卓話


空調 − 快適な暮らしを求めて

2018年8月22日(水)

新菱冷熱工業(株)
代表取締役社長加賀美 猛君


 今年は本当に暑い夏です。気象庁は、今年の暑さは「災害レベル」と発表しています。新菱冷熱が取組んでいるのがこの暑さを快適に乗り切るための空調です。今日は、空調についてお話します。

 1991年のハリウッド映画「バグジー」は、ラスベガスを作った男の人生を描いた作品で、ゴールデングローブ賞にも輝きました。バグジーはネバダ州の砂漠に、空調されたカジノ・ホテルを開業します。当時は、空調が入っているだけで、集客に影響が出るほど、珍しく高級なものでした。「バグジー」は、空調が当時の人々に驚きをもって受け止められたことを教えてくれます。

 空調の歴史を振り返ると、まず暖房が入り、次に冷房の普及が進んでいます。日本では、工場から冷房が導入されていきました。当初は、水を使った装置で空気を冷やし、1907年 富士紡績・保土ヶ谷工場をはじめに、鐘紡・山科工場などの紡績工場に導入されました。そして、冷凍機を用いた本格的な冷房は、1922年 帝国人絹広島工場に導入されています。

 初めて事務所ビルに水を使った冷房が入ったのは、1923年 日本興業銀行本店です。本格的な冷房は、戦後の1950年代に、ブリヂストンビル、日比谷日活国際会館、そしてここ、帝国ホテルにも導入されました。新菱冷熱の設立は1956年、ちょうど大型ビル建設ラッシュの頃です。

 1960年の高度成長期に入ると、家庭には扇風機が一気に普及し始め、1964年の東京オリンピックのときの扇風機普及率は50%を超えていました。1970年大阪万博が日本の景気を牽引し、36階建て霞が関ビルなどの超高層ビルが建ち始め、空調は今に近い技術へと発展しました。70年には家庭用エアコン普及率が49%に、2000年には90%に達しました。

 現在、空調は普及のステージを終え、新たな取組みを進めています。今日は3つご紹介します。

 1つ目は、ハイテク分野の取組みです。例えば、製薬工場や半導体・液晶工場では、空調の技術で、埃を徹底的に除去したクリーンルーム用の空気を作っています。また、スマートフォンに使われるリチウムイオン電池工場では、空調の技術で、空気中の水分がほぼゼロの超ドライ空気を作っています。今や空調は、温度だけでなく、空気の質をも制御し、ハイテク産業を支えるまでに発展しています。

 2つ目に、省エネへの取組みです。今、建設各社はZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現に取組んでいます。これは、ビルに再生可能エネルギーを導入し、空調などのエネルギーを全て賄おうという取組みです。空調の省エネ化、躯体の性能向上、再生可能エネルギーの効率化など、複合的な技術向上が要求されます。英国は2019年まで、日本と米国は2030年までにZEBを達成する目標・ロードマップを掲げています。

   3つ目は、空調技術の輸出です。日本の空調技術は、世界的に見てハイレベルです。日本の総合的な技術力の高さの他、高温・高湿度の夏と寒い冬に対応する技術力がその理由です。日本の高い空調技術は、アジアをはじめ世界で、人々が快適に過ごすお手伝いができるはずです。

 最後に、未来の空調は2つの方向へ進化するのでは、という私の予想についてお話します。

 1つは、個人を快適にする空調です。今、建設現場では服に小型ファンの付いた空調服を着ています。屋外でも快適に過ごせる空調が今後は多数出てくるのではと予想しています。

 もう1つは、街全体を覆う空調です。街全体をドーム状に覆って、厳しい気象から守り、快適に空調された場所で生活する時代が来るかもしれません。この先、空調の果たす役割はさらに重要になると考えています。

 空調が、約100年の歳月をかけて進化し、生活をさわやかに快適にし、産業のために発展してきたことをご理解いただけたでしょうか。今日をきっかけに、空調について興味を持っていただけましたら幸いです。


医療用医薬品の流通の課題

2018年8月22日(水)

東邦ホールディングス(株)
取締役相談役 松谷高顕君


 本日は日本の医療用医薬品(以下医薬品)の流通の歴史と課題をお話しさせていただきます。

 医薬品は、薬事法に基づく承認を受けた製造販売業者(製薬メーカー)から出荷され、卸売販売業者(医薬品卸)が医療機関・薬局に99%販売しております。医師・歯科医師が処方した医薬品は、薬価基準(医療保険で使用可能な品目表と償還価格表)に基づいて医療保険制度の診療報酬として医療機関に支払われます。昨年の医薬品販売額は約9兆円で総医療費42.5兆円の21.2%を占めます。

 1961年に国民皆保険制度が導入され、医薬品の販売が大幅に増えました。その間の販売競争は熾烈で、サービス競争の行き過ぎが社会から非難を浴び、行政からも度々是正勧告が発出されました。1983年に厚生省にメーカー・卸業者・医療機関と学術経験者をメンバーとした「医薬品流通近代化協議会」が設置され、1990年6月に「医薬品の流通の近代化と薬価について」の報告書を出し、これを受けて中医協は1991年5月に薬価算定方式の変更と新薬の薬価算定の適正化を盛った建議書を決定し発表しました。同時期に市場の国際化が進み外資メーカーも日本での自販体制を強化し日本独自の商取引慣習を非関税障壁であるとしてMOSS協議の場で改善の要求があり、公正取引委員会は「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を発表しました。

 1992年には新しい薬価算定方式(加重平均値一定価格幅方式)へ移行し、また医療機関に対する価格決定権が卸に移り値引補償制度から新仕切価制へと変わり、卸経営の自主性の確立が要請されました。

 この制度改革は流通市場に大きな影響を及ぼし、医療現場では、医薬品の共同交渉・一括購入が増加して取引卸に対する値引き要請が強まりました。またメーカーの卸系列化が徐々に弱まり卸間の競争が広域にわたり激化し12%あった売買差益が7%前後になり、販売管理費を賄えない企業も出現しました。結果業界の再編成が急速に進みました。また医薬分業が進展した事により販売先が大きく変化し売上シェアは保険薬局が10%前後から53%まで拡大しました。

 現在薬価基準収載品目は1万6千品目と増え、カテゴリー別には特許品・長期収載品・後発品(ジェネリック)基礎的医薬品に分類され、金額シェアと数量シェアが大きく変化し配送センターでの商品管理や川上取引・川下取引の交渉力が問われております。新薬も高分子のバイオ医薬品や抗体医薬品が増加し、管理が厳しくなり販売卸が限定されるケースも発生しています。

 流通に関しては新たに設置された「医薬品の流通改善懇談会」から2007年に^貅’篋好泪ぅ淵垢硫善¬ぢ天襦Σ焦柴改善➂総価取引の改善を中心に緊急提言が示されました。2017年には中医協の薬価専門委員会において2年に1回行われる薬価調査の中間年に薬価調査を行い薬価差の大きい商品の一部改定実施が「薬価制度の抜本改革について(骨子)」として承認されました。2018年1月、国は薬価制度の環境整備を図る為全ての流通当事者が遵守すべき「流通改善ガイドライン」を発出しました。

 このように国が民・民取引に対し関与を強くするのは医療用医薬品が公的医療保険制度の中で成り立っていることが大きな理由であると考えております。また医療用医薬品の取引が統制経済と自由経済の狭間にあることも取引を複雑にしているとも考えられます。 医薬品は23万軒ある医療機関・薬局へ卸の「毛細血管型流通」によって全国に安定供給されております。卸は物的流通以外に情報の提供・収集やトレーサビリティーの確保、欠陥商品の回収、危機管理流通対策(震災・大規模自然災害・パンデミック・テロ・偽薬)を通じて地域社会の公共インフラの役割を担っております。

 現在日本の大きな課題は少子高齢化による人口構造の大きな変化への対応であり、持続可能な医療制度の改革が喫緊の課題になっております。私共も自己改革を伴った対応が必須だと覚悟しております。