社会で子育てをする里親制度
2025年4月9日(水)
(福)二葉保育園二葉乳児院
施設長 長田淳子氏
2018年3月、当時5歳だった船戸結愛ちゃんは、わずかな食事しか与えられず栄養失調と暴行による免疫力の低下で肺炎を発症し、亡くなりました。体は痩せ細り、170カ所以上に上る傷やアザがありました。
2022年1月に亡くなった西田真愛ちゃんは、5歳でした。母親とその交際相手が2年にわたって虐待を繰り返し、死亡に至りました。このような家族による虐待での子どもの死亡は後を絶ちません。
2022年度、虐待によって死亡した子どもは72人です。このうち13人は、生まれた直後に命を落としました。乳児院の中には、お母さんがトイレで出産後、遺棄してしまった子どももいます。そうした子どもたちはすぐに保護され、乳児院で生活をすることになります。
自分の親が誰かもわからない子どもたちもいます。自転車の前かごやコインロッカーなどで見つかった子どもたちが私たちの下にやってきます。そうした子どもたちは笑うことも忘れてしまうこともあります。泣いてミルクを求めることもなく、ずっと寝ています。私たち職員は抱っこをして「泣いていいんだよ。お腹すいたら声を上げて泣いていいんだよ。笑っていいんだよ」と声をかけながら日々過ごしていきます。
2022年度に全国の児童相談所が子どもの虐待について受けた相談は21万4843件と過去最多になります。この数字は32年連続で増加し、前年度より7183件も増えています。虐待の内容は、暴言や無視などの心理的虐待が最多で13万件。次いで殴る蹴るなど暴力による身体的虐待が約5万件、一人で長時間留守番をさせる、養育をしないなどのネグレクト・育児放棄が約3万5千件、性的行為をする、裸の写真を撮るなどの性的虐待が約2500件になります。これは確認されているもので、氷山の一角と言われています。
このような虐待は、その後の子どもの人生にも大きく影響を与えます。体罰や暴言などは、子どもの脳の発達に深刻な影響を及ぼし、大人になってからも影響し続けます。
出産後、適切ではない環境の中で生活する子どもたちは、第四の発達障害と言われるような落ち着きのなさやこだわりの強さがあり、そして、刹那的な人生を送る子どもたちも多くいます。
虐待を受け、保護された子どもたち、家族と一緒に暮らすことができない子どもたちに対してできることは、安心安全な人と場所を大人たちが作り出すことです。
乳児院は職員が24時間365日、丁寧に養育をします。しかし、職員は交代しますし、担当職員が一緒に眠ることができるのは週に1回です。子どもたちはどの大人でも養育してくれる人に慣れていきますが、「この大人に困った時に一緒にくっついておこう。何かあった時にこの人に頼ろう。そして、悪いことをした時にあの人がいるからやめておこう」と思える人を作ることは容易ではありません。
本来は家族が一緒に生活し、家庭というものを伝えていきますが、自分にとって、お父さん、お母さん、家族とは何かがわからない子どもたちが全国に4万2000人以上います。
東京都では約4000人が家族と離れて暮らしています。その他、親からの虐待等による子どもの一時的な保護の件数は、令和2年で約1万3000件となっており、一時的にでも家族から離れ保護される子どもを含めれば、全国で5万人近い子どもたちが常に公的な保護の元で生活をしています。
親の病気や貧困、ひとり親での養育の困難、虐待や育児放棄などの不適切な養育など、家族の事情で大切な家族と一緒に暮らすことが難しくなる子どもたちが増えています。お父さんお母さんが病気や交通事故で亡くなり親戚等が引き取ることができない子どもたちもいます。
乳児院にも深夜早朝に警察とともに連れてこられる子どもたちがいます。子どもたちのほとんどは、自分がなぜここに来たのかわかっていません。どうして親と離れてこなければならないのか、これからどうするのか、これから家族の元に帰ることができないという子どもたちが約半数以上いる中で、子どもたちの未来をどうやって考えていけばいいのか、私たちの大きな課題です。
様々な理由で家族と暮らせない東京都の子ども約4000人のうち、里親家庭で暮らしているのはわずか2割ほどです。一人でも多くの子どもに家庭という居場所を提供する、その担い手となるのが里親制度です。様々な事情で家族と暮らせない子どもを自分の家に迎え入れ、温かい愛情と正しい理解で養育します。
しかし、日本は施設での養育に頼っており、里親家庭で生活している子どもは2割ほどしかいません。東京都ではまだ15〜20%と全国でも低い数字で、まだまだ里親家庭は足りません。欧米並みに里親家庭で子どもたちが生活するためには、約2万家庭が必要となります。
また、神奈川県や東京都の里親家庭への保護児童の委託率は日本の平均以下となっています。施設などで保護されている子どもの中には、家族と一緒に暮らすことや家庭という経験を一度もせずに大人になる子どもたちもいます。家族や家庭のイメージを持たない子どもたちは、早くに結婚してしまったり、生活が安定しない子どもたちもいます。安心安全基地となる家族を作っていくこと、自立し暮らしていくことはとても困難で、難しいチャレンジです。
養育里親は、養子縁組を目的とせず、一定期間、子どもを養育する里親です。一日もあれば、2歳から18歳まで長期にわたる委託もあります。里親家庭は、都道府県から認められた公的に養育する家庭です。国から里親手当や必要な生活費、医療費などが支給され、児童相談所などの専門的なサポートを受けることもできます。
里親について、養子にして長く養育するイメージを持っているかもしれませんが、数日から数週間、突然、家族と離れて急な保護が必要になる子どもたちもいます。私自身、男の子をある日の夕方から1週間、預かりました。お母さんが急に病気になり、お父さんが出張中のためでした。受け入れ時には、子どもはとても怖がり怯えていましたが、「ここでお母さん、お父さん帰ってくるの待ってようね。○日したら帰ってくるよ」と数日間過ごしました。
2ヶ月間、お母さんの病気のための女の子を預かったこともあります。一時保護所で生活をしていると学校に通えない施設も多くありますが、地元の里親家庭であればそこから学校に通うことができます。地域に里親家庭が一つでも多くあれば、緊急的な保護を必要とする子どもたちが、生活の状態を変えることなく、その地域で暮らし続けることができます。
自分の家族と離れて生活する子どもに必要なことは、「愛されていいんだ。存在していいんだ。生まれてきてよかったんだ。生きていていいんだ」と思うことです。多くの子どもたちに、「あなたの存在はとても大切だよ。応援している人が一人でも多くいるんだよ」ということを知ってほしいと思っています。
周りの大人がそれを言葉にしてきちんと伝えてあげないと、子どもたちは不安になり、自分の存在理由や存在価値を見失っていきます。今すぐに何とかしないと、未来を自分自身で閉ざしてしまう子どもたちが増えることにもなります。
そのために、皆さんにお願いがあります。
すべての子どもに家庭という選択肢を与えてください。里親になってください。子どもたちの応援団になってください。身近な地域で応援している人がいることを、子どもたちに大きな声で伝えていただきたいと思います。里親になることに年齢制限はありませんし、養育期間も数日から数年まで子どもに応じたものになります。
里親になる申請は最寄りの自治体で手続きし、研修等を受けます。単身で登録されている方もいます。大切な要件は、子どもを養育できること、子どもを養育できる大人と部屋を用意できることなどです。里親制度についての個別相談や説明会などが地域ごとに行われています。
里親は難しいという皆さんは、里親になる人をぜひ支えてあげてください。今、里親家庭の平均年齢は50代を超えており、30代、40代の方も多く必要となります。
企業内の従業員が里親になることを応援してください。今、里親の認知率は半分以下です。ぜひ、皆さんの企業等で制度を広めていただきたいですし、子どもとの交流のための休暇取得を応援してください。そして、子育てしやすい地域づくりに一緒にチャレンジしてください。
すべての子どもたちが地域に支えられて暮らせるように、普及啓発への協力をお願いします。出前講座や社内、団体、学校などへのチラシ配布や、イベント、オンラインでの説明、セミナーなどの開催にご協力ください。人が集まる場所でのリーフレット配布やポスターの設置にもご協力いただきたいと思います。
そして、ぜひ子どもたちを応援してください。学習や専門知識を伝えるボランティアや、週末だけの里親もあります。子どもたちが「この人に応援してもらっている、この人が自分のことをちゃんと見てくれている」と思える人を増やしていきたいと思っています。自立のための経験の場の提供や、自立に必要な書籍や準備物の配布応援など、できることはたくさんあります。
私たちは社会福祉法人で福祉のことばかりやってきたため、広報啓発等に取り組むことはとても難しいです。ぜひ日本全国の人たちに里親制度を知ってもらうために、皆さんのアイデアを提供していただきたいと思います。
二葉乳児院は40名定員ですが、今日現在32名の子ども達が生活しています。都内乳児院で退所する子どもの3割近い子どもたちが里親さんを待っています。
是非、今、この時を生きている子どもたちを応援していただければと思います。
※2025年4月9日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。