卓話


環境保全月間例会
セーリングと環境

2014年5月21日(水)

公益財団法人日本セーリング連盟
会長 河野博文氏


 公益財団法人日本セーリング連盟は、高円宮妃殿下に名誉総裁をお願いしており、全国に約1万人の会員がいます。日本のセーリング人口は20万人以上になると思いますが、連盟は競技者が会員という制度です。傘下には都道府県連盟、大型艇の外洋団体、そしてヨットは多種多様のため艇種別、階層別団体などが加わっている組織で、80年ほどの歴史を持っています。

 目的は、国内の試合では国体運営が一番大きく、オリンピックに選手を派遣する、そのための選手の強化も重要な仕事です。同時に、海事思想の健全なる発展及び普及、海洋環境の保全を図るということも定款にしており、大きな仕事です。

 2020年の東京へのオリンピック招致が決定し、東京でセーリング競技も行われることになります。場所は東京湾です。江東区・若洲に来年からオリンピックハーバーの建設が始まる予定で、そこを本拠地としてオリンピックを行うことになります。

 私もJOCのメンバーとしてブエノスアイレスにうかがい、2020年の招致決定という感激的場面に立ち会うことができて本当に幸せでしたが、帰りの飛行機で「これは大変なことになったんだな」と気がつきました。競技団体としては50年前の東京オリンピック以来の大会運営をしなければなりません。世界中から来るヨットのセーラー、役員、大勢のファンの方たちに「東京でオリンピックをやって良かった」と思ってもらえるような運営をしなければなりません。

 例えば、ヨットというスポーツのルールを理解したボランティアを500人余り集めないとレース運営はできないと思いますし、パラリンピックも開催されますので、こちらの運営のためのボランティアも必要です。同時に、日本で開催されるオリンピックですから、できるだけ多くのメダルを取ることも大きな仕事になります。リオ、東京のオリンピックに向けた強化が大きな課題です。

 オリンピックの種目は10あります。「470」が日本人の体型・体重・身長に非常にフィットする種目で、470男子がアテネで銅メダル、470女子がアトランタで銀メダルを取った経験があります。それ以外に1人乗りの「レーザーラジアル」、1人乗りの一枚帆の「レーザー」、こちらもなんとか日本人でも乗りこなせる種目です。「NACRA」は双胴船で、これは少々体重が必要です。日本ではこれまで経験のない船で、東京オリンピックに向かって強化しなければいけません。「49er」は2人乗りで、2人ともトラピーズといわれるマストから吊したワイヤーに体を預けて全身を海の上に出してバランスを取るという激しいものです。日本人も段々と強くなってきていますが、乗るのが大変難しいものです。これの姉妹艇が「29er」という女子の種目です。「Finn」は1人乗りでレーザーに似ていますが、もう少し大型で、残念ながら日本人の体重・身長ではよほど体力的に勝った人でないと乗りこなすのが難しいものです。「RS:X(男子、女子)」はウィンドサーフィンで、日本人のいまの体力で乗りこなせる種目で、北京オリンピックでは上位に入りました。こうした競技でメダルをたくさん取るというのが、これからの私たちの仕事の一つになります。

 オリンピックでは種目に応じて、4ないし5つの海面を同時に使ってレースを展開することになります。私は、オリンピックを機会に東京湾の水をもっときれいにしたい、海をぜひきれいに保ちたいという強い気持ちがあります。オリンピックの招致活動で、放射能の汚染水の問題がネガティブキャンペーンで語られ、他のアスリートにも大きなインパクトを与えましたが、特に海でスポーツをする人にとっては最大の関心事項の一つです。従って、オリンピック開催にあたって東京湾の水の質を一層向上させることが私たちの強い要望であり、東京都にも訴えています。

 招致活動の時も私たち独自で水質検査を行い、東京都のデータも含めて海水浴場並みの水質であることを確認しています。東京都の下水道のキャパシティに少々弱点があり、非常に強い雨が降った時に大腸菌のレベルが上がるという問題があるので、東京都に下水道の整備をお願いしているところです。

 もう一つ、水質のうちの放射能に海外のセーラーは非常にセンシティブですので、自分たちで計測を行い「not detected(検出されず)」を確認しました。こうした心配を払拭しながらオリンピックをやっていかなければならないと思っています。私が大学卒業後、30年余り前に東京で国体が開催された時に同じ海面でレースを行いました。まだ若造でしたので、レースの運営をしながら、沈艇が出ると救助部隊として飛び込まされていました。今より汚い水でしたが、何とか今日まで生きながらえていますが、東京湾の水がもう少しきれいになることが望ましいです。

 私たちは「残したいのはきれいな海」をスローガンに、環境活動を行っています。きれいな海でヨットに乗ろう、というのが発想の原点です。ロゴマークは、セーリング連盟のマークに白い波を書き入れてもらいました。合い言葉は、「Let Poseidon Live!」。ギリシャ神話で海を司る神のポセイドンが依然として海で生きていけるようなきれいな環境を保とうというものです。

 具体的な環境活動を紹介します。ヨットには、先ほど紹介した種目の他に何十種類という船の種類があり、それぞれの種類、そして学生も子ども達もやりますし、実業団などさまざまな階層別の活動があり、年4、50回の全日本チャンピオンシップの試合が行われています。そのなかで一定以上の参加者がある種目を選び、昨年は35大会(参加者約4,800名)を環境キャンペーン対象のレースとしました。スポンサー協力の下で運営資金を支援し、船が出た帰りにゴミを拾って帰る、あるいは砂浜を清掃するという海の浄化に協力してもらう活動をしています。大会ルールでも、帆走指示書によって会場へのゴミ投棄の禁止、ゴミを拾って帰るといったことを徹底してもらっています。

 このようにレースに出る人たちに環境マインドを持ってもらうことに加えて、レースで使えなくなってしまったヨットのセールをバッグや日除けなどにリサイクルする活動をしています。昨年の東京国体では、スピンセールを使ったエコバッグの作り方教室を開催しました。日本手ぬぐいと同じ大きさに切ったセールを二箇所縫うだけという誰にでもできる簡単なもので、小学生でも簡単に作ることができます。環境保全の啓発活動に役立てています。

 それから、ステッカーがあります。「Stop! Idling(ストップ! アイドリング)」を作成しました。レースの際、運営のため、あるいは観覧のために従来エンジン付きのボートは往々にしてエンジンをかけっぱなしで前に行ったり後ろに行ったりしてその場所に留まるようにしていました。それを小さなアンカー(錨)を打つなどしてその場に留まることにすれば余分なガソリンを使う必要がなくなり、CO2の削減に貢献できます。可能な限りエンジンを切ってもらうために作ったものです。エンジンの近くに貼るなどして使ってもらえればと考えています。1ℓのガソリンを使うたびに、2ℓのペットボトル換算で約590本分という大量のCO2が発生します。これは海のみならず陸上でも同じで、アイドリングストップの発想は、ご承知のように、最初はバスやトラックから始まり、いまは乗用車にも広がってきております。このことがエネルギーの節約と同時に環境保全に大変役に立っています。私たちは海でそれをやっていきます。ボートをお持ちの方はボートに、ボートに乗らない方は陸の上で車に貼っていただき、できるだけ環境保全に役立てていただければと思います。

 環境コンテストは昨年から始めたもので、環境のためにイベントを開催する、何か什器を買って環境保全のために役立てるような活動を行う、環境のために何かを作る等、全国に提案を募り、優秀な案には補助金を出し、その実現を後押ししようという試みです。先ほどのステッカーも、昨年のコンテストの結果の一つとして出てきたものです。環境コンテストはセーラーだけでなく広くどなたからの応募も受け付けております。「環境コンテスト2014」(応募締切り2014年7月6日)に皆さんもぜひ環境活動のご提案をしていただければと思います。

 こうしたささやかな活動ですが、オリンピックを契機に東京湾の水をきれいにする、そして世界中から来た人たちに安心してレースをしてもらう環境をつくっていくことに主眼を置いて2020年に向けて活動していきたいと思っています。また、日本チームの強化を行い、東京オリンピックでは複数のメダルを一気に取れるようにしていきたいと思っていますので、ぜひとも皆さんのご支援、ご声援をお願いしたいと思います。