卓話


青少年に対する金融教育〜お金でつまずかないための教育を〜

2025年9月3日(水)

日本貸金業協会 会長 倉中 伸氏


 「お金でつまずかないための教育を」。これは、今日紹介する「金融リテラシー向上コンソーシアム」の活動のキャッチフレーズです。近年、投資教育が盛んですが、特に青少年の場合、投資教育の前に、お金でつまずかないための知識が大事なのではないか、という問題意識を込めています。

 日本貸金業協会が設立された2007年以前は、47都道府県ごとに貸金業協会がありました。しかし、1990年代から2000年代初頭に、消費者向け貸付、いわゆるサラ金と言われるビジネスが過熱し、過剰な貸付や厳しい取り立てによる消費者被害が社会問題化しました。これを受け、金融庁は都道府県単位の協会を全て解散させ、改めて内閣総理大臣の認可を受けた全国組織の貸金業協会が設立されました。

 当協会は、社団法人ではなく、貸金業法という特別な法律に基づく法人格です。新しい協会は「業界の自主規制機関」という役割を担っているため純粋な業界団体というよりも行政当局である金融庁と業界との間の少し行政寄りの立ち位置にある組織だと思っています。

 同時期に、総量規制という収入の3分の1以上貸してはいけないルールや貸付金利の上限を年率20%とするといった施策が講じられたこともあり、過熱化した貸金業界は急速に縮みながら一気に鎮静化しました。

 当協会の設立目的は、現在の貸金業法第25条にある「資金需要者等の利益の保護を図り、貸金業の適正な運営に資すること」です。当協会のクレド(信条)は「新しい貸金市場を実現するため、中立・公正な信頼される自主規制機関をめざす」です。「新しい貸金市場」とは、「クリーンな市場」の意味です。当協会は協会員である業者に対する実地監査や処分する機能を持っており、業界団体でこのような機能を持つ団体はあまりないのではないかと思います。

 貸金業界の動向を見ますと、規制強化により貸金業者は1999年のピーク時の3%までに激減し、消費者向け無担保貸付の約9割を大手が占める寡占構造になっています。大手6社のうちの4社は、アコム、プロミス、アイフル、レイクです。この4社は大手銀行のグループであったり上場企業であったりしますので、銀行や証券市場のガバナンス下にある彼らの貸付残高が全体の9割を占めていることは、今の貸付市場の質を象徴していると思います。

 同時に5件以上の借入をしている「多重債務者」は、18年間で激減し、行政庁への苦情や業者に対する行政処分も大幅減となっています。しかし、依然として業界に対する厳しい目線は残っていますので、金融教育活動などを通じて、さらに業界の認知を高めていくことは協会の重要な役割です。

 金融教育活動についてお話しします。
 なぜ、いま青少年向けに金融教育が必要なのか。一つには詐欺被害の増加が挙げられます。加害者側にも青少年がいる時代です。従来のオレオレ詐欺も変化しており、新たな詐欺事案も増えています。さらに、若年層被害者の割合が増加しています。 若者が巻き込まれることの多い金融被害につながる詐欺の代表例は、副業詐欺、投資詐欺、オレオレ詐欺です。また、詐欺とは別ですが、海外のオンラインカジノで多額の借財を抱えてしまう事例も急増しています。

 なぜ若者は詐欺に遭ってしまうのでしょうか。SNSの普及、社会経験の不足、デジタルネイティブゆえの過信、の3つの背景があります。特に1つ目と3つ目については、最近の青少年は大人の言うことよりSNSの情報を信用してしまう傾向があり、大変悩ましい問題です。また、若者だけはなく、「自分は大丈夫」という過信も起きがちです。これを心理学では「正常性バイアス」と言います。

 以上を踏まえると、キャッシュレスが当たり前の時代、特に青少年には金融トラブル回避のための教育が重要ではないでしょうか。

 貸金業法の目的規定である第1条は、資金需要者等、即ち消費者の保護をうたっており、同法41条の9では、消費者に対する金融に係る知識の普及、啓発活動を協会に義務付けています。これを受けて当協会は設立以来、学校等に対する出前講座などの教育活動を地道に継続してきましたが、現状講師は1名に過ぎず、マンパワーに限りがあります。そこで2年前、青少年を対象とした金融教育活動を協働でやりませんかと大手4社にお声がけしたところ即座に賛同を得て、「金融リテラシー向上コンソーシアム」という協働事業体ができあがりました。

 また、昨年9月から大手4社とネット銀行12行が連携し、詐欺に使われた犯罪口座の情報を入手次第、銀行に情報提供して口座凍結につなげるという金融犯罪防止活動も開始しています。

 令和6年度の金融経済教育セミナーの受講者数は1万人を超えました。協会単独での実施分を合わせると約1万5千人、実施回数はのべ200回とお蔭様で順調なスタートを切ることができました。対象は高校、専修学校が最多です。高校は職業系の学校が多く、その背景には、専修学校とともに卒業して社会に出る生徒さんが多いことが学校関係者の思いとしてあるのではないかと思います。

 その点、社会人向けは2.4%、大学向けも3.7%とまだまだです。これは逆に、対象が成人のため、個人個人の生活安全面に寄り添うという動機が弱いのではないかと感じており、当協会からの働きかけに工夫と努力が必要だと考えています。

 他の機関との協働セミナーも推進しています。政府の出資を受けて昨年に発足した金融経済教育推進機構(J-FLEC)や警察、さらには日本クレジット協会や財務局とも協働しています。

 大学向けの事例では、九州産業大学から昨年に開催した学内セミナーを高く評価してもらい、今年は単位付きの集中講座の一部として参加することができました。教員養成系の大学での実施にも取り組んでおり、卒業生のその後の進路を展望すると意義ある対象だと思っています。

 職域への取り組みでは、新入社員教育の一環となることが多いと思いますが、まだまだ少ないのが現状です。金融トラブルに遭うのは20代から30代が中心のため、力を入れていくべき対象だと認識しています。

 受講生からは概ね好評をいただいています。実は金融トラブル回避に力点を置いた教育を行っている組織は他にほとんどないようで、「初めて聞いた」という感想が多く聞かれます。

 そうした中で気になったのが、「必要な人だけが聞けばいい」という感想です。本人はおそらく「自分は大丈夫だから引っかかりそうな人が勉強すればいいんじゃないの」と思っているのだと思います。ここにも「正常性バイアス」が隠れています。詐欺の手口をどれほど頭にインプットしていても、いざというときにはまるで催眠術にかかったようにだまされてしまう、これは人間誰しもが持っている弱点です。そのため、こうした学びは私たち全員に必要なのだという自覚も重要です。

 金融トラブル回避のために最低限度必要なことはたった2つです。

 1つ目、会ったこともない人にスマートフォンで免許証や学生証、マイナンバーカードの画像を絶対に送らない。2つ目、「うちはホワイトだから」と言われたらブラックだと思って直ちに逃げる。本当にホワイトならば、わざわざそんなことは言いません。実はこの2つをしっかり頭に刷り込むだけでも大幅に被害を減らせます。事実、個人情報を先に取られてしまったために逃げられなかった事案が多く見られます。かけ子や受け子、闇バイトなども同様です。

 ここで協会がYouTubeにアップしている啓発動画をご覧いただきます。現在15ほどの動画をYouTubeにアップしており、広告配信分を加えると合計で数百万回再生されています。
<動画上映>

 いかがでしたか。親や爺婆の目線で見てもハラハラする内容ではないかと思います。

 最後にこの活動の課題と展望についてお話しします。
 金融教育における課題3つがあります。
 まずは受講者数の拡大です。日本の生徒、学生は1学年に80万人から100万人いますので、この活動のカバー率は微々たるものです。そこで、先ほどのYouTubeやSNS媒体を通じた面的な展開も重要だと考えています。

 次にセミナーや配信コンテンツの質の向上です。詐欺や金融犯罪の手口はどんどん新しいものが生まれているため、こうした情報を取り入れて活動の鮮度を保つ必要があり、受講者の声もしっかり反映していく必要があります。

 最後に対象領域、特に職域への拡大です。この活動にご賛同いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひご支援を頂戴できれば大変ありがたく思います。金融リテラシー向上コンソーシアムの出前講座の講師は、コンソーシアム創立メンバーであるSMBCコンシューマーファイナンス株式会社、アコム株式会社、新生フィナンシャル株式会社、アイフル株式会社の4社に100%担ってもらっていますが、実施の際は個別の会社名を一切出していません。そして、交通費を含め無料で行っています。

 今後の展望です。正直なところ、銀行や証券会社の投資教育とは異なり、貸金業界は、この活動が直接ビジネスにつながるわけではありません。消費者の保護や教育は私たちの重要な使命の一つです。その一方で、こうした活動によって、大きな古傷を抱えている当業界に対する社会からの認知や信頼を一層高めることを願っていることも事実です。

*日本貸金業協会公式YouTubeチャンネル
啓発動画をご覧になれます。

   ※2025年9月3日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。