卓話


米山月間例会
友好の架け橋〜日中国交正常化五十周年に当たり〜

2022年10月5日(水)

早稲田大学修士課程
米山奨学生 李 真さん


 私は1993年に中国の大連市で生まれ、2011年に厦門大学日本語学部に入学し、15年に推薦入学で北京外国語大学大学院に入りました。17年に日中通訳専門職の修士号を取りました。18年に来日し、中国人留学生向けの進学サポートの仕事に携わってきました。その中で、講師陣管理の仕事をする上で、私には経営管理や人材組織に関する知識が足りないことを痛感し、21年に早稲田大学大学院経営管理研究科に入学しました。また、光栄なことに、今年の4月からロータリー米山記念奨学生になることが出来ました。

 私が日本語を専門として選んだ理由は2つあります。
 一つは故郷の大連市には日本人がたくさん住んでいて、小さい頃から親近感を持っていたからです。日本企業もとても多く、パナソニック、東芝、TDK、YKK、オムロンといった日本を代表するメーカーが揃って進出しています。日本の外務省が発表した平成30年度の「海外進出企業」という統計によると、世界都市別の日系企業数で、大連は上海、バンコクに次いで、3位となっています。そのため大連では日本との文化交流や経済交流も盛んで、日本語は実用性のある外国語であると感じる方が多く、日本にとても親近感を持っています。

 実は米山奨学生になって気づいたのですが、日本でも大連の事を知っている方が多く、イベントに参加するたびに私が大連出身だと伝えると、昔大連に行かれたロータリークラブの会員の方が私の知らない昔の大連の事をいろいろと教えてくださり、皆様との距離も一気に縮まって嬉しく感じています。

 日本語を選んだもう一つの理由は、日本をもっと知りたいという気持ちからです。子供の頃から鉄腕アトムやドラえもんのアニメを見て「日本のヒューマノイドはすごいなあ」と感心していました。中学時代は趣味で日本の歌を聞き始め、中国語に訳された日本の小説も読み始めました。歌や本の中で細かく描写されているシーンに憧れを持つようになり、日本について勉強すればするほど素晴らしさに惹かれて、より多くの方に日本や日本文化の美しさを伝え、いつしか中日交流の架け橋になりたいと考えるようになりました。

 そこで、私と同じように日本文化が好きで日本語を勉強したいという方の力になりたいと思い、日本語教師という職業を選び、18年に日本に来て、中国人留学生向けの進学サポートの仕事に携わってきました。最初は日本語能力試験の授業と日本留学試験の授業を担当する講師でしたが、実務経験やノウハウの蓄積が認められ講師陣管理の仕事を任されるようになりました。講師ひとり一人の能力を十分に発揮させるために、まず自分の能力を高めようと大学院に入学しました。

 学生生活では、各界で活躍している方々とグループワークや自主ゼミを通じて日々刺激を受け、絆を深めながら知識を習得しています。さらに今年度からは、米山記念奨学金のお陰で、アルバイトを減らし勉強と異文化交流に専念する時間が増え、心から感謝しています。

 次に、私の研究テーマでもあり仕事でもある中国人留学生向けの進学塾業界について説明します。

 1972年の中日国交正常化を象徴する中日共同声明と1978年に締結した中日平和友好条約により、中国における日本語教育及び日本への留学事業が着実に展開されてきました。2008年には当時の福田首相による「2020年までに留学生を30万人受け入れよう」という計画が発表され、日本政府の積極的な留学生支援の影響もあり、19年には1年前倒しで31万人を超えることが出来ました。

 新型コロナウィルス感染拡大の影響による入国制限によって留学生の数は2年連続で減少しましたが、コロナが収束してまた増加することを願うばかりです。また今年は中日国交正常化50周年を迎える節目の年であり、両国交流の繁栄を支える人的流動、特に日本に来る留学生への教育支援の重要性はますます高まっていくことでしょう。

 さて、留学生が日本の学校に進学するためには、留学ビザが必要です。取得には、2つの方法があります。

 一つは母国から直接日本の志望校の入学試験に参加し、合格後に大学に在留資格を発行してもらい日本に来る方法です。この方法はインターネット受験を認めるか観光ビザでの受験を認める大学に限られており、母国における情報収集が困難でごく一部の優れている留学生にしかできません。

 もう一つは日本語学校に入学して日本で暮らしながら受験勉強を頑張る方法で、こちらが主流を占めています。日本語学校に在籍する期間は、通常、半年間から1年間で、最長2年間まで延長可能です。しかし、留学ビザは2年で満了になってしまうため、2年のうちに進学できない場合は帰国せざるを得ず、留学生にとって志望校に入学することはまさに時間との闘いであり、非常に困難な道のりです。

 文部科学省の令和3年「外国人留学生在籍状況調査」によると、中国出身の留学生がほぼ半分を占め、114,255人に達しました。みんな日本の名門大学・大学院でハイレベルの高等教育を受ける夢を抱いて日本に来ます。そのうち、既に大学院に入学した留学生以外は全部塾業界の顧客層と言えます。

 日本語学校に入学したにも関わらず、さらに、塾に通う理由を説明します。繰り返しになりますが、日本での受験勉強はまさに時間との闘いです。

 志望校に出願するために、日本語能力や専門知識が求められます。大学院の場合、9割以上の研究科は日本語能力試験N1合格を必要とします。学部の場合は日本留学試験を受けなければなりません。日本語・総合科目・数学という三科目で、外国人向けの「センター試験」です。しかし、日本語能力試験も日本留学試験も年に2回のみで、猛勉強して合格しなければ、志望校に出願するチャンスすらありません。さらに、名門校であればあるほど、英語能力が重要視されています。日本語を勉強しながらTOEIC・TOEFLのような英語試験の高い点数を目指す学生も大勢います。

 また、多くの中国人の学生は英語を第一外国語として学ぶため、日本語の勉強は留学する直前や日本に来てから本格的に始めることが多いのです。そのため、生活面の不自由さがある中で、日本語での専門知識や総合科目、数学の勉強まで手が回らないのが現状です。さらに、日本の受験システムが母国とは完全に異なり、優秀な成績を残しても出願期間を見逃してしまったり、せっかく筆記試験に合格できたとしても面接試験で自分の考えを日本語でうまく表現できなかったりし不合格になってしまう学生も多くいます。日本での進学は情報のない留学生にとって至難の業といっても過言ではありません。

 このような留学事情から、中国人留学生向けの進学支援サービスを提供する塾業界が産まれたのです。情報収集や学校選択アドバイス、語学教育、専門知識、受験対策、受験生のメンタルケアといった全般的な支援を行い、学生一人ひとりの夢が叶うように全力でサポートすることで名門大学に優秀な人材を送り出しています。

 しかし、この業界は歴史が浅く、業界規範や市場監督は不完全であり、「多数乱戦」の状態と言えます。従業員規模も10人以下のところもあれば500人以上の大企業も存在する中、サービスのクオリティーについてもばらつきがあります。留学は学生にとってたった一度きりの青春ですから、そこに無駄な時間やお金を消費させてはいけないと思います。

 私が勤めていた予備校は、300人以上の従業員がおり、年間1,500人以上の塾生を有しており、業界でもトップレベルで非常に大きな影響力を持っており、今後の業界の発展にも大きく貢献していくと思います。

 私は、この業界で、より効率的で品質の高い進学サポートを提供することを通じ、より多くの中国人留学生に対して日本でのハイレベルの教育を受けさせるために貢献したいと考えています。さらには人的交流を促進し、ひいては中日友好にも力を尽くしたいと思っています。

 今年4月、ロータリー米山記念奨学期間開始式の時に、非常に心に響く言葉をいただきました。それは「奨学生の皆様は将来母国と日本の大きな架け橋になります。焦らなくても大丈夫、今はただ架け橋になるための土台作りに頑張ってください」というもので、この言葉に勇気をいただきました。

 奨学生として世話クラブの会員の皆様のご厚意に甘えさせていただき、スポンジのようにお知恵を吸収しています。毎月の定例会議でも多くの卓話を拝聴し、多種多様なイベントにも招待いただき、視野を広げることができています。

 また、学友会のイベントを通じ、他の優秀な奨学生や先輩たちと情報共有もでき、この制度を通じ資金援助だけでなく大切な出会いのチャンスもたくさんいただいたことに感謝しております。そのため、ロータリー米山奨学生の宣伝も兼ねて、中国のSNSを通じて留学生活の情報を投稿しています。

 今は来年の3月卒業予定の修論を頑張っていますが、卒業してからもロータリー米山奨学生としての誇りと自覚を持ち、頑張って成長していきたいと思っていますので、皆様には引き続きご厚情を賜りたくお願い申し上げます。


    ※2022年10月5日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。