卓話


職業奉仕月間例会
事業承継のマネジメント

2020年1月15日(水)

慶応義塾大学
名誉教授 奥村昭博氏


 日本は世界に誇りうるファミリービジネス大国です。100年以上の歴史がある企業が約3万社、200年以上存続する世界の企業8000社中3000社が日本企業です。

 米国の場合はフォーチュン500社中37%がファミリーファームで、ウォルマートやフォード等があります。ドイツはBMWはじめ50%以上がファミリービジネスです。フランスはワインの会社が多く、60%以上。特筆すべきはスウェーデンで、GDPの3分の1以上を稼ぎ出している圧倒的ファミリービジネス大国です。

 中でも日本は特異なファミリービジネス大国です。よく例に挙げられるのがギネスブックで世界最古の企業として認定されている、1300年の歴史を持つ山梨県の温泉旅館・慶雲館です。最近、ちょっと何かあったようですが、創業者一族が経営してきた現存企業として認定されています。日本は歴史においても数においても世界一です。

 しかし、今大きなターニングポイントに来ています。いわゆる大廃業時代で、中小企業の多くで廃業が続いています。背景には人口減少もありますが、大きな問題は後継者難です。そのためM&Aが増加しています。創業者から3代経つと生き残るのは10%しかありません。全国のシャッター通り商店街の出現をはじめ地方都市の衰退はひとえに中小企業の廃業が原因です。

 2025年には中小企業380万社中、245万社の経営者の年齢が75歳以上になる大変厳しい状況になります。このうち「後継者がいない」と言っている廃業予備軍が127万社、これにより雇用が650万人、GDPで22兆円が消失すると経産省が試算しています。

 中小企業はほとんどファミリービジネスで、大きな経営課題は事業承継。いかにして事業承継を確実にするかが我が国の経済の行方を大きく左右します。

 ファミリービジネス学会の学者として話をします。
 オーナーシップ、ファミリー、マネジメントの3つがファミリービジネスを特徴づけます。

 いろいろなパターンがあります。.侫.潺蝓爾所有も経営も行なう(典型的)。非ファミリーが所有して経営を行なう(株主支配一般企業)。ファミリーが所有をするが経営は専門経営者に任せる(ヨーロッパ企業に多い)。ぅ侫.潺蝓爾所有はしないが経営には参画。

   い脇本企業に大変多く、例えばトヨタは、豊田一族のオーナーシップ比率は1%を切る状況にもかかわらずずっと経営しています。調査では日本の上場企業3000社のうち約1500社がこのタイプで、上場企業でもオーナーシップは低いものの経営にきっちりと参画しているケースが多いのです。

 事業承継の内容には、家業、経営、財産の3つがあります。ファミリーが所有し経営に参画している場合は「ビジネス承継」、ファミリーが非所有だが経営に参画している場合は「経営承継」、そして、財産を承継する「資産承継」です。

 事業承継のマネジメントはとても難しく、自然に任せず、常に綿密に計画されなければなりません。長期的なサクセッション・プランがなかった場合、後になって突然起きた変化に対応できなくなるためです。

 ビジネス承継は、単に家業を引き継ぐだけではなく、後継者はこれを発展させる課題を抱えており、ビジネス環境の変化に合わせて事業そのものを変化させることも必要です。経営承継とは創業家が経営を承継することで、資産承継とは創業家の有形・無形の財産をいかに次世代に継承するかが課題です。

 事業承継は、これら3つの要素を常に考えなくてはならず、複雑に絡み合っていることに難しさがあります。そして、次のような課題があります。

 まず、代々後継者が創業の理念を受け継ぎその夢を追求していくミッションを持っています。

 次に、多くのステークホルダーとの信頼関係です。トヨタのケースを見ると、サプライヤーの多くがファミリーです。ファミリー同士の信頼関係があって、はじめてあのようなビジネスが成り立っています。

 それから、長期をにらんだ経営。株式市場の短期な株価に左右されないマネジメントです。

 伝統的な話が多くある一方、変化、変革のリスクもあるため、存続させるには、伝統と変革を常に睨んでいくことが大事です。伝統を守り過ぎることによって変革のリスクを取らないとそこで躓いてしまうことも多くあるためです。

 これは日本の特徴ですが、ある企業では家訓のように「従業員は常にあなたの背中を見ている。だから身を正しくしなさい」とありました。従業員は重要なファミリービジネスの宝で、かつ地域の人々が親子代々従業員として参画しているケースが多いのです。

 そうした意味で見ると、異動が可能なノンファミリー企業と比べて、従業員は非常に重要な資産であるために、ここを無視すると問題が起きてくる。極端なことを言ってしまえば、将来社長になる可能性はないのに従業員がなぜファミリービジネスに行くのか。先ほども話した通り、夢の追求ができる、従業員が大切にされる、信頼関係が経営者・ファミリーとあることが理由だと思うのです。

 それから、社会との関係性の中で地域に対する貢献があります。近江商人は、成功したら必ず地域に貢献する伝統を持っています。ファミリービジネスのマネジメントには地域と密着しそこへ貢献することが含まれてきます。

 経営課題の中で一番難しいのは同族のマネジメントです。

 何代も続くと、分家、分散等の形で一族が広がり、その中でコンフリクトが起きてきます。経営者にとってビジネスと同時にファミリーのマネジメントが重要な課題になってきて、これを崩すとビジネスがうまく回らなくなります。

 三代目問題があります。一般に「創業者が創り、二代目が守り、三代目がつぶす」とよく言われます。「売り家と唐様で書く三代目」という諺もあり、このような話は、欧米にもあります。この問題を乗り越えるには、短距離競走ではなく、駅伝、リレーです。400メートルリレーで日本が強いのは、まさに繋ぐこと。日本がジャマイカに勝てるのは、バトンタッチの良さとよく言われます。ファミリービジネスの事業承継の大事なポイントも繋ぐことです。

 問題になるのは先代と後継者との関係性です。後継者は独立的に行動する自由を望みます。IT、AI、グローバリゼーションの進展など事業環境が変化する中、後継者は変革に迫られます。そうすると、先代経営者が強ければ強いほどその関係性は複雑になってきます。ある後継経営者から聞いたのは、一番いいのはコミュニケーションを取ること。最初は考え方が違うため、やはりすごく反発し、親子対立になったのですが、結局はコミュニケーションを密にした。親の言うことに耳を傾けることは大事だとおっしゃっていました。

 それから、もう一つ大事なことは資産承継をきちんと行なう。引退後の経済的補償をすることでスムーズな承継につながります。

 先代経営者が経営を譲らない親子対立があり、最近気になっているのは老老承継です。先代が80代、後継者60代という厳しい状況もあります。先代はできる限り家業を保とうとしますが、時として大手術も必要になる。星野温泉の場合などがその例です。

 もう一つ大きな問題は、後継者が見当たらないことです。先代経営者の心の問題で「見つからない」と言い切ること自体が問題なのかもしれませんが、いずれにしても見つからない場合は、同族内、従業員内、あるいは外部から経営者を招いて、自分たちはオーナーシップのみを守る。それでも手がない場合、M&Aを選択することになります。 後継者の育成と選抜がカギだと思います。歌舞伎などがそうですが、幼い頃から会社の行事に参加させるなど、まず刷り込みです。

 それから、教育です。大学、ビジネススクール、他社での経験などがあります。ポイントは2つ、一つは人的ネットワークの形成です。できるだけ良質な人的ネットワークが築けるよう、将来の資産になるような所に子息・後継者を置いていくことです。もう一つは、会社に入れてからは実績を立てさせ正当性を確保させることです。

 そのため、後継者はコミットメント、覚悟を持つ必要があります。行く以上は自分の自由にならないことは沢山あり、後継者にとってはいつもおもりを背負う訳ですから。

 近江商人の「三方よし」。「売り手よし買い手よし世間よし」です。後継者は常に謙虚に長期を見据えてこうしたことを考えてサクセッションしなければいけません。

 最後に2つの言葉を挙げます。
 一つは「繋ぐ」。サクセッションにとって大事なことはバトンを渡すほうも受けるほうもきちんと繋ぐ。繋ぎ方を工夫することです。

 もう一つは、「不易流行」。変えるべきものと変えちゃいけないものをきちんと区別することで、事業は永続性を保つことができます。

 事業承継は企業にとって重要なカギであり、特にファミリービジネスにとっては殊更こうしたことに意を砕いてマネジメントをしっかりと行なうことが大切です。


     ※2020年1月15日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。