卓話


「つなぐ」をライフワークに

2025年6月4日(水)

(株)増岡組
代表取締役社長 増岡聡一郎君


 私は前職を含めまして一貫して「まちづくり」に携わってきました。特に、1989年からの4年間は英国ロンドン市内のセントポール寺院北側隣接地、2005年からの10年間は東京駅八重洲北口隣接地の再開発事業に取り組んできたことは、人生の大きな経験となっています。現在は、仕事で広島と東京の二拠点生活を送っており、広島では「嚴島神社」の維持修繕なども受け持っています。

 自分の仕事を振り返ると、“ひと・まち・とき”を「つなぐ」ということがキーワードになるのではないかと思い、今日はその視点でお話しをさせて頂きます。

 まず、英国の「パタノスタースクエア」の再開発事業を振り返ります。

 私が着任した当時、この約5200坪の土地には、縦軸と横軸を意識した比較的無機質な鉄筋コンクリート造りのオフィスビルが建っていました。再開発の計画は、既存の建物を全面的に取壊し、ロンドン大火以前の資料や地図まで紐解き、都市機能を更新しながらも、歴史的背景からあるべき街並みを再現するというものでした。

 開発許可を得るためには、遠景規制に基づき建物の高さを抑制することにより、遠方からも寺院のドームが見える様にすることなども必要でした。歴史的背景を紐解きながらまちのあるべき姿を追求することは、時間もお金もかかるプロセスでしたが、とても大切なことを学ばせて頂いたように思います。

 次に、鉃鋼ビルの再開発事業についてお話しをさせて頂きます。
 戦後、東京都の財政再建の一環として民間に払い下げが行われた外濠川埋め立て跡地に、祖父が鉃鋼ビルを完成させたのは1951年のことです。

 今世紀に入ってから、私はその鉃鋼ビルの再開発事業に基本計画段階から完成まで携わりました。当時の鉃鋼ビルは、高度成長期の証人としての歴史的要素もありましたので、建替えるべきなのか残すべきなのかは大変悩み、本当に守るべきもの、つなぐべきものは何なのかを真剣に考えました。

 私たちが大切にすべきものは、施設利用者の方々の安全・安心・快適であり、更に、東京駅隣接地として果たすべき使命や、それに基づく用途や機能も時代とともに変わってゆくと感じ、建替えを決断しました。

 計画に際しては、「つなぐ」をコンセプトにしました。丸の内と八重洲を、地方都市と東京を、日本と世界を、そして過去から現在そして未来へと“とき”をつなぐ。その様なコンセプトを座標軸として定めると、建物の意匠や採用すべき建材などを具体的に決めてゆくのに、迷いやためらいは無くなりました。2015年に現在のビルが竣工してまもなく10年になります。

 最後に、嚴島神社についてお話しをさせて頂きます。
 嚴島神社が歴史に明確に登場するのは、811年で、「日本書紀」に「伊都岐島神を名神に列した。」という記述があるのが初めてです。平清盛が、1146年に安芸守に就任して以降、深く嚴島神社を信仰したことは良く知られており、今に残る寝殿造りの社殿を造営したのも清盛です。

 私たちは2019年6月から3年半にわたって、約70年ぶりの大規模修理を施しました。現在の大鳥居は、清盛の時代から数えると9代目のものです。鳥居の柱はクスノキで、島木は箱状になっており小石が重しとして入れられて、総重量は60トンとも言われています。広島サミットの際は、各国首脳が大鳥居を前に集合写真に納まりました。現在も、本殿の回廊などの保全を順次行い、歴史的価値の伝承の一翼を担っています。

 私は歴史に学びつつ「バトン」を先人から受け取り、その意味を考え、受け取った時よりもより良い状態で次世代に「バトン」を繋いでゆく事をライフワークとして授かった様に感じます。「万物は流転する」という言葉がありますが、自然環境や社会環境が日々変化してゆく中で、より良い状態で「バトン」を繋いでゆくためには、単に守るだけでなく「イノベーションは永遠の課題である。」という認識を持つ事が大切だと思います。


対話から始める企業改革

2025年6月4日(水)

セブンシーズマーケティングリサーチ(株)
代表取締役 丹羽秀行君


 私は現在、マーケティングリサーチ会社の代表を務めております。以前は投資銀行に勤務し、企業のM&Aや資金調達を支援しておりましたが、現在は企業のブランド価値や商品開発を支える仕事に携わっております。

 本日は、私の経験をもとに、「カスタマー・セントリック」、すなわち「顧客を中心に据えた」戦略と、「従業員との対話による改革」という、今のグローバル企業が注力している2つのテーマについてお話しさせていただきます。

 まず顧客を中心に据えた戦略についてです。かつて企業は、製品の設計や製造といったプロダクト主導の戦略に重きを置いていました。しかし現在は、SNSの普及により生活者は膨大な情報に触れ、商品を比較検討する力が格段に高まっています。こうした中で、商品やサービスの差別化が難しくなり、企業は「誰に向けて価値を提供するか」という軸が問われています。

 これを象徴する事例が、かつて携帯電話のトップ企業だったノキアと、現在のアップルの対比です。ノキアは多様な顧客のニーズに応えようとした一方で、アップルは将来の中核顧客に焦点を絞り、iPhoneという製品を生み出しました。それによって莫大な利益を上げ、携帯市場を塗り替え、ノキアの衰退につながりました。

 顧客を中心に据える戦略の成功には、組織全体が顧客視点を持つことが不可欠です。コア顧客は誰かを定義し、その人たちの視点で物事を捉える。そして、顧客の絶対的なニーズに重きを置いて、課題を解決する「ソリューション」を提供することが重要です。

 その一環として注目されているのが、リサーチ専用のオンライン・コミュニティの活用です。これは企業が自社の顧客と継続的な対話を図るためのプラットフォームで、数千人単位の顧客がメンバーとして登録し、商品開発やブランド改善の議論に自発的に参加します。顧客は単なる購買者ではなく、製品に対する期待や課題を企業と共有し、改善案を提示します。

 企業にとっての利点は多岐にわたります。第一に、リアルタイムで市場の動向や消費者心理を把握できること。第二に、共創による製品やサービスの質向上。第三に、顧客が企業の改善プロセスに関わることで、ブランドへの信頼とロイヤルティが自然と高まることです。つまり、顧客が自社のアドバイザーやパートナーとして機能するのです。

 次に、従業員との対話による改革についてお話しします。持続性や多様性、AIの急速な進展により、従業員が変化に不安を感じるケースが増えています。ある調査では、4割以上の労働者が「自分の仕事が将来なくなるのでは」と不安を感じています。

 こうした背景から注目されているのが、「リメッシュ」という新しい調査手法です。これは、従業員がスマホやPCから自由に意見を書き込み、その場で他の参加者の意見に投票する仕組みで、AIが即時にデータを分析するというものです。

 リメッシュの大きな特徴は3点あります。第一に、匿名性が高いため従業員が本音を出しやすいこと。第二に、LINEのような直感的なUIで幅広い年齢層が抵抗なく利用できること。第三に、投票機能を通じて、多数の意見の中から共感を集める重要なインサイトが浮かび上がる点です。つまり、「どれほど多くの人に響いているのか」という点まで可視化できるのです。

 第一想起と投票データから得るインサイトの比較によって、企業は、本音と建前の違いや、潜在的な課題、そして真に必要とされる施策を効率的に導き出すことができます。

 最後に、AIの進化によって市場調査の業界は大きく変化していますが、だからこそ「人にしかできないこと」がより重要になっています。五感に訴える要素や言葉の裏にある微妙なニュアンスや感情といった情緒的な価値はAIでは捉えきれません。今後は、顧客や従業員との継続的な対話を通じて、共感や信頼を築くことが、企業の成長の鍵となると私は確信しています。