こども政策 ヤングケアラーからSNS対策まで
2026年8月5日(水)
こども家庭庁
成育局長 中村英正氏
まず、「少子化対策」についてお話します。日本の2025年の出生数概数は67万人で、かつての毎年約200万人生まれていた時から大きく減っていますが、少子化は世界各国共通の趨勢です。ただ、中国、韓国といったアジア諸国のように合計特殊出生率が1.00前後になると社会構造の適応が追いつかない懸念があり、出生率の目標値を設定すること自体議論の的ではありますが、社会変化のスピードの観点からはヨーロッパ並の1.50近傍が望ましいと考えます。
少子化対策は、第一に婚姻数、第二に夫婦のこどもの数をどう増やしていくかがポイントです。
第一の婚姻数減少の要因として、若者の所得の停滞、雇用問題が挙げられることが多々あります。特に男性の場合、35歳から49歳の正規雇用労働者の結婚している人の割合7割に対し、非正規雇用は3割にとどまっています。
ただ、当事者のアンケートをとると、結婚しない理由として経済的理由よりも、男女ともに「適当な相手にめぐりあわない」が最も多く、次いで「自由さや気楽さを失いたくない」で、価値観や制度への不安が結婚の決断を躊躇させています。また将来への閉塞感もここに結びついていると思われます。
若者の閉塞感を感じる一つの背景として、政策決定過程からの排除を感じていることもあるのではないかと考えています。霞ヶ関の審議会委員に占める39歳以下の割合が2%未満という衝撃的なデータに象徴されるように、どこかで自分たちが社会のプロセスから排除されているんじゃないかと感じている人が多くなっています。選挙の時だけではなく、こうした若者の社会参画の必要性を日常的に行政、地方自治の中でもきちんと汲み取る仕組みが必要ではないでしょうか。こども家庭庁では「若者の10万人調査」を実施し、見落とされがちな若者にもきちんと焦点を当てた施策を強化していきます。
もう一つこども家庭庁の取り組みを紹介します。子育てしやすく、女性が活躍しやすい職場環境を整えた企業は利益成長率が市場平均の2倍となっているとのデータなどを踏まえ、こども家庭庁では地域金融機関も巻き込み、中小企業を含めた企業のこどもに優しい取り組みを推進しています。将来的には、評価・認定制度、アワード、税制上の措置、企業情報における開示の明確化などについても金融庁と協議しています。
第二の結婚後のこどもの数が増えない理由については、アンケートによれば経済的な理由が多くなっています。この点、今話題になっている給付付き税額控除も、子育て世帯に配慮し給付金の算定にこども一人当たりで加算される方針が示されています。所謂「翁カーブ」に端を発した議論ですが、中長期的には児童手当、児童扶養手当、扶養控除等をどうしていくのかという議論にもつながっていくと考えています。
少子化対策は暗い話が続きますが、最後に明るい兆しを一つ紹介します。合計特殊出生率の減少幅が縮小しており、東京都のみならず13県で合計特殊出生率が上昇しています。月ごとのデータも去年より良くなっており、婚姻数も増加しています。下落が続く出生率もそろそろ底入れするのではないかと期待しています。
ここまでお話してきた「少子化対策」はこれから生まれるこどもの数を増やすための施策である一方、「子ども・子育て施策」は今生きているこどもたちに笑顔になってもらう施策です。
子育て施策の政策目標の一つは、こどものウェルビーイング――こどもが身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態であること――の向上と考えます。ユネスコの統計によれば、身体的健康は41カ国中最も高く、世界トップ水準です。一方、精神的な幸福度、これには自殺者数などが含まれ、36カ国中32位で愕然とします。保育所・保育制度などのインフラについては不足はあれど世界に比肩する制度が整備できたと思いますが、今後はこどもたちの心に対する配慮が急務と考えています。
そこで、第二の「困難な状況にある子どもへのサポート」に話を移します。
まず、児童虐待の数が過去20年間で約20倍と増加しています。背景には核家族化し子育てに余裕がなくなっていることもありますが、加えて社会的な認知が高くなり近隣知人による虐待相談の通報が増えていることも挙げられます。虐待の社会的な認識が高まったことは良いことだと考えますが、深刻な事態に変わりはありません。
こうした虐待を受けたこどもたちへのサポートには様々あります。家庭で実の親による養育がベストですが、それが難しいところは養子縁組と里親です。そして比較的小規模な家庭的な施設、規模の大きい児童養護施設での養育がありますが、我々はできるだけ家庭での養育、養子縁組、里親を優先目標にしています。年を追うごとに児童養護施設での養育は減り、里親が増えています。里親研修も含めた手厚いサポートを用意していますので、関心のある方はこども家庭庁へお問い合わせください。
次にヤングケアラーです。今や一般名称になりましたが、実態調査では5%超のこどもが「世話をしている家族がいる」と答え、クラスの中に必ず数人いる計算になります。深刻だと思っているのは、「世話のためにやりたいこと、世話のためにやりたいけれどもできていないことがあるか」という質問に対して、小学生は6割、中学生も6割近くが「特にない」と回答している点です。これはケアを担うことによって確実にこども自身の権利・時間・労力・能力が減じているのに、それにこども自身が気づいていないことを示しています。深刻なサインだと捉えるべきです。こどもたちが、将来の選択肢を自分で狭めないよう、地域全体で支える体制を整えサポートしようとしています。
深刻なのは自殺です。日本全国で大人の自殺者数は減っていますが、こどもは増えています。自殺の危険性の高いこどもを早く見つけサポートすることが大事です。悲しい話ですが、専門家によると自殺未遂経験者は再度試みるケースが多く、早期発見と社会全体による継続的サポートが重要です。特に夏休みはこどもたちが悩む時期であるため、黄川田大臣プロジェクトで取り組んでいます。
これまで紹介した対応は事態が生じた後の対処的療法が中心になります。これも大変重要ですが、より早い、川上の段階から、こどもたちのこころのウェルビーイングに着目した取り組みを行うことが重要だと考えています。子育ての現場でもこども家庭庁でも、支援行政が単独でことに当たるのではなく、より早い段階から支援行政と保育行政が一体となって取り組んでいくことが重要です。
三つ目のテーマは、昨今のこどもを取り巻く大きな環境の変化である「インターネット・SNS」です。青少年のネット利用状況を見ると、小学生は4時間近く、中学生は5時間半、高校生は6時間以上となっています。時間の長さだけでなく、リスクも多様化しています。従来のガラケー時代は専らアダルト情報など有害情報がリスクの中心でした。これがスマホ、タブレット時代になると、こどもがいじめる側になる、あるいは大人とつながって犯罪に巻き込まれたり性的な脅迫を受けたりするリスクがインターネットを介して高まっています。現在法律で対応しているのは携帯電話のアダルトサイト閲覧防止のフィルタリング義務がメインとなっており、これをリスク全般に法規制の対象を広げようと考えています。そのためにGoogle、Appleといった事業者に対し自己評価による是正措置を義務付けることを検討しています。また、企業への規制だけでなく、家庭や子供、教育機関のルール順守も大変重要であり、ガイドラインのように統一の指針としてとりまとめることを考えています。かなり大きな法改正を来年予定しています。
最後に、「社会化と生成AI」についてです。判りにくいタイトルですが、これまでお話した三つのテーマの総括ともなります。
これまでのこども施策の大きなテーマは「核家族化」への対応でありました。三世代、或いは地域コミュニティで分担されてきた子育てが、核家族化・都市化が進み、家族の中だけでは対応できず、社会で抱えていく必要が生じました。これは高齢者の介護と同じ構造です。
社会化すれば、その費用をどう負担していくのかは大きな論点となります。介護保険制度の際も大きな議論となりましたが、第一のテーマである少子化対策の財源である支援金は独身税か社会全体で支えるためかという議論もありました。これは社会保障制度全体に関わる論点です。
社会化は費用分担にとどまらず、第二のテーマである困難な状況にあるこどもへのサポートとも関連してきます。核家族化のみが原因ではありませんが、顕在化・多様化・深刻化した虐待、貧困、こころの悩みなど、社会・地域として受け止めることが大きな課題となっています。
これら「社会化」への対応は引き続き大きな課題であり続けますが、それに加えて、第三のテーマの「デジタル化・生成AI」も子育ての環境に大きな変化をもたらすと考えています。「社会化」は子育てを「誰が」担うかという分担に重きが置かれた課題でしたが、「生成AI・デジタル化」は子育てとは「何か」という中身自体に大きく影響する課題だと考えています。今やベビーカーに乗ったこどもたちがタブレットやスマホを手にしており、早晩生成AIを通じたコミュニケーション・会話を始めることになりましょう。こどもの頃から生成AIと関わることで、メリットも多々ありますが、思考力、主体性の低下や人間関係への影響が懸念されます。そうなると、「育てる」ことの本質は何かが改めて問われることになると思います。それは人間活動全般に共通することだと考えており「学ぶとは何か」、「働くとはないか」という問いにも通じることだと考えています。
※2026年8月5日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。