卓話


イニシエイションスピーチ

2010年12月1日(水)の例会の卓話です。

永谷栄一郎君
多田幸雄君

食物アレルギーに対する加工食品
メーカーとしての取り組み

蟇蔽園
代表取締役会長  永谷栄一郎 君

 食物アレルギーは,お子さんから成人まで幅広い層で見られます。平成17年のリウマチ・アレルギー対策委員会報告書において,乳児10%,3歳児4〜5%,学童期2〜3%,成人1〜2%が発症しているとしており,やはりお子様での発症率が高くなっております。

 私共は比較的早くからこの問題に対応して参りました。食物アレルギー配慮商品に取り組むきっかけは,平成14年に食品衛生法関連法規の改正により加工食品に対し食物アレルギーの特定原材料5品目「卵・乳・小麦・そば・落花生」(現在「えび・かに」を追加し7品目)の表示制度がスタートした時です。

 この法改正を受け,社内で食物アレルギー物質を使わない商品を開発したらどうかという提案がありました。お客様からの問い合わせや要望が大変多くなってきた時期でもあり,食物アレルギー配慮商品の市場は小さいが,こうした商品を本当に必要として支持して下さるお客様に対し,企業の社会貢献として取り込む事を決定しました。

 開発テーマとして,基幹商品である「ふりかけ」,そしてお客様のご要望の多い「レトルトカレー」に取り組みました。当時はお手本となる商品もなく,商品化の道のりは試行錯誤の連続でした。その中で特に難しい課題は以下の3点です。

味づくり
 当時もごく一部,アレルギー配慮商品が出ておりましたが,正直申し上げて,口に合わない事も多く,また価格も高いものばかりでした。弊社の企業理念は「味ひとすじ」であり,特別なアレルギー対応商品であっても,おいしいものでなければなりません。これが想像以上に難しい課題でありました。

 例えば,醤油は小麦と大豆を使用している為,使えません。そこで醤油と同様のうまみを出す為に,様々な原料で試作しました。最終的には酵母エキス,しいたけエキスを使用する事で,醤油と同様の満足のいく旨みを出すことが出来ました。また,カレーのとろみをつける原料として小麦粉を使用出来ない為,多くの素材を試した末に雑穀の一種から作った粉を代替原料として使用する事で解決しました。

設備
 生産で一番注意しなくてはいけない事は,コンタミネーション(微量混入)です。アレルゲンが入っていないはずの商品に万が一,微量であっても混入してしまうと大変な事故につながります。その為に,特別な対応が必要になります。既存のメイン工場内に数億円をかけて専用の包装室をつくり,完全に外部から遮断された空間の中で生産を行っております。

コスト
 生産ロットも小さく,原材料も特殊なものが多く,又,設備・生産オペレーションも特別な対応をしている事から,コストは大変高くなります。「ふりかけ」ですと通常のものと比べ2倍近い価格になりますが,それでもまだ利益は出ない状況です。

 そのように大きい課題を抱えてはいますが,今後も継続して取り組んでいく所存であります。それは企業としての社会的な貢献という考え方に基づくものですが,根底に当社の強い思いがあります。

 「食物アレルギーの方だけの為の食品」ではなく,「食物アレルギーをお持ちの方もみんなと一緒に食べられる食品」と位置づけ,安全でおいしく,いつでもどこでも買える,家族や友達と一緒に楽しく食べられる,そのような商品づくりこそが私共の願いであります。

 お客様からの電話等でのお問合せの中に「初めて他のお友達と一緒のアンパンマンカレーを食べた子供の笑顔は一生忘れません」といった言葉も頂きます。

 今後もより技術の向上を目指し,「よりおいしいもの」を「より買いやすい値段」でご提供できるよう努力して参りたいと思っております。

日米シンクタンク事情

蠢估総合研究所
代表取締役社長  多田幸雄 君

 一般にシンクタンクといいますのは,公共政策に関する研究を行い,問題解決に向けた政策提言を主たる業務とする研究機関の総称で,直訳しますと「頭脳集団」。欧米では中立独立の立場を取って研究活動を行っています。

 米国には1,000を超えるシンクタンクが,ワシントンには有力シンクタンクが100以上集中しています。シンクタンクの歴史は古くなく,ブルッキングス研究所が全米最古と言われております。

 ブルッキングス研究所は1916年,ウッドロー・ウィルソン大統領の時代に,篤志家のロバード・ブルッキングス氏の寄付で創設。当時はどんな時代かと申しますと,ウィルソン大統領は研究実績から博士号を得た唯一の大統領で,進歩主義的な改革を実行して,独占企業で急成長した国内経済の軌道修正を行いました。一方で国際社会では,第一次世界大戦や国際連盟という新しい外交・安全保障の難題に直面,中立だった米国が国際社会で主導的な役割を担っていく転換期でした。

 国際ルール作りには,国内政治・外交上の難しい政治的判断を迫られます。学者肌のウィルソン大統領は頭脳集団の必要性を感じ,有識者グル−プによるブレーン政治の源流を作りました。こうした政治的ニーズへの対処として作られた高度な頭脳集団が,シンクタンクの源流です。

 以後,シンクタンクは時の政権に政策的な影響を及ぼすと共に,政権内に多くの人材を輩出するようになりました。重要なことは,米国ではシンクタンクの黎明期から,健全に運営を支援する土壌があったことです。それは世界中から集まる優秀な人材,巨大なNPO財団です。

 翻って日本のシンクタンクを考える際,日米比較で3つの社会環境の違いがあります。
(1)最大の問題はワシントンと東京の違い
 米国の場合,何より重要なのは,世界の政治・経済の拠点であるワシントンの存在そのものです。ワシントンではそこで語られることが自国の言葉,「英語」でそのまま世界に伝わっていきます。これは国際的な影響力・発言力で実に有利です。ワシントンには世界の情報拠点として恐らく東京の100倍以上の活きた情報が集まります。世界中から優れた人材やインテリジェンスといったソフト・インフラがあり,国際情勢の分析には最適の知的環境です。

 現在では電子情報公開が進んで海外から検索可能ですが,やはり重要なのは当事者からの一次情報です。さらにシンクタンクの支援育成を行う社会基盤が存在します。それが「回転ドア」と「助成寄付金」です。

(2)ポリティカル・アポインティによる「回転ドア」
 米国ではシンクタンクの研究員の問題提起が出発点となり,議会と政権で調整が図られて国家の戦略になる場合が多々あります。政権交替でポリティカル・アポインティという政治的任命では提言者がその影響力の行使人になるメカニズムがあり,シンクタンクでは個別イシューより国益を独立中立の立場で議論をしますので,超党派提言として纏めやすく,政権に入っても即戦力になれる利点があります。

(3)米国の懐の深さ「寄付金文化」
 ギビングUSA財団の発表では,昨年度の米国の財団,企業,個人の寄付総額は3,037億ドルでした。内75%を占める個人の寄付金は2,270億ドルに達しています。リーマン・ショックで大きく落ち込んだ昨年ですが,実質30兆円近い寄付金が社会貢献に回りました。税金免除,キリスト教的な博愛精神などの違いもありますが,ここでも日米間の比較は100倍以上であると思います。

 このところ国内の政局が混迷する中で,国際社会ではG20,尖閣問題,TPPなど連立方程式が多様化しており,日本で「真のシンクタンク」が必要であるという意見が聞かれます。その一方,日本から米国への留学生が減り続け,中国が首位に返り咲いたというニュースも流れてまいります。

 第2の開国で日本は何をなすべきか,本日はシンクタンクの切り口からお話させて頂きました。