卓話


新時代に向けて世界が注目する高専教育
〜Social Doctor, Innovator 人財の育成〜

2026年5月13日(水)

国立高等専門学校機構
特別顧問 谷口 功氏


 最近、アジア諸国をはじめアフリカ諸国など世界各国で“KOSEN”が創られるようになりました。

 “高専”こと高等専門学校は全国で5万数千人の学生を有する我が国の最大の工学(技術)系人財育成の高等教育機関で、我が国独自のユニークな教育機関です。

 中学校卒業後の15歳の若者に本科5年の一貫教育を行います。そのため、大学入試のための勉強をせずに済み、様々な実験や実習、インターンシップなど現場での学習をします。さらに2ヵ年の専攻科を経ることで4年制大学の卒業以上の実力を持った理工系人財を育成しています。設立から60数年を経た今日、社会情勢、社会の要請に応える形で、新しい時代に向けて大きく進化し続けています。

 高専の人財育成における基本的な考え方は、実務能力(現場力)を持ち、かつ、未来に向けて挑戦するチャレンジ精神を持った学生を育てることです。基礎から応用に至る学術の深い理解はもとより、様々なコンテストなどを活用することで、応用や社会実装をも視野に入れて、近未来に向けて社会が求める新しい科学・技術の開発に取り組んでいます。

 一人ひとりの学生を個性豊かに育てる担任教育で、教職員が一丸となって、学生が知識や能力を活かして社会を変えていく社会実装能力を身に付けられるようにしています。

 我が国では、現在、国立の高専が51校(うち商船高専5校)あるのをはじめ、公立3校、私立4校を合わせて計58校あります。

 我が国の18歳人口はピーク時の昭和41年の約249万人から、令和5年には110万人に減少し、令和23年にはピーク時の3分の1となる80万人を切ることが予測されています。その時に高等教育機関を減らす発想ではなく、1人で3人分働けるような力を持った人財を育てていけば、我が国の将来は明るいものとなります。

 実際に国内での新規の公立高専を創る動きがあります。2023年に徳島に「神山まるごと高専」(1学年40人)が開校したのをはじめ、来年は高専のなかった滋賀県に開校します。北海道(千歳周辺)・福岡市でも新設構想が進行中です。北海道には既に4校、福岡県内には3校ありますが、さらに創ろうという方向です。立地は地方の準中核都市が中心で、地域産業と密接に連携し貢献していきます。

 高専は多くの人財を輩出してきた実績が評価されています。高専在籍・卒業生には、日立の東原敏昭会長、パナソニックの伊藤好生元副社長、東工大の益一哉前学長、同じく東工大の細野秀雄特命教授もいます。ポケモンを開発した田尻智さん、若い世代では、さくらインターネットの田中邦裕社長がいますし、ITC関連企業の約7割の社長は高専の在籍・卒業生です。カーリングの鈴木夕湖選手や外国航路船長の小西智子さんという女性もいます。外航船員を養成する商船系高専には女性の機関士もおり、高専は理系の大学よりも女性比率が高く、大学の15%に対し約3割になります。

 高専では希望に応じて、自分を伸ばすための様々な成長ルートを活用できる制度になっています。本科卒業後に直ちに社会に出て活躍する者、専攻科進学、大学への編入、専攻科を終えての就職や大学院への進学、留学など様々な道があります。

 5年の本科卒業生や専攻科卒業生の就職はほぼ100%で、1人に対して20〜30社の著名な優良企業からのオファーがあります。小規模な企業に入社するケースが少ないため、一生懸命募集しているのに来てくれないと言われる企業の方には、いろんなコンテストに御社の賞を出し、受賞者を会社に呼んであげてくださいとお話ししています。御社がどのように事業で社会に貢献しているかを説明するとともに社内の実情を見せてやってくださいとお願いしています。企業訪問をした学生10人のうち1人は入社しますし、1人の学生が入社すれば、2人目、3人目が続きます。高専の学生からの話は正しく後輩に伝わります。

 一方、専攻科への進学率は15%、大学への編入学は約25%です。工学系の大学に1年生から入った学生よりも、高専から編入した学生のほうが博士課程に進む比率も高くなっており、東工大(現東京科学大)は倍、東北大では4倍です。

 ちなみにコンテストでは、学生はチームワークで役割を分担し、納期を守り、予算などさまざまな制約条件の中で問題解決法を学んでいきます。コンテスト参加について単位は出しませんが、学生の成長に大変役立っています。

 この時代に生きることの意味は、昔も今も社会や人々に役立つためであり、そのために自らの持てる能力を発揮して貢献することだと思います。そのため高専では、最先端のサイエンスやテクノロジーの基本について学ぶことはもとより、企業や外部の様々な機関と連携を図りながら新しいビジネスを起こすために必要な知識や社会の動向などについても学んでいます。

 大切なことは、学生一人ひとりが先を見据えて変化に対応できる力を持つことです。我が国も終身雇用時代からJOB型雇用へと変化する中で、高専は、何事にも挑戦し、「できない」ではなく、「どうすればできるのか、課題は何か、その課題の解決には、どうすれば良いのか」と前向きに考え取り組む姿勢を持った、社会の発展に向けた真の意味の「人財」の育成機関として機能しています。

 人の幸せや社会の発展に貢献できる高度な実践的技術者の養成を社会のお医者さんになるための教育であることを理解していただくため、Doctor for the Society,「Social Doctorになるための教育」と称しています。 “KOSEN is KOSEN”として、漢字用語の国別意味差を踏まえ英語表現での統一発信を重視し、この言葉はアジア・欧州でも浸透しています。

 近年、アジアはじめアフリカ諸国がKOSENの設置に極めて熱心です。国立高等専門学校機構では各国のニーズに応じて高専の設立支援を行っています。

 モンゴルでは当初の3校から現在6校に増えています。タイでは8年ほど前になりますが国会で私がその必要性を1時間演説したところ、当時の教育大臣が自分の任期中に高専を創りたいと半年で設置する流れになり、その後、毎年20人ぐらいの日本の高専の教員を派遣し、現地教職員を育成し、カリキュラム・教材を共同開発してきました。現在、入試倍率は30〜50倍の人気です。ベトナムではいくつかの大学の中に高専コースを設けています。このほか、エジプトに設置しましたし、現在、欧州北部でも検討中です。

 日本国内のKOSENは、基礎的な共通部分を共有しながら、それぞれが裁量を持ち、学校の特徴を伸ばす形で地域の発展をも視野に入れて人財育成に取り組んでいます。共通の基礎科目が6割で、地域や学校の特性を反映した特徴ある科目が4割となっています。その6割の科目については、5年に一度、自由に内容を見直し、時代変化に応じたスピード感と質を両立します。

 協力組織の拡大と連携も進めており、高専卒業生60万人による同窓会「高専人会」のネットワークが教育や就職に果たす役割もますます大きくなってきています。

 2040年、15年後の我が国のこれからの人財に求められるものは、社会の変化に対応できる確かな専門性と柔軟性、そして、実務能力とスピード感です。いろいろな困難があるのは当然ですから、それに立ち向かうチャレンジ精神が欠かせません。また、国際性とそのための多様性を受入れる力とコミュニケーション力も重要です。こうしたことを大切にしながら人財育成をしています。

 KOSENは、設立当初は、工業を中心とした産業界との連携人財が主要育成分野でしたが、近年ではDX分野をはじめとする産業・工業分野の最先端はもとより、医療健康分野、農業・林業・水産業分野、航空宇宙分野などにも取り組んでいます。また、アントレプレナーの養成にも大きく貢献しています。

 これらの時宜を得た取り組みは、スピード感を持って進められており、様々な分野での高専の取り組みは、極めて高く評価されています。

 九州で始めた半導体分野の人財育成プログラムは、大学が「準備に3年かかる」と見積る中、高専は産学連携によるオール高専体制で2カ月で開講しました。材料系の川上から、半導体製造装置や測定装置・設計などの川中、さらにはAI活用や専用チップなど新たな応用の創出を行う電子・情報・ビジネス系の川下までを幅広い領域をカバーする教育を実践しています。さらに「作る」だけでなく「使う」応用展開を重視し、半導体、DX、カーボンニュートラルなどを一体として人財育成を考え、新規産業創出を目指していきます。

 KOSENは、これからも連携とスピード感を大切にしながら時代の要請に応えて、また時代を先取りしながら、高度な科学技術やその関連分野で活躍できる高度な人財育成機関として機能強化を図っていきます。

 若い人が明るく元気に頑張る社会になれば、元々ポテンシャルのある我が国はもっとその力を発揮していくことができるでしょう。皆様方のご支援を得ながらこれからも頑張っていければと思います。


   ※2026年5月13日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。