聞かれています。
雇用率との組み合わせで障害者雇用納付金制度があり、雇用が1人不足するにつき年額60万円徴収され、法定雇用率を超えると月額2.9万円が支給される仕組みです。法定雇用率2.5%では、1000人の常用労働者の企業は25人の障害者を、5000人の企業は100人、1万人の規模では200人の障害のある方を雇わなければなりません。企業にとって非常に負担になり、戦力になる軽度の身体障害の方を雇おうとしても到底、達成できません。知的障害の方の雇用も難しく、精神障害や発達障害などより難しい障害の特性を持つ方たちを雇用しないと特に大企業は雇用率を達成できない状況です。
障害者雇用は大企業が牽引しています。企業規模別実雇用率を見ると、1000人以上の企業では2.55%で、43.5人から100人の常用労働者の中小企業の場合は1.95%、東京都に限定すると43.5人から100人の中小企業の実雇用率はさらに低く1%未満です。達成企業の割合も1000人以上の企業は67.5%、中小企業は47.2%です。
法定雇用率の算出に関わる障害者手帳を持っている障害者数を平成28年と令和4年で比較すると、特に精神障害者保健福祉手帳所持者は43.0%増で、今後も増加が予想されます。労働人口が減少するなかで障害者が増加すると、法定雇用率のますますの上昇が予想されます。企業にとって障害者雇用の意義は様々あるなかで、コンプライアンスは特に厳しく求められます。
精神障害のある方の就職件数も増えています。平成25年度から令和5年度で約2倍に増えました。しかし、定着が難しい状況があります。雇用から1年後の定着率を見ると、精神障害のある方たちの定着率は49.3%です。
他方、全ての障害のある方を対象にした数字ですが、ジョブコーチの支援を受けて働いた場合には1年後に8割以上が定着しています。ジョブコーチが障害のある方と職場の調整をすることが定着に寄与するというデータになります。
大企業からは「障害のある人に合った仕事を提供することが難しい」「関わり方や指導の仕方が難しい」「採用が困難で精神障害のある人の採用に取り組んでいるが定着が難しい」という声があります。
多くの大企業は障害者を雇用するための特別な条件を整えた特例子会社をグループ内に作り、そこに企業内ジョブコーチを配置し対応しています。昨今では、知的障害の方と一緒に粘り強く働くというタイプよりも、精神障害や発達障害の方の難しい障害特性を理解し、グループ会社や親会社での障害者雇用について助言をする高度な専門性を持つ企業内ジョブコーチが求められてきています。
地域の中小企業からは「そもそも余裕がない」「人手不足だが、どんな仕事ができるのかわからない」「障害のある人を指導・サポートする人的余力がないため、外部から丁寧にサポートしてほしい」という声があり、就労支援機関のジョブコーチに対するニーズが高まっています。ただ、地域の就労支援機関は社会経済的に恵まれた体制ではないため、熟練した専門性の高いジョブコーチを安定的に配置することが難しい現状です。
ジョブコーチには3つの側面があります。基本的理念としては、誰もが力を発揮していきいきと働ける社会の実現を目指す。制度としては、厚生労働省が職場適応援助者という制度を設けています。また、本人と企業双方を支援する知識とスキルを必要とします。
ジョブコーチの役割は橋渡し役です。障害のある方と企業を、あるいは福祉的な視点と経済的視点を橋渡しします。障害のある方の支援と、企業の価値観の両方を見据えた上で落としどころを見つけます。障害のある人に寄り添って仕事を教えるイメージがありますが、全体の調整役、コーディネーターとしての役割、専門性が求められています。厚生労働省によるジョブコーチの説明でも、事業主と障害者の両方を支援する役割で、企業の管理・監督者、人事担当者だけでなく現場の方たちを支援することが特徴になっています。
「みんないきいきプロジェクト」では、4つの事業を今後もさせていただきたいと思います。
まず「若手ジョブコーチリーダー奨学金」です。高等教育機関で養成されたジョブコーチが必要です。ジョブコーチの知識だけではなく、社会福祉士や精神保健福祉士、作業療法士、公認心理師といった国家資格に加えて、ジョブコーチの研修を受けた人材養成を行っていきます。
現在、養成課程があるのは大妻女子大学だけですが、これを4校に増やし、年に30人が大学のジョブコーチ養成課程を修了し、2030年までに80人の大卒ジョブコーチを輩出します。
奨学金については、高等教育機関におけるジョブコーチ養成を広げるため、またこの領域を学ぶ経済的に厳しい学生を支えるために支給させていただきます。
これまでの卒業生は、大手企業が設置する特例子会社に就職し企業内ジョブコーチとして活躍していますし、社会福祉法人やNPO法人でも多くが活躍しています。
2番目に「企業内ジョブコーチの学びと交流の支援」です。年に1、2回、交流セミナーを開催します。今年度は3回開催し、第2回セミナーでは、「障害者就労支援士」をテーマにする予定です。ジョブコーチの国家資格化として、まずは厚生労働省指定の民間認定資格「障害者就労支援士」が令和8年度頃から動くと見られており、民間団体も私達が中心になって設立する予定です。交流セミナーでは毎回、東京ロータリークラブのチャレンジ110の委員長に開講の挨拶などをしていただいています。
3番目に「アジアのジョブコーチ交流事業」です。アジアからジョブコーチを招聘し日本のジョブコーチと一緒に学んでもらいます。今年もモンゴルから2名のNGOの実践者を招聘予定です。昨年招いたオソルジャラムさんに、東京ロータリークラブの会員である中村公一様が会長を務めておられる山九グループの特例子会社サンキュウ・ウィズを見学してもらったところ、大変感銘を受けていました。モンゴルで障害のある方の作業所を運営していますが、障害のある方たちを企業での就労に繋げ、給料をもらって質の高い生活ができるように育てたいという望みを持っています。
4番目が「働く障害者のTボール交流大会」です。年に約1600人の参加を見込んでいます。ジョブコーチ養成課程の学生が実行委員で、昨年10月に行われた大会には、夏の高校野球の予選に出た東京都立成長特別支援学校高等部も参加しました。青空の下で障害のある方たちが会社を超えて、また学生とも一緒に交流してさわやかな1日を過ごしました。
障害者雇用は、とりあえず雇用率を達成しようと考えられがちです。最近では雇用率達成の代行ビジネスで農園を運営して障害者を雇用する、企業側は障害者雇用には実際にはタッチせずに雇用率達成ができるものも広がりつつあります。
しかし、人間は生存の欲求・安全の欲求が満たされると、帰属の欲求があって、さらに承認の欲求があって、その上で自己実現の欲求がある。これらが満たされていくことが人間の成長には必要だと心理学者のマズローは述べています。チョーク製造会社を経営し日本の障害者雇用の先達であった故・大山泰弘氏も同様のことをおっしゃっています。
雇用率達成のための課題として障害のある人が働くことを考えるのではなく、障害のある方たちがこのような思いで生き生き働けることを重視して、このプロジェクトも進めていければと思っています。
話の冒頭に戻ります。箱は社会・職場、ボールを人間に例えた場合、ボールの空気を抜いて箱に入れるアプローチ、人間のほうが変わらなければならない、箱は全く変わらないという考え方もあろうかと思います。しかし、箱の入口を少し広げるアプローチがあれば、様々な方達が社会・職場に入っていくことができます。やはり両方のアプローチを視野に入れてこれからの共生社会を作っていく必要があります。
ただ残念ながら、そうした共生社会は自然にはできていきません。様々な場面で障害のある方と健常者の社員の方が衝突を起こす場面もこれまで経験してきました。専門家が間に入って若干の調整をすることで共生社会は実現していきます。ダイバーシティのリテラシーを持つことも求められますので、そのリーダーとしてジョブコーチの役割に期待していきたいと思います。
プロジェクトの各事業について数値目標を持ち達成していけるよう努力して参りますので、どうぞご協力・ご支援を続けてお願いいたします。
※2025年1月29日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。