卓話


激動する内外情勢と日本の進路

2024年4月24日(水)

朝日新聞社
ゼナラルエディター補佐 林 尚行氏


 岸田内閣の現状はなかなか厳しいです。最新の4月の朝日新聞の世論調査によると、支持率は26%、不支持は62%です。3月の支持率22%から少し上がっているのは訪米効果があったと考えます。ただ、それは長持ちせず、また20%台前半になる可能性があります。

 特に注目しているのは不支持率です。不支持率6割超えは、最近の内閣ではほとんどありません。そもそも不支持が5割を超える、メディアの質問に対して要するに「嫌いです」と明言する人たちが2人に1人以上いるという状況は、毎月調査を行って、安倍首相の第2次政権の7年半で4回、菅首相は1年半余りで2回でした。

 ところが岸田首相は2年半で既に15回と、我々、政治取材をしてきた中でなかなか経験のない状況です。これが党内基盤の流動化を生み、そして官邸機能の低下も生んでいると考えています。官邸周辺の取材をしていると、自民党のキーパーソンたちとの温度差が非常にあると感じます。

 岸田さんは党総裁として自民党を統治できていない現状で、加えて言えば連立相手の公明党との関係も良好とは言えない状況です。公明党は「今、解散してくれるな」と山口代表や石井啓一幹事長がメッセージを出す異例の展開です。

 官邸が今、非常に期待しているのは経済です。
 日経平均株価が最高値を更新して好調で、国内企業の投資が進み始めています。良い傾向ですが、まだ国民1人1人の生活実感の向上には繋がっていません。これが上がってこないと、不支持率の低減はないと考えています。

 訪米効果については限定的だと思います。岸田さんは外交を得意と考え去年のG7広島サミットにおける成功体験が強くあるため、「ここで何とか」と考えているところはありますが、外交で支持率を上げ選挙できるところまで持っていくことは簡単ではありません。

 そんな中で大きな意味を持つのが4月28日投開票の全国3つの衆議院の補欠選挙です。この選挙は岸田政権にとって大きな意味を持ちます。その次にある解散戦略と密接に関わってくるからです。

 長崎3区、島根1区、そして東京15区の3つがあります。既に長崎と東京では自民党が不戦敗となっているため、月曜朝刊や日曜夜のニュースなどで注目していただきたいのは得票の傾向です。3つの選挙区それぞれに特徴があり、今の国政政党の強弱を図れると考えています。

 長崎3区に自民党は候補者を立てなかったため、事実上、日本維新の会と立憲民主党の一騎打ちの形で、これによって立憲民主党という野党第一党の強さが測れます。

 東京15区は9人の候補者が立っていて自民党がいないという少し異常な事態で、各政党への投票の分散のし方、あるいは自民党支持層、公明党支持層の投票の行き先が測れます。

 そのため、票差、それぞれの候補の得票数が意味を持ってきます。特に東京は都市型選挙のため、東京全体の選挙のトレンド、そして解散があった場合は、日本維新の会が強い大阪は異なるものの、各地の1区での強弱が見えてくると考えています。

 我々が注目しているのは島根1区です。自民党王国、保守王国で、通常であれば細田博之・前衆議院議長の弔い選挙でもあるため自民党圧勝が筋ではありますが、各種の情勢調査を見るとそうはなっていません。自民党が負けるかもしれない、勝ったとしても大接戦が予測される状況で、票の出方次第では自民党が強いとされる地方の選挙区でも同様の投票行動が出ることになると思われ、この3つの選挙区を足し合わせて見てみると、その後の解散戦略が定まってくると考えています。

 4月24日、日本時間の午前7時に麻生太郎自民党副総裁が、ついにトランプさんに会うことができました。トランプさんは相当変わったキャラクターの持ち主ですし、大統領になった場合にどのような政策を行うのか読めないところがあります。その中で、安倍政権のNo.2として総理を支えた麻生さんから見ると、極めて個人的な繋がりを大切にするのがドナルド・トランプであると考えている節があります。安倍さんとトランプさんは本当に仲が良かったですから、きちんと個人で顔の見える関係を作っておかないと日米関係の構築が難しくなるという危機感があり、安倍さん亡き政治の中での「もしトラ」の世界を日本としてどうグリップしていくのか、マネジメントしていくのかを考えているのではないかと思っています。

 一方で、当然、トランプさんが勝つと決まったわけではありません。このバイデン、トランプという大統領選挙を11月に控えた中で、どのような形で日本の立ち位置が定まっていくのかは岸田さん、麻生さんがうまく連携しないと難しいと思っています。

 今後の焦点は3つだと考えています。
 一つは、政治改革です。4月28日の国政補選があります。立憲民主党が3つの選挙区に候補者を立てており、自民党は島根で勝てるかどうかという局面ですが、仮に島根で自民党が負けたとしてもすぐに岸田降ろしにはならないと考えています。

 ゴールデンウィークが始まると、すぐに総理は外遊に行き日本にいないという状況になるため、その間、政局は起きないということです。連休が終わると、政治改革の政局が始まります。

 政治改革は、政治資金規正法を中心とした改正をどうするかという議論になってきますが、自民党案も大分、出てきました。ここから自公の協議、そして与野党協議へと国会の6月23日の会期末に向け、どのような成案を得られるのかという政局になっていきます。着地次第で岸田政権の求心力、支持率、不支持率が変動してくるため、それを見なければ、岸田さんとの向き合い方をまだ誰も決められない現状だと思います。

 そんな中で官邸が期待しているのが、6月の賃上げ効果と定額減税の効果です。ただ、これも国民生活の実感として上がってこない局面で、空気をぐっとチェンジするまではいかないのかなと思っているところです。

 3つ目は、「もしトラ」の世界です。アメリカ大統領選がどうなるかによって、日本の立ち位置、振る舞い方も変わってくるため、トランプさんなのか、バイデンさんなのかをじりじりと様子見をしながら手は打っていくという形になり、難しい局面と考えています。

 11月のアメリカ大統領選の前に来るのが岸田総裁の任期終了で、いわゆる総裁選になります。総裁選までの3つのシナリオとその根拠をお話します。

 一つは総辞職です。
 4月28日に惨敗した場合、岸田さんの求心力がさらに低下して、これは持たない、あるいは政治改革の行方もほとんど国民に支持されない、政治資金規正法の改正すらままならない、という形になると総辞職するのではないかという人がいます。

 私はそうは思っていません。岸田さんはすごく粘り強いです。岸田さんのある側近が言っていました。「総理は聞く力というより、聞かない力が強い」。多分、こうしたときにその力を発揮するのではないかと思います。総辞職はないと考えていますが、政治は一寸先は闇なので何が起こるかわかりません。

 もう一つは、解散です。
 6月23日の通常国会の会期末の手前ぐらいで解散を打つのではないかと、永田町ではまことしやかに囁かれています。あるいは、政治改革を巡る政局が長引けば、延長期間内には解散ができるため、国会を延長して解散時期を探るシナリオを語る人もいます。

 いずれにしろ9月の総裁選で再選するために、解散をして一定程度の議席の確保が必要だと総理が判断した場合は、解散を具体的に検討していくことになると思いますが、その前段として、今回の衆院補選の票の出方が重要になると思います。

 解散して勝てるのかといえば、なかなか厳しいと思います。地方を見ても、岸田政権に対する風当たりはものすごく強いです。本来、自民党は地方をきちんと固めた上で追い風を持って都市部で半分以上取っていく形が基本戦略ですが、こうした状況の中で足場である地方が揺らいでいる現状と、連立相手の公明党が早期解散に非常にネガティブであることも勘案していくことになると思っています。

 最後は「解散せず」、あるいは「できず」だと思っています。あえて「せず」を前に持ってきたのは、解散をしないで9月の総裁選に勝つというシナリオも岸田さんは検討する可能性があるからです。

 衆議院の任期は9月の総裁選からさらに1年先にあることと、直前の7月に参議院選挙があるため、「場合によってはダブル」と言う人が最近いますが、そうしたところまで視野に入れ、あえて解散を総裁選の後に持ってくるのも選択肢としてある、という人も出てきました。

 ただ実態としては、今、地合として極めて解散しづらいため、「解散できず、そのまま総裁選」という話もあると思います。その場合は、再選に向けた戦略は描きづらいと言えます。

 日本の進路をこれから決めていく重要な数ヶ月間になるということを申し上げました。
 岸田政権で良いのか悪いのか、あるいは自民党政権にどれだけお灸を据えるのか、立憲民主党あるいは日本維新の会に政権担当能力はあるのかなど、仮に解散総選挙がなかったとしても、そうしたことを国民が念頭に置きながら当面は自民党・公明党の政権運営を見ていく形になります。

 その先にアメリカ大統領選挙があり、来年は東京都議会議員選挙からの参議院選挙があり、そのどこかで衆議院選挙があるため、我々メディアも、岸田さん、今の自民党公明党の政権、そして、野党が受け皿になるのかどうかを一つ一つ見極めながら、国民の皆さん、読者の皆さんに考えるヒントを提示できればと考えています。


     ※2024年4月24日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。