卓話


施設の教育力

2008年9月3日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

シーラカンスK&H(株)代表取締役
建築家・東洋大学教授
工藤和美氏 

 学校は,子供達が初めて社会に出る空間です。私たちの未来をつくってくれる子供達にとっての学校建築は,とても大切です。

 戦後の学校建築は,経済優先の建築で,子供達のことを見てきませんでした。そして今,それを変革する時期にはいっています。

私が学校建築を手掛けるきっかけになったのは,1988年に幕張メッセやマリンスタジアムの横にある幕張ベイタウン(約84ha, 26.000人, 8.100戸)の基本構想を,半年という短期間で作り上げたことでした。一棟一棟の集合住宅の高さ,あるいは,各種公共施設の配置などのマスタープランを策定し,その後,打瀬小学校を設計したのです。

 「住宅で街を創る」というコンセプトで造られたベイタウンの中の学校ですから,学校に,通常の付き物である「塀」をなくして,街になじむように設計しました。

 この小学校は,日本建築学会賞をいただいた作品ですが,子供達に教室以外の,もっと気持ちのいい場所で学ばせてあげたいという思いで「外の教室」を造りました。

大人は,雨が降ったら困るとか,人数が多い時は椅子が足りないとか,いろいろ指摘しますが,子供達には足りない椅子を分かち合う気持ちが芽生えたり,学びの場としての出来事をたくさん見ることができました。

 子供達の変化を目の当たりにして,建築というハードは,人々のハートを動かすんだということを体験しました。

公共の学校造りは,子供達の夢を形にすることです。その為に,私が一番大切にしているのは「普通だと思っていること,当たり前だと思っていることに全力を注ぐ」ことです。学校本来の姿を考えれば,なにも突飛なことをする必要はないのです。

しかし,普通だと思っていることを,本当に普通なのかを,もう一度考えてみる必要はあります。それが,いろんなことを解決したり,変えてくれる力になると思っています。

私の設計した学校を例に,私が大切にして力を注いだことの実践をお話しします。

 まず一つ目は,福岡市立博多小学校です。福岡も東京と同じで,人口が周辺に移り,中心部の児童数が減り,4つの小学校を統合してできた学校です。都会の真ん中ですから,たくさんの往来から子どもの安全を守り,4車線の道路が発する音も,プロテクトする必要がありました。

 私は「視線を通しながら,安全で,誇りを持てる行為に変わるような空間」を造るようにしました。

体育館のような大きな建物は,道路側に直接に面する位置に計画しました。歩道と学校の境界に塀はありません。

通りに面して,「表現の舞台」と名付けた階段教室もあります。受け身の学習から自己表現の学習へ変わるための学びの場として利用されます。通りに面しているので,子供達の学習の場が,街の人々に見えます。

体育館もグランドも,通りから見えます。買い物に来た通りがかりの人達にも,学校の様子がよく見えます。子供達の生活や元気が,街の中を元気にしていきます。

見渡しのよいデッキもあります。子供達は,デッキを行き来するのが好きです。

第2は,この学校は,教室の廊下側に壁がありません。当然のことながら,音がうるさいというデメリットがあります。

最初は,確かに混乱します。ところが,一週間もしないうちに変わってきます。子供達が気配りをすることを思い出すのです。

隣の教室は,まだ授業しているから,ちょっと静かにしていようとか,そういう気配りが子供達の間に生まれてきます。この学校では周りに気を配る子供達が育っていく様子を見ることができます。

第3は,職員室がないのが特徴です。私が突飛なことをやったのではなく,従来の職員室の状態を一つ一つひもといて,職員室の改善を考えたのです。休憩時間に先生方がみんな職員室に行ってしまえば,教室は児童だけになります。この状態は,おかしいと思いました。

 各フロアに職員コーナーを作って,学年の先生が,一々下のフロアに下りなくていいようにしました。ちょっとコーヒーを飲むコーナーもあり,職員ラウンジでは用務員さん,校長,職員が一緒に食事をします。教職員のワークスペースも用意しました。先生同士の連絡ポストも作りました。それぞれの機能をレベルアップして,実は,先生が使うスペースは2倍になったのです。

校長室と職員会議室の廊下側は全部ガラス張りです。中からも外からも見えます。

第4は,みんなが「参加する」という形です。建物を造る過程で参加すると,出来上がったものに愛着を感じます。

学校の体育館で,子供達に,板にペンキを塗る手伝いをしてもらいました。子供達が塗った板は,図工室の壁面を内装する材料に使いました。

子供達は,自分たちの造った部屋だということで,とても気に入っているようです。

学校造りには地域の人たちにも,たくさん参加してもらっています。学校が完成してからも,いろいろな職業の人がゲストティーチャーとして活躍してくれています。

最後の第5番は,「学ぶ場の豊かさ」が大切にする空間づくりです。

日本の学校は,昭和30年代の高度成長期に各地で一時に造られました。日本中に同じようなコンクリートの校舎が建ちました。残念ながら,地域性や文化が抜け落ちた校舎でした。

「学ぶ場の豊かさ」の例として,先ず,福井県坂井市の丸岡南中学校の図書室を挙げたいと思います。

子供達が本に接したくなるという空気をつくることが重要で,この学校の図書室は,生徒の昇降口の真ん前にあります。ですから,学校に来たら教室に行く前に立ち寄ったり通り抜けたりして,本に接します。

 まさに図書館がターミナルになっています。 福井県の丸岡南中学校では,雪の地明かりを利用して,雪国ならではの空間を作って,真冬でも室内を明るくしています。

今年の春に開校した,富山市の芝園小・中学校は,立山連峰を背景に神通川に面した4階建の建物です。

雪国ですから,冬場は行き場所がない,土がないことを,子供達は常に感じています。 校舎に入ってくる道筋に,外部と同じ床仕上げで,ガラスの,天井を備えたパサージュを作りました。ダイナミックな場所を造って,冬場でも伸び伸びとしてほしいという仕掛けです。

門扉の中に,小学生の膝ぐらいの大きさの球形のオブジェを数個置きました。子供達は,特に説明しなくても,めいめい勝手な遊び方をして使っています。このようなオブジェは危険だと,大人は必ず言いますが,危険なことをやらないと,危ないことから自分の身を回避する術を学ぶことはできません。

中学校には,校内にアトリウム(吹き抜け)があり,全部の教室を見渡すことができます。学年の壁は完全に払拭されています。

階段を利用した「表現の舞台」もあります。実際は階段なのですが,「階段」の規定に触れないようにしながら,教室的スペースを造り出しているわけです。こうして「子供達の,お互いに自分たちの活動が自然にみんなに見える場」を実現できたと思っています。

いろいろな学校造りを通して,私が一番感動するのは,実は,掃除の時間なのです。きれいな教室は,きれいに保つ心を育てます。私は,子供達からこのことを気づかされました。子供達は這いつくばって掃除をしています。この学校では,掃除の前に5分間の瞑想をします。どのように掃除をするかを考えるのです。掃除中は一言もしゃべらないというのがルールです。この学校は,朝の10分読書なども行っていると聞いています。

家やオフィスや街が,どんどん新しくなっているのに,大半の学校は30年変わらないまま続いています。子供達が,まだ取り残されています。今こそ大人が出て頑張ってほしいと思っています。

最後に,私の子どもがお世話になっていた公立小学校の池を整備した話です。

今のままだと,子どもが池に落ちるといいます。よく聞くと,子供達は池の中を見たいから,縁に乗っかって回ろうとするから落ちるのだということが分かりました。

子どもは,池の中を見たいから近寄りたいのに,大人は,わざわざ,木を植えたりして近寄らせないようにするのです。

本質は,危なくなく近寄れるようにしてあげればいいのです。手摺りなどを全部やめて,近くまで安全に近寄れるようなデッキを造って解決しました。私は,デザインには本質を変える力があると思っていますが,それを実行した例だと思っています。