卓話


超一流の健康の極意〜セル・エクササイズ

2015年4月8日(水)

順天堂大学医学部
教授 小林弘幸氏


 今日は、皆さんの寿命を20年延ばす、ゴルフの飛距離を25ヤード伸ばす、という2つのテーマを含めながら話をします。

 「健康とは」と尋ねられた時、医師でもなかなかはっきりとは答えられません。我々の身体は60兆個以上の細胞から成り立っており、私は「質の良い血液を、ひとつひとつの細胞に、いかに十分に流すことができるか」に尽きると思います。そのためには自律神経と腸内環境が重要になります。

 健康には「意識」が関わります。意識して何かを行うのと意識しないのでは、180度変わります。今日のように急に真冬のような天気になると、人は簡単に乱れます。乱れないようにするのは無駄で、乱れているものをどのように治すかが重要です。我々はちょっとした言葉や人の噂などで簡単に乱れる環境におり、時間にも追われます。ミスをする時はすべて科学で解明できます。余裕がない、自信がない、予想外のことが起きた、体調が悪い、まわりの環境が悪い、しかありません。こうした時、心の中に起きた不安に気づいていないとバランスが自然に崩れます。一番わかりやすいのは、朝寝坊をした時にドキッとして周りが見えなくなることです。携帯電話を探しながら携帯電話で話す、男性がズボンをはかずに駅まで行ってしまうといったことは自律神経の乱れです。

 自律神経はライフラインです。我々の血流をコントロールする一番重要な神経で、頭の先から生殖器まで、これが働かなければ生きていけません。逆に、脳が死んでも、心臓、腸が動いているから移植手術ができます。これも自律神経が働いているからです。

 自律神経は、緊張や集中すると働く交感神経と、リラックスすると働く副交感神経から成り、両者がバランスをとることで健康を維持しています。車に例えると、交感神経はアクセルで副交感神経はブレーキです。今、2、30代にパニック障害の方が多くいます。飛行機、新幹線、山手線に乗れないといった症状で、こうした方はアクセル全開でブレーキ0の状態です。鬱病の方は、アクセル0、ブレーキ100という状態になります。ストレス社会の影響で、9割の方は交感神経優位でしょう。交感神経の働きが血管を締めるため、血流が悪くなり、高血圧や癌になりやすくなります。

 ベストな状態は、副交感神経を上げて血液がよく流れる状態、つまり、交感神経と副交感神経のバランスを1対1にすることに注意すればよいのです。ところが、副交感神経は、男性は30代から、女性は40代から落ちていきます。そして、自律神経は伝染します。バランスの悪い人がいると周りが迷惑をします。バランスのいい人の周りにいると皆が良くなります。自律神経を乱されないためには「聞かない、見ない、話さない」ことですが、なかなかそれは難しい。

 我々の大学院生に横田真一君というプロゴルファーがいます。練習が好きではなく、大学院生時代にあれほど練習しなかったにもかかわらず、シーズンの最終には上位の成績を収め、再び全トーナメントに出るようになりました。彼が研究したのは「ゴルフのパフォーマンスと自律神経の関係」で、プロ選手のトーナメント戦のデータを取ったところ、交感神経が優位な人ほど飛距離は伸び、スコアは副交感神経の優位な人が勝つ、というデータが出ました。落ち着いている人が勝つ、これは人生の真理です。

 血液の流れは自律神経のコントロールで良くなります。血液の質にとって重要なのは腸内環境です。今、医学界の最大トピックスは、腸内環境を整えれば癌、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病がかなり改善されるということです。決して大げさではなく、腸は性格や健康、人生を変えると言われています。

 腸内細菌は、400〜500種類、数100兆個、重量1,500gがお腹の中にあり、善玉菌と悪玉菌、日和見菌に分けられます。善玉菌は腸内の菌類全体の大体2割、悪玉菌は1割で、日和見菌が残り7割です。腸内環境を良くするには、日和見菌を味方につけることです。

 胃腸での消化の話になります。まず、食べたものは食道に入り、胃を経由し、十二指腸へ行って、小腸へ向かいます。小腸だけでも7、8メートルの長さで、2、3メートル程の大腸を通って、便になって出てきます。中でも重要なのは小腸で、大体6〜7時間かけて栄養の殆どがここで吸収され、血液に乗って流れていきます。善玉菌が多いと、肝臓にきれいな血液が流れ、心臓から全身に流れていきます。ところが、悪玉菌が多いと、栄養と一緒に硫化水素やアンモニアなど毒素も吸収され、それを含んだ血液が肝臓から心臓、全身に流れ、体に不調が出ます。善玉菌は30歳を境に年をとるほど減少します。

 日本人女性の死因の1位は大腸癌です。男性は今4位ですが、5年後には1位になると言われています。原因は腸内環境の悪化です。また、腸内環境は肥満と関係しており、『Nature』という有名な雑誌には、肥満は腸内環境の乱れから来るという報告があり、痩せている人の腸内細菌を取ってきて太っている人に飲ませると全員痩せます。それほど腸内細菌が大きな力を持っています。

 腸は免疫システムをコントロールする場所でもあります。ヨーグルトの乳酸菌は、善玉菌を増やし、腸内環境を良くし、機能をアップさせ、免疫機能を高めます。ただ単に食べるだけでは力を発揮できず、食物繊維が必要です。大腸癌など癌発生の原因は食物繊維の摂取量不足です。第二次世界大戦時、日本人は1日20グラム以上を摂っていましたが、今は10グラム以下になり、癌の発生と相関していることがわかりました。食物繊維20グラムはレタス8個分ですから、サプリメントとして摂取する方法が現実的です。

 細胞を活性化させるセル・エクササイズは、きちんとやれば、ゴルフの飛距離が上がり、健康になります。子どもから女性、高齢者、トップアスリートまで誰でも、いつでも、どこでも、簡単に、器具なしで、短時間に、リスクなく確実に行えます。

 ポイントは副交感神経、血流のパワーアップで、末端を意識して行います。ストレスがかかると血流が落ちるため、その状態でゴルフのパットを打っても入らないのは当たり前なのです。勝負はすべて血流が上がるかどうかです。

 まず、顔と頭のタッピングをします。これはTFT療法、オバマ大統領がイラク戦争の帰還兵たちのPTSD(心的外傷後ストレス障害)解消のために取入れた療法をアレンジしたものです。顔には血流が多いため、ツボを軽く叩くことでリラックスさせます。寝る前に3分間行うと良い睡眠になります。プレゼンの前に緊張する方は、身体のどこでもいいので、指で軽く叩くと落ち着くようになります。

 もう一つ、伸びをする時、普通に両手を挙げただけでは肩胛骨が張り出すため実は全然伸びていません。しかし、両手を交差させ手のひらを合せて行うとよく伸びるようになります。その状態で身体を前屈、左右に倒す、回旋をすると、全身が伸び、3分位で汗だくになります。一番伸びるのは末端の足です。ゴルフ場に行ったら、まずやるといいでしょう。よく首や肩が凝った時に首・肩だけを回している方がいますが、それでは首や肩を痛めてしまいます。これも、前で両手を交差させ、身体に軸を作った状態で首・肩を回すと凝りが取れます。

 それから、女性の腸の動きは年齢が高くなるにつれて悪くなります。悪くなる場所は決まっているため、右の腰骨の脇と左の肋骨の下、その2カ所をつまんで回旋する、お風呂の中でもむと、腸は動くようになります。

 ちょっとしたことですが、それだけに理論をわかってしっかりとやらなければ効果が出ません。皆さんがゴルフの時などによくされるアキレス腱伸ばしですが、実はアキレス腱は伸びたままになってしまい可動域が悪くなり、けがをしやすくなります。壁などにつかまりながら片足立ちで足首を持って振るだけで、十分伸びます。

 皆さんは自分でストレスをかけているのです。自然にコップを持ってみて下さい。中指主導で持つ方は、ゴルフ場に行ったら、後ろ回りに肩を回して下さい。人差し指主導で持つ方は、肩を前に回して下さい。そうすると、ストレスフリーになって身体が動くようになります。

 私がよく患者さんに言うのは「2週間症状が続いたら何かあると思って病院に行くと決めること」です。今は早期ならばどの癌でも助かります。でも、なかなか皆さん病院に行かないのです。

 究極の人生の生き方として、外科医の格言で「ゆっくり早く」という言葉を紹介します。自律神経を整えるのは、ゆっくり話すこと、ゆっくり歩くこと。そうすると絶対に失敗しません。ゆっくりしている時は呼吸が安定しているため、速やかに手術は進むのです。自律神経を安定しながら腸内環境を整えて、いい人生を送るというのが一番いいと思います。


       ※2015年4月8日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。