卓話


Climate Change

2017年1月25日(水)

Office 天羽
代表 天羽 稔君


 昨年の3月に36年間務めたデュポン日本法人の会長職を退任しました。
 デュポンは1802年米国デラウエア州で創業し、現在90カ国で事業を展開し今年で215年を迎えました。その間、社会の変化に応じテクノロジーを基軸にした新製品を世に送り出し、またM&Aを繰り返して発展してきました。過去30年間でデュポンは石油部門、医薬部門、繊維部門、塗料部門等を売却し、また医療部門、種子・農業関連分野および新しいビジネスとして食品・酵素関連事業およびエレクトロニクス等を買収してきました。人口増加に伴う外的環境の変化とサステナブルグロースでのビジネス戦略でした。

 ただ、私が退任の決意をした時には全く予期しなかった事が2015年第4四半期に発表になりました。ダウ・ケミカルとデュポンの合併です。1300億ドル(13〜14兆円)規模の化学会社が誕生する事です。両社の合併にはイノベーション力、特化されたグローバルなスケールメリット、製品のポートフォリオの拡大といった、高いシナジーを生みだすことが期待できるという理由がありました。

 この合併は、私が長年つとめた会社の歴史が始まって以来の変化です。
 私自身もまた、人生で変化をむかえました。昨年の5月から農業に関連したベンチャー企業(十和田グリーンタフ・アグロサイエンス株式会社)のサポートを始めました。この企業では天然石を農業資材として展開しています。秋田県大館市に「十和田石」という正式名を緑石凝灰石、英語ではGreen-tuffと言われる石の鉱脈があり、40年ぐらい前から建材の一部としてゴルフ場や、温泉のお風呂場の床、東京芸術大学の奏楽堂の吸音材等に使用されています。

 最近の研究で、この十和田石は“Bio-Stimulant”として農作物の生育促進、収量の増加・品質向上、有機堆肥の効率を高めるということが現場での実証結果を踏まえ証明されつつあります。Bio-Stimulantは日本語では様々な呼び方がありますが、強いて言うなら「植物活力資材」、例えるなら、人間にとってのサプリメントのようなもので、植物の免疫力を高める効果があります。ヨーロッパではすでに業界団体(EBIC…European Bio-stimulants Industry Council)があり市場もひろがっています。天然物及び微生物を原料としたこのようなBio-Stimulant資材は年率12%の成長を見せており、近年、研究開発もヨーロッパのみならず米国でもますます盛んになってきました。

 しかしながら日本ではまだまだ開発が進んでおりません。日本の場合は古来よりボカシとよばれる発酵肥料作りが盛んに行われており、「根が多くなる」「生育が良くなる」「収穫物の品質が向上する」「病気にかかりにくくなる」などの効果があると言われてきました。しかしながら、こういった効果がなぜ起こるのかについては解明されていない部分も多いようです。

 Bio-Stimulantとしての十和田石は、天然のもので、土壌を含めた植物に必要な最適環境を作り上げることが可能です。また、確実に効果を出すための実証試験も進めております。

 全国各地でレタス(長野県・軽井沢)、細ネギ(福岡・八女市)、トマト(宮崎市、仙台市)、イチゴ(栃木県・芳賀町)、カーネーション(島根県・出雲)のカブ等で実績が少しずつ出始めています。現在はトウモロコシについても全国の圃場で試験中です。

 またこの天然石はアンモニア分解の促進を図ることがわかっており、その特性を生かし養鶏場(秋田県・大館市)では既に敷材として使用されており、養豚場では悪臭を減らす用途の実験を始めました。

 グローバル企業でのテクノロジードリブン、そして製品の多様なポートフォリオで育った36年間と、日本ではここにしかないという「十和田石」一品種で天然のBio-Stimulantというビジネスポジションを、日本発信で国内だけでなく海外にもつくりあげるチャレンジを開始しました。デュポンというケミカルカンパニーから天然資材を扱う全く違う業種に参加したことで、戸惑っていることも多々ありますが、私の第2の人生として食の安全・安心という観点からも、将来の農業への貢献が少しでもできればと思ってがんばっております。


お店からレジが消える?

2017年1月25日(水)

(株)寺岡精工
代表取締役会長 寺岡和治君


 昨年の12月にシアトルに小さなお店がオープンしたのですが、このお店にはレジがありません。
 人工知能を使ってレジを無くしてしまったとのこと。そして、このお店を作ったのがオンライン小売業の巨人、アマゾンだったのです。そこで、今日は急遽テーマを、「お店からレジが消える?」に変えて、私が直面している現実を皆さんとシェアーさせて頂ければと思います。

 アマゾンがオープンした店はコンビニに似た食料品店で、名前はAmazon go。YouTubeに公開されているのでご覧になった方も大勢おられると思いますが、このお店での買物手順は以下のようになっています。
1. お店の入り口に設置されたゲートにスマホをかざして入店。
2. 普通の買物と同様に商品を棚から取る。この動作で商品は仮想カートに追加される。
購入を取消したい場合は、商品を棚に戻す。この動作で商品はカートから削除される。
3. 買物が終わったら、そのままゲートを通って店外にでる。スマホに買上げ明細が表示され、アマゾンアカウントでクレジット決済される。

 これをアマゾンでは"Just walk out technology"と呼んでいます。YouTubeの動画をみると、買物客は棚から商品をつかんで直接自分のバックに入れてそのままお店を出ます。傍目には万引きをしているように見えます。しかし、レジに並ぶ必要もないし、支払の手間もない。買物のストレスが全くありません。技術の詳細は公表されていませんが、店内に設置された多数のカメラとセンサーで取得した情報を人工知能で処理をして顧客毎の買上げ品目を判別しているようです。車の自動運転と同じテクノロジーを使っているとのことです。

 今はテスト稼動の段階で、ここで買物が出来るのはアマゾンの社員などに限定されていますが、今年の早い時期には誰でも買物が出来るようにすると発表しています。アマゾンは否定していますが、Wall Street Journalはアマゾンが近い将来にこのようなリアル店舗を全米で2,000店オープンするとの情報を伝えています。

 現時点ではたった一店舗の小さなお店ですが、これは3つの業界に破壊的な変化もたらす可能性を秘めていると思います。

 ひとつはレジのマーケットが消滅する脅威です。私共も買物におけるレジのストレスは認識しており、これをいかに軽減するかに知恵を絞っていました。それなりに成果を修めて来たとも自負していました。 しかし、レジメーカーであるが故にレジを不要にする事には考えが及びませんでした。不覚にも先手を打たれてしまったというのが正直な感想です。もし、アマゾンがこのテクノロジーをAWSのようにサービスで提供することになれば、小売業はレジを買う必要が無くなってしまうかもしれません。

 二つ目の変化は、レジがなくなるのでレジ係という職業が消えてしまうことです。アメリカでは350万人がレジ係として働いていると言われているので、もし、トランプ大統領がアマゾンのプランを知ったら、ツイッターでアマゾンを攻撃するかもしれません。

 三つ目は、既存の小売業への破壊的な影響です。既に既存の小売業はネット小売業の脅威にさらされていますが、アマゾンが本格的にリアル店舗の展開を始めると、その影響はそれどころではないと思います。アマゾンは既に消費者のお財布(Amazon account)と物流を握っており、商品調達力も絶大です。伝統的な小売業がネット販売に進出するよりも遥かにたやすくアマゾンはリアルの小売業に転身することが可能と思います。

 100年以上前にシューペンターがイノベーションの事を「創造的破壊」と言っていますが、12月の小さ なお店のオープンも新たな革命の始まりの予感がします。かつて、デジカメの出現で世界最大のフィルムメーカーのコダックが消えてしまったのと同じような変化が身近で始まっていると感じます。このような変化に直面して、我々はコダックになるのか、それとも富士フイルムの様な変身ができるか、が問われていると思います。市場が消失する脅威ではありますが、自社の存在意義を問い直すいい機会を与えてくれたと捉えたいと思っています。