卓話


千年の真理と京都

2022年3月23日(水)

京都市長 門川大作氏


 ウクライナの首都キエフと姉妹都市として交流を深め、今年度は50年目です。ロシアによるウクライナ侵攻に心を痛め、ロシア軍の即時撤退と平和の回復を祈り、避難民の受け入れ等の支援活動を市民ぐるみで行い、責任を果たしてまいります。

 さて、「千年の心理と京都」。実は、これは哲学者の梅原猛先生の言葉です。梅原先生は仙台出身で、「18歳の時に東京で学ぶか、京都で学ぶか悩んだ。東京では100年の心理が学べる。京都に行けば1000年の心理が学べる。90歳になって、京都で学んでよかった。さあ、これからだ」とおっしゃってました。私共も歴史に学び、この100年、この10年をどう歩むのかを問い続けてます。

 京都の1000年を超える悠久の歴史は、疫病と戦乱、天変地変、それらを町衆がみんなで力を合わせて乗り越えて、より魅力的なまちづくりをしてきた歴史でした。その象徴が祇園祭です。

 約1150年前の貞観年間は富士山や阿蘇山の噴火をはじめ、各地で大地震があり、貞観11年(986年)には、東日本大震災と同じ地域で貞観地震が起き、1000人の方が亡くなった。その10日後、帝が神泉苑に66基の矛を立て、日本中の天変地変と都(みやこ)などで流行していた疫病の収まりを祈りました。ちなみに66は当時の日本の国の数です。そこに祇園社から神輿が贈られた。これが祇園御霊会、祇園祭の始まりです。

 今、世界中で天変地変とコロナ、そして、紛争が起こっています。その収まりを祈り、行動する、そうした役割も京都にはあるのではないか。

 3年前に祇園祭1150年記念でSDGsと連携した取り組みも行いました。持続可能なまちづくりをし、「誰1人取り残さない」というSDGsの理念の達成へ。この理念が祇園祭でもあります。その祇園祭がユネスコの無形文化遺産になりました。あらゆる災難等を乗り越えて、より魅力的なまちづくりを歴史に学び進めます。

 京都は、1978年に文化による京都の発展と世界平和の実現を希求した「世界文化自由都市宣言」を行いました。それ以後、文化を基軸とした新たな価値の創造を都市経営の根幹に置いてきました。21世紀を迎えるにあたって、「京都市基本構想」を市民ぐるみで議論し、哲学者の鷲田清一先生を中心にまとめました。

 第一章は京都人の6つの得意技を活かす「京都市民の生き方」です。千年を超えて京都の人に伝わる暮らしの美学、生き方の哲学を大事にしようというものです。

 「めきき」=時代を超えて本物を見抜く力。審美眼。
 「たくみ」=精緻なものづくり。
 「きわめ」=研ぎ澄まして、そして本質に迫る。
 「こころみ」=挑戦。進取の気風。
 「もてなし」=ホスピタリティ、インクルーシブ。
 「しまつ」=もったいない。サーキュラーエコノミー。
 この6つをしっかりと大事にしたときに未来は開ける。これらは「日本人の得意技」と言い換えられます。

 そして、この10数年は文化、景観、環境を中心に政策を進めてきました。文化は幅広く、教育、子育て支援、学術・大学まで含みます。

 私は15年前まで京都市教育長を勤めていました。今、文部科学省が行う学力テストで、私学が多い中で、市立小学校は20の政令指定都市でトップ、市立中学校もトップ水準です。子育て支援では、保育所は8年間、国の基準で待機児童ゼロ、学童保育は10年間待機児童ゼロです。保育士の処遇は全国平均360万円台の年収に対して、京都は470数万円台と1.3倍、保育士の数も、90人定員に対して国の基準12人に対し京都は16人と1.3倍です。

 次に景観について。バブルがはじけて日本中で規制緩和が進み、高層ビルやタワーマンションが建ちました。京都は「小さな東京にしない」と、建物の高さ45mのところは31mに、31mのところは15mにと逆の規制を強化しました。

 景観政策の象徴的なものが看板です。3万を超える建物から、屋上設置のもの、チカチカ点滅する看板等を撤去してもらいました。10年かかりました。

 そして、環境です。京都議定書の誕生の地の誇りと使命感に燃えました。さらに京都議定書はパリ協定へと発展しました。京都とパリは姉妹都市締結をして63年になります。パリ協定の実行を支えるIPCC京都ガイドラインが3年前に京都で採択されるなど、気候変動対策に力を入れており、エネルギー消費量は1997年のピーク時から29%減少しました。

 ゴミの量も82万tから39万tへと半分以下になり、5つあったゴミ清掃工場は3つに。市民1人当たりの1日のゴミ排出量は、京都396gと政令指定都市平均556gの7割で、さらに減らしていきます。

 次に財政です。私は市長4期目です。1期目は就任早々、リーマンショックがあり、過去最大の税収減、赤字転落でした。そのなかで、教育、福祉、子育て支援等を充実させましたが、財政は厳しいものがあります。外部評価制度で、1、2、3期目の公約はほぼ実行したという高い評価を受けましたが、財政の再建はできていません。4期目は財政再建、挑戦と改革を掲げて市民の信託を得ました。

 財政の厳しい要因の一つは、昭和の高度成長時代、国の制度がないときにいろいろな制度を先行して行い、国の制度が追いついてくるとそれを上積みしたことです。4期目の3年間を集中改革期間として、昨年、フルオープンの場で市民参加の下に策定した財政改革を実行しています。令和4年度予算では、しっかりと改革を今後も進めれば健全化への明確な見通しが持てるところまできました。10年後20年後に、あの令和の改革があったから輝かしい京都がある、そんな取り組みを進めていきます。

 歳出削減と同時に、成長戦略が大事です。
 まず、新たな価値を創造する「5つの都市デザイン」の実現を目指します。
 若い世代に選ばれる都市であるために、空間づくりプロジェクトに取り組みます。産業用地やオフィス、国内外の様々な企業が京都に拠点を置くための空間を作ります。さらに、若い人が住める住宅を供給します。

 そこで、景観政策です。景観政策は明確で、保存、再生、創造、この3つの調和です。保存するところは徹底的に保存します。ところが、京都市域全体が保存しなければならないような誤解を与えて、再生、創造に取り組めていませんでした。メリハリをつけた取り組みにします。

 その次に、文化と経済の好循環に全力を挙げます。そして、環境、脱炭素、SDGs未来都市、これら京都の強みを成長戦略に結びつけていく。京都市の中心部にあった産業会館等を解体し、経済4団体と40余の経済団体が同居する経済センターをオール京都で創設しました。毎日がトップ会談、実務者協議になり、オープンイノベーションの場にもなる、そんな取り組みが進んでいます。

 京都は、明治の初めに島津製作所等ができ、昭和には堀場製作所、京セラ、日本電産等が生まれたベンチャーの町です。今も様々な企業ができ、国内外から投資をいただいています。時代の潮流と、6つの京都の得意技、これを掛け合わせた成長戦略に邁進します。

 そして、京都が改めてイノベーションの源泉になっています。スティーブ・ジョブズやジョン・ハンケも京都に大きな影響を受けています。アメリカのスタートアップ企業「ノーション・ラボ」は京都でホスピタリティやものづくりに影響を受けながらビジネスツールを再構築し、それによって会社がV字回復、1兆円企業に。

 文化、デザインやアートの重要性がビジネス界で見直されている世界的な潮流に合流し、役割を果たします。この不確実な世界、論理的な思考だけでは解は見出せず、直感力や審美眼といったものの大事さが再認識され、京都が持続してきた力、調和の力、また暮らしの美学、生き方の哲学のようなものが高い評価を受けています。

 京都市への評価について、例えば、金閣寺と清水寺、祗園と先斗町を比較しない、どちらにも魅力があり優劣がないように、本来ランキングになじまない都市でありますが、都市特性や市民の努力が評価されたということで紹介します。森財団の「都市特性評価」1位〜2位(2018〜2021年)、日経新聞「SDGs・持続可能性先進度調査」第1回1位(2019年)、第2回2位(2021年)、市町村魅力度ランキング2020年1位などです。世界の旅行雑誌でも高い評価。

 また、文化庁が京都へ全面的に移転します。例えば、今までお茶は文化ですが食文化は農水省の担当。しかし、生活文化を大事にしようと法改正され、文化庁の担当に。明治維新から初の中央省庁の移転で、文化で地方創生をしていくことに京都の責任も重いものがあります。

 そして、京都市立芸術大学を京都駅東部エリアへ移転します。崇仁という地区に3万5000平米の用地を確保。芸術大学関係者、同窓会も含めて崇仁への移転という偉大な決定をされた。崇仁の方々もあらゆる協力を惜しまず、老朽化した改良住宅10棟ほどを解体して、工事が始まっています。

 さらに、その南側の東九条という地域には、チームラボが来て、地域一帯を現代アート等の拠点にする取組がスタート。これらの地域は長年差別の無い社会づくりに懸命に努力されてきた地域です。今年は日本初の人権宣言「水平社宣言」から100周年。この地域が文化芸術で人々の幸せと世界の平和にも貢献。その北側の菊浜は暴力団事務所がありましたが、全面撤去。そこが新たなスタートアップ等の拠点になっていきます。私達は「KYOTO STEAM」というアートとサイエンス・テクノロジーをテーマにした国際的な文化・芸術の祭典に5年間にわたって取り組みました。これをスタートアップにも繋いでいきます。

 文化の力で日本を元気に、そして文化で世界からより尊敬される日本になるために、皆さんのご理解、ご支援の下に取り組んでまいります。

 結びに一点お願いです。ふるさと納税です。コロナ禍で料理屋さんが大変だと、おせち料理を返礼品にしたところ、7億円の寄付金になりました。首都圏の方からがとても多いです。返礼品は京友禅・西陣織等の伝統産業製品、あるいは工芸品を用意し、京都ならではの匠の技の継承発展のために取り組みを強化していますので、どうぞよろしくお願いします。


  ※2022年3月23日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。