卓話


スマートグリッド:電力インフラと情報インフラの融合

2010年12月8日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

アクセンチュア
代表取締役社長
程 近智氏 

 「グリッド」とはバーベキューの時に使う格子状の網のことです。この数年来,アメリカで,電力網の比喩としてこの言葉が使われています。つまり電力の系統ネットワークを,時代の要請に応じて効率化して賢くしようというのが「スマートグリッド」化です。

 今のまま地球の環境破壊が進むと,2050年には,地球の2.3個分の資源が必要になると言われています。限りある資源を有効活用して,地球と永く共存しなければなりません。

 新興国では,これからグリッドを造る,新しい街を造る,という要請があります。

 インターネットを代表とする情報ネットワークは,電力網の上に情報網を巡らせることによって新しい情報を集積し,それを基に賢い意志決定をしようと模索しています。

 最近,進歩が著しいのは「代替エネルギー技術」です。風力・水力・バイオマス・太陽光といった,新しいエネルギーソースから供給を受ける方法が実現しつつあります。

 一方,リーマンショックを境に,悪くなった景気対策として,国や企業は成長分野の探求を始めた結果,「スマートグリッド構想」に資金をシフトしました。

 これらが電力網の高度化(スマートグリッド)と都市の高度化(スマートシティ)構想が構築された背景です。

 2年前,オバマ氏は大統領に就任した際,「グリーンニューディール政策」を打ち出しました。それに応じた昨年度の世界各国の環境対策予算はトータルで,約176兆円でした。

 今後2年間(2009年末時点)のスマートグリッド関連予算は,中国では約11兆円,米国では約2兆円,日本では約2兆円,合計約15兆円が計上されています。

 日本の従来の電力網を,2007年の発電電力量で示してみますと,石炭25%・原子力26%・LNG28%・石油類13%,そして再生可能エネルギー9%でした。

 そこで,日本でも,CO2を排出するエネルギーから地球に優しいエネルギーへの転換として,再生可能エネルギーを大量に導入する要請が高まってきました。

 そうすると,新たな要請として,太陽光発電での余剰電力,天候による電力不足などへの対策,各種の電力ソースの電圧不揃いの制御などを技術的に解決する必要が生じます。

 住宅にソーラーパネルを設置して,自分の家のエネルギーを維持すると同時に,電力会社に売ることも可能な「分散型電源」も増えてきました。

 蓄電池の増加に伴う高度な制御装置も必要になります。EV(電気自動車)にはエネルギー源を供給するネットワークも必要です。

 現在の「検針」は人間が目視で行っていますが将来的には自動化するでしょう。

 電力会社が維持する「基幹系統ネットワーク」をスマート化し,地域エネルギーマネジメント,家屋・ビルディングのマネジメントの仕組みも「スマートグリッド」化することが必要になってきました。

 日本の電力網は世界でもトップクラスです。その電力網をさらに賢くするために地域のエネルギーコントロールセンターを繋ぎます。それによって,エネルギー効率を高め,CO2排出を減らし地球環境を保たせます。

 地域のネットワークは,公園,学校,ストア,公共交通機関,パーキング,次世代サービスステーションなどのネットワークです。

 これは,大規模電源と分散型電源の最適なネットワークでもあります。

 日本型スマートグリッドのイメージはHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)とBEMS(ビルディング・エネルギー・マネジメント・システム)です。

 HEMSでは,電力会社からの電力と自家発電電力との最適な組み合わせでの使用や,他の家と電力消費量のベンチマーク比較,余剰電力の蓄積・売電,EV充電の最適タイミング指示,遠隔操作などを制御します。

 BEMSでは,きめ細かな空調コントロール,設備のメンテナンスタイミングを提案するなど,賢いビルができます。

 「スマートグリッド」は世界に通用する言葉ですが,それぞれの国によって,ニュアンスが少しずつ異なります。

 例えばアメリカは,老朽化した電力網を更新しつつ基本的な電力網を整備し,停電監視,障害解析,系統安定化技術向上志向の,供給信頼度強化型モデルです。

 インドやブラジルは,新興国のエネルギー需要を充足する急成長需要充足型です。

 オランダやベルギーは,低炭素型の街づくりを視野に,風力や太陽光の再生可能エネルギー大量導入型です。日本に似ています。

 ポルトガルやシンガポール,中国は,エネルギーインフラだけではなく,生活,ビジネス,交通を含む社会システムそのものを構築しようとしています。中国には,スマートグリッドらしきプロジェクトは沿岸部に20〜30箇所と見られています。

 別な角度からの話題ですが,世界の都市化は今後も継続的に続きます。2010年時点で,新興国での都市化の割合は約30%です。しかし,2050年には全人口の70%は都市に居住するようになります。その間,産業・投資・人の誘致をめぐる都市間の競争が激しくなります。スマートグリッドを全国に均等に張り巡らすことも大事ですが,都市自体を賢くしないとCO2排出を防ぐことはできません。

 先行する事例では「都市」が社会実験の主役になっています。スマートシティ化に伴う市場も,2030年には3,000兆円になるだろうといわれています。都市をもっと再生化するとか,ポルトガルのように新しい都市を造る,中国のように古い都市は棄てて最先端な社会を造るといった形もあります。それらがスマートシティ化の大きな市場になっています。

 1990年から2006年にかけての,日本での部門別エネルギー起源CO2の推移を見ると,工場等だけが5%ダウンですが,オフィス等40%アップ,家庭31%アップ,運輸は17%アップ,発電所等は13%アップです。各部門の増加傾向を止めるには技術革新だけではなくライフスタイルの革新が期待されます。

 日本は,エネルギー効率の高い国です。技術的な裏付けもあります。その技術を世界に輸出しようという考えがあります。

 2010年,経済産業省が,具体的にスマートグリッドを基礎にしたシティ化の取り組みを4事業選んで,今後5年間での実証事業を開始しました。

 まず,横浜市です。大都市・大規模型モデルです。次に愛知県豊田市は,地方都市・暮らし密着型モデルです。三つ目は,福岡県北九州市です。産業都市・特区的取組型モデルです。四つ目は,京都府けいはんなエコシティです。学研都市・新技術型モデルとして選ばれました。

 エネルギーのマネジメントは,スマートグリッド関連技術を中核に置いて,エネルギー・建物・運輸交通の3分野の他に,廃棄物・水と緑の2分野を含めトータルなソリューションを構築する必要があります。横浜市が以上5つの領域での取り組みを基本的に進めていたことが,選定された理由だと思います。

 YSCP(横浜市スマートシティプロジェクト)では,水と緑,廃棄物の2分野については既存計画を継続推進し、新たにエネルギー・建物・運輸交通の3領域での社会実験を実施します。中核地区は,みなとみらい21エリアです。ここは大きなビルや集合住宅で,スマート化の実験を行います。横浜グリーンバレーエリア(金沢区)は工場地域です。港北ニュータウンエリアは集合住宅または一戸建の住宅地域に太陽光の技術を投入して,HEMSやBEMSの実験を行っていきます。

 YSCPのマスタープランは次の8つです。
1.大規模な再生可能エネルギーの導入
2.一般世帯向けHEMSのマネジメント
3.一般世帯向けBEMSのマネジメント
4.地域での熱エネルギーマネジメント
5.地域エネルギーマネジメントシステムと
  大規模ネットワークとの相互補完
6.次世代交通システム(電気自動車)
7.ライフスタイル革新(各家の情報交換)
8.推進体制の継続と改善

 地域エネルギーマネジメントシステムの導入では,3地区のスマート化に加えて,各地区と大規模エネルギーネットワークの相互提携・制御の実際も研究します。

 充放電EVを用いたエネルギーマネジメントでは,EVユーザーの満足度の維持と社会コスト最小化が両立するインフラの整備を研究します。

 スマートグリッド・スマートシティは,まだスタートラインに立ったばかりです。多くの課題や,解決すべき矛盾もありますが,日本の技術は優秀ですし,エネルギー政策も効率的です。いろいろな場面でその長所を生かして,日本の新たな成長に結び付けたいと思っています。