卓話


イニシエーションスピーチ

2006年1月25日(水)の例会の卓話です。

三木繁光君 出原洋三君

今後の銀行経営の方向性

(株)三菱東京UFJ銀行
 取締役会長 
 三木 繁光 君

 すでに銀行界の最優先課題であった不良債権問題はほぼ終結し、銀行界全体で黒字基調が定着しつつあります。主要行では公的資金返済の動きが相次いでいます。銀行界のフェーズはすでに大きく転換し、前向きな経営に乗り出しています。

 お客様のニーズにも変化が見られます。個人では資金運用に積極的な家計が増えています。企業では、資金調達や決済の面で、間接金融から直接金融への流れ、リスクヘッジ等、ニーズが多様化しています。

 新たなフェーズにおいて、「金融サービス業」の銀行としては、お客様のニーズの変化に対応し、これをビジネスチャンスと捉えて、多種多様な金融商品やサービスを迅速に提供すること、そして、経済・産業の発展や「貯蓄から投資へ」の政策目標に歩調を合わせていくことが必要です。
 
 では、今後の銀行経営、主にメガバンクの方向性について2点申し上げます。
第1は、総合金融サービスの提供です。各行とも提携やグループ化により信託・証券・保険のサービスを含む総合金融サービスを提供し、投資信託、保険など銀行窓口で販売可能な金融商品も拡大しています。お客様には、多様な金融商品・サービスをワンストップで購入できるメリットがあります。銀行商品の販売を一般事業会社に解禁する銀行代理店の規制緩和もあり、業態や業界を超えた連携により、総合的な金融サービスを提供する流れが一段と強まると予想します。

 2点目は、従来型の銀行のビジネスモデルの転換です。すでに「預金・貸出業務を基本とし、その鞘である資金収益に依存する」モデルは限界です。フィービジネスの強化など、収益源の多様化を意識して、顧客のセグメント別に、顧客の視点に立った新たなビジネスモデルへ転換していくことが不可欠です。

 大企業分野では銀行依存度が低下し、企業のニーズは、資本市場の活用も含めた総合的な資金調達手法や事業戦略へのアドバイス等へと変わりつつあります。このため、投資銀行的なアプローチが重要で、「リスク仲介型」のビジネスモデルが主流です。例えば、自らが信用リスクや事業リスクの一部を取るのと併せ、そのリスクを分解、加工し、他の金融機関に分散するシンジケートローンが発展しています。

 中堅・中小企業分野は、担保や保証に依存した貸出は従来に比べ減少します。キャッシュフローやスコアリングに基づいた新しいタイプの無担保貸出商品が増加しています。

 リテール(個人)分野は非常に重要マーケットです。貸出面では住宅ローンが大きく増加し、運用面でも、銀行窓販での投資信託や保険商品の販売実績が拡大しています。銀行本体でのクレジットカード発行や、消費者金融会社との提携など、フィールドも急速に広がっています。先行きも預貯金が過半を占める家計の金融資産は大きなビジネスチャンスで、リテール分野で手数料ビジネスを軸とした新たなビジネスモデルの構築が必要です。

 最後に、経営上の留意点としては、リテール重視の裏側で、利用者保護を念頭に置く必要があります。金融商品の適切かつ責任ある販売体制の構築や、高度化する金融犯罪への対応に引き続き取り組むことが責務です。

 郵政民営化と政策金融改革については、民営化はビジネスチャンスと大変な競争相手となるリスクの両面があります。完全民営化の前に民業圧迫とならないよう、十分注意する必要があります。

 お客様のニーズの変化に伴い銀行のビジネスモデルも変化しますが、銀行は経済活動に役立つことが使命であり、「お客様第一」がその原点であることは変わりません。最後にこの点を申し上げ、終わりにしたいと思います。

クリスタル硝子の魅力

日本板硝子(株)
代表取締役会長 
出原 洋三 君

 少し古い話ですが、貴乃花が結婚式の引き出物にフランス製のクリスタル硝子を用いて評判になったことがありました。また、昨年もロックフェラーセンターのクリスマスツリーの頂点を飾ったのは、やはりクリスタル硝子でした。
 
 英語のCrystalは、結晶を意味し、ギリシャ語のKrystallos(クリスタロス)も透明度の高い結晶を意味します。ところが、クリスタル硝子は結晶ではありません。しかし、クリスタル硝子が透明で美しい輝きを持っているので、これをクリスタルと呼んでいます。また、クリスタル硝子と言えば、一般的には酸化鉛を含む鉛クリスタルを指します。しかし、この誕生には様々な変遷をたどりました。

 クリスタル硝子の歴史は15世紀のベネチアから始まります。硝子の原料は色々な不純物を含んでおり、当時の硝子は着色し不透明でした。ベネチア人は着色を酸化マンガンが消すことを発見し、水晶のように無色透明な硝子を作ることに成功しました。水晶のように透明なベネチアの硝子は、クリスタル硝子の第一世代です。

 次に、17世紀のボヘミアで進化します。この地方では硝子の原料であるソーダ灰が入手できなくなりました。そこで、自国内の木を燃やした木灰で代用しましたが、実は、この木灰には酸化カリウムが多く含まれていたのです。カリウムが多く入った硝子は、透明なだけでなく屈折率が高くなるために輝きを手に入れました。これが第二世代です。

 さらに、17世紀末、自然環境のために木灰の入手が困難であったイギリスで、酸化鉛を使用した鉛クリスタルが開発されました。この鉛クリスタルは、第一、第二世代の硝子より屈折率が高く、輝きを増しました。これが第三世代であり、現在のクリスタル硝子と同じものになります。

 日本で本格的に硝子工芸が発達するのは、江戸末期からです。ヨーロッパの技術が長崎を経由して各地に広まり、1830年頃、江戸で江戸切り子が誕生しました。硝子には少し黄色味がありましたが、ヨーロッパ伝来のカット法やグラヴィール法といった装飾技術が使われました。江戸切り子は美しい切り子模様に特徴があります。少し遅れて、薩摩切り子が誕生しました。薩摩切り子の特徴は赤い硝子にあります。銅を入れて赤色を作ることに日本で初めて成功しました。
次に、クリスタル硝子の特徴について説明します。

 現在では重量で24%以上の酸化鉛を含む硝子をクリスタル硝子と呼ぶのが一般的です。鉛含有量が多いと硝子の輝きは優れ、また重量感のある硝子になります。その輝きは硝子の屈折率に関係し、屈折率が高いほど良く輝きます。

 クリスタル硝子には着色硝子もありますが、クリスタルの場合は硝子全体が着色されていることは少なく、透明の生地に色硝子を被せて作ることが多いです。着色硝子で特に注目の色が“赤”です。赤色には種々ありますが、高級な赤色は金で着色させます。特殊な雰囲気や温度調整により作られる金赤の硝子は、他の金属から作った赤色の硝子に比べて、上品な色を呈します。

 次にカットやグラヴィールの加工法です。これらの加工技術は一部機械によるものもありますが、ほとんどがいわゆる匠の技になります。匠の技を持つ職人の手により作られたカットは、エッジがシャープです。

 ここまで、クリスタル硝子の歴史や特徴について説明しました。残念ながら、日本ではクリスタル硝子がヨーロッパほどは普及していません。勿論、個人の好みであり、容器は何であれ中身さえ良ければと言う方もおられると思います。しかし、上質のクリスタル硝子でワインを楽しむと一層おいしく感じます。是非、お試しください。