卓話


地球温暖化:最新の科学的知見

2016年3月2日(水)

一般財団法人リモート・センシング技術センター
参与 近藤洋輝氏

 近年、猛暑や豪雨など、異常気象の頻度・強度が激化していることはお気づきだと思います。2015年夏、東京では猛暑日が8日連続となり熱中症が多発し、9月には「関東・東北豪雨」により鬼怒川が決壊し甚大な被害を生じました。こうした災害は過去になかった記録的な規模になる傾向にあります。

 また、2015年末にパリで開催された国連気候変動会議(COP21など)で、パリ協定が合意されました。これは2020年から実施する全ての国の参加による新たな枠組みで、共通の長期目標として1750年工業化以前の基準年)からの気温の上昇を2℃より十分低く保つとともに1.5℃に抑える努力を追求すること、それから、主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新するものです。なぜ2℃かや、また主要国の状況についてもお話ししていきます。

 気候とは気象や天候の平均的状態をいいます。太陽活動の変動や火山の噴火等は自然の変動です。本来は、いろいろな気候のサブシステム(構成要素)が作用し合い、あるバランスに落ち着いており、その中で多少の変動がある状況でしたが、人間による影響が大きくなり、そのバランスが崩れてきていることが問題になっています。

 典型的な例では、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が1950年代から今日に至るまでの観測で一貫して増加していることです。それは、1750年での推定値は、278ppmですが、2014年には世界平均で397.7ppmとなり43%も増加し観測史上最大となったことが判明しました。大変異常なことです。1970年代にはCO2濃度の増加が地球温暖化を生じさせる可能性の研究から、国際的な懸念が高まりました。

 世界の政策決定者達は、1988年にWMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)の協力の下、気候変動に関する政府間パネル(IPCC) を作り、1990年にはその第1次評価報告書(科学的知見に関する第1作業部会<WG1>の担当分は410頁)を出し、「増大している人為起源の温室効果は気候変化を生じさせる恐れがある 」「 安定化のためには、温室効果ガスの大気中濃度を一定に抑える必要がある」などのメッセージを出しました。2013〜14年発表の第5次評価報告書(AR5)はWG1だけで1535頁と分厚くなっており、その間に知見も進んできました。

 最初の報告書を受け、1992年国連は「国連気候変動に関する枠組み条約」(UNFCCC)を採択しました。その第2条には目的として、The ultimate objective … is to achieve, …., stabilization of greenhouse gas concentrations in the atmosphere at a level that would prevent dangerous anthropogenic interference with the climate system.(究極の目的は…気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることである。)とあります。

 1997年にその第3回締約国会議 (COP3)では具体的な実施に関する「京都議定書」が採択されました。発効は2005年で、主に1990年を基準として先進国にのみ削減義務を負わせました。1990年の先進国の中では、最大の排出国は米国で、次にロシア、日本が3番目でした。2011年までの各国の排出量の変化をみると天井を打っている状況ですが、途上国の中国では近年急速に増大しており2010〜11年の年増加率は9.9%であり、インドも増加する勢いが見えます。さらに、2012年の世界全体のCO2排出量は約326億炭素トン(炭素量に換算したトン数)です。その各国排出量の割合は、中国が一番高く27.8%、米国15.8%で、EU諸国と米国を合せたものが中国と同じ程度です。

 IPCC/AR5はCO2排出量の増え方について、どの程度削減していくか、増加にまかせるか等、人類の振る舞いによって4つのシナリオを考え、それに基づいた将来予測をしています。それをRCP(Representative Concentration Pathway)シナリオといいます。人為的排出による大気中の温室効果ガス濃度の増加の程度が放射強制力(地球を温める力)の増大をもたらしますが、その高い順からそれぞれRCP8.5、RCP6.0、RCP4.5、RCP2.6(数字の由来は省略)と呼ばれています。現実は4つのシナリオで最も高排出側の、RCP8.5に沿っている状況です。

 AR5の観測的知見は、「気候システムの温暖化は疑う余地がない」ということです。
 気温に関しては大きな流れで上昇傾向にあり、この状況は続くことが後で示されます。WMOは「 2015年は世界平均気温が観測史上、2014年の記録をさらに超えて、最も高い年であった (2016年1月25日)」と発表しています。気象庁も独自の統計解析から、「2014年の世界の年平均気温は、…中略…統計開始年の1891年以降で最も高い値となった(気象庁, 2015年)」と発表しています(2015年に関しては近く公表)。地球の平均地上気温の変化は長期間 (1901–2012年)にわたり、ほとんど全ての地域で上昇が見られます。

 年降水量の過去110年間における平均変化率(10年当たり)では、地中海地域は乾燥傾向にあり、多くのの中緯度地域は雨が多くなっています。最近60年間における変化率は増大しており、乾燥傾向の地域は一層乾燥化が強まり、雨が増えている地域はより多量になるなど加速化しています。

 それから、1950年頃以来、多くの極端気象・気候現象の変化が観測されてきました。寒い日・寒い夜の数が減少し、暑い日・暑い夜の数が増加しました。

 北半球の積雪面積と北極の夏季海氷面積を見ると、過去20年間、 北半球の春の積雪と北極海氷の夏の面積が大きな傾向として縮小し続けてきたことがわかります。特に上記の海氷面積は、1979年から2015年までの毎年9月のデータでは、2012年に衛星観測史上最少です。また、氷の厚さも減少しました。

 温暖化の熱エネルギーのほとんどは海に吸収されています。海洋は700mまでの海洋表層(上部)とそれより下の深層を合わせて、93%の熱を吸収しています。近年、海洋では最深層部も吸収しています。次に氷(氷床・氷河)や陸が少し吸収し、大気の吸収はわずかに約1%に過ぎません。そのため、圧倒的に海が気候を支配します。また、海面水位は、世界的にはほぼ一方的に上昇しています。その主な原因は、海洋が暖まり膨張すること、氷河が溶けること、グリーンランドや南極の氷床(巨大な氷の塊)が溶けること、それから陸地における貯水量の減少です。ただ注意しなければならないのは、海面水位の変化は地域的に見ると一様ではなく地域差があることです。

 こうした気候変動をもたらす原因は何か。
 地球を温める方向に作用する放射強制力には、自然起源では太陽活動の変動や火山の噴火、人為起源では温室効果ガスの排出(化石燃料の燃焼など)や土地利用の変化(大気中にCO2放出) などがあります。それらの観測結果から、温室効果ガスといわれるCO2、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)の大気中濃度は全て1750年以降、工業化の進展につれてしだいに加速的に高くなり、放射強制力の働きが増大してきたことがわかります。 人為起源のCO2は、ある程度海洋や陸域生態系が吸収しますが、吸収しきれないものが大気中に残留・蓄積(累積)されていきます。海洋は排出されたCO2の約30%を吸収し、酸性化(pH値の減少)を引き起こしています。

 そして、温暖化の原因特定のために、複数の気候モデルを用いて、20世紀の気候変化を再現するシミュレーションを、観測された人為起源・自然起源両方の外力を加えた場合と、自然起源の外力のみを加えた場合の比較実験が行われています。実験結果から、20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇は、自然起源に加え人為起源の外力も入れた場合のみほぼ観測に近く再現されることが分かり、したがって温室効果ガスの増加による可能性が非常に高いことがすでに第4次評価報告書(AR4 AR4、2007年)で示されました。AR5でさらに進んだ実験が行われた結果、「極めて可能性が高い(95〜100%)」という一段と進んだ評価がされています。

 次に、肝心な将来の気候変動予測です。4つのRCPシナリオに基づいたモデルを1986〜2005年(20年間)の平均値からスタートさせると、世界平均地上気温の上昇予測は、工業化以前に比べ、RCP2.6(低位排出量)だけが2℃を超える可能性が低く、パリ協定に対応可能となります。一方、なりゆきまかせの最も高い排出シナリオ、RCP8.5では4.3℃程になる可能性が高くなります。シナリオにより程度の違いはありますが、極端現象は頻度や強度が激化する傾向が続きます。たとえば、熱波(高温日の連続)の頻度は増加しより長く続く可能性が高い。また、極端現象の変動幅の激化からは、近年たまに生じる冬季の極端な低温も今後引き続き発生するでしょう。海洋はさらに深海まで暖まり続け、北極海氷は面積が一層縮小し、厚さも薄くなり続け、特にRCP8.5では今世紀後半には、9月に消失が生じます。北半球の春の積雪面積が減少することも非常に可能性が高い。海面水位も上昇し、海洋の酸性化もさらに進みます。

 こうした予測に関しては、日本も地球シミュレータを活用した地域規模でも詳細な予測の研究などをしています。日本の予測モデルは世界でも最先端にあり、その研究成果はAR5に大きく貢献しています。

 更に、AR5では、ある時点の気温上昇量が、人為的なCO2がそれまでに増え続けてたまった量(累積排出量)にほぼ比例することがわかりました。2℃になる累積排出量は約790 ギガトンカーボン(GtC、炭素量に換算した量で、1Gtは10億トン)です。ところが2011年までですでに、515 GtC塁積しているので、残りは275 GtCになり、これを排出してしまうと2℃の上昇になってしまいます。また、研究結果によれば、昇温量があるしきい値(1℃〜4℃)を超える上昇が長期間(千年あるいはそれ以上)持続すると、グリーンランドはほぼ完全に消失し(不可逆的変化)、それによって世界の海面水位に7mの上昇をもたらすことが指摘されています(高い確信度)。影響評価の研究結果からは、2℃の上昇量では、一部の生態系や文化に影響を与え、熱波、豪雨、沿岸洪水などの極端現象が大きく激化します。4.3℃上昇したら生物多様性や世界経済も含めたあらゆることにまで大きな影響を与えることが指摘されています。また、緩和策の研究からは、地球全体のエネルギーバランスなどに基づく簡易モデルにより、多数のシナリオに対する気温上昇予測の結果から、WG1と矛盾のない知見を示しています。

 このようなIPCCの知見に基づいた、政策決定者の判断から、2℃で昇温を抑えようという共通目標や、小島嶼国などが国土の存亡にかかわるとして、1.5℃に抑えたいということにも配慮した議論が、パリ協定の内容・表現につながったわけです。

 主要国をはじめ各国は自国の削減目標をすでに出していますが、それだけではとても十分とはいえません。しかし、幸いなことにパリ協定は5年ごとに見直すことになっています。5年後に「これじゃだめだ」と皆が努力するかどうか、そこが重要だと思っています。