卓話


プロを輝かせる服

2019年3月27日(水)

KAZENホールディングス(株)
代表取締役社長 矢澤真徳君


 私どもの会社はユニフォームを作るメーカーです。ユニフォームと言っても様々な種類がありますが、特に、ホテルやレストランで着るユニフォーム、医療施設や介護施設で着るユニフォームなど、プロが職場で着用するユニフォームを作っているのが特徴です。

 先日イチロー選手がユニフォーム姿で引退会見をされていましたが、真剣に野球に取り組んできた、という自信と誇りが、スーツではなくユニフォームを必然的に選ばせたのだと思いました。人生を賭けて自分のフィールドでベストを尽くしているからこそ、プロはユニフォームを着て輝く。私は「プロを輝かせる服」を作りたいと思っています。

 プロを輝かせるためには、まず、デザイン、生地、裁断、縫製、と言う要素が吟味されていなくてはいけません。服飾デザインには優れた美的感性と独創性が求められますし、生地、裁断、縫製には様々なテクノロジーが使われています。

 例えば裁断における最新のテクノロジーは動体裁断と言われるものです。3Dの立体裁断による服は、立っている人の体にはぴったりフィットしますが、動くといろいろなところが突っ張ったり、皺が寄ってしまいます。

 一方、動体裁断では人にいろいろなポーズをさせてみて、どの部分の皮膚がどれくらい伸びているかを計測し、伸びている特定の部分に、よりストレッチ性のある生地を持ってきます。そのため、動体裁断による服は動いても、服が皮膚と同じように動きに追随してくれるので、例えば両手を挙げたときに裾が上がりませんし、手や足を動かすのにストレスがありません。

 しかし残念ながら、素材や技術を吟味しただけでは、「プロを輝かせる服」にはなりません。最も大切なことは、板前さんが使う包丁のように、プロの用途にフィットしている、ということです。

 例えば、小児科の現場で、注射をするのに子供が騒ぐので大変だという声がありました。そこで子供の注意を逸らすために、アンパンマンのキャラクター達をユニフォームにプリントすることにしました。最初は、みんなでお誕生日祝いをしているような柄を考えたのですが、最終的にはストーリーのないシンプルな柄を採用しました。それは、小児科の看護師さんに柄を見てもらった時に、ストーリーがある柄は一回で飽きられてしまう、シンプルな柄ならストーリーは私たちが考えます、と言われたからです。

 当社はユニフォームを作り続けてもうすぐ70年になりますが、こうして「用途にフィットさせる」と言うことはなかなか難しく、現場から教えられることはまだまだたくさんあります。こうしてプロの用途にフィットして初めて、プロに愛されることになり、その結果として、プロを輝かせるのだと思います。

 私の考える業界の悩みの一つに、行き過ぎな日本品質というものがあります。例えば生地で言えば、並べて比較しないとわからないような僅かな色ぶれでも日本ではB品にされてしまいます。ところが先日イタリアのあるお店で、綺麗な色のセーターが色ごとに棚に積まれているのをみて、店の主人に、「色は綺麗だけど、この青は色ぶれしていますね。」と言いました。すると、「そうです。だからあなた好みの青を探してください。」という答えが返ってきました。

 色ぶれということを取っても、見方によってまったく反対の価値判断になりうる、ということです。例えばユニフォームを選ぶときにも、色を厳密に揃えるよりも、多少色ぶれがあっても地球にやさしい服を皆で着るほうが好みだ、という価値観もありうるとすれば、品質の許容範囲について考え直せるはずだと思います。

 最後に、いま東神田に、高松宮殿下記念世界文化賞を受賞されたイタリアの彫刻家、チェッコ・ボナノッテ氏の美術館を計画していますので、完成した折にはぜひ皆様にもいらしていただきたいと思っております。