卓話


生涯現役時代を支えるお口の健康について

2014年7月16日(水)

ライオン
代表取締役社長 藤重貞慶君


 ライオンは、1891年に創業し今年で123年になります。創業5年後の1896年に「歯磨」を発売しました。当時、日本人のむし歯罹患率は96%もあり、むし歯によって滅んでしまうという危機感から、日本全国で学童歯磨訓練大会を始めとする「口腔衛生普及活動」を行ってきました。

 現在、12歳児の平均むし歯本数は、1.05本であり、この30年間で、3.7本も激減しています。一方、高齢化と共に歯周病罹患率は年々増大し、歯周病が全身健康に大きな影響を与えるという研究が世界各国から報告されています。歯周病に罹っている人はそうでない人に比べ、発症リスクは、脳梗塞2.1倍、肺炎3.9倍等との研究報告が次々に出ています。

 お口の健康が全身健康を保ち、人生の質を保つ 「Quality of Life」 のうえで、とても重要であることが広く認識されてきました。

 最近、80歳で20本、自分の歯を保つ 「8020運動」 が定着しています。人間の歯は32本ですが、20本あれば何でも良く食べることが出来ます。平成23年、80歳で20本自分の歯を保っている人の割合は38.3%おり、年々増加しています。「8020」が生涯現役のひとつの指標になるでしょう。

 一方、日本人一人あたりの歯の本数も増えています。平成23年の歯の総本数は、26億5千2百万本、これは12年前と比べて、1億4千5百万本も増えています。60歳超で、一人あたり3.6本も増えていることによります。長寿と歯の本数の関係は深く、日本人の人生の質は格段に高くなっていると言えます。

 100歳以上の人の楽しみを調査したデータによりますと、1位が良く食べること、2位が家族との語らい、3位が良く寝ること、4位が友人との談話でした。つきつめてみると、人間の楽しみというものは意外とシンプルなものなんですね。そして、この4つの楽しみには、お口の健康が大きく貢献しています。

 「良く食べる」ですが、何でも良く食べることと、良く噛んで食べることの二つのことが大事です。栄養学の泰斗、川島四郎先生の説では、人間の歯の構成は、鋭く尖った犬歯が1、平らな門歯が2、ウスのような臼歯が5の割合です。犬歯は肉を引き裂く歯、門歯は野菜を噛み切る歯、臼歯は穀物等をすりつぶす歯です。そこで、最も適した食性は、「肉が1、野菜が2、穀物等が5」の割合でバランスよく食べるのが、良いと言われています。次に、「良く噛んで食べる」ですが、一口30回良く噛んで唾液と良く混ぜて、飲み込むことが大事です。良く噛むことは、脳への血流を促し、認知症の予防にもなります。また、唾液には発ガン物質を抑制する効果があり、天然の不良長寿の妙薬と言われています。

 さて、「良く話す「ですが、話すこと、コミュニケーションが良く取れるということが、人間を人間らしくしている最大のポイントだと思います。話すことによって、人生の質を高めたり、人生の質を保つことが出来ると思います。話すことは、心の健康にとって、とても大事なことなのです。

 また、歯が無いと真っ直ぐ歩くことが難しいようです。歯を失って、かつ、義歯を使わなければ転倒リスクが2.5倍になるなど、歯の本数と転倒リスクのデータも多く発表されております。

 ところで、歯は年齢とともに無くなるのではありません。歯の無くなる原因の75%は、正しい歯の手入れをすれば防ぐことができるのです。そのために大事なことは、「予防歯科の実践」です。即ち、定期的に必ず歯医者さんに行って、予防的措置をしてもらうプロフェッショナルケアと、家庭で正しいオーラルケア習慣を身につけて実践することです。家庭で行う正しいオーラルケア習慣は、「1日3回の食後の歯みがき」、「歯間ブラシ、フロスの使用」、「おやすみ前と朝起きた時の洗口液の利用」の3つをお勧めします。本日は特別、6つのお口の健康体操をご紹介します。

(省略、パンフレット配付)

 以上、生涯現役で過ごすには、お口の健康がとても大事です。

 『良く噛んで、良く食べることを味わう』、『人の話を良く聴き、良く話すことを味わう』、『情感豊かに、良く笑うことを味わう』、即ち、人生を味わうということです。人生を味わい、そして今日生かされていることに『ありがとう』との感謝の心を持つことが、生涯現役で健康に過ごすための、只今現在の私の主張です。


臍帯血移植について

2014年7月19日(水)

母子愛育会総合母子保健センター
所長 中林正雄君


 赤ちゃんは胎内にいるときは、お母さんの子宮内にある胎盤と「臍帯」、いわゆる「へその緒」で結ばれています。そしてお母さんから臍帯を介して全ての栄養と酸素を受けとっています。この臍帯の中を流れている血液を臍帯血といいます。臍帯血の中には成人の血液と異なりまだ分化していない未熟な細胞が多数含まれています。とくに白血球や赤血球の元となる造血幹細胞、つまり血液をつくる幹となる細胞が多数存在しています。この造血幹細胞を白血病などの血液難病患者に移植することを「臍帯血移植」と呼びます。「臍帯血移植」は「骨髄移植」と並んで、白血病に対して行う治療の最後の切り札であり、とても有効な治療法であるといえます。

 1982年に臍帯血中に造血幹細胞が多数存在することを初めて発見したのは、最近iPS細胞の研究者として著名な中畑博士です。この発見から約10年後には日本で初めて兄弟間の臍帯血移植が行われました。それから兄弟間だけではなく、第3者間での臍帯血移植を可能とするために、全国で最も多い時には11ヶ所の臍帯血バンクが設立され、臍帯血から造血幹細胞を分離、精製して、−192℃で冷凍保存するようになりました。そして1999年には全国の臍帯血バンクの連合組織として、「日本臍帯血バンクネットワーク」が、厚生労働省と日本赤十字社の全面的支援のもとに設立されました。臍帯血の採取に関しては、妊婦さんのご好意と協力を得て、全国100以上の産科施設で、産婦人科医と助産師によるボランティア的活動によって支えられています。

 臍帯血バンクネットワークが設立された当初は年間100例程度であった臍帯血移植ですが、その後急速に増加し、現在は年間1,000件を超えるようになりました。ちなみに、2012年の骨髄移植数は年間約1,200件でありますので、日本における第3者間の造血幹細胞移植のほとんどが骨髄移植と臍帯血移植であることがわかります。

 なおヨーロッパ、アメリカでも臍帯血移植は行われていますが、最近では全世界の臍帯血移植の1/3が日本で行われており、今では日本は臍帯血移植の最先進国となっています。その理由としては、1本の臍帯血から採取できる造血幹細胞数は一定数に限られているため、欧米人に比べて体格の小さい日本人に適した治療法であること、そして臍帯血バンクネットワークの組織が充実しているため、良質な臍帯血を容易に選ぶことができること、などが挙げられています。

 次に骨髄移植と臍帯血移植の長所と短所について比べてみました。臍帯血は本来廃棄される臍帯から採取するため、提供者の負担やリスクは全くありませんが、骨髄移植に用いられる骨髄液を採取するためには、提供者に全身麻酔をかけて、大腿骨や胸骨から骨髄液を採取するため、提供者にかなりの負担とリスクをかけることになります。また骨髄移植ではHLAの適合する提供者を見つけることが困難であり、さらに提供者との日程調整などのコーディネートに数か月かかりますが、臍帯血は全国で保存されている臍帯血データをネット上で直ちに知ることができますので、HLAの適合する臍帯血を選ぶことが容易であり、日程調整の必要もありません。

 一方、短所としては移植する幹細胞数が少ないため、体重の重い人では造血幹細胞の回復が遅いという点がありますが、これらの短所も幹細胞増殖法の進歩によって次第に改良されつつあります。東京大学医科学研究所の成績では、適切な時期に臍帯血移植が行われた場合の生存率は90%以上であると報告されています。

 白血病などの悪性疾患は加齢によって増加するので、高齢社会を迎えた我が国では臍帯血移植はますますその需要が増加すると思われます。その社会的責任を果たすため、今後はより良い品質と安全性の高い臍帯血を安定的に供給することが新しい臍帯血バンクの使命であると思われます。