子ども達が「社会的に育まれる地域」の実現へ
2026年4月8日(水)
NPO法人フェアスタートサポート
代表理事 永岡鉄平氏
最初の就職先を数ヶ月で離職し、闇バイト。最初の就職先を数ヶ月で離職し、性風俗の仕事に――このような若者達が一定数存在してしまう世界があります。
これは児童養護施設の出身者の話です。児童養護施設の出身者の約4割は月収15万円以下で生活をしています。これがワーキングプアの現状、貧困の連鎖です。背景には、児童養護施設の出身者の43%が最初に就いた仕事を1年以内に辞めてしまう早期離職率の高さがあります。
一般的な高卒新卒者の就職後1年以内の離職率は15%程度と言われ、その3倍近くになります。児童養護施設にいる子ども達は質の低い就職活動になりやすいことが理由です。この現状に、私は「無理もないな」と思いました。
児童養護施設では近年、親からの虐待などが背景にある子どもが非常に多く生活しています。本来は愛し大事にしてくれる親から不適切な養育を受けてしまうため、大人が怖い、大人を信用できない、心を開けない。自分に自信が持てないため、チャレンジが苦手である、自分の可能性に蓋をしてしまう、といった理由も少なくありません。多くの親がまともに働いていないため社会人のロールモデルに恵まれず、働くことに対するイメージも醸成されにくいのです。
また、児童養護施設は生活養育の場であるためキャリア支援があまり得意ではありません。子ども達はそうした機会に恵まれにくい環境であるということ、また、「これがやりたい」というものが見つからないと条件優先の就職活動になりやすく、一人暮らしのアパート探しにおける保証人などに苦労するため住み込み就職、社員寮付きという求人を選んでしまう傾向もあり、仕事内容とのミスマッチがより起きやすくなります。
私は「もったいないな」と思います。児童養護施設にいる間に温かい信頼できる大人との縁に恵まれ、たくさんの大人に褒めてもらい、親以外のたくさんのロールモデルに触れられる機会に恵まれれば、児童養護施設がキャリア支援を苦手とするならば企業の皆様がそのサポートを担い、子ども達のやってみたい仕事、目標とするロールモデルが見つかるといったことが積み重なれば、きっと社会に順応して活躍してくれる若者がたくさんいると考えます。
フェアスタートサポートは2010年から児童養護施設の子ども達に対して就労支援の活動を行っています。過去にリクルートグループでサラリーマン生活をしていた私が、児童養護施設出身者がワーキングプアになりやすいという課題を知り、こうした若者達を一人でも多く応援したいという思いからこの団体を立ち上げて16年になりました。
ここで動画をご覧ください。児童養護施設出身の若者2人が施設にいた頃にそうした機会があったから今の自分があるというメッセージを投げかけています。
1人目の大工をしている男性は数年前に結婚し最近2人目のお子さんも生まれましたし、2人目の女性も税理士として活躍し、この2人は貧困というキーワードからは程遠い存在で非常に頼もしく、こうした若者を一人でも多く社会に輩出したいという思いが活動の根底にあります。
そのためには、やはり企業の皆様のサポートが必要です。職場見学や仕事体験の機会、社会人のロールモデルに触れられる機会を施設で生活する小・中・高生に提供いただきたいと思います。
当団体のサポートの下で社会に出た若者達に関しては1年以内の離職率が19%まで下がっており、確実に効果が出ています。
東京RC様では、先日こうした話を広報いただき、すでに会員の方からキャリア教育の協力のお話をいただいています。ありがとうございます。
そして、当団体は、企業の皆様によるキャリア教育が全国どの施設にも公平に届くように、ここ数年、各地に足を伸ばし、地域ごとに地域の企業とのコミュニケーションの仲人にも努めています。
しかし、活動に公的な資金のバックアップはありません。私達の団体の活動資金の大半が寄付と助成金です。障がい者に関する支援は国の制度がありますので何かしらの活動をすることによって対価が国から支払われる構図になっていますが、この領域に関しては制度がないため手弁当でお金を集めて活動を実現するしかありません。現状、私達社員6人で年間3000万円程度の予算規模です。活動をよりレベルアップし拡大させるには、皆様からのご寄付や会費のお力添えが非常に重要になってきます。
日本全国に児童養護施設は約600あり、約2万2000人の子ども達が生活しています。しかし、こうした企業のサポートが届いている施設は悲しいかな143しかありません。今のリソースですと1年間で20〜30施設を増やすのが精一杯です。子ども達は今の目の前の時間が大変貴重ですから、一日でも早く全国の施設間格差なく地域の企業と直接交流できるよう、この活動を支えていただけますと幸いです。
ここからは、実際に里親家庭を経験した、当団体社員の小金井から話をいたします。
NPO法人フェアスタートサポート
社員 小金井 花さん
私は横浜市内の里親家庭で約5年半生活をして、フェアスタートに入って3年になります。
小学1年の時に両親が離婚し父子家庭になり、4年生の時に父が再婚し新しい母ができたのですが、うまくいかず身体的虐待を受ける形に発展し、6年生の時に児童相談所の一時保護所へ入りました。一度は実家に帰りましたが、やはりうまくいかず中学1年の時にもう一度、一時保護所に入り、その後、里親家庭で高校卒業まで生活しました。
里親家庭は一般家庭のようなもので、家庭ごとのルールがあり、私の里親家庭ではご飯は家族で作って一緒に食べる、一日に一回はリビングで団らんの時間を過ごす、洗濯物は自分で干して自分で畳む、という生活でした。
里親家庭に入って最初につらかったことは、「人の目を見て話しなさい」と言われたことです。当時の私は大人から怖い体験を受けたため、大人と話すことがとても怖くて目を見ることはとてもできなかったのです。ご飯を食べる時、目の前に里親が座って話すのが怖くて、食べ終わってから一人で部屋で泣くほどでした。だんだんと慣れていき、次第にこの人は私が悪いことをして怒ることがあっても殴るようなことはしないと里親を安心して頼れるようになり、高校生の時には反抗期も来て思ったことを言えるようになりました。
高校生になって初めて近所のファミリーレストランで接客のアルバイトを始めたのですが、すごく怖かったです。次から次に知らない大人がお客さんとして入ってきて接しなければいけませんし、間違ったことをしたら怒鳴られるのかなと日々怯えながらアルバイトをしていました。当時の店長が自分の父親と同世代の男性だったので、失敗をした時に「なんでそうなっちゃったの?」と聞かれるだけで怒られている気持ちになりました。頑張って続けて、接客のアルバイトは楽しいと思えるようになりました。
一番の問題は進路決定の時でした。高校生まで看護師になりたいと看護学校に進もうとしていたのですが、理系の勉強が難しく進学しても卒業できないかもしれないと思い、看護師の道は諦めました。でも、何になろうかと考えても職業が頭に浮かばず、当時アイドルが好きだったので、それだけで芸能関係に関わる仕事がしたいとコンサートの企画を学べる専門学校を選択しました。結果的に専門学校も入学を辞退し、高校を卒業後はフリーターとして進むことになってしまいました。
朝早くから夜遅くまでアルバイトをし、就職活動をする時間なんてないですし、まだまだ世の中にある仕事や社会を知らなかったため、高卒でフリーターになった自分が入れてもらえる場所なんてない、一生こんなアルバイトしかできないんだろうなと考えていました。
そんな時にフェアスタートサポートに出会うことができ、今は先輩にあたる人に就職相談や会社見学に連れて行ってもらい、たくさんの仕事を知ることができて自分が何をしたいかを考えられるようになり、私も正社員として働いてみたいと思うようになりました。そこで、永岡に「うちにおいでよ」と言ってもらい、入社することになりました。
それから全国を回る中で、たくさんの大人と出会って話をして思ったことは、「社会ってあったかいな」ということです。今の私をかわいそうという人も見下す人もいませんし、ましてや怒鳴ったり殴ったりする人もいません。私の話を聞いてくださったり、「頑張ったね、フェアスタートに自分達は何ができるかな」と考えてくださったりします。そして、このような温かさを今度は、今、児童養護施設や里親家庭にいる子ども達に伝える側になりたいと思っています。
見学や体験を通して、いろいろな仕事を知ることで自信を持って納得して将来の進路を自己決定していけるように、皆様にぜひお手伝いいただければと思っております。また、子ども達に大人と関わる機会を増やすことで社会は思っているよりも怖くないことや社会に迎え入れてもらえるような感覚で自立していけるように、ぜひお力添えをお願いいたします。
各地の児童養護施設と企業とが就労支援のテーマで連携するツールの一つとして、WEBサイト「フェアスタートパートナー」https://fspartner.org/ を数年前に立ち上げました。ぜひ多くの企業に見学や体験に関する情報を掲載いただきたいと思います。その情報を私達が各児童養護施設へ積極的に発信し、企業とのコーディネート役も務めていきます。
ぜひ1社でも多く企業の皆様に施設の方達と関わっていただいて、その関わりが子ども達に届き、施設を出た後に一人でも多く社会で活躍をして、仕事が楽しくて人生が楽しいと思ってもらえるような流れを皆様と一緒に作っていきたいと思っています。
※2026年4月8日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。