卓話


中国の陶磁器ー究極の美 の世界に遊ぶ  

2007年2月7日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

北京両慶美術館研究員
金立言氏

 今日は中国のやきもの、中でも特に日本との関係の深い、宋の磁器についてお話しいたします。

 10世紀から13世紀の間、北宋、南宋で焼かれたやきものは、日宋貿易を通じて、朝鮮半島や日本にも輸出しました。とりわけ、日本では中国の美術品を数多くコレクションしており、それらの作品は、東京国立博物館をはじめ、多くの美術館などにも収められています。

 中国の北と南を分けるのが長江です。地図でいうと、長江流域の上の方が北方、下の方が南方になります。宋の時代には、長江の南北のいずれの地域においてもたくさんの窯が築かれ、窯業の盛んな地域は多々ありました。

●中国の著名な窯
長江の南側では
青磁を中心に焼いた浙江省の龍泉窯(りゅうせんよう),青白磁を中心に焼いた江西省の景徳鎮窯(けいとくちんよう),黒磁を中心に焼いた福建省の建窯(けんよう)。また、南宋宮廷が自ら築いた南宋官窯(なんそうかんよう)は、貫入のある青磁を焼いた所として知られています。

長江の北側では
青磁を中心に焼いた陝西省の耀州窯(ようしゅうよう),白磁を中心に焼いた河北省の定窯(ていよう),白磁鉄絵を中心に焼いた河北省、河南省周辺の磁州窯(じしゅうよう)があげられます。

●宋の磁器と日本
10世紀から13世紀の宋の時代は、日本との貿易が盛んで、天目の茶碗や龍泉窯の青磁などが日本に輸出されました。日本は伝来した中国の陶磁器をことのほか大切に扱ってきました。今日、陶磁器の世界では日本語がそのまま世界用語になっているものがいくつかあり、例えば、「天目」、「砧青磁」などは「TENMOKU」「KINUTA」の表記で各国に通用しています。

●日本にある宋磁の名品を中心とした紹介
1 青磁の世界

*[青磁刻花花弁獅子口水注]、これは12世紀末に北方の耀州窯で焼かれた著名な作品です。深彫りの技法で牡丹の花を表し、堂々とした高台は非常に安定感があります。さらに、水注の注口の部分を獅子にかたどり、それが見所になります。高さ18.7cm、アメリカのクリーブラント美術館の所蔵です。

日本では、国宝、重要文化財という分類をしますが、中国では一級文物、二級文物の分類を使って美術品の評価に当たっています。今日紹介する作品はいずれも一級文物にあたる非常に完成度の高い器です。

*[青磁刻花牡丹唐草文瓶]、耀州窯の片切彫りの瓶で、重要文化財に指定されています。非常に伸びやかな線で牡丹の花が堂々と彫られ、器形も厳しさがあります。宋の徽宗皇帝の頃につくられた緊張感のある作品だと思います。高さ16.7cm、大阪市立東洋陶磁美術館の所蔵です。

*[青磁輪花鉢]、やはり耀州窯の作品です。このような深みのある青磁の釉薬が耀州窯の特徴で、ほかの窯の青磁と一線を画しています。器形は六弁花の花びらの形になっており、見込みにも文様が施され、二匹の鳳凰が向き合っています。口径15.7cm、東京国立博物館の所蔵です。

*[青磁鉢]、南宋官窯の作品ですが、口縁は漆金で少し修理してあります。これが貫入のあるタイプの青磁です。ひびの入っているこのような焼き上がりは、敢えてつくられたもので、決して欠点ではありません。透明と不透明な貫入は二重貫入と称し、南宋官窯の特徴です。口径26.1cm、東京国立博物館に所蔵され、重要文化財として指定されています。

*[青磁鳳凰耳瓶]、南宋龍泉窯で焼かれた作品です。日宋貿易の時に日本に伝わった作品と思われます。茶の湯の世界ではこのような花入に椿の花などを活け、非常に珍重されたものです。高さ26.6cm、現在、京都の陽明文庫に所蔵され,やはり重要文化財に指定されています。

*[青磁花弁鉢]、これも龍泉窯の作品で、蓮の花弁をかたどり、特に釉が非常に美しく発色しています。大きく割れているのをかすがいで止めてあります。実は15世紀に足利義政がこの茶碗を手にいれ、傷があることから新しいものが欲しいと中国まで持ち込まれましたが、これほどすばらしい青磁の茶碗は中国でも焼けないということで、かすがいで修理して日本に戻したという由緒が知られています。修理の跡が大きな蝗に似ていることから「馬蝗絆」という別名が与えられました。口径15.4cm、東京国立博物館蔵。

2 白磁の世界

*[白磁花文瓶]、景徳鎮で焼かれた白磁です。少し青味のかかった白磁であるため、「影青」(いんちん)と呼ばれています。形がシャープで北宋の12世紀後半の作品と思われます。宋代の景徳鎮において、このような青みのかかった白磁を多く焼きました。高さ22.5cm、個人の所蔵品であります。

*[白磁鸚鵡形盃]、変わった形の作品です。目のところだけに黒い釉薬を点じています。鸚鵡形の盃ですが、さきほどの景徳鎮の白磁とは異なり、やや軟質な感じがします。恐らく広東・福建あたりの南方窯のものではないかと思われますが、窯址が発見されていないため、はっきりしたことは分かっていません。長径15.2cm、個人蔵。
 
*[白磁花文鉢]、先ほどは南方の白磁を紹介したが、北方の白磁に移ります。河北省の定窯で焼かれた線彫の文様のある鉢です。中に大きく蓮の文様が線刻され、非常に流麗な線で表現されています。口には後世につけられた金属の覆輪があり、補強の意味もあったかと思います。口径18.7cm、東京国立博物館蔵。

*[白磁刻花唐子形枕]、定窯で焼かれた名品です。碗や皿以外にもこういった複雑な器形をなす作品がつくられ、この枕はとくに造形的に手の込んだ仕上げになっています。子どもが大きな蓮の葉っぱを持っている造形で、1500度ぐらいの高温にも変形せず、当時の技術の高さを物語るところだと思います。定窯の白について、欧米ではアイボリーホワイト(象牙の白)と呼び、柔らかいクリーム色のかかった釉が特徴です。この枕に関しては,恐らく実用品ではなく、裕福な階層か貴族の墓に納められたものではないかと言われています。長さ20.8cm,サンフランシスコ・アジア美術館に展示されています。

3 ほかの宋代の陶磁器

*[油滴天目茶碗]、福建省の建窯で焼かれたもので、鉄分の多い土を使っています。油滴は、銀の粒がきれいに出ている作品がめずらしく,これが日本に伝来し、茶人に珍重されました。現在紹介しているものは日本にある天目茶碗の中の名碗の一つで、国宝に指定されています。口径12.2cm、大阪東洋陶磁美術館蔵。

*[白地黒掻落鵲文枕]、磁州窯の作品で,掻落(かきおとし)の技法で表現されています。掻落とは土の上に白土で化粧をし、その全面を塗った後に黒い釉薬をかけます。それから文様を描き、その余白の部分を削り取って、文様の部分だけを残すという、手の込んだ技法のことです。この技法でつくられたものは白と黒のコントラストが非常に印象的で、数年前、大阪で行われた磁州窯の特別展では「白と黒の競演」というタイトルが付けられました。長径が33.3cm、出光美術館が所蔵しています。

*[白磁黒掻落龍文瓶]、磁州窯の掻落の大作です。梅の花を挿したといわれた梅瓶(メイピン)という器形のものです。迫力のある龍の文様が一面に堂々と登場しています。高さ40.8cm、白鶴美術館の所蔵品です。

*[白磁黒掻落牡丹文瓶]、先の梅瓶と双璧をなす傑作です。余白をたっぷり取り、掻落の手法で非常に立体感に富んだ牡丹の文様をあらわした作品です。高さが40.2cm、永青文庫の所蔵する重要文化財です。

*[褐彩花文瓶]、磁州窯では多種多様のやきものをつくりました。この作品は、黒い釉薬の中に、鉄絵で大きな牡丹を表現しています。高さ43.4cm、東京国立博物館にある名品の一つです。

*[赤絵魚文碗]、一回焼きあげた碗に緑と赤の色を加え、二度焼く技法で完成された13世紀の上絵の作品です。この技法は明と清の時代に受け継がれていきます。魚と蓮の花は非常に屈託のない健康的な文様であり、当時の清新な息吹を伝えているかのようです。口径12.0cm、石洞美術館蔵。

● 宋から元へ ―――「青花」の技法を手にする景徳鎮窯
以上に紹介したのが宋のやきものでありまして,宋の時代が終わると元の時代になります。その頃、景徳鎮において、日本でいう染付、すなわち「青花」(せいか)の技法が開発され、作品を次から次へと世に送り出し、一躍やきもの生産の中心地になりました。それが明と清の時代を経て、今日に至ります。

*[青花龍文壺]、元の青花磁器の名品の一つで、堂々とした壺に躍動感にあふれる龍の文様が一面に展開されています。新技法を手にした景徳鎮の陶工たちの誇らしげな様子を見るような気持ちです。高さ29.3cm、東京国立博物館の所蔵品です。

現在の中国において、美術品に対する関心は非常に高いものがあります。経済の発展と相俟って、美術品を収集する、そのために海外から買い戻すという状況が起きております。それに関連して、オークション会社も雨後の筍のように増え、名品を次から次へと海外から買い戻しております。今後、皆様も中国に行かれる機会がありましたら,ぜひ新たに開館した博物館などに足を運ばれ、中国の現在の息吹を感じ取っていただけければ、うれしく思います。