卓話


スーパーコンピュータ〜テクノロジーで人類共通の課題解決に挑む〜

2022年6月8日(水)

富士通(株)
取締役シニアアドバイザー 山本正已君


 社会は時代により変化し、人々が求める幸せやその実現のための課題も変遷してきました。人類の歴史は、挑戦の歴史です。豊かな未来を求めて、私達は科学技術を生み出し、その力を使って様々な課題を解決しながら便利な社会を築いてきました。
 コロナ禍は私達の生活様式や価値観を一変しました。今年1月、南太平洋で海底火山噴火が起こり、太平洋沿岸地域を津波が襲いました。世界中で異常気象による自然災害が多発する等、科学技術が直面する課題は山積しています。その限界に挑戦し未来への扉を開く人類の力が、テクノロジーです。AI、ロボット、量子コンピュータ等最先端テクノロジーの一つに、スーパーコンピュータがあります。スパコンは、一言で言えば「速い計算ができるコンピュータ」です。日本の富岳は先日まで、ランキング4分野で世界一でした。これは幅広い分野で高い性能を発揮できる証明です。富岳は現在も、ビッグデータ処理性能とアプリケーション実行性能の2分野で首位を継続し、世界トップクラスであることに変わりはありません。

 スパコンの得意分野の一つに、コンピュータシミュレーションがあります。今まで解決できなかった複雑で高度な課題には、高速なシミュレーションが可能になることで初めて解明が期待できるものがあります。シミュレーションで結果を得るには、膨大で緻密な計算とそれに要する計算時間の短縮が求められます。

 その能力を発揮した事例をご紹介します。2020年春、富岳が初めて挑んだ課題はCOVID-19への対策で、飛沫感染対策や治療薬となりうる物質候補の短期間での選別に貢献しました。これは分子動力学計算という非常に精度の高い方法で計算した世界初の取り組みで、創薬の世界を大きく変えるものと評価されています。シミュレーションは気象・気候変動の分野でも不可欠です。世界の気象災害はこの50年で倍増しており、被害を最小に留めるには早期検知が必須です。高性能な気象レーダから得た雨風のデータを取り込んだシミュレーションでも富岳が活躍しています。そして、脱炭素社会の実現にもスパコンは欠かせません。航空機の分野では、空気の流れをもとに飛び続けることができる限界の速度や姿勢を計算し、効率良く飛行できる機体の形状を見つけ出します。燃料の節約やより性能の高い航空機の開発につながることが期待されています。

 一方、課題もあります。従来スパコンは、国家が開発を主導し科学技術力の象徴としての意味合いが強い側面がありました。最新ランキングでも、米国、中国をはじめ各国の開発・導入が活発です。その中で富岳には、日本の研究開発力や産業競争力の強化、そしてSociety 5.0の実現に向けて多くの期待がかけられています。日本や世界が直面する課題を先送りせず解決するために、各分野の最先端の研究を加速していかなければなりません。その鍵を握るのがスパコンです。スパコンの研究・開発は、産業界全体の技術向上に繋がります。超高性能のスパコンを開発・活用することで超一流の科学者が集い、挑戦的なテーマに挑む環境も整備されます。その環境が国の研究水準を引き上げ、産業へ応用されることで国際競争力を強化するのです。スパコンは国家力そのものを反映しているのです。

 富岳は実用性や汎用性が重視され、創薬、エネルギー、材料等の産業用ソフトウェアを高速で動かすことができます。スパコン利用の計画立案からデータ作成に至るまでをサポートするプログラムも用意され、民間での利用環境が整備されています。

 私達は引き続き、最先端テクノロジーへの挑戦とその技術利用の裾野を広げる仕組みづくりを通じて、豊かで持続可能な未来の実現に貢献してまいります。