卓話


スポーツの価値を高めるために

2017年6月7日(水)

スポーツ庁
長官 鈴木大地氏


 スポーツ庁は、2015年10月に文部科学省の外局として新設されました。ロゴマークはカタカナの「ス」で、右上に伸びる2本の線は未来永劫発展していけるようなデザインです。現在、政策課、健康スポーツ課、競技スポーツ課、国際課、オリンピック・パラリンピック課、そして地域振興担当と民間スポーツ担当の7課、約130名体制です。経産省、農水省、厚労省、外務省、国土交通省などからの出向の他、民間企業からも10名以上がいます。

 2017年4月から第2期スポーツ基本計画として、2020年東京大会の先を含む今後5年間の日本のスポーツの方向性を示しました。国民、スポーツ団体、民間事業者、地方公共団体、国、関係者が一体となって「スポーツ立国」実現を目指すものです。

 まずは、スポーツの参画人口を増やす。「する」「みる」「ささえる」という観点でスポーツに参画してもらおうというものです。スポーツの語源にはラテン語で「楽しむ」「気晴らし」という意味もあり、体を動かすことを楽しむというコンセプトをもっと打ち出したい。散歩、ダンスなどもスポーツであると定義して幅を広げていきたいと思っています。

 基本計画には4つの指針があります。国民がスポーツで「人生」が変わる!、スポーツで「社会」を変える!、スポーツで「世界」とつながる!、最後に、スポーツで「未来」を創る!です。

 まず、国民がスポーツで「人生」が変わる!について。現在、成人の週1回スポーツ実施率は42.5%に留まっており、目標値として65%、つまり3人に2人位が週に1回スポーツをやっているという社会にしていきたい。これにより心身ともに健康な生活を営む基礎作りができると思います。

 年代別のスポーツ実施率では、20代から40代が30%台で、仕事、育児、家事等に追われてなかなかスポーツをしない傾向があります。この世代のスポーツ実施率を上げ、健康寿命の延伸により、最終的に国民医療費を抑えていきたい。

 忙しいビジネスパーソンに対してスポーツをアプローチしていくには、異分野との連携が重要だと思っています。産業界、国はもちろん、地方自治体や保険分野まで、スポーツが健康に寄与するため健康保険料を安くするといった商品もでてきているように、何らかのインセンティブを出していきながら、スポーツ人口を増やしたい。ファッション、エンターテイメント、IT、観光、文化芸術など他分野とも融合していきます。

 「健康経営」が最近言われるようになりました。長時間労働で休みなしで働くよりも、時間を有効に使って働いたほうが生産性も上がるというものです。例えばJALグループでは、中期経営計画と連動させ、社員・会社・健康保険組合が一体となって「健康づくり」に取り組んでいます。こうした取り組みを支援していきたいと思っています。

 実際にスポーツ庁職員のスポーツ実施率を図ったところ、48%程度でした。そのため、朝、仕事をする前にスポーツをしようと、代々木競技場のプールの営業開始時間を朝7時にしてもらっており、早朝の利用者も多いと聞いています。また、ゆう活ということで、スポーツ庁の職員と一緒に皇居を走りました。みんなでスポーツするととても楽しく、職場でこうした取り組みをすると良い効果があると思います。

 子供のスポーツ機会の充実については、学校の体育の授業が嫌いでその結果スポーツ嫌いになったという方もいますので、体育の指導法研究なども行い、スポーツが嫌いな人を半減させる、あるいはスポーツしたいという中学生を現在の6割から8割にしようと考えています。

 今、女性の社会進出促進が考えられています。その中で、子供の幼児期の運動の推進をしようとしています。医科学的に見て運動神経が伸びるのは幼児・児童期で、この時期に運動をさせてスポーツできるという若い人達を作っていきたい。幼稚園の終業後にスポーツ業界が引き取り、スポーツを指導すれば、お父さん、お母さんも夕方ぐらいまで自由時間ができ、女性が働ける時間ができるのではないか。関係省庁と連携を図りながら進めたいと考えています。

 それから、今、オリンピック・パラリンピックの選手団の男女比率は半分ずつ位でメダル獲得率も同様です。ところが、スポーツの女性指導者は3割に満たない。そしてまたスポーツ実施率も女性の20代、30代が低く、中学生女子も運動する人としない人がはっきりと別れていて、体育の授業以外にほとんど運動をしないという人が多い。そのため、女性がもっとスポーツで輝けるように環境を整備していきます。スポーツ団体でも女性の役員比率が1割にも満たないため、これを3割位にする目標を各競技団体に伝えたところです。 それから、スポーツで「社会」を変える!について。障害者のスポーツ実施率は、健常者よりもさらに低くなります。週に1回スポーツをしている障害者は2割に満たないため、これを倍増させる。障害者がスポーツに親しめる環境が整っていないため、全国にある特別支援学級を地域の障害者スポーツの拠点にしていく。児童・生徒だけではなく、近隣に住む障害者の皆さんもスポーツにアクセスしやすい態勢にしたいと思っています。

 それから障害者スポーツの観戦者の増加です。パラリンピックの認知度は上がってきましたが、実際に障害者スポーツを見たことがある人は1割もいません。見ると、感動したり刺激になったりし、応援してみようという気持ちになります。まず、20%位の人が障害者スポーツを直接見たという社会にし、こうしたことによって共生社会の実現を進めていきたいと思っています。

 スポーツの成長産業化もスポーツ庁の所掌となりました。現在、スポーツ産業の市場規模は5.5兆円と言われています。これを2020年までに10兆円、2025年までに15兆円に増やしていきたい。野球やサッカー用のスタジアム、バスケットボールなど幅広く使用できるアリーナを改革し、全国でスポーツ文化を推進していきたい。

 そのためには、スポーツ経営ができる人材を育成、活用し、新たなスポーツビジネスの創出を考えています。スポーツの規模を拡大し、環境を整備し、そしてまたスポーツ人口が増えるような好循環をつくりたい。国の成長戦略の実現に向けた施策「日本再興戦略2016」でもスポーツの成長産業化が初めて掲げられており、我々にとって追い風になっています。

 事例の一つに、広島市民球場があります。カープ女子に代表されるように今非常に活気づいています。スタジアム周辺がボールパークとして整備され、人の流れが変わりました。きれいなトイレをはじめ、BBQやさまざまなニーズに合せた席も用意され、目的に応じて観戦できます。

 こうしたスポーツを通じた地域の活性化では、現在、2000万人と言われているインバウンドのうち、スポーツ目的の外国人の数を倍増させて250万人にし、スポーツツーリズムを3800億円にする目標です。地域の企業や自治体、スポーツ関係者、観光業などによるスポーツコミッション(共同体)を作ってもらい、それを支援する取り組みもしています。 それから、大学のスポーツを地域活性化の起爆剤にしていこうと、大学スポーツの先進国であるアメリカの全米大学体育協会(NCAA)のいいところを日本に取り入れて日本版NCAAの設立を検討しているところです。大学のスポーツ施設を活用し地域に開放していくなど、スポーツを専門的に扱う部局であるスポーツアドミニストレーターを配置する大学を100大学に増やします。地域全体のスポーツ参画に貢献してくれると期待しています。

 そして、スポーツで「世界」とつながる!について。現在、国際競技団体の日本人役員を増やそうとしています。昨年には国際体操連盟会長に日本人が就任しましたし、これまで日本人理事がいなかった団体にも理事を送っています。国際団体の役員は、ロイヤルファミリー、著名な実業家、政治家など要人が多い。そうした方々と人脈をつくることで、情報を早く獲り、競技に生かし、また大会や会議の誘致をいい形で進められるなど、広く日本に資するところがあります。

 昨年の10月に国際競技力の向上を図る「鈴木プラン」を発表しました。これは2020年のオリンピック・パラリンピックが終わってからも持続可能な強化プランとなっております。

 その柱の一つは、アスリート発掘です。高校球児は約17万人いますが、実際に試合に出ているのは年間約5万人、試合に出ないのは10万人程度いるのではないかと考えられ、こうした中から宝を発掘し、他の競技に転向し活躍してくれないかと期待しています。

 次にスポーツ・インテグリティ(誠実性・健全性・高潔性)の向上で、とても大事な話です。ドーピング、八百長、賭博、これらはスポーツマンはやってはいけないことです。ドーピング違反者は日本にはほとんどなく、そうしたところも評価されて2020年大会の招致が成功したとも言われています。私達はメダルを沢山獲ることも重要ですが、スポーツ・インテグリティでも常に世界のチャンピオンを目指したい。

 次にスポーツ交流です。2013年のIOC総会で安倍総理が世界と約束したのが「スポーツ・フォー・トゥモロー」というプログラムです。スポーツを通じて100ヶ国以上、1000万人以上の人と交流するということで、日本の体育の授業、ラジオ体操、運動会などを海外に輸出し、日本の整ったシステムを伝えていきたいと思います。

 そして、2020年大会はスポーツに関心が高まる絶好の機会です。スポーツで未来を創る!、一億総スポーツ社会ということで、スポーツを通じて活力ある社会、絆の強い世界を創っていきたいと思っています。2019年のラグビーワールドカップ、2020年大会、そして2021年は関西でワールドマスターズゲームズが開かれます。2019年、2020年はどちらかといえばスポーツを「みる」、「ささえる」ですが、2021年は原則30歳以上であればだれでも参加できます。この5年間でスポーツの存在感をもっと出し、そしてレガシーを残していきたいと思っています。