卓話


震災復興財源について

2011年9月14日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

中央大学法科大学院
教授 森信茂樹氏 

 震災復興の財源について,毎日のように新しい情報が出てきますが,結局,何も決まらないまま今日まで来ております。そこでまず「決まらない財源」ということからお話しします。

 6月24日に東日本大震災復興基本法ができました。この法律は,まず歳出削減と政府保有資産の売却を行う,足らないところは復興債で調達する,復興債の償還は通常の60年償還の国債とは区別して短期で行う,という内容です。つまり財源は臨時増税で、ということです。

 つい1カ月程前の議論では,5年間での復興には19兆円かかり,6兆円は既に1次補正,2次補正で手当したので残りは13兆円,3兆円は税外収入や歳出削減で賄い,残りは10兆円程度,という話でした。

 ところが,歳出面では,年金の基礎年金の国庫負担率を3分の1から2分の1に引き上げるための財源である2.5兆円や、B型肝炎対策の財源としての6千億円などの財源財源もこの際復興税で、となりました。最近では円高対策のための財源も復興債で、という議論さえ出てきています。

 当初,震災対策で始まった話が,決断されないうちにどんどん歳出が膨らんでいる、これが今の状況です。
 
 歳入に関しても,百家争鳴で,政府の保有株は,郵政を含めて売ればいいとか、埋蔵金で,という話まで出ています。
 
 何も決まっていないのに,いろいろ新しいニーズが加わってきて,そもそも東日本大震災の復興である筈の話からずれてきています。震災直後はこれだけの災害を目の当たりにして現役世代でこの災害の復旧のコストを負担しようという気持ちの高まりがありました。新聞で報じられる世論でも,7〜8割の人が「増税止むなし」でした。決断を先送りにしていると、このような国民の気持ちに影響を与えるのではないかと、懸念を感じております。
 
 もっとも、新総理誕生直後の世論調査では、いまだ過半数の国民が「復興については増税止むなし」の気持ちであると報じていました。
私は、復興は現役世代が連帯して、と思っていますので、費用を賄う財源については,所得税,法人税,消費税の三つの基幹税を考えていくことが必要ではないかと思っています。
 
 そこで,その負担方法について,所得税、法人税、消費税についてのメリットとデメリットを考えてみたいと思います。
 
 所得税で負担する方法は,所得に応じて累進的に負担を求める方法で、たとえば10%の付加税をかけるという方法です。付加税という方法は,源泉徴収の際に比例的に付加すればいいのですから,繁雑ではないといえます。しかし,所得は勤労の成果ですから,高額な税金は勤労意欲に悪影響を与えるという懸念や,所得税そのものも,俗に「9・6・4」といわれる課税所得の捕捉率の問題があり,必ずしも結構づくめではないという反対論もあります。
 
 次に,消費税で負担しようとする方法の場合です。この方法の最大のメリットは,1%で2.5兆円の財源が調達できることです。したがって復興財源が短期間に集まる。
 
 しかし,被災地の人々にも消費税の負担増が及びます。所得の低い人にはより多く負担増になる逆進性が問題となり,消費税負担分を還付する方式での解決法があります。しかし,納税者の共通番号がなければ,正確な還付ができないという問題が新たに発生します。やはり還付方式は要検討です。
 
 三つ目は法人税での負担方法です。
 
 現在,海外への日本企業の移転を抑制し,雇用を確保することが必要だという雰囲気があります。「立地の競争力」を高めるために,法人税を低くすることをさんざんに議論し,最後は,前総理の鶴の一声で「法人税5%の引き下げ」,つまり「8千億の減税」が決まっています。この問題にかたをつけないで,突然に「震災の付加税」といっても,物の順序が違うということになります。
 
 法人税については,去年決めた法人税率を5%引き下げて,8千億の減税改革を実行した上で,そこから10%の付加税を課すか,あるいは,減税を3〜5年の間凍結するという形で財源を求めてはどうかという議論が有力になっています。
 
 税法改革について,ドイツとオーストラリアの例に学んでみたいと思います。
 
 ドイツ統合の時,私はロンドンに駐在していました。そこで,ベルリンの壁が崩れ落ちるのを目の当たりにしました。
 
 当時のコール首相が「東西ドイツの統合は長年の悲願である。諸外国に援助を頼むことなく,ドイツ国民の負担で,コストを賄う」と演説したのを覚えています。
 
 ベルリンの壁が崩れ落ちた後,すぐさま,ドイツは自分たちで統合の案を作りました。
 
 最も印象に残っている事実として,通貨は同じ「マルク」を使っていましたが,東ドイツの経済力は,西ドイツの大体6分の1程度でした。それを,コール首相は,政治的に1対1で統合しようと決断しました。そのことで,西側国民は極めて多大な負担をしました。
 
 消費税についても検討されました。当時はドイツのVATは15%でしたが,東ドイツの国民にも負担が及ぶことから、法人税と個人所得税に7.5%を付加することによってコストを負担する決断をし,1991年7月から,連帯付加税を実施しています。これで約2兆円程度の財源が確保できました。
 
 1年経ったところで,一応,この付加税は廃止されたのですが,東ドイツの復興がどうも思わしくないということで復活しました。税率を低くして課税し,現在も続いています。

 対応の早さでは,オーストラリアの例が挙げられます。去年の暮れから今年年初まで,クイーンズランド州で大規模な水害が発生しました。それに対して,ギラード首相は,すぐさま災害復旧のための「水害税」を発表しました。この3月から臨時増税を始めています。1年限りですが。
 
 その時のギラード首相の国民に対する演説が有名です。
「政府もいろいろな形で支援する。財源が要るので政府の資産を売却したりして財源を確保するが,どうしても税負担の増加をお願いしたい。皆さんが,一週間に一回,飲むコーヒーを我慢してください。そのコストで,クイーンズランド州の水害の被害を救いましょう。みんなで協力して立て直していこうではありませんか。」
 
 日本では,「所得税の付加税」という考えが,これからのメインのシナリオになると思いますが,それが一体,どれ程の負担増になるか計算してみました。
 
 700万円くらいの平均年収の世帯で,子供さんが2人おられて,奥様は専業主婦。このモデル世帯で,現在の所得税は平均的には17万円程度です。住民税・地方税合わせて30万円程度でしょうか。
 
 この世帯での所得税10%増というと,2万円弱になります。5%では1万円弱です。この程度の金額ですと,まさに日本でも,コーヒーを週に一回我慢すれば負担できる付加税だと考えております。
 
 今度の新しい総理が,自分の言葉で分かりやすく,負担増について説明すれば,国民の皆さんからも,やむを得ない,と受け入れられるのではないかと感じております。
 
 私も,実は4月に震災の場所に行きましたが,この惨状を見て,これは兎に角,何とか現役世代,我々の世代で負担をして,立て直さねばならないと強く感じました。
 
 国民の過半の方も,そう感じておられると思います。若ければボランティアでも何でも行けるのですが、忙しかったり体力がなかったりなかなか思うようにいかない,と思案している人が大勢います。
 
 多くの国民の思いは「自分は直接には手助けできないが,追加的に付加税を納付することによって,震災の復興の一助になりたい」という気持ちです。早く政府がその気持ちを汲み上げて,決断していただくことが必要です。
 
 最後にもう一つ,震災が起きた,すぐ考えたことをお話しします。
 
 ご承知のように,株価は暴落しましたが,円が急騰しました。史上最高値をつける状況が生じました。
 
 私は,これはもう一つの「津波」だと考えています。国際的な投機マネーという津波は,日本がこんな大惨事である時でもかまわずにやって来ます。
 
 日本は,経済政策,税制を含めて,決して隙を見せてはいけないと思います。特に,復興費は普通の国債の発行でまかなうとか,財政再建を放棄した形の経済政策をとれば,それを材料にして,どんな大きな津波がやってくるか分かりません。それを阻止するためには,我々の世代でこの復興を助けるのだという,強い姿勢を示すことが必要だと思います。