卓話


「世界の中のニュージーランド」

2009年11月18日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

ニュージーランド大使       
イアン・フォーブス・ケネディ 氏

<ニュージーランド(NZ)の国と国民性>
 およそ6千万年前,古生代の中期から後期に,ゴンドワナ大陸の一部が海に沈み,およそ1千万年前の大規模な地殻変動で,NZが現在の形で海上に浮上しました。
自然の偉大な力によって国土が形作られたNZは,世界で最も若い国であり,原始の力の巨大さを象徴する国です。

 先住民であるマオリの伝説によると,クペという名の偉大なポリネシアの船乗りがNZを発見したと伝えられていますが,正確な年代は不明です。

 考古学的資料によると,7艘の船に乗ったマオリ人たちが南太平洋からNZに到着したのは1350年頃でした。その後,マオリ語で「パケハ」と呼ばれるヨーロッパ人の最初の入植者は,イングランド,アイルランド,スコットランド,ウェールズから,帆船に乗って広大な海をわたり,NZに着きました。

 入植者たちは,経済的地位,社会的地位が生まれた時に決まってしまう英国の階級社会とは異なる,よりよい暮らしを,NZに夢見ていました。

<ニュージーランド人の夢>
 NZの人たちは,自然な環境の中で暮らし,活気あふれる多文化社会を反映することを望んでいます。知的好奇心,冒険心,新しい地平を開拓する気概などを実現した4人のニュージーランド人をご紹介します。

 一人目は,ノーベル賞を受賞した物理学者アーネスト・ラザフォード卿です。1871年にネルソンで生まれたラザフォード卿は,実験物理学で天才的能力を発揮し,「原子物理学の父」と呼ばれています。彼の独創性は,先入観や他人の考えに捕らわれないという,自然に恵まれた環境の中で成長した人特有の,純朴な人柄によるものです。

 全く違う分野で,すばらしい功績を挙げた人がエドモンド・ヒラリー卿です。

 1919年にオークランドに生まれたヒラリー卿は,始めは養蜂家でした。1953年に世界最高峰エベレスト登頂を成し遂げたことで,その名を世界に轟かせました。このようなすばらしい功績にもかかわらず,ヒラリー卿は,極めて謙虚です。ヒラリー卿は「私は平均的なニュージーランド人の代表です。能力も飛び抜けてはいませんが,強い意志の力と成功したいという熱意を持っています」と述べています。

 次に紹介する,ブルース・マクラーレン氏には「安全で,非常に経験豊かな,世界一流の」という形容詞が使われました。1937年生まれの彼は,32年という短い人生をカー・レースに捧げました。

 彼の名前を冠したチーム「マクラーレン・インターナショナル」は,世界選手権の選手部門で12回の優勝,製造者部門で8回の優勝を飾りました。

 映画監督のピーター・ジャクソン氏は「やる気に満ち,常に高いレベルを目指す一方で,性格は冷静沈着,フレンドリーで、才気溢れる人々を惹きつける」と評されています。

 1961年にウェリントンで生まれたジャクソン氏は,平日は別な仕事に就き,映画製作は日曜日に行いました。トールキンの長編ファンタジーを映画化した「ロード・オブ・ザ・リング」三部作が,アカデミー賞を受賞したことは有名です。

 以上,紹介した4人のニュージーランド人は,私たちが心から尊敬し,触発される存在です。しかし,もっと一般的なレベルでも,ニュージーランド人は,世界の舞台で責任ある地位に就いています。

<NZと日本の実質的な距離>
 コミュニケーションの鍵となるのは実質的な距離です。これには3つの距離が係わります。まず,尺度で測れる物理的な距離です。次に,毎日の生活や仕事に追われて,つい疎遠になる,生活上の距離です。そしてもう一つは,価値観のずれや不信感から生じる心の距離です。この重要なコンセプトは,たとえ人と人を物理的に引き離したとしても,実質的な距離が近ければ,生産性とイノベーション能力が高まり,優れた力を発揮することを教えてくれます。

 ここで私がお伝えしたいことは,NZと日本の実質的な距離は非常に近い,ということです。

<NZと日本のパートナーシップ>
 NZ一国でできることには限りがあります。経済的な利害だけではなく,文化交流,あるいは国家安全保障の面から,また気候変動に取り組むような大きな問題でも,他の国々と連携をとる必要があります。

 NZの発展と繁栄にとって,一番重要なのはアジア地域との関係だと理解しています。

 このことは,政府だけではなく,企業も学会も,政策立案者たちも十分に認識しています。その意味で,NZがアジア太平洋地域に位置していることは,国家最良の戦略的資産だと考えています。

 私たちのトップ17の輸出先の内,11カ国はアジアにあります。アジアからの観光客は経済的に重要な意義があります。

 どの観点からも,アジアとNZの間の実質的距離は僅かです。

 NZは今,アジア太平洋地域に設立しつつある,二国間や多国間の貿易網に積極的に参加していきたいと思います。

 オーストラリアと経済緊密化協定を結んで26年が経ちました。昨年,先進国としては初ですが、中国と自由貿易協定を結びました。今年は,香港及び湾岸諸国との自由貿易協定を結びました。さらにインドや韓国とも交渉に入っています。

 NZには,シンガポール,チリ,ブルネイとの間に,2006年に発効した環太平洋戦略経済連携協定(P4)があります。

 今回のオバマ大統領訪日の際,アメリカが,オーストラリア,ペルー,ベトナムとP4協定を拡大したトランス・パシフィック・パートナーシップ(TPP)を目指し,P4参加国と交渉を開始することを確認しました。大変心強く思っています。

 指摘したいことは,日本が,NZとFTA交渉を行っていないことです。

 実際には,NZと日本は,地域内の標準となるような質の高いFTAを締結することが可能です。残念ながら,日本には,一部に,農業に関する懸念が存在するため,今日に至るまで,NZとのFTAの可能性について深く話し合うことが叶いませんでした。

 私たちの農業は,日本にとって脅威となる程の規模ではありません。輸出する食品は,安全で高品質なものに限られています。しかし,日本の食料安全保障を助けるパートナーの一国にはなります。

 日本政府は,農家の高齢化,耕作放棄地の増加,食料自給率の低下という三つの問題に取り組んでいます。これらの問題への魔法のような解決策はありません。保護政策ではなく,世界最高の物と競争して勝てるだけの力をつけるしかありません。日本の農業は,すでに農産品の品質において十分な競争力を備えています。課題は,価格面の競争力をつけるために生産性を上げることです。

 私どもは,日本の農家との協力を深めていきたいと願っています。日本の生産者に新しい技術を提供した事例はすでにいくつかあります。両国は,このようなWin-Winの解決策を検討していくべきだと思います。

 先月,ニュージーランドのキー首相と鳩山首相が会談して,両国の経済関係強化を図るための共同研究を行うことに合意しました。この研究がこれまでの,両国の間の懸案を解決する助けになることを願っています。

 結論として,NZは,日本との関係をすべてのレベルで前進させたいと考えています。