卓話


プロボノ〜新しい社会貢献

2011年4月20日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

特定非営利活動法人サービスグラント
代表理事 嵯峨 生馬氏

 「プロボノ」というキーワードは,昨年あたりから新聞やテレビでよく取り上げられるようになりました。私どもは,2010年を「プロボノ元年」ととらえ,企業で働く社会人を対象にプロボノについての関心を高めていこうと努力しているところです。

 プロボノという言葉の元はラテン語で「Pro Bono Publico」。英語に置き換えると「For Good Public」です。プロボノとは,社会的,公共的な目的のために職業上のスキルを生かすボランティア活動です。

 例えば,お医者さんが,医学上のスキルを使って,世界中に行って子供たちのケアをするのは,医者としてのプロボノです。

 また,会計士が,動物保護をしている団体の会計の手伝いをするのは,会計士のプロボノです。デザインの仕事をしているグラフィックデザイナーが,少年野球チームのユニフォームをデザインするのも,これもデザイナーとしてのプロボノです。地下鉄をつくるエンジニアが,アフリカに行って井戸を掘るという活動も,この人のできるプロボノです。

 プロボノは,単に「社会にいいことを行う」だけではなく,「職業上のスキルを生かす」ことが非常に重要な観点なのです。

 私たちの会社,サービスグラントは,2005年頃から,このプロボノに取り組んでいます。会社勤めをしている方,あるいは,フリーランスのデザイナーなど,様々な社会人の方々に,週末とか平日の夜の時間帯に集まっていただき,活動の打ち合わせをします。

 例えば,コピーライターが,NPOのPRのためのコピーを出したり,ウェブサイトの提案をしたりしています。つまり,ほとんど会社でやっている仕事と同じようなことをボランティアとして無償で提供しています。

 これまでの実績は,農業教育に取り組む農家のNPO「畑の教室」のウェブサイトをリニューアルして,活動を分かりやすく紹介して多くの人の支援が得られた例,DV被害者支援に取り組む「全国女性シェルターネット」を立ち上げ,当事者・関係者の視点に立ったDV情報サイトを設置した例,外国人とその子どもをサポートする「多文化共生センター」の活動内容が一目で分かるパンフレットを製作した例などがあります。

 病院で子どもの遊び相手をしているNPOがあります。その活動を正確に伝えたサイト「病気の子ども支援ネット」をリニューアルしたところ,早速の反響があり,支援者,団体の双方から感謝されました。

 これらのように,プロボノが情報発信の基盤を作ることで,支援を得る環境を作ってあげることにも役立っていると言えます。

 実際にどんな人がプロボノに参加しているかをご紹介します。

 本当に幅広い方々にご参加いただいていますが,最も多いのは,情報発信のマーケティング,広告,グラフィック関係者です。続いて,コンサルタント,システム開発,営業,企画など多岐にわたっています。

 参加者の年代は,社会人6年目〜20年目の方々が中心で,大体7割を占めています。この年代の方々はボランティアをしないというのが従来からの常識でした。その通りで,プロボノに参加した方々の64%が「ボランティア経験なし」でした。つまり「プロボノの活動が初めてのボランティア」ということです。

 今までもボランティアに関心がないわけではなかったが,いわゆる単純作業のボランティアは,いまひとつフィットしない。しかし,自分の仕事のスキルを100%活かせるようなボランティアには参加すべきであると感じて,参加してくださったのだと思います。

 近年,スキル登録者は急上昇して,4月19日現在で,787名の方々に登録していただいています。私たちは,登録に際して,次の三つの条件を提示しています。
1)目安として週5時間をプロボノに費やす。
2)1つのプロジェクトに係わる期間を6カ月とする。
3)1人で作業をするのではなく,4〜6人でチームを組んで仕事に取り組む。
 様々なスキルを持っている方々が4〜6人で1チームを組んで,NPOの課題解決に取り組むという仕組みです。

 同じ会社の方は一緒にしないというルールもありますので,全く違う業界の方と一緒に活動するという体験も,モチベーションになっていると思います。

 参加された方々の感想では,92%の方が「もう一度参加したい」との回答をくださいました。さらに,プロボノへの参加による効果・影響をお聞きすると,同じく92%の人が「自分自身の視野が広がり,人間的な成長につながった」と答え,併せて「社会問題やNPOに対する見方や考え方が変わった」,「社会に対して役に立っているという実感ができた」などと答えておられます。

 「今の仕事に影響があったか」という問いに,78%の人が「今の仕事に活かせる有意義な経験を得ることができた」と言っておられます。「自分の専門性やスキルを磨くことができた」や「仕事の進め方,時間の使い方などが変わった」という回答も多数ありました。

 自由回答の中からご紹介しますと,
 「ボランティアでありながらも,自分の個性を活かすことができた」,「自分の気づかない一面に対する評価が得られ,仕事に対する意識が変わってきた」,「違う業種の人とつながりができ,ネットワーキングにつながった」,「作業の進め方がきっちりしていて,仕事の進め方によい刺激になった」,「新しい領域に触れることで自分の可能性が広がった」などの声が届いています。

 サービスグラントには,個人としてご自身のスキルを登録していただいています。従って,個人単位の活動ですが,最近,企業の皆様との連携プロジェクトも始めました。
 「企業の社会貢献活動」を再整理してみると,全員での清掃作業,大勢での植林作業,教育現場への応援など,参加する人の数が多いタイプのボランティア活動と,教育ボランティア,マーケティング支援,経営戦略構築支援,IT支援,NPOの理事職就任といった,参加する人数は少ないが,組織の基盤作りに貢献するタイプのボランティア活動とがあります。

 大勢での参加も大事ですが,少数の者が参加する活動は,NPOの基盤作りに最も貢献するボランティアです。これからの,企業組織の人たちが参加するボランティア活動は,このような,組織,基盤作りの活動が求められると思います。

 アメリカのターゲット社の事例として,多角的な社会貢献活動とプロボノ活用の例があります。ターゲット社は,デザインや建築などの専門スキルをフルに活用して,地域の図書館建設に取り組みました。資金の提供をはじめ,簡単な書棚の組み立てやペンキ塗りには人手を提供し,スキルを使ったボランティアには,設計,建設,着工,内装デザインなどにプロボノとして参加しました。

 日本では,NECが,社会起業家を育てるプログラムに取り組んでこられました。社会問題を解決しようとしてビジネスを立ち上げる人たちに対して,社員の皆さんがビジネスサポーターというチームを組んで,ITの支援をしていくというプログラムです。

 「すでにある社会プログラム」×「プロボノによるビジネスサポーターの新しいプログラム」でさらに深みが増すと感じております。

 その他,いくつかの企業との連携がようやく緒についたところです。

 東日本大震災に対して,私が取り組んでいることの一つに,「ホームステイの呼びかけ」プロジェクトがあります。

 被災者,避難者の方々と,中長期的にご自宅に滞在させてあげるホームステイとをマッチングするプログラムです。

 これまでプロボノで培ってきたマッチングのノウハウから,被災者の方と受け入れ関係者を繋ぐマニュアルはあります。

 既に,4,300の受け入れ家庭が用意されています。被災者の方と受け入れ家庭の間に,コミュニケーション担当ボランティアを配置して,受け入れ家庭の情報を集めて整理し,被災者の方に提供する用意を進めています。受け入れ家庭はなんとか出来上がっているのですが,被災者の方の希望がまだ決まっていないというのが現状です。

 ホームステイも,単に「泊まるところあります」という形ではなく,例えば,「東京英語留学」とか「職業スキル中期滞在」といったプログラムの提供を工夫したいと考えています。具体的にはまだこれからの段階です。