卓話


報道されない日本外交の真相−国連大使が本音を語る

2019年4月10日(水)

前国連大使
国際基督教大学
特別招聘教授 吉川元偉氏


 私が卒業し、今奉職している国際基督教大学(ICU)はロータリークラブから大変なご支援を受けて参りました。現在も、ロータリー奨学生がICU大学院に18人おり、うち5人は私の授業も取っています。多彩な人材を集め日本で勉強する機会を与えておられることに敬意を表しますし、同時に、彼らには日本滞在の2年間を有効に使って一生忘れないような経験にしてもらいたいと思います。

 (1)日本のおかれた位置
 今日は、日本のおかれた位置、そして、今年の日本外交の課題についてお話します。
 日本の領土は38万㎢、世界第62位の大きさです。ヨーロッパでいえばドイツとほぼ同じです。最東端が南鳥島、最南端が沖の鳥島、最西端が与那国島です。海洋法条約で定められた排他的経済水域(EEZ:領土基線である海岸線から200海里の範囲で漁業や資源などその国の排他的権利が及ぶ)で見ると、465万㎢で世界第6位の海域を持っています。現在、韓国と竹島、日ソで交渉中の北方領土、中国との尖閣列島の問題があり、日本はすべての隣国と平和条約、領土確定ができているわけではありません。

 日本をちょっと違った角度から見てみます。地図を逆さまにし、中国や南北朝鮮の立場で見ると、太平洋に出る時に日本列島が前に立ちはだかります。南北朝鮮は台湾の海域、大隅半島を通るのが出口。ロシアは、樺太と千島をおさえれば自国領土で太平洋に出られるようになります。従って、ロシア、中国、南北朝鮮にとって、日本は「目の上のたんこぶ」のような存在です。

 日本の領土の中で宗谷海峡、津軽、対馬の東西の2つの水道、大隅海峡の5つの海峡は国際海峡と呼ばれ公海並みに外国船が自由に行き来できますが、漁業や海底資源に手を出すことはできません。このように、日本は地政学上、非常に有利な点にあります。他方、それが領土問題が存在する理由の一つでもあります。

 日本の経済力はかつて世界2位でしたが今や世界のGDPに占める比率は5.6%、逆にかつて1%だった中国は15%までになりました。アメリカは衰えましたが4分の1を占めています。

 私は42年間外交官生活をしてそのうち27年間外国に住みました。私の実感では日本の評価は大変高い。BBCが毎年行っている「世界に良い影響を与えている国の調査」でも2017年に日本は3位です。トップはカナダ、2番目がドイツ。2012年には日本が一位になっています。

 (2)今年の外交課題
 今年の外交課題、一番はやはりアメリカです。トランプ大統領が就任して2年3カ月。私の国連大使時代はオバマ政権でしたので、やり易かった。トランプ大統領は国連大嫌いな訳ですから、私の後任の別所大使はトランプ政権下での国連外交で、苦労していると思います。

 なぜトランプ大統領は誕生したのか。ジニ係数の話をします。ジニ係数は所得格差を測る指数の一つで、完全に平等だったら0、1人がすべての富を独占すれば1になります。主要7カ国(G7)でずっとトップを走っているのはアメリカです。しかも0.3から今や0.38、0.39まで上がっています。経済学者は0.33以上になると不平等社会だと言います。日本は今第4位で、かなり上がってきており、G7で一番下はドイツとフランスです。トランプ大統領が生まれた背景にはアメリカの高いジニ係数に示されるような「富の分け前をもらっていない」と思う人達の存在、国内における差別感があるのだと思います。“United” States of Americaから“Divided” States of Americaになっていると言えます。

 他方でアメリカは軍事費、経済力でいずれも依然世界でダントツに1位です。トランプ大統領と最も近い世界の指導者は誰かと聞くと、世界の多くの人は「シンゾウ・アベ」と答えると思います。外務省幹部の話を聞くと、日米首脳会談はトランプ大統領の就任以来9回で、今月末の総理訪米、トランプ大統領の国賓としての来日予定、G20での来日を考えると、夏までに12回になる。電話会談は29回。三週間に一回は電話か直接会っていることになるようです。ゴルフは3回、54ホール一緒に回っています。この緊密な関係は、懸案処理上有利です。

 今年の日米の3大課題は安全保障、貿易交渉、アジア太平洋戦略だと思います。安全保障については、トランプ大統領は「ヨーロッパが軍事費にGDPの2%を払っていないのはおかしい」と言っています。日本はまだ1%ですから、この圧力がかかってくると思います。

 2番目の貿易交渉。安全保障に比べ、過去の交渉歴が多いですから、貿易交渉はある程度楽観的だと思います。

 3番目は、果たしてトランプ大統領はアジア太平洋戦略にコミットするのかです。よくトランプ大統領は「アメリカファースト」と言いますが、これまでのアメリカ大統領はすべて「アメリカファースト」です。しかし、トランプ大統領は「トランプファースト」です。すべての政策が自らの利益をもとに考えられていると思います。

 次は中国です。習近平国家主席が2015年の国連総会で人的貢献、資金協力を表明し、国際貿易体制へのコミットメント、地球環境問題にも積極的に対応すると、一昔前のアメリカ大統領が言ってもおかしくないような「大国の演説」をしました。いまや国連分担金で第2位、PKOへの貢献では常任理事国で圧倒的ナンバーワンです。中国の抱える問題は、米中摩擦の原因でもある外交です。中国は、資源、軍事施設等、自国の利益に直結するところに金を貸し、金が払えなくなったらいろんな権利を取り上げるという外交を行っています。もう一つの問題は、共産党の一党独裁体制です。

 今、米中摩擦で表面化している大きな問題はビジネス慣行です。知的財産権の侵害、ビジネスへの国家介入。アメリカが経済慣行を含めて問題提起をしていることは日本にとっては都合がいい。他方で、過去の日米関係に遡って考えれば、アメリカが今変えろと言っていることを、外圧という形で中国が国内改革をすればさらに強力な中国が現れてくるのではないかと思います。

 次は日中間関係です。日米関係は今、very good、excellent。日中関係はnot bad。米中関係は、very bad。これはかなりバランスがとれているのです。過去を見ると、米中関係がvery goodになると、大体日中関係はvery badになる。そのため日中関係は残念ながら2つの国だけで律しきれず、米中関係と密接に関連しています。日本の立場が問われると思います。

 北朝鮮。2回米朝首脳会談が行われました。とりあえず勝者は金正恩委員長です。北朝鮮は主張を全く変えていません。私は20年程、国連で北朝鮮問題を担当しましたが、案件は変っておらず、ひどくなっているだけです。非常に一貫した方針で3代続けており、今や核大国になった。先ほど「トランプファースト」と言いましたが、アメリカの北朝鮮問題は、彼の再選戦略にプラスになるのかという観点で進められかねず、慎重に見ていかなければと思います。

 これまでの北朝鮮問題について、日米の外交は国連安全保障理事会を通じて北朝鮮に圧力をかけて、その中で北朝鮮を外交の世界に引きずり込もうという作戦でした。トランプ大統領の出現によって、交渉に持ち込むという点は実現されつつありますが、今後、非核化政策についてどう結論が出てくるか注視する必要があります。

 日本は2009年の小泉純一郎総理の2回の訪朝で外交方針は決まっています。核開発を阻止して拉致問題を解決するのであれば、日本は北朝鮮に対して、1965年に日本が韓国に対して行ったような「償い」植民地時代の精算をしようと決めている。この方針を貫くことが必要です。

 韓国の請求権問題について一言だけ。国際法上、「完全かつ最終的に解決された」合意があるため、日本は怖がる必要も不法な要求に応える必要もないと思うのですが、韓国側に立ってみれば、感情、歴史の経緯という法律ではない問題が入ってきて、ちょっと出口がない状況ではないでしょうか。

 最後に、2016年4月22日、3年前にニューヨークで地球温暖化についてのパリ協定の署名式が行われました。日本を代表して署名したのが私でした。環境大臣が来るはずでしたが、国会で足止めされ、私がサインをすることになりました。今日はその時のネクタイを締め、サインしたペンを持って参りました。この分野こそ日本がもっとリーダーシップを執らなければならないのですが新聞、政治ともに殆ど議論をしていません。原子力をどうするかを決められないため答えが出せないからです。日本がこの状態にあることは非常に悲しいことで、この点をこれからの日本外交の中で重視していただきたいと思っています。