卓話


教育識字月間例会
ゴルフ界の選手強化及び発掘育成

2020年9月2日(水)

(公財)日本ゴルフ協会
専務理事 山中博史氏


 日本ゴルフ協会(JGA)は日本のゴルフの統括団体で公益財団法人です。ゴルフのルール、ハンディキャップ、競技(アマチュアの試合と一部のプロの試合)、外交、オリンピック関係、今日お話する選手の強化が主な事業です。

 JGAは、基本的にはアマチュアの競技団体で、プロゴルファーは抱えていませんので、ナショナルチームと呼んでいる日本代表、男女それぞれ6〜8名の日本を代表するアマチュア選手を中心に選手強化を行っています。

 今から6年前の2014年、世界アマチュアチーム選手権という大きな大会が軽井沢で行われました。日本はホスト国のため合宿を重ね気合いを入れて臨んだのですが、大惨敗しました。男子は団体で29位、女子は8位と、世界のトップと差がついている現状を見せつけられました。

 世界の強豪国を見ると、圧倒的に違うのは指導者の在り方でした。日本ではトップアマチュアゴルファーだった人達に監督やキャプテンをお願いし、「頑張れ、根性だ、気合いだ、しっかりやれ」とお尻を叩きながらやってきました。ただ今のナショナルチームの選手は、ほとんどが高校生、大学生ですから、そういう接し方にはなかなかついていけず、力も発揮できないことが多々あったのです。

 ところが指導者としての教育を受けている人が日本にはなかなかいない、そこで友好国の一つである、オーストラリアゴルフ協会に「なんとかいい指導者を貸してくれないか?」と相談すると、気前よく、当時のオーストラリアチームのヘッドコーチだったガレス・ジョーンズ氏を貸してくれたのです。

 そして2015年からジョーンズ氏が日本チームのヘッドコーチとして我々の中に入ってきてくれました。彼はプロゴルファーなのですが、トーナメントプレーヤーとしては成功せず指導者として教育を受け、この道に進んだ人。さらに彼は自分のアシスタントも一緒に連れてきたいと、身体を鍛えるフィジカルコーチ、選手の身体の特徴や強弱ポイントをデータで科学的に検証して教える動作解析のコーチ、そして、アプローチやパッティングなどのショートゲームの専門のコーチを呼んで、“チーム・ジョーンズ”を作りました。

 1年目から結果が出始め、その年の秋のアジアアマチュア選手権で日本チームはなんと26年ぶりに優勝。2018年の世界アマチュア選手権では現在プロとして活躍する安田祐香さんが個人で2位、団体でも2位となるなどめざましい活躍を遂げました。指導者が非常に大切だと結果をもって示せた訳です。

 では、そのジョーンズコーチが我々のナショナルチームにもたらしてきたことを紹介します。初めに、チームの哲学を作りました。

 アスリートがゴルファーとして、また人間として、学び・成長し・発展する環境を作ること。そして、周囲に良い影響を与えるロールモデルになれるような選手を輩出し、日本のゴルフの発展に貢献すること。これが日本のナショナルチームの哲学だと、選手達、我々スタッフに求めました。

 次にミッションです。
 ナショナルチームのプログラムは、“データに基づく、成長志向”のプログラムである。指導者たちの役割は、アスリートが、ワールドクラス・スタンダードを目指す活動の中で、自ら考え・問題解決し・問い・継続的に自分自身と指導者たちの成長のために挑戦する、安全な学習環境を提供すること。

 アスリートと指導者たちは、より良いものを目指すために、準備と実際の活動を、試し・測定し・評価することを継続する。アスリートは、自己実現の旅 (journey of Self Discovery)において、勇気づけられ・促進され・サポートされる。

 次に選手達の約束、「プレイヤーズ・ミッションステートメント」。選手達は何を考え、何をしなくてはいけないのか。

 チームジャパンとしての誇りを胸に、チームのテーマであるネバーギブアップの精神を持って、試合前の準備を万全に行い、質の高い練習をみんなで切磋琢磨しながら取り組みます。

 私たちを支援してくれる多くの人たちへの感謝の気持ちを失うことなく、世界基準を目指して挑戦を続け、日本のゴルフ界に良い影響を与えるロールモデルとなることを目指します。

 自分達が誰のお陰でプレーする場所を提供されているのか、誰に感謝しなければいけないのか、何を自分達はしなきゃいけないのか、義務と権利をどう考えるべきかをアマチュア時代、若い世代から植え付けようという我々の目的であり、選手達の約束になっています。

 そして、成功のための「4つの柱」があります。
 1つが「健康」。もちろん自分自身が健康であること、自分の身体を知ること、けがをしないこと。

 2つ目が「教育」。デュアルキャリア。ゴルフをやってプロになって成功する人は1〜2%です。その他の人はトーナメントプレーヤー、プロゴルファーとしての生活をあきらめなくてはいけないので、第二、第三の人生を若いうちから準備する。ゴルフだけにのめりこむのではなくて、デュアルキャリアを念頭に置いて、そのためにどのような能力、勉強が必要かを考えることを要求しています。

 3つ目が「レジリエンス」。苦難、あるいは屈強に立った時、自分自身でそれを乗り越える力、自律性も選手達に課している大切な柱です。

 そして4つ目が「ソサエティ」。周りの人達とのコミュニケーション、あるいは人前で話す、プレス、メディア、記者会見への接し方といったことも含まれます。

 では、継続的な人間の成長とはどういったものか。
 コミュニケーション:発言、英語、チームや社会へ貢献する気持ちです。外国人のコーチを呼ぶことによって劇的に変わった選手達の変化があります。それは英語です。極力私達は通訳をつけずにオーストラリア人のコーチングスタッフと選手達とを直接話をさせます。時には、LINEやメール、あるいはパソコンを使ってオンラインで結びます。選手達は悩みや練習の成果を、特に最近はコロナ禍で集まって練習できないので、自分達の言葉で伝える、コーチが何を言ったかを理解する。どうしても困った時だけ私達に言う。それによって海外に行った時の英語に対するストレスやプレッシャーを克服できています。

 成長志向:頑固であることは必要だと思いますが、いろんな人の話を聞く、アイデアを受入れる、それによって質の高い訓練ができるということです。

 それから、先ほど説明したデュアルキャリア。そして、自律性:責任をとること、自分で自身のデータを管理すること、です。

 ゴルフのゲームをする上では、5つからなる多面的アプローチを用います。
 戦略:コースをどう攻めたらいいか。気候、芝の状況に合わせた対応をする。
 身体:自分の身体をよく知る。
 技術とメンタル:特に自分がうまくいかなかった時、調子が悪い時、どう克服していくのか。
 人間性:社会で受入れられる人間性、プロになった時に応援してくれるような魅力ある人間性です。

 こうしたものがナショナルチームの大きな柱になっています。

 ジョーンズコーチは直接あまり細かい技術的なことは言いません。選手達には一番大切なのは「準備」だと日頃から言っています。またスコアメークにおいて、スコアを左右する65%はショートゲームだと。皆さんが街中の練習場に行って一番多く使うクラブはおそらくドライバーやアイアンだと思います。ジョーンズコーチはロングショットの練習はあまりさせようとせず、練習グリーンや、アプローチグリーン、バンカー練習に多くの時間を費やします。ショートゲームがスコアを大きく左右するからです。今アメリカで活躍する畑岡奈紗さんの実際のスコアの割合を見ると、ショートゲームが70%位とその重要性が高いことがわかります。皆さんのスコアアップのための練習も見直してみる必要があるかもしれませんね(笑)。

 ジョーンズコーチは、競技に向けたトレーニングを組む、そして、スコアを伸ばすのに貢献するようにトレーニングをすることを大切にします。

 チーム練習では、1日目はクラブを持たずにコースに行き、ヤーデージブックを持って皆で18ホールを歩きます。バンカーまでの距離、グリーンまでの距離、池までの距離、グリーンの傾斜はもちろんのこと、どこにピンが切られるかを想定し、それに対して上りのストレートラインはどこかを探させ、そして、ピンの位置によって上りのストレートラインを突くために一番チャンスがあるのはどこかを本に書き込ませます。そして、次の日からクラブを持った練習をします。準備(Preparations)がいかに大切に考えているかが分かります。

 WORK(努力する、練習する)×TALENT(才能)=SKILL(技術)
 SKILL(技術)+TIME(時間)+CLOVER(運)=SUCCESS(成功)

 こうしたことを指導者と選手達が共有しています。この考え方をナショナルチームの選手だけではなく、良い指導者を全国で育てることにより代表を目指す各地区にいる候補選手にも浸透させ、ゴルファー全員の見本となるようなグッドゴルファーをプロあるいはアマの世界に送り出す土台作りを我々日本ゴルフ協会がしようと取り組んでいます。

 最後に、我々は公益財団法人なので原則寄付や会費で成り立っており、スポンサーの方達に応援していただきながら、非常に沢山のお金と時間をかけてこうした事業をやっております。こうしたことを知っていただき、何かの折には皆様にもゴルフ界にご支援、応援をいただければ、日本ゴルフ協会としては非常にありがたく思います。今後ともよろしく願いします。


      ※2020年9月2日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。