卓話


知的財産をめぐる世界の動向

2019年9月25日(水)

特許業務法人酒井国際特許事務所
会長・代表社員 酒井宏明君


 特許行政年次報告書によれば、世界の全ての特許庁に出願された総数は2017年で約316万9千件です。2008年には193万件でしたので、10年間で1.64倍に増加しています。技術革新が、かなりの速度で進んでいることがわかります。この2017年における特許出願件数の伸びは、主に中国企業による中国特許庁への出願によるものです。ここ数年、中国企業による特許出願件数は経済の発展に伴い大幅に増加しています。

 一方、特許出願された結果、世界の各特許庁の審査を経て発行された全特許数は、2017年には140万5千件でした。2008年には78万2千件でしたので、やはり10年間で1.8倍に増加しています。その結果、近年は、益々、特許が世界の経済活動に深くかかわっています。

 では、わが国の特許庁に絞って出願件数を見てみましょう。日本国特許庁に対する2018年の出願件数は、31万3567件です。過去10年を見ますと、毎年減少傾向にあり、残念ながら、10年間で3万5000件ほど減少しています。日本を含む世界の企業において、日本は魅力がないのか、元気がありません。反対に、世界で特許化を目指すPCT国際出願の件数は、日本国特許庁に対し、2018年は4万8630件と過去最高の件数となっています。研究開発や企業活動のグローバル化が大きく進展し、国内以上に海外での知財戦略の重要性が増している背景があります。

 つぎに中国特許庁への出願件数を見てみましょう。2014年には92万8000件であった出願件数が、4年後の2018年には154万2000件に達しています。2018年の全出願件数の内90%にあたる139万4000件は、基本的に中国企業による中国特許庁への出願です。これにより全世界の特許庁に対する出願総数がかなり伸びています。中国企業が特許を重視し、知的財産をしっかりと確保する企業戦略を進めていることがわかります。ちなみに、日本企業による中国出願は、2018年では4万5000件程度であり、中国特許庁への全出願のわずか2%にすぎません。日本企業の、中国において展開する知財戦略に影響を与えかねない数字ではないでしょうか。

 では日本企業は、わが国以外には、いずれの国にどの程度出願をしているのか見てみましょう。これにより、日本企業における各国に対する知財戦略の重要性がわかります。2017年を見ますと、日本企業の海外出願の総件数は199万1000件です。このうち米国への出願は86万1000件で全体の43%を占め、中国への出願は40万9000件で21%を占めています。米国と中国への特許出願で、日本企業の全海外特許出願の64%を占め、この2か国に対する知財戦略の重要性を確認できます。

 つぎに日本企業の知財活動費について見てみます。2017年の知財活動費の全体推計値は約7500億円、そのうち出願系費用に5000億円程度と約67%を支出しています。これは、従来から続く出願至上主義の表れであり、知財の積極活用という面から、世界基準の考え方、いわゆるIPランドスケープという知財経営への移行が、日本企業において遅れているように思います。欧米企業が積極的に進める特許を利用したオープン・イノベーションや、M&Aのための知財デューデリジェンス等、特許を含む知的財産を企業経営の重要な柱として活用する事業戦略の、積極的な推進が今後期待されるところです。

 一方で日本企業のグローバル化の中で知的財産の国際取引も活発化しています。財務省の国際収支統計によると、わが国の産業財産権等使用料の国際収支は、2018年において過去最大の3.5兆円の黒字になっていることに注目です。

 以上のように、知的財産の世界でも、近年、特に中国の台頭が目立ちます。そうした中で、日本企業も、自社の持つ特許を有効活用し、直接的な収益と発展の活力に結び付けられるような知財経営を推し進めなければなりません。わが国が、より高度な知財立国を目指すためにも、今こそ、知財戦略の重要性を再認識する必要があると思います。


首都圏の空の現状と課題

2019年9月25日(水)

空港施設(株)
代表取締役副社長 乘田俊明君


1.航空輸送の現状
 我が国の国内航空旅客数は、2017年の統計で1億200万人、うち約6割が羽田便の利用者です。一方、国際航空旅客数は、9600万人。リーマンショック後の10年間で約1.8倍に増加、その要因はLCCの参入と訪日外国人旅行者の増加等によるものです。国際線LCCのシェアは、2007年には全体の0.4%であったものが10年後には21.7%に拡大。また訪日外国人旅行者は、2007年の800万人から昨年は3.9倍に急増し3100万人に達しました。品質面では、各国際線拠点空港が、清潔さ、設備の利便性、スタッフの質、保安水準、手荷物取扱い等で世界トップクラスの評価を得ています。

2.羽田空港と成田空港の役割分担
 羽田空港は都心からのアクセスの優位性もあり、ビジネス需要が強く、フルサービスの便が中心です。日中時間帯は既に離発着枠の上限に達しています。政府は訪日外国人増を重要な取り組みとしており、東京オリンピック・パラリンピックを控え、都心上空を飛行するルートの新設により、来年度から国際線の枠が一日50便増え、新たに7ヶ国の路線が開設されます。

 一方、離発着枠に多少余裕のある成田空港には、東南アジアと北米間の乗継便や、羽田では乗り入れ制限がある国内線LCCと、観光需要が主体の国際線LCCが多く就航しています。今後も国際線LCCの需要は伸びていくと想定される一方、乗継便については、北アジア近隣の主要空港との利便性の競争や、航続距離の長い航空機による東南アジアと北米間の直行便の動きを、今後注視していく必要があります。

3. 10年後、その先の課題
 国内線は、人口減少の懸念はあるものの足元は堅調です。国際線は、今後20年間の年平均成長率が世界平均の毎年3.5%に対し、アジア・太平洋地域は、4.8%と予測されています。政府は2030年に訪日外国人6000万人を目標としていますが、達成の為にはいくつかの課題があります。

 先ずは、空港の機能強化・容量拡大です。羽田については、都心飛行ルート開設で700万人の国際旅客増を見込んでいます。更にその先、羽田の沖合に5本目の滑走路を建設するアイデアがありますが、実現には10〜15年はかかると思います。成田においては、3本目の滑走路の増設が決定しましたが、運用開始には10年はかかるでしょう。したがって、この間の地方空港の更なる活用が非常に重要なテーマとなります。

 次に、労働力不足への対応です。地方空港においては、航空機の整備、荷物の搭載等で人員が足りず、定期便・臨時便の要望に十分応えきれていません。要員増対策として、特定技能外国人の活用も検討されていますが、安全業務を担うため、日本語教育、資格取得、戦力化には時間を要します。航空機周りの作業もテクノロジーを活用し一層省力化を進めていく必要があります。また、パイロット不足も深刻です。20年後には世界で現在の約2倍の要員数が必要との予測がありますが、供給が追い付いていないのが現状です。需要が激増している中国、インド、アジア各国では国境を越えて奪い合いが起きており、今や外国人パイロットの採用も容易ではありません。要員確保対策として、機長の資格年齢を68歳に延長、航空大学校の定員を1.5倍に増員、航空会社では自社採用数を増やす等、短期・中長期的での打ち手を講じているところです。

 その他、インフラの経年劣化や、空港アクセス等々の諸課題を着実に解決し、日本ならではの質の高い航空サービスを提供し続けることが、将来に向け何より重要であると思います。