卓話


職業奉仕月間例会
「都心における貴重な緑・水辺〜国民公園“皇居外苑”について」

2009年10月14日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

環境省自然環境局 
局長 鈴木正規氏

自然環境局は,生物多様性の保全,国立公園の管理,希少生物の保護あるいは外来生物の駆逐など,自然の保全を目的とした,さまざまな仕事をしております。

 国民公園の管理も担当しておりますが,その代表が「皇居外苑」の管理です。

1.皇居外苑の概要
皇居外苑は三つの地区に分けられます。
皇居外苑地区は皇居前広場を中心にして,二重橋,桜田門,和田倉噴水公園など,名所旧跡を含んだ地区です。

皇居の北側に北の丸地区があります。旧近衛連隊の跡地を森林公園として整備し,昭和44年から北の丸公園として一般に公開しています。敷地内には日本武道館,科学技術館などがあります。

皇居を取り巻くお濠も外苑の一部です。美しい景観をもった12の濠と堤,石垣などがあります。

 皇居外苑は皇居と一体になった我が国の象徴的空間であり,一般参賀,御在位記念行事など行われる威厳のある静穏な雰囲気をもつ空間として国民に愛されています。また,江戸城の歴史を伝える空間でもあり,濠や石垣などが文化財保護法に基づく「特別史跡江戸城」に指定されています。

外国から赴任した新任大使が信任状奉呈式のために皇居に向かう時には馬車列が使われます。このしきたりは外国大使の方々には大変評判がいいようです。

皇居外苑は,皇居と一体になった大面積の緑と水の空間であり,さまざまな生物の生息場所,都心のヒートアイランド現象を緩和するクールスポットとなるなど多様な環境機能をもっています。

「国民公園」は,いまお話しした皇居外苑の他に,京都御苑・新宿御苑があります。
戦前は旧皇室の苑地でしたが,昭和22年12月の閣議決定に基づき国民公園と位置付けられ,広く一般に公開されています。

2.皇居外苑濠の概要
お濠は,基本的には全体的につながっています。一番高い箇所は半蔵門がある所です。水流は,そこから桜田濠を通って日比谷濠に行く下回りの方向と,逆に半蔵濠から千鳥ヶ淵,牛ヶ淵を通って日比谷濠に流れる時計回りの流れがあります。

この二つの流れの水質にはかなりの差があります。水質が一番いいのが桜田濠で,宍道湖などに負けないくらいの水質ですが,水質が一番悪いのが実は千鳥ヶ淵です。

千鳥ヶ淵は桜並木のとても美しい場所ですが水質的には問題がある箇所です。いくつかの理由がありますが,千鳥ヶ淵の南端に,雨が降った時に越流する下水道口があります。少し強い雨が降ると,そこから下水が流れ込んで水質を悪くする原因にもなっています。

日比谷濠に浄化施設を備えて,よい水質の水を汲み上げて半蔵門から流すという対策を立てて,水質浄化への努力を重ねているところです。

しかし,これらの濠は歴史的遺産として重要であり,景観としても非常に美しいものであり,日本を代表するものだと思います。

桜田濠と二重橋濠,桔梗濠と巽櫓などの空間構成は,都心でみる風景としては,大変美しく,歴史的空間としても貴重なものです。

お濠は,生物の生息地としても貴重なものになっています。もともとは400年前に人工的に造られたものですが,400年という長い期間を経て,自然に溶け込んだといえます。
実は,環境省の絶滅危惧生物を収録したレッドデータブックに載っているような生物も生息しています。

水草の「ツツイトモ」や汽水域に棲むハゼの一種「ジュズカケハゼ」の生息が確認されています。また,冬には多数の水鳥が飛来します。「カルガモ」のようなかわいい鳥もいますので,いつも都民に愛されている水辺空間になっています。

お濠の水質について,先程少し触れましたが,特に千鳥ヶ淵を中心にした問題点をお話しします。もともと,皇居のお濠は,玉川上水から流れこんでいました。その結果,非常に美しい水質を保全していたのですが,昭和40年以降,玉川上水からの取水は止めていて,現在はほとんどを雨水に頼っている状況です。

他方,ゴミ,落ち葉,雨天時の下水道からの越流水の流入などが水質を悪くしています。 時として,アオコが発生します。特に夏場には厳しい状況が起こります。何層にも大量に発生したアオコ,あるいは風に寄せられて,一カ所に集まったアオコが腐敗し始めると,強い悪臭を放ちます。こういう状態になると周辺の方々から苦情が来る程です。

桜田濠の水は,諏訪湖や宍道湖と同程度の水質を保っておりますが,千鳥ヶ淵の水は最も水質の悪い公共用水域(沼湖)と同じ部類に入っています。

そこで,現在どんなことをしているかというと,浄化施設で水を汲み上げて浮遊物を除去するという濾過を行っています。アオコが大量発生した場合には,人海戦術的ですが,バギュームカーで吸い上げることもやっています。

また,お濠の底に溜まっているヘドロを浚渫したり,水を干し上げる対策も実施しています。

お濠の水質浄化については各方面からご指摘もいだいておりますし,ちょうど,御在位20周年の時期でもありますので,関係機関と協力して「お濠の水をきれいにしていこう」という取り組みをしております。

 一つは,東京都が中心になって行う事業ですが,下水道が越流する状態を是正することがあります。これは作業が進行中で,最終的に,平成27年頃までには主な所は改善されるという計画をいただいております。

他方,下水道問題が解決すると水の供給が減るという事態になります。そのためには,できるだけ皇居内から供給する,あるいは周辺の雨水が濠に流れるような方策を講じなければなりません。

環境省全体の方針としては,平成20年から21年にかけて,皇居外苑濠管理方針検討会が設置され,管理方針の策定,既存浄化施設の調査,北の丸地区雨水汚水調査,配管改修予定などが検討されました。

 今の浄化能力では少なすぎる,また,送水管も細すぎるという問題を解決するための検討が進められていますので,平成22年には,具体的な設計にはいり,平成25〜27年には下水道の付け替えも完成しますので,その時期に合わせながら,浄水施設を改善し水質をよくしたいと考えているところです。

 皇居外苑は大変美しい場所です。東京RCのご協力で炭素繊維を利用した浄化実験なども行われていますが,水質の劣化は相当に進んでおります。一日も早く水質が改善されるように努力しているところです。

3.生物多様性条約について
最後に,皇居外苑の話から外れますが,「生物多様性条約」に触れたいと思います。
この条約は,地球上のあらゆる生物多様性をそれらの生息環境とともに最大限に保全し,生物資源を持続的に利用できるようにし,さらに生物資源から得られる利益を公平に分配することを目的とした国際条約です。

1992年5月にケニアのナイロビで採択され,92年6月の地球サミットで我が国を含む157カ国が条約に署名しました。

来年10月に名古屋で,生物多様性条約第10回締結国会議(COP10)が開催され,194カ国の参加が予定されています。

各国からの参加者の他,いろいろな企業,NGO,地方公共団体の職員など,内外から多数が集まり,大体1万人規模で3週間にわたって会議を開きます。
規模からいうと,21世紀初頭で,日本で行われる国際会議としては最大の会議と言えると思います。

 日本が主催国ですから,議長は日本が務めます。この問題は地球温暖化問題のように先進国と途上国の議論が対立しているものではありません。むしろ途上国を含めて「世界の自然環境をどのようにして守っていくか」という問題や「失われつつあるような種をどのようにして守っていくか」という議論が行われる会議です。

各企業や個人など,いろいろな形で参加していただいておりますので,企業としての取り組み,個人としての取り組みなどを発表する場も幅広く用意されております。

名古屋の「COP10」に対しても,是非,ご協力をお願いできればと思っております。