卓話


イニシエイションスピーチ

2011年8月10日(水)の例会の卓話です。

中村公一君
リチャード・ ダイク君

メンテナンスについて
                   
山九蝓‖緝充萃役社長
中 村 公 一 君
                    
 本日は,日本の基幹産業である鉄鋼・石油・石油化学・電力等のメンテナンスについてお話させていただきます。

 メンテナンスとは,設備の状態を診断し,修理,復旧し初期の状態に戻す,すなわちメインテインする仕事です。

 メンテナンスには2種類あります。設備オーナーの生産計画に織り込まれた定期メンテナンスと,機械トラブルや操業トラブルから起こる非定期メンテナンスです。

 この非定期は経済状況にもよりますが,生産計画の狂いを最小にする為,緊急性が高く,24時間体制で対応するケースもあります。

 当然,東日本大震災ではインフラが壊滅的状況の中,被災した工場の復旧の為,全国から技術・技能者が移動し,現在も継続対応しています。震災の翌日の12日には,全国から数千名が移動し復旧に対応しました。その手配の為に,3月16日はスピーチをキャンセルせざるをえませんでした。

 基幹産業の工場を見学された方も多いと思いますが,そのほとんどが操業中に見学されていると思います。多分,工場構内には殆ど人は居なかったと思います。それが操業を止めて,メンテナンスに入ると様相はがらりと変わります。

 定期修理(シャットダウンメンテナンス),特に,石油・石油化学では少なくとも1,000名/日,多い工場では20,000名もの人達が,1〜2ヶ月間従事し,詳細な点検,消耗品の交換,劣化補修に従事しています。

 その集まった人達は,溶接・配管・仕上げ・回転機・重量物鳶等,腕に技を持った職人集団です。

 メンテナンスは,人の技術・技能に頼るところが大で,一人前になるまでは7〜10年かかり,団塊世代が卒業する中,技術・技能伝承が問題であります。

 メンテナンスは,新たに形あるものをつくるものではありません,形も変わりません,製造業に比べると創造性が乏しい業務でモチベーションを維持・向上させるのが難しい業務です。

 その職人さん達のモチベーションを高める一つに,国の高度熟練技能者の認定制度がありました。しかし,事業仕分けで廃止され,残念でなりません。

 若手の育成を急いでいるところですが,グローバル化の進展や,規制緩和による定期修理の周期4年化など,若手に実務経験をさせる場所や,機会が減少しています。

 また,4年周期の定期修理ということは,48ヶ月の内,2ヶ月だけ1,000人〜20,000人が動くわけで,非常に波動性の高い仕事です。

 ですから,この職人さん達はコンビナートから次のコンビナートへと,工場から次の工場へと転々と渡り歩くことになります。

 設備オーナーの皆様に,若手育成の観点からも,周期・季節変動の調整と仕事量の平準化をお願いしています。

 また,メンテナンスは設備オーナーが行う,設備メーカーが行う,専門メンテナンス会社が行うの3通りがありますが,先程お話したように,場所や機会が減少する中,また波動性が高いということで,技術力があり,動員力もある専門業者にアウトソーシングするケースが多くなってきています。

 お客様は安全安定操業維持を揚げ,取り組んでいらっしゃいます。
そのため,IT技術を利用し,設備毎の故障データや部品の消耗データをデータベース化し,それを基に最適メンテナンスを行う予防保全にも力を入れています。

 基幹産業は日本の産業の上流部に位置しています。上流が止まると,下流(日本の産業全体)に大きな影響を与えます。

そうならないように設備を維持管理・メンテナンスをきっちりやり,日本産業の縁の下を支える重要な役割がメンテナンスに携わる者の大きな役割です。

 メンテナンスはトラブルを起こさないのが役割ですから,成果は「何も起こらない」事です。ただし,今回の大震災のような時は,1日も早く復旧工事を行い,平常時の状態に戻すことが一番の使命となります。

 皆様の目に触れないところで,多くの人たちが日本を支えている事をご理解いただければと思います。

半導体と歩留り

アルファナテクノロジー蝓    
取締役会長 リチャード・ダイク 君
                
 私は1970年代前半から半導体業界と関係があります。大学院の学位論文は半導体に関してのテーマであり,その後20数年間テラダインという半導体テスタの会社に勤務し,現在も直接的・間接的に半導体業界と深い関係があります。

 半導体業界をレンズにして,アメリカ,日本そして韓国,台湾,中国などを比較すると非常に面白く,それぞれの国の経済体系や製造体系の特質が現れています。

 世界の半導体の売上高は昨年3,000億(米)ドルで,部品のマーケットとしては巨大です(80円換算で2兆4千億円)。2000年から2010年まで,業界全体が2,000億ドルから3,000億ドルに伸び,約50%の成長率を示しています。地域別のマーケットは70%近くの製品が日本とアジア各国で売られ,半導体の製造も60%以上はアジアで作られています。

 この数十年間半導体市場は年平均15%伸びて来ていますが,実際は非常にアップダウンの激しい業界で一年間15%伸びるということは珍しいです。ある年は30%も伸び納期が追いつかないほどになり,翌年には急に需要が減りマイナス成長になり在庫が溜まります。なぜなのか諸説ありますが,私は経済学者のシュンペーターの創造破壊理論が一番当てはまると思います。それによると,画期的な技術で新しいマーケットが現れると多くの会社が設備投資をしたり新会社が沢山設立され,バブルが発生しやすい状態になります。バブルがはじけると不況になります。半導体は最先端の部品なので新しい用途が出てくるとバブルになることは良くあり,2000年前後のDot.comバブルは典型的な例です。

 半導体業界のもう一つの特徴はモアの法則と呼ばれているトレンドです。インテルの創業者のゴードン・モアが1965年に発表した論文で,集積回路(IC)に内蔵されているトランジスタは18ヶ月毎に倍になるという有名な発言です。もちろん,これは物理学的な法則ではなく,むしろ半導体業界の一つの目安か挑戦目標です。集積回路のトランジスタを倍にする為に業界の各社(半導体メーカー,製造装置メーカー含む)が多くの問題を解決しなければならず,この数十年間,アップダウンのサイクルに苦しみながら,実際モアの法則通りに半導体の集積度が倍々ゲームのように上がってきています。

 インテルが作っているCPUチップは良い例で,1970年代に初めて集積回路のCPUが出来た時に約2,500個のトランジスタが内蔵されていましたが,先日私が買ったパソコンの中のインテルのCPUチップには約3億個のトランジスタが内蔵されています。スピードが上り,データの処理能力が上り,価格は横ばいになります。これが半導体業界の数十年間の傾向です。

 モアの法則を実行する為には沢山の半導体メーカー,製造装置メーカーそして,素材メーカーの努力が必要になります。一種のグローバル問題解決集団です。例えば,微細加工が毎年厳しくなり,1980年代にミクロンの問題を突破した時にもう限界だという発言が多く,ある人は“No More Moore” と言っていましたが,実際はその後ナノの時代となり,モアの法則はまだ継続しています。

 今まで,日本の半導体メーカーがこのグローバル問題解決集団に多いに貢献して来ました。今まで,半導体メーカーのトップテンの番付の中に日本の会社は50%かそれ以上あり,そしてその各会社の製造技術の力と品質管理の力によって,うまく歩留まりを向上し量産が出来ました。最近まではアメリカの会社が約35%,日本の会社が約50%,そして残りが欧州,韓国などの会社です。

 しかし,2000年ごろから日本の長い不況と電子業界の再編成により日本のメーカーが少なくなり,2010年のトップテンの中に日本の会社は2社しか残っていません。このトレンドになった原因は日本の不況だけではなく,半導体の製造そのものが“装置産業”になったことです。徐々に半導体を作る為のノウハウが製造装置に含まれてきて,その製造装置を日本やアメリカから買うと韓国でも,台湾でも,中国でも半導体を作ることが出来ます。結果として,今までの日本が占めたシェアがアジア各国に散らばりました。

 世界の半導体の問題解決集団の中で日本のメーカーの姿がこれだけ薄くなるとモアの法則の継続は非常に懸念されます。継続出来るとしても,ピッチがスローダウンする可能性が高いです。もちろん台湾や韓国の会社の技術水準は非常に上がって来ていますが,元の先生は日本であり,先生にも元気になってもらいたいと思います。