卓話


ゴルフとデータ

2018年9月26日(水)

(株)ゴルフダイジェスト・オンライン
代表取締役社長 石坂信也君


 東京ロータリーの皆様の中ではゴルフを楽しまれている方が多いのではと勝手に想像致します。その中でも、ゴルフ場やゴルフ場の設計に詳しい方、道具や技術オタクだったり、あるいは女子プロゴルファーファンという方もいらっしゃるでしょう。そのような皆様の前で、ゴルフについて語るのは甚だ僭越でありますが、職業柄数多くのゴルフ関連データに触れているため、今日は「ゴルフとデータ」をテーマにお話しさせて頂きます。 ゴルフは数字やデータが密接に関係している競技だと言えます。それがまた魅力でもあり、多くの人を虜にしている理由かもしれません。

 先ず、ゴルフボールが飛んだ飛距離データについてご紹介します。昨今のゴルフ業界ではゴルフクラブ(道具)の進化で特にドライバーのショットが飛びすぎてゴルフ場の距離が足りないのではという議論があります。これがいわゆる「飛びすぎ問題」ですが、このデータの真相について皆様ご存知ですか?

 道具の進化で圧倒的に飛距離が伸びたと言われていますが、2017年アメリカ男子プロツアーのPGA TOURでの平均飛距離は、実はこの15年ほどではたった2.5ヤードしか伸びていませんでした。その平均ドライバー飛距離が292.5ヤード。因みに、今年はPGA TOURプロ選手の中で平均飛距離の1位はローリー・マキロイ選手で320ヤードでした。

 一方、平均的なアマチュアゴルファー(ハンディキャップ13〜20と定義)のドライバー平均飛距離はどうでしょう。まず女性の飛距離ですと150ヤード。男性の場合には198ヤード、200ヤードを下回っています。男子プロとアマチュアでは実に約100ヤードの差です。道具の進化の恩恵は皆平等に享受しているとすれば、信じられないほど大きな差に感じます。一体、この差は何なのでしょうか?

 先述の通り、この15年間のプロ選手の平均飛距離の伸びが僅か2.5ヤードなら、この差はプロとアマチュアの基礎体力、フィットネスそのものの差のように個人的には考えます。ですので、皆様、噂の飛距離抜群のドライバーへ買い替える際にはご用心下さい。飛距離を伸ばしたい方は道具よりも、実は体を鍛える努力の方が得策かもしれません。そう言ってしまうと私の商売はあがったりですが。

 さて、次は遠い将来のSF物語にも思える話です。今後あらゆる機器(センサー・カメラ)とソフトウェアのプログラムを駆使し、全てのショット・スウィング情報、コースのデータ、天気情報、更には感情データ等の収集・蓄積が可能になります。驚くばかりですが、もうこれらは既に現実味を帯びている話なのです。例えば、ラウンド中にリアルタイムに現在と過去のデータを分析・解析し、瞬時に攻略方法やクラブの番手、スウィングやメンタルのアドバイスを、しかも皆様のお好みの声で耳元に囁いてくれるキャディー又はコーチがバーチャルにお供してくれるといったことも可能になるのです。

 最後に、ゴルフの社会貢献の代表例となるデータをご紹介します。1938年に試合で初めて1万ドルの寄付が行われて以来、この50年間でPGA TOURの試合では累計26億ドル(約2,800億円)近い額が数多くのチャリティーへ寄付されています。流石はアメリカです。これは世界のトップスポーツの中でもずば抜けた寄付額だろうと言われています。

 更に凄いのは、全てのトーナメント運営に毎年10万人以上のボランティアの協力があることです。大半のトーナメントはNPO法人が運営母体で、100%近い売上が寄付に向けられています。チャリティーによる寄付金額のみならず、ボランティアがここまで活躍して成り立つアメリカのプロゴルフツアー自体も、スポーツと社会貢献・社会奉仕の素晴らしい例だと思います。日本では男子プロツアーの不人気が話題ですが、アメリカの取り組みを例に再起を図る手立てはまだ残されているのではないかと思います。


リーダシップ基礎教育への挑戦

2018年9月26日(水)

慶応義塾大学
法学部教授 田村次朗君


 私は、慶應義塾大学法学部の教員で、独占禁止法、通商法などの経済法というハードスキルと、リーダーシップ教育の基礎科目である交渉学というソフトスキルを専門としています。ここでいうハードスキルとは、主に知識の習得を中心とした、これまで私たちが中高大学で学んだような学問です。それに対してソフトスキルとは、リーダーシップを発揮するのに必要なコミュニケーションスキルなどを指します。

 私がこのことに気がついたのは、ハーバード大学ロースクールへ留学して、ネゴシエーション(交渉学)の授業に出会ったからです。それまで、法律は知識が重要だと決めつけてきたのですが、このとき教えられたことは、法律家は問題解決する力に価値があるということでした。この授業では、模擬交渉を通じてアクティブラーニングを繰り返すことによって、ソフトスキルの価値を教えてくれました。

 これをきっかけに私は交渉学に関心を持ち、日本において、このハーバードの教えと近江商人の三方よしの教えを柱とする、日本版の信頼関係構築を基本とした交渉学の研究開発を行っております。

 昨今、日本の大学はリベラルアーツ教育を行うべきであると言われます。よく教養教育と訳されます。しかし、これは日本では、講義を聞いて知識を得るものだと思われており、ハードスキルの習得と考えられがちです。ところがリベラルアーツ教育では、対話と議論を通じて理解を深めることが重要です。つまり、日本の教養教育で不足しているのは、交渉力、対話力というソフトスキルです。交渉学では、対話の力で相互の信頼関係を構築するプロセスを学びます。私たちはこの種のアクティブラーニングを通じて、答えのない困難を乗り越える力をつける必要があります。

 ギリシャの哲学者ソクラテスは、書籍は1冊も残さず、ひたすら人と議論をしながら、彼の哲学を展開していました。議論を通じて力をつけていく、これが教養教育の基本なのです。

 そこで、私が今、日本で提唱しているリーダーシップ基礎の教育では、この議論する能力の基礎となる、論理思考、対話力、交渉力、決断力、などを習得することを行なっています。例えば、社会人レベルでは、企業研修をはじめ、社会人と学生の志ある方々を集め、福澤文明塾という慶應義塾の原点を再現するリーダー塾において、対話と議論を行っております。学部生に対しては、「リーダーシップ基礎」と「交渉学」というアクティブラーニングの授業を2つ行っています。これは高校生にも教え始めています。

 リーダーシップ教育の基礎にあるのが交渉学なので、それをさらに深掘りして教えております。この効果を実証する大きな歴史的な例として、キューバ危機においてケネディ兄弟がリーダーシップ力を発揮した実話があります。交渉力で必要とされている対話力によってケネディ兄弟は、先制攻撃という多数派の意見を抑えて、海上封鎖による臨検を行い、相手との対話を行うという少数派の意見を、国家安全保障会議で結論として引き出しました。また弟ロバートにソ連大使に交渉に行かせ、ソ連の条件を聞き入れながら、キューバから撤退させるという信頼関係を構築するウィンウィン交渉を導き出しました。世界は核戦争の危機から救われたのです。これはケネディ兄弟が、交渉のプロセスを重視したリーダーシップを発揮することで、この結論を導けたと言われています。

 この例からもわかるように、ハードスキルとソフトスキルを融合させたリーダーシップ力が必要となります。福澤諭吉は「実学」と言い、慶應義塾において、対話と議論による本当の教養とリーダーシップの教育を目指しました。この実学の精神は、今ハーバード大学ではプラクティスとアカデミックの融合ということで、「プラアカデミック」と言われ実践されています。

 この流れを受け、今の日本で不足しているソフトスキルを補うためには、リーダーシップの基礎教育が必要です。正解が見えない多くの困難な問題に対しての解決が、今求められています。これらの問題を乗り越えていくためにも、一人ひとりのリーダーシップ基礎力が育成されることが重要となります。ぜひ皆様にも、リーダーシップ基礎教育の挑戦が、日本において普及できるよう、ご協力・ご指導いただければ幸いです。