卓話


駐日米国大使の主要課題

2018年4月11日(水)

駐日アメリカ合衆国大使館
特命全権大使 ウィリアム・ハガティ閣下


 東京ロータリークラブの森田会長、会員の皆さま、本日はお招き下さり有難うございます。私もかつてロータリアンでしたので、日米両国民の関係強化に努める皆さまとご一緒できますことは大変光栄です。私はテネシー州ナッシュビル出身ですが、私の友人であり当クラブ会員の多田氏は、1982年ロータリー財団奨学生として、私の母校テネシー州ヴァンダービルト大学に留学されたことを同窓生として嬉しく思います。

 本日は駐日米国大使として我々の目指すところを3つの主要目標にフォーカスしてお話しします。

 第一に、アジア太平洋全域の平和と自由の礎である日米安全保障同盟のさらなる強化を図っていきます。日米は共にいくつかの課題に直面しており、北朝鮮の世界的な脅威がその一つです。国際社会は一致団結して抗議の声を上げ続けていますが、北朝鮮はこれを無視して野心的な核開発を進めています。ヘイリー米国連大使や河野外務大臣など有能な外交官による不断の努力により、国連は北朝鮮の独裁者、金正恩に対する制裁を科し圧力を強めています。北朝鮮が関与に関心を示しはじめたのは、一丸となった最大限の圧力行使が功を奏しているからです。我々の制裁が明白かつ重大な結果をもたらすという状況下で、北朝鮮を交渉の場に連れ戻す意図があります。ご存知のように、トランプ大統領は金正恩からの首脳会談の申し入れを受諾しました。来週にはフロリダのマール・ア・ラーゴで日米首脳会談が開催され、対北朝鮮戦略について協議する場に私も同席いたします。この課題に対処するにあたり、米国と日本の足並みは完全に揃っています。日米同盟は強固であり、米国は揺るぎない決意で日本の防衛にコミットします。

 第二の重点課題は、日米の経済パートナーシップの拡大です。両国の経済を合わせると、世界の国内総生産(GDP)の30%を占めます。我々の目指すところは、強いグローバル経済を維持し、財政を確実に安定させ、質の高い雇用を創出していくことです。日米両国は力を合わせて貿易と投資の高い基準を設定し、市場障壁を削減し、アジア太平洋地域における経済成長と雇用の増大を促進しなければなりません。日本はこれまで貿易パートナーと多くの貿易協定を締結してきました。域内10カ国との間で、いわゆる「TPP11」と呼ばれる貿易協定を締結し、一方ヨーロッパとは自由貿易協定の交渉で合意に至りました。こうした中、両国が注力すべきは日米通商関係のさらなる進展です。

 第三の目標については、ロータリークラブも重要な役割を担います。それは、日米両国の人と人のつながりである「絆」を深め、広げる取り組みです。我々は何世代にもわたり、互いの国に居住し、学ぶことで真の友情の証である理解、尊敬、称賛の念を深めて参りました。交流プログラムは同盟関係をパートナーシップに変え、さらにパートナーシップを世界屈指の友好関係の1つに変えました。残念ながら米国に留学する日本人学生の数が減少し続けています。1997年のピーク時には4万6000人が米国に留学していましたが、昨年にはこの数が1万9000人を下回りました。日米双方にとり問題です。日米同盟の賢明な牽引役を担っていく次世代のリーダーたちは、留学により相互理解を深めていく必要があります。我々は次世代の日本のリーダーたちが、ロータリークラブや他の団体が進める支援活動を継続することを期待しています。若きリーダーたちが米国の優れた教育機関に留学することを検討するよう働きかける必要があります。明るい材料としては、日本に留学する米国人の数が増えています。さらに米国の大学で日本語を履修する学生も増加傾向にあり、大変心強く思います。

 東京ロータリークラブは、極めて重要な日米関係のために、これまで多大な貢献を果たしてこられました。ロータリーの青少年交換プログラムやグローバル補助金奨学制度、平和フェローシップは、日本の将来への長期的な投資であります。皆さまの献身的な取り組みが、太平洋の両側で成果を上げています。我々は、多くの人たちに平和と繁栄をもたらした共通の価値観を守り続けなければなりません。日米が力を合わせることで、将来にわたり誰もが平和と繁栄の中で暮らすことができるのです。ありがとうございました。


●会長コメント・質問
 米国大使がロータリークラブでご講演下さるのは16年ぶりであり、大多数のメンバーにとり、こうして直に大使のお話しを伺う初めての貴重な機会となりました。貿易や北朝鮮問題を含めて様々な課題の全体像を分かりやすくお話し下さり感謝いたします。アメリカで学ぶ日本人留学生が減少傾向にある点は、我々も憂慮しています。ロータリーに対する大使の深いご理解に感銘を受け、当クラブとしても引き続き若者の育成に努めていく所存です。
 現在の日米関係は両国の強い信頼をベースに、強固な友好関係を確立しました。しかし、いかなる国際関係においても、時には利害が対立や錯綜することは当然であります。ここで現在、日本国内でホットイシューとなっている問題を2点取り上げ、大使にご質問いたします。
 一つは通商問題です。日本では現在、鉄鋼とアルミニウムの輸入関税に焦点が当たっておりますが、今後日本の立場はどうなるのでしょうか。同時に通商問題の中で米中の関係は今後どのように展開していくとお考えでしょうか。
 もう一点は北朝鮮問題です。先の平昌オリンピック以降、南北首脳会談から米朝首脳会談に向けて急展開を見せています。そこに北朝鮮と中国の接近という突然の事態が加わり、もともと難解なパズルの困難度が更に上がったという印象です。
難問中の難問でありますが、不確定な事項ばかりという状況の中で、私たちはこの問題にどうアプローチすればよいのか、思考プロセスのヒントをお聞かせ下さい。

●大使回答
 通商問題については、米通商拡大法232条が最大の課題であります。米国内の鉄鋼・アルミニウム業界は主に中国による過剰生産により大きな打撃を受け、米国は解消に向けて動き出しました。中国による知的財産権侵害については、同じく打撃を受けている日本と連携して解決を図ります。この232条の発令により日米関係がある程度緊張することは否定できません。これは遡ればTPP交渉とも関連しています。TPP交渉は多大な努力の積み重ねでしたが、2016年の大統領選挙を前にアメリカの政治状況は様変わりしました。当時のオバマ大統領はTPP法案が議会を通過する勝算はないと踏み、議会に提出しませんでした。さらに大統領選候補者であったクリントン氏もトランプ氏も同じ理由でTPPを支持しませんでした。私は日本に着任以来、TPP交渉に尽力してきた担当者を含めて、日本側は大変歯がゆい思いを抱えていることを感じています。しかし現状を受け入れた上で、共に力を合わせて前進する方向を見定める必要性をお話しします。先日、日本はTPP11を締結し、EUとの自由貿易交渉も合意しましたが、日米関係が最重要であり、貿易交渉において米国が後回しにならないよう、2国間の貿易関係を前進させなければなりません。
 北朝鮮については、安倍首相とトランプ大統領は共に北朝鮮に対して最大限の圧力をかけてきました。国連安全保障理事会で、中国とロシアを含む全会一致で経済制裁が採択されました。北朝鮮と交渉のテーブルに着く際には、あらゆる選択肢を用意する必要があり、外交的な圧力を後押しする軍事力も有効です。今年初めに私は韓国ソウルを訪問し、外相と国家安全保障担当者と会談し、制裁の力が北朝鮮側から米朝会談の申し入れにつながったとする文在寅大統領の見解を共有しました。私は来週フロリダに赴き、日米首脳会談に同席して対北朝鮮戦略を協議します。米朝会談を前に、これまでの経緯を振り返り、過去の過ちから学び、包括的かつ検証可能で恒久的な北朝鮮の非核化を進めます。会談について楽観視していますが、何があろうとも日米の連携態勢は揺るぎません。

●会長質問
 もう一点、先ほどお話し頂いた留学生の減少と関連するかもしれない質問です。大使はボストン・コンサルティング・グループのスタッフとして3年間東京に勤務されました。東京ロータリークラブの会員の多くは企業経営者やその経験者です。日本経済と企業経営は、1970年〜80年代に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という著書も出た好況期から、1990年のバブル崩壊以降は「失われた20年」と呼ばれる停滞期が続き、最近なんとか底を打ったという経緯を辿ってきました。企業経営と経済にご造詣が深く、日本の経営を内側からご覧になる経験をお持ちの大使は、日本の企業経営と経済の変遷についてどのようなご感想と展望をお持ちかお聞かせ下さい。

●大使回答
 1988年に来日した当時、日本経済は好況に沸き、躍動感にあふれていました。確かにこの数十年間で状況は大きく変化しましたが、7カ月前に着任して以来、経済が持ち直して正しい方向に向かっている実感があります。米国経済についても楽観視しています。規制緩和や税制改革などの政策が功を奏して企業の景況感は上向き、堅調に回復しています。これは日本にとっても好材料です。日米の貿易関係はさらに改善し、日本企業からの対米投資も活発化しています。米国企業からの投資も拡大すべきです。日米間の資本の流れを増強し、知的財産の交流が活発化すれば、再びイノベーションと繁栄を生み出すことができます。
 少子高齢化が進む日本では出生率の改善についても考えるべきです。家族が明るい未来を楽観的に展望できることが秘訣です。4人の子どもをもつ父親として、私は日米関係を含めて楽観視しています。両国の経済が成長し、国民全体が希望を持ち、より多くの学生が双方向に留学することでイノベーションが促進されます。若者が国を超えて交流することを支援するロータリークラブに感謝申し上げます。


※本文は、ハガティ大使のお話しと森田会長との質疑応答をクラブ会報委員が纏めて編集致しました。