卓話


会員増強・拡大月間例会
経営戦略としての・ダイバーシティマネジメント

2020年8月5日(水)

NPO法人 J-Win
理事長 内永ゆか子氏


 私は開発製造をバックグラウンドとしているため、日本IBMでダイバーシティを専門にやってきた訳ではありません。1993年にIBMが危機的な状況になった時にルイス・ガースナーという人が外から来て、IBMの立て直しをしました。その戦略の一つがダイバーシティでした。

 私は彼に、「あなたがダイバーシティを進めてくださったお陰で日本IBMも役員の数が増え、女性活用も随分進展しました。ありがとうございます」と言いました。すると、「自分は女性のためにやったんじゃない。会社の文化を変えない限り、IBMは過去の成功体験が強烈であるだけに変えることができない。そのためにはダイバーシティがとても大事であり、その第一歩が女性だった」と話してくれました。

 多様性はこれからの世の中にとって変化をもたらすために避けて通れない極めて大事な要素であるとその時につくづく感じました。そうした観点から、企業のダイバーシティを進めるこのNPO法人J-Winを設立したのが2007年でした。

 トーマス・フリードマンの『The World Is Flatフラット化する世界』という本に感激しました。地球は時間や地域や国等の壁があったが、テクノロジーとネットワークの進歩によって壁が低くなり、隣で物事が起きているかのような時代になっている。そうなるとビジネスのスピードは半端ではなく、勝ち残るにはビジネスモデルを変えるしかない、というものです。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた30年ほど前は、改善、クオリティの向上を一生懸命やってきた。しかし今はビジネスモデルを変えるしかリーダーシップはとれないと彼は言っています。

 テクノロジーの進歩はまだ途中です。半導体の機能がどれ位進歩するかという経験則である「ムーアの法則」は、半導体は10年で100倍良くなる、20年で1万倍良くなると言っています。皆さんが持っているスマホの機能は、20年前は大企業が大枚のお金を支払って使って頂いた大型コンピューターの機能です。ムーアの法則は、これからも20年はまだ続くと言われます。

 ビジネスのスピードが非常に早くなる中で一番手になるにはビジネスモデルを変えるしかない。その時の一番の問題は、モデルを変える決断をする方々が”成功してきた方”ということです。過去のモデルで大成功した方々が今トップにいて、その方々が新しいモデルを考えるというのは論理矛盾を起こす訳で、多様な人材を活用して発想の転換をするしかない。バックグラウンドを変える、価値観を変えるというのは、どんなに優秀な方でもこれは難しい。

 ただし、日本の企業でダイバーシティを徹底的に進めようとすると会社は混乱します。うまくステップを踏まないと、弊害が出るかもしれない。私はいつも、「多様性のハードルが低い女性活用はダイバーシティの第一歩。女性活用がゴールではなく、女性活用によって会社の仕組やマインドを変えることにより本当の意味でのダイバーシティが導入しやすくなる」と申し上げています。

 ジェンダー・ギャップ指数は、世界経済フォーラムが毎年1回、男性と女性のギャップについて教育、健康、政治、ビジネスの4つの指数で公表しているものです。日本は昨年153か国中121位でした。実は、2010年が94位。10年間、安倍首相が女性活躍を掲げ、企業が一生懸命推進し、2016年の女性活躍新法ができ、ものすごく進歩しましたが、世界からは圧倒的に取り残されています。

 なぜ、世界が急激に進んだのか。それは、多様性が経営戦略における大きなキーになるとグローバル企業のトップが皆思っているからです。

 女性活用を積極的に推進する企業とそうでない企業で業績に違いが出るのか、といった質問をよく受けます。アメリカのCATALYSTという団体が、フォーチュントップ500の企業をボードメンバーに占める女性比率でランキングをし、その上位4分の1と下位4分の1を抽出し、それぞれの企業群の業績比較をしました。その結果、女性役員が多い企業の株主資本利益率は少ない企業のそれを53%、売上高利益率は42%上回るという圧倒的差が出ました。

 日本で、多様性の第一歩である女性のキャリア・アップを阻害する要因の1つは、まず女性の意識が低いこと。女性のロールモデルがいないため、将来像が見えない。もっと言えば、「企業で偉くなるって何?そんなものちっとも良くない」と女性は言うんです。私は組織の中で上がっていくことが自らの人生にとってどのような意味があるのかを、子供に教えるように話しています。

 2番目は仕事と家事育児。私はワークライフ・マネジメントという言葉を使っています。

 3番目は、オールド・ボーイズ・ネットワーク。この言葉を私が初めて聞いたのは、IBMで女性のエグゼクティブがグローバルで集まり、女性役員の増加について議論した時です。組織があって、大成功を収めて、長い歴史があり、それを引っ張ってきた人達が長い間作り上げてきた約束事、ビジネスルール、物の言い方等が組織毎にあり、その組織が成功すればするほど強くなると。これは、女性が上に行くことを意識して排除している訳ではありません。無意識のうちに女性に対して教えていないんです。でも男性に対してはいちいち教えている。これが大きなバリアになっています。

 この3つの阻害要因に対してJ-Winは果敢にチャレンジしてきました。メンバー企業にお願いして、課長になる前、なったばかりという女性を毎年2人ずつ出してもらい、300人弱を1年間お預かりし、「High Potentialネットワーク」と称してトレーニングし勉強してもらいます。キャッチコピーは「スイッチオン!」。キャリアに対するスイッチを入れろ、です。

 次のネットワークは課長、部長クラスの「Next Stageネットワーク」。この層は「課長になっちゃったらもうおしまい」と思うところがあってなかなか上にいかない。この人達には「ギアアップ!」です。

 その上が「Executiveネットワーク」で、キャッチコピーは「チャレンジ&ギブバック!」。もっとグローバルに活躍できるようにチャレンジしてください。そして、自分が役員になるにあたっていろんな方に助けて頂いていることを忘れずに、それを若い人達に還元して下さい、という意味です。 こうした活動を14年間続け、今、卒業生が約3,000人います。そして現在、この3つのネットワークで約600名が活動しています。

 私達のネットワークのスローガンは「Women to the TOP!」です。一番下の若い層が活動を開始する際、「トップを目指したいですか?」と聞いています。会社から選ばれた人でありながら、「トップを目指したい」と答えるのは半分以下。この女性達が1年間、海外研修をはじめいろいろな活動をした後に、同じ質問をすると93.2%が「目指したい」と答えます。14年間、全く同じパターンです。

 昔の話になって恐縮ですが、1999年、日本IBMの女性活躍を私がリーダーになってやりました。その当時、女性社員比率は13%、管理職の女性は1.5%。5年後に管理職に占める女性比率を13%にする目標を立て、それを達成しました。その施策の一つがワークライフ・マネジメントです。その時、女性社員達は「場所と時間から自由にしてほしい。その代わり、仕事を明確にアサインしてほしい」。今でいうテレワークを導入し上手くいきました。2001年には全社員を対象に実施しました。その時、私はコーポレートに、「日本IBMもテレワークをやったんです」と報告しました。すると、「171ヶ国の残り10ヶ国がまだテレワークをやっていなかったが、日本IBMがようやくやったか」と言われました。

 今年3月、テレワークを導入していた都内30名以上の企業は24%でした。それが4月になって62.7%まで増えた。私は日本の企業にテレワーク導入をずっと申し上げてきましたが、20年間抵抗されていたのです。それがこの数カ月で一発です。新型コロナウィルスも一つ良いことがあるんだな、と思いました。

 ただし、テレワーク導入もそう簡単ではない。ジョブディスクリプションの明確化、成果による評価システム等、色々なことを変えなければいけません。メンバーシップタイプである日本の働き方をグローバル企業が行うジョブタイプに変える必要がある。やり方をそのまま導入することには議論が必要ですが、この要素を早急に皆さん方でお考え頂きたいと思います。

 さて、オールド・ボーイズ・ネットワーク。日本はこれがとても強いのです。大学卒業してそのまま会社に入り、終身雇用で上がっていく訳ですから、ファミリーみたいなもので、その中の約束事は山ほどあります。男性の方々はそれを「あうんの呼吸」でお互い伝え合っているのですが、女性は教えてもらえないのでいつまでも知らないのです。

 ダイバーシティを進める上での障害について、推進担当者100名にアンケートを取りました。上位は、忖度や行動の押しつけといった「男性の意識」です。それから、「女性の意識」、「ワークライフ・マネジメント」。これらが三大要因です。

 J-Win は、これらの3つの問題に対してアクションを取り、これまで約3,000名の女性リーダーの育成を行ってきました。そして女性活躍を阻む最後の壁「オールド・ボーイズ・ネットワーク」へのチャレンジとして、男性メンバーによる男性ネットワークの活動を始めています。

 しかし、一番大きな課題があります。それはトップのリーダーシップです。ダイバーシティは経営戦略であり、発想の転換のために必要なのです。人事マターで収めてしまうと小手先になるため、本質的に変えようとするにはトップのリーダーシップが絶対です。今年の10月にトップエグゼクティブコミュニティをスタートし、トップの方々に約束していただくことを始めたいと思っています。

 ダイバーシティは、これからの企業の変革に於いて大変大事なKey Actionです。そして “Diversity is the Game Changer”をキーワードにして進めてゆきたいと思っております。ぜひご賛同いただければ幸いです。


    ※2020年8月5日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです