卓話


新世代のための月間例会
「夢と仕事と自分と社会〜キャリア教育の実践から」
 

2007年9月5日の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

『株』音別 代表取締役 本城 真之輔氏

 以前は職業教育とか進路指導などと言われていましたが、最近ではキャリア教育と呼ばれるようになりました。このキャリア教育についてお話ししたいと思います。 

まずは,私は楽天株式会社というショッピングモールの立ち上げに参画して,その経営にもかかわりながら,いろいろな経験をさせていただきました。その私が,なぜ,教育に軸足を移したかということからお話しします。

最近,青少年にかかわるショッキングな報道が頻発しています。子どもが被害者になったり加害者になったりする痛ましい事件が起こっています。

 「子どもが変わった」と言われることもありますが、実際は,百年前も今も,生まれた子どもの姿はほとんど変わりはありません。それが成長するにつれて,元気がなくなったり,以前には考えられなかった行動を起こしたりする現象が出てきます。

 教育の問題は,子ども自身の問題ではなく大人の問題です。私たち大人が,もっと一生懸命に取り組み,自分自身の行動を見直すという点が大切です。

 かつて,楽天でインターネットショッピングモールの仕事をしている時のことですが,同じ商品でも売れる店と売れない店があります。売るためのシステム,仕組みは同じなのですが,売上に差異がでます。

 社員の仕事に目を向けると,例えば同じコピー機を使って同じ物のコピーをとるという仕事でも,ある人はきれいでしっかりとコピーをとりますが,ある人は端が折れ曲がっていたりコピーがずれていたりします。

 同じ仕組み、同じ機械で同じ仕事をしていながら,どうして結果に違いが出るのでしょうか。売上についても,同じシステムなのに,同じ商品なのに何故これほど結果に差が出るのでしょうか。

 結局は,最終的には,そこに携わる人,どのような人がどんな仕事をするか,どのような人がどんなふうに商品を売るのかによってかなりの差が出てきます。つまり結局のところ、「人こそすべて」なのです。

 私たちの周りは,たくさんの仕事に満ち溢れています。コップ一杯の水を飲むにも,それにかかわる人が一つ一つ丁寧にやれば,冷たい,おいしい水を飲むことができますが,気配りに欠けた仕事で提供された水は,必ずしも満足のいく水であるとはかぎりません。

 経営においても社会においても,人こそがすべてという思いを胸にして,ITではなく教育,人の成長に関する仕事に取り組もう。特に学校の教育にかかわろうと思い,2002年にITから離れ,教育の仕事にかかわることになりました。

 次に、たくさんある教育の課題の中から,広がるキャリア教育についての話に入ります。文部科学省は平成18年度から,11月を「キャリア・スタート・ウィーク推進月間」に指定しました。神戸市では,「トライやる・ウィーク」という中学校2年生の生徒が5日間の職場体験をする活動をしています。

 全国の中学・高校でも,様々なキャリア教育が行われていますが、その中心は,社会人による講話と職業体験・職業見学の二本立てです。数日間の体験ですが,中学・高校生にとっては非常に刺激的な体験になります。しかし,これが終わった後の感想は,残念ながら「仕事は楽しかった」と「仕事は大変だった」の二つだけです。

 楽しかったと,大変だっただけが残り,仕事について深く考えるというところまでは,思いが及ばなくなっています。

 普通,キャリア教育は,おおむね「あなたの夢は何ですか」という質問からスタートします。生徒たちは,お医者さんとか学校の先生,野球選手など,職業名で答えます。

 それに対して,「ではどうしたらいい?」ということで,その職業に必要な知識と技術を得るための進路指導を行います。

 しかし,私が中・高生に伝えているのは,「夢=職業」への疑問です。夢と職業は違うのではないかということです。また,偉くなりたい,お金持ちになりたい,優しい人になりたい,という「自己実現」だけでも「夢」ではないと伝えています。

 自分が,単に何々になりたいというだけではなく,もっと夢を発展させ社会と結びつけようと,私は語りかけています。

 例えば,中高生には,こう聞きます。「2050年ごろ(自分が50歳〜60歳になったころ)に,どんな自分になっていたいですか。その時,社会はどんなふうになっていてほしいですか。」
言い換えれば,自己実現と社会実現の二つを同時に考えてイメージしていく。そのことが夢であると思うのです。
このような思いを背景に,この8月に実施した「5泊6日の仕事の学校」について,次にお話しします。
 「5泊6日の仕事の学校」には,北海道から鹿児島までの高校生が参加してくれました。「仕事とは何か?何のために仕事をするのか?」を,経験や学習を通じて,参加者それぞれの回答を出すセミナー学習です。

「仕事」について学習する場合,職業を選択する視点での学習だけではなく,もっと「仕事観」について深く掘り下げていくようなプログラムが必要です。

学校を卒業すると,それ以降,ほとんどの時間を仕事に費やします。 ただ単に,好きだからという理由だけで職業を選ぶのではなく,どんな職業に就いたとしても、自分にとって仕事とは何か,何のために仕事をするのかということをしっかりと自覚するということは,どんな人生を歩むのか,どんな生き方をするのかという哲学を持つことにもつながります。
 
「5泊6日の仕事の学校」のポイントは三つです。

1.「仕事とは何か,何のために仕事をするのか」という正解のない問いに自分なりの回答を出す。
2.教えない,自分で考える。その人がもっている考えを、しっかりと説明できるように繰り返し紙に書いたり、口頭で発表させる。
3.回答を出す場と時間をたっぷり提供する。回答を出すきっかけを提供する。
  生徒たちは,例えば,次のような内容についてワークショップを行い、自分自身の回答をつくりだしていきます。
1. ミネラルウォーターにつながる仕事
2. (両親は)何のために仕事をしている?
3. 1950年の仕事、2050年の仕事
4. 2日間の仕事観察と仕事体験
5. 2050年のわたしと社会
6. あなたにとって仕事とは?
7. 夢と仕事と自分と社会

いまは,ネイル・アーティストやペットの美容院などがありますが,50年前にはなかった職業です。インターネットの仕事も50年前にはありませんでした。だから50年後には,新しい仕事が生まれているかもしれません。

どんな仕事が生まれているだろう。その答えには,自分たちが期待する理想の姿,理想の社会の姿が現れてきます。

 高校生に「お父さんは何のために仕事をしているか」と問うと,ほとんどの場合は、最初は「お金を稼ぐため,家族の生活のため」といった答えがほとんどです。ところが,いろいろなプログラムを体験していくにつれて答えが変わってきます。

 最終日での,「あなたにとって仕事とは何ですか、あなたは何のために仕事をしますか」という問いには,「仕事とは,自分を向上させるためのものである。人と人,社会をつなぐものである。仕事をすることで人は喜びを感じたり,夢をもったり,仕事に対する価値観を見いだせる。私は,ホテルマンを志していて,事務のような仕事のことをあまり考えていなかったが,実際の仕事体験をして考えが変わった。いろんな所で働いている人は,あらゆることで社会をつなぐ,それらの人と出会うことで自分の向上につながる。どんな仕事でも,人に接し,人に喜びを与えることができる。」と書いています。

 大人が与えた答えではなく,参加者自身が獲得した答えであるところに意味があります。

 「仕事の学校」の参加申し込みの際に,「夢・仕事・自分・社会」の言葉の関係を図解してくださいという課題を出しました。5泊6日の最終日にも同じ課題に答えてもらいました。どの生徒も,よく見えていなかった四つの言葉の関係が,6日後には,もう少しイメージをもって,自分の言葉で,それぞれを関係づけられるようになっていました。

 どんな職業があるかという職業選択の方法と知識と技術を身につけるキャリア教育からそろそろ脱皮して,「仕事とは何か,自分はどのように生きるのか」という「仕事観」を育むプログラムを広めていくことが大切ではないだろうかと思っているところです。