卓話


大学と企業との連携で進める障害者雇用&ダイバーシティ

2025年8月27日(水)

大妻女子大学副学長
NPO法人ジョブコーチネットワーク
理事長 小川 浩氏


 みんないきいきプロジェクトの令和6年度事業の報告と、令和7年度の事業計画につ<いてお話しします。

 私は40過ぎまで、障害者福祉施設で働いていました。障害のある人が施設の中で作業しているだけではもったいない、力のある人にはぜひ一般社会の普通の職場で働いてほしいと思い、ジョブコーチの仕事を始めました。実際にやってみると成果が上がりましたので、それをできるだけ多くの人に広げたいとNPO法人ジョブコーチネットワークを設立して、大学に職を得て今日に至っています。

 ジョブコーチとは、障害のある人が一般の職場で雇用契約に基づく労働をする、持っている力を十分に発揮して充実感や達成感を持って働くことを支援します。「障害のある人だから簡単な作業でいい」ということではなくて、きちんと成果を上げて働いてほしい。ジョブコーチは職場に一定期間入り、障害のある人の直接相談や仕事の仕方の支援などを行います。最近重視しているのは職場の環境を調整することです。これは周囲の一緒に働いている人を含めて、職場の環境を調整する役割です。働きやすい状況に調整した上でフォローアップを継続します。

 さて、みんないきいきプロジェクトで行っている事業を4つの柱に沿って、令和6年度の事業報告と令和7年度の計画についてお話しします。

 まず、若手ジョブコーチリーダー奨学金です。大学でジョブコーチを学び、障害者雇用および就労支援の業界に進む学生に奨学金を支給しています。令和6年度事業で修了した者は8名で、全員が社会福祉士または精神保健福祉士の国家資格とともにジョブコーチを取得しました。令和7年度は4名がジョブコーチを目指しています。

 企業規模の大きな会社が障害者雇用を達成するために設置する特例子会社があり、社内にジョブコーチを配置している企業が多くなっています。令和6年度に修了した8名中5名が特例子会社の社内ジョブコーチとして、3名が企業や社会福祉法人や医療法人が行っている就労支援機関に訪問型ジョブコーチとして、就職しています。

 学生の声をいくつか紹介します。
 「奨学金の制度を設けてくださり、ありがとうございます。大きなモチベーションになっていました。合格したら自分へ投資すること、両親へ恩返ししたいという気持ちがあったから頑張りました。世間の人たちが障害のある方についての偏見をなくして、双方が働きやすい環境を作るために、これからも精進してまいりたいと思います。」

 「ジョブコーチ養成課程を受けることのハードルが奨学金をいただいたことで下がりました。Tボール交流大会でボランティアとして運営させていただいたことが、こうした領域に進むきっかけになりました。ご支援いただいた東京ロータリークラブの皆様に心より御礼を申し上げます。」

 2つ目がジョブコーチ同士の学びと交流の支援です。企業在籍型ジョブコーチは大切な役割を担っていますが、なかなか企業を超えた交流や学びの機会がないため、研修・セミナーの機会を設けています。令和6年度の第一回目は「ASDの障害特性と過剰適応」というテーマで、自閉症の障害特性を持った人が頑張れていても、ある時突然に大きな鬱のような状態になって働けなくなる、その原因は何だろうという内容で行いました。第2回は「障害者就労支援士」について。これは厚生労働省が、まず民間資格として認め、将来は国家資格を目指すことを検討している新しい資格状況について情報を共有しました。

 そして3回目、これは令和7年度事業の重点にしようとしているものでもあります。「障害のある大学生の職業生活への移行を考える」というテーマで、大学と企業の双方の関係者に集まってもらい、対面とオンラインのハイブリッドで行いました。この回ではチャレンジ110の長谷川前委員長にご挨拶いただきました。

 受講企業からは、「これまで見えなかった学内体制を知ることができた」「企業や大学での実践報告が大変参考になりました」と東京ロータリークラブとジョブコーチネットワークに対する謝辞が述べられました。それから「大学、企業のリアルな話、実態が聞けて、とても参考になりました」という声もありました。この方からは「過去、ロータリークラブに所属していた者としては大変嬉しく、感謝申し上げたい」というコメントもいただきました。

 3つ目の柱がアジアのジョブコーチの学びと交流の支援です。令和6年度はモンゴルのジョブコーチ実践者であるアマルジャルガルさん、バトツェツェグさんの2名を招き、埼玉と東京の就労支援や障害者雇用の現場で研修を行いました。その際に、中村会長のいらっしゃる山九株式会社の特例子会社サンキュー・ウィズ様に今年度も協力いただき、見学させていただきました。

 社内のカフェで、知的障害のある人たちがおいしいコーヒーを淹れて、おいしい焼き菓子を作り、社員の人たちがとても喜んで利用されている様子が印象的でした。障害のある人たちがこのように一般の従業員と接点の多い場所で、一般業務に近い内容で活躍する様子を見て2人は本当に驚き、モンゴルの企業にもこの様子をぜひ伝えていきたいと話していました。また、この時に柏原会長にも表敬訪問させていただきました。

 このアジアのジョブコーチ交流事業は、令和7年度は日本への招聘研修は行いません。オンライン等で研修の機会や情報交換の機会を持てているため、モンゴルに限らずマレーシア、タイなど、これまでNPO法人ジョブコーチネットワークが交流してきたアジアのジョブコーチの人々と交流を深めていきたいと考えています。

 そして4つ目の柱が、働く障害者のTボール交流大会の開催です。特例子会社で働く障害のある人のための余暇活動イベントとして行っています。Tボールはソフトボールのようなルールで、棒の上にボールを置いてそれを打つスタイルのもので、高齢者や子供も楽しめるスポーツです。

 ジョブコーチを目指す学生が実行委員会を作り、最近では高校生もボランティアとして参加するなど広がりが見られます。企業で働く知的障害のある人、精神障害や発達障害のある人と学生や高校生が一緒にプレーをしたり応援をしたりして自然な交流が生まれる素晴らしいイベントになっています。7社に参加いただき、約250名が参集しました。企業の他に、東京都立青鳥特別支援学校高等部にも参加いただきました。同校は高野連に加入し、他の高校と同様に甲子園を目指している唯一の特別支援学校です。

 ここから令和7年度に特に力を入れていく大学と企業の連携について、障害のある人の大学から職業生活への移行をいかにサポートしていくか、お話しします。

 企業は法定雇用率で、現在は2.5%の障害者雇用を求められており、令和8年7月からは2.7%に引き上げられる予定です。現状の雇用率は、例えば常用労働者5000人の企業の場合は125人の障害者雇用が求められ、2.7%になると135人とさらに10人を雇わなければならなくなります。

 軽度の知的障害の人を雇おうと思っても、既に特別支援学校高等部から企業へのルートができており新規に雇い入れることは難しく、精神障害や発達障害の人に雇用の範囲を広げなければならない現状があり、企業にとって非常にハードルが高くなります。

 大学に目を転じると、障害のある大学生は年々増加傾向にあり、精神障害、発達障害のある学生が全体の約50%を占めています。大学は就学面の対応で手一杯の状況が見られ、十分な支援が得られずに就活に臨まざるを得ない障害のある学生は、失敗経験の積み重ねで心理的に大きなダメージを負うことが少なくありません。

 障害のある新卒学生の採用に関して、大学との連携は薄いのが実情です。令和6年度事業で大学と企業の障害者雇用担当者の出会いの場として企業在籍型ジョブコーチとの交流セミナーを開催したところ、非常に高いニーズがあることがわかりました。令和7年度は企業在籍型ジョブコーチ交流セミナーの中で、大学と企業の連携に力を入れていきたいと考えています。

 労働人口が減少する中、障害のある学生が就職活動でうまくいかないと、その後、医療や福祉の対象になってしまう可能性も少なくありません。適切なサポート、そして企業側の配慮があれば、企業にとって戦力になる可能性を秘めている学生も大変多くいます。大学から職業生活への移行をサポートに力を入れ、そうした社会的課題の解決に少しでも力を貸すことができたらと考えているところです。

 このような内容で、令和7年度もみんないきいきプロジェクトを進めていきたいと思います。皆様からのご支援を受けながらですので、1つ1つの事業で成果が出せるように真摯に取り組んでまいります。どうぞ今後もご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

   ※2025年8月27日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。