世界の鉄道200年における日本の鉄道モデル
2024年11月27日(水)
東日本旅客鉄道��
取締役監査等委員 小縣方樹君
私は旧日本国有鉄道、JR東日本と51年以上鉄道に勤めており、世界公共交通連合(UITP:ベルギー、ブリュッセル)の会長も務めました。
2025年は、最初の鉄道と言われている英国での鉄道開業から200年にあたります。第一次産業革命で鉄道は新産業の勃興を促し、郵便・銀行・新聞などの他産業が発達する基礎インフラとなりました。この時代の音楽家たちの活躍も鉄道と郵便の発達による相互の頻繁な交流の結果、集団的エネルギーを発揮できたことが大きいと言われています。鉄道は多様な新産業の勃興を大いに促す基礎インフラという点で、約150年後、すなわち今から約50年前のインターネットの果たした役割と似ています。
鉄道は、米国で1830年代後半から「鉄道狂時代」と呼ばれる投資熱を生み出しました。19世紀末には、鉄道が輸送というプラットフォーム上で、石炭などの商取引を独占する事態が発生し、鉄道による国家の支配の懸念から、プラットフォームと商取引が政策的に分離されました。これも、プラットフォームの所有者がその参加者にもなることを認めるべきではない、という現在のGAFAMに対する独占禁止法等に似ています。熱狂の後にバブルが崩壊し、穏やかな安定期が訪れるということも共通していると考えられます。
その後、米国では、鉄道は特に旅客分野で存在感をなくしました。米国の経済学者であるセオドア・レビット教授は「鉄道の衰退の原因は、自社の事業を輸送事業ではなく鉄道事業と定義し、顧客ではなく供給中心と考え、自ら顧客を追いやったこと」と述べています。
一方、日本の鉄道会社は輸送事業のみならず生活サービス事業、グローバル事業なども行っています。日本の鉄道の主体は、政府、自治体からの経営に対する補助金なしに運営し、完全に上場している垂直統合型の民間企業であり、同じ2地点間輸送での競争相手も存在します。これは海外とは大きく異なります。輸送人員は日本単独で世界の4分の1を占め、日本において、鉄道は空気や水と同じような当たり前の存在になっています。
次に、本年で153年目となる日本の鉄道の特徴を5点述べます。
第1は、民間活力により建設・整備され、多角的な事業がサステナブルに継続していることです。この鉄道民間経営モデルの原型は、明治時代に小林一三氏が作りました。沿線開発により鉄道需要を作り、小売業等で住民の需要を満たす、シナジー効果のある複合ビジネスモデルです。また、民間鉄道事業者同士の競争がサービス、品質の向上につながります。
第2は、大量輸送のニーズです。世界一厳しいお客さまの期待に応えるために、「高頻度」で「大容量」の輸送が発達し、安全性、定時性、高い技術が鍛えられました。「量が質と本質を変えました。」日本人の時間に正確な文化は、明治以後の鉄道の発展によるという説もあり、文化を鉄道が形成したとも言えると思います。
第3は、安全・サービス品質を支える技術レベルを継続的に保ち、向上してきたことです。私はこれを2つのパスと呼んでいます。世代間をつなぐ一貫した技術の「道=Path」と、世代間で技術をつなぐ「Pass」により、技術は戦時下や国鉄時代も確実につながりました。
第4は、お客さまの高い要求水準です。首都圏等における、自社内、他社間の直通運転、各駅のバリアフリー設備、Suicaの0.2秒の高速処理、駅の多面的開発などはお客さまの高い要求に応えたものといえます。
第5は、極めて効率的な運用と保守です。東京駅のJR東日本の新幹線ホームは2面4線と最小限で、12分で折り返し作業を行うことにより、投資・運用コストを極小としています。
最後に、新幹線は戦後わずか12年の1957年に構想が発表され、それから、わずか7年後の1964年に開業しました。鉄道技術の「夢」を「志」に変え、「実現する」と言う日本の鉄道モデルを作った先人の思いを継承し、これからもイノベーションを興して、社会、日本、世界を変えていきたいと思います。