卓話


イニシエイションスピーチ

2008年10月15日(水)の例会の卓話です。

増渕稔君
堀川健次郎君 

証券金融からみた東京株式市場

日本証券金融
代表取締役社長 増渕 稔 君
        
 証券金融業は、株式の信用取引に関する証券会社へのバックファイナンスを主な事業内容としています。信用取引は、投資家が証券会社から資金あるいは株券を借りて株式の売買を行う投資手法であり、自己資金を大きく上回る規模の投資ができる、あるいは下げ相場のもとでも利益をあげられるといった点がメリットとされています。

 証券会社が投資家から信用取引の売買注文を受けた時に、自社内で同一銘柄についての反対注文があれば、それによって相殺することができますが、買い注文の方が多い場合は資金が、また売り注文の方が多い場合は株券が不足することとなります。そのような場合に不足する資金ないし株券の供給役を務めるのが証券金融会社の役割です。

 私共の仕事の繁閑は信用取引がどの程度活発か、株式市場そのものがどの程度活況かによって大きく左右されます。それだけに東京株式市場の動向は最大の関心事ですが、残念ながら近年の東京株式市場は甚だしく勢いを欠いています。金融危機の下での世界同時株安という当面の問題とは別に、長い眼で見た時に東京株式市場の国際的地位が大きく低下しているという問題があります。

 バブルの絶頂期であった1989年末頃は、東証の市場時価総額はニューヨーク証券取引所を上回り、世界最大の株式市場の地位を誇っておりました。しかし現在では、東証の時価総額は3.4兆ドルと1989年末を下回る水準に低迷しているのに対し、ニューヨークの時価総額は約13兆ドルと当時の4倍以上に拡大し、また、ロンドンも約3倍、香港はおよそ20倍となっています。

 欧、米、アジアの各市場が大きく拡大する中で、東京市場のみは低迷し、世界の中での相対的地位も顕著に低下している訳です。バブル崩壊後の日本経済の長期停滞という事情に加え、企業、投資家双方にとって魅力の乏しい市場であることが影響しています。

 良く機能する金融・資本市場の存在は、持続的な経済発展実現の前提条件であり、とりわけ、経済のグローバル化が進展するもとで、少子・高齢化と総人口減少という重荷を背負う日本にとっては、金融・資本市場の復権とそれに伴う金融業の発展は、経済成長戦略の上でも欠かすことのできない重要課題と言えるでしょう。

 東京株式市場復権のために必要な条件は次の3点に集約されます。

 まず1点目は、大きな前提として日本経済自体の着実な成長の実現です。

 2点目は、株式はじめ上場金融商品全般の魅力向上です。日本企業についていえば、グローバル経済の成長を取り込むことにより高い利益成長を達成すると同時に、質の高いコーポレート・ガバナンスを実現することで投資魅力を高めることが期待されます。また、成長力の高い外国企業の上場数やETF(上場投資信託)の銘柄数増加も望まれます。

 3点目は、株式市場に流入する資金の拡大であり、とくに個人金融資産のより大きな割合を株式市場に取り込むことが重要です。日本には1500兆円を超える膨大な個人金融資産がありますが、その過半は預貯金に運用されており、株式に投資されている金額の割合は11%と欧米主要国と比べて極めて低い水準に止まっています。諸外国同様税制も効果的に活用することにより、株式・投資信託など長い眼で見てより高いリターンの期待できる金融資産への運用割合を高めることは、一人一人の日本国民が高齢化時代を安心して乗り越えていくためにも、達成すべき重要課題です。

 このように様々な努力により東京市場で取引される株式等金融商品の魅力が高まると同時に、市場への資金流入が拡大すれば、両々相俟って東京株式市場の復権、国際的地位の向上が実現するでしょう。効率的で懐の深い立派な金融・資本市場を持てるのは、本当の先進国だけであると言われています。その意味で、東京株式市場の復権は、日本が本当の先進国に脱皮するために乗り越えなければならない試練の一つであると思います。

世界のマネー動かす金融情報

QUICK
代表取締役会長 堀川 健次郎 君

 現代は「情報を制するものが世界を制する」時代と言われますが、この言葉が最もぴったりくるのが、金融マーケットの世界ではないかと思います。最近は売買の判断をコンピューターが自動的にすることも多く、1秒どころか0.0何秒かの情報の差が天国と地獄を分ける、恐ろしい世界になっています。こうした情報の差に勝負をかけるマーケット参加者に、さまざまなデータやニュースをリアルタイムで提供するのが私の身を置く業界の主要業務で、「金融情報ベンダー」とか、「金融情報メディア」と呼ばれております。

 情報を利用するのは主に、世界の金融マーケットに参加している、いわゆる金融のプロです。銀行、証券会社、資産運用会社、投資顧問会社、機関投資家、ヘッジファンド、さらに一般の事業会社でも、財務部門や資産運用部門で金融情報を必要とします。最近は個人投資家も証券会社経由で、金融情報サービスを利用しています。パソコンを使ってのオンライン取引と呼ばれるもので、日本ではすでに1300万口座に達しています。

 金融情報は実際の取引に直結するため、正確さと共にスピードを要求されますが、提供するデータが大量のため、簡単なことではありません。例えば株式売買件数は、世界中の取引所で大幅に増える傾向にあります。これは注文の小口化で相場への影響を少なくすることなどを狙いにしたアルゴリズム取引と言われるコンピューターによる自動取引が一因とみられています。
 
 注文の小口化が進んで発注件数が膨らむと、それを受ける取引所は注文の処理スピードを上げなければなりません。すでに東京、ニューヨークやロンドンなど世界の主要取引所では、注文1件当たりの処理スピードはミリ秒、つまり1,000分の1秒単位の争いになりつつあります。

 金融情報ベンダーは、そうした超ハイスピードの取引情報を、取引所と直接結んだ回線を通じて1件のもれもなく受け取り、瞬時にユーザーに提供する画面に反映させます。もちろん、株式市場以外の債券、外国為替、資金、商品、各種先物など他の多くの市場もカバーしています。それに最近は金融のグローバル化に対応、世界の取引所データも提供するようになっています。

 市況情報の次に注目されるのが日々のニュースで、これも鮮度が勝負です。私どもの場合で、1日平均、約8,000本のニュースを流しているため、秒単位で新しいニュースを追加している勘定になります。ニュースが流れた途端に相場が動くことも少なくありません。このほか、経済・金融などのマクロデータ、個別企業の決算・財務などのミクロデータ、多数のアナリストによる業績予想などの予測情報、さらに最新の金融工学を使った投資の評価・分析など高度な分析機能なども提供しています。

 日本に金融情報ベンダーが登場したのは、東京証券取引所の電子化が実現した1970年代のことですが、その時から、終始QUICKがトップを維持しています。世界のマーケットでは、90年代以降、急成長した米国のブルームバーグと今年春統合したトムソン・ロイター連合の2強がトップの座を争う形になっています。一方で、このところヤフーやグーグルなどインターネットの巨大ポータルサイトの利用者が増え、「情報はタダ」の世界が広がっていますが、こうした無料情報はこと金融取引に関する限りはあくまで参考情報の域を出ていません。

 世界の金融資本市場の規模はここ数年で急速に膨らみ、株式、債券、デリバティブ、商業銀行資産を合わせて200兆ドルを超え、実物経済の規模を示す世界のGDPの4倍、円に換算すると、2京(けい)円以上という天文学的な数字に達しています。そうした近年のマネー急拡大が今回の世界金融危機の背景になっています。
  
 世界を駆け巡る膨大なマネーは、多かれ少なかれ、金融情報ベンダーが提供する情報なしには動きません。そこで金融情報ベンダーの情報ネットワークは「金融市場を支えるインフラ」とも言われています。我々は今後とも、マーケットのインフラ役の責任を自覚し、金融市場の活性化とそれを通じた経済の発展に貢献していかなければならないと考えております。