卓話


場所の時代 

2012年12月5日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

隈研吾建築都市設計事務所
隈 研吾 氏

 建築のデサインは,何をきっかけにして変わるかというと,まずは技術の進歩が考えられます。これは確かに真実ですが,実はもっと大きな要因があります。それは,大災害です。大災害に遭うと,私たちは「これは大変だ」と新しい建築を考えます。

 フランス革命の少し前,1755年のリスボン大地震では5〜6万人が亡くなりました。その時から,ヨーロッパの建築は一挙に近代的なコンクリートと鉄の時代を迎えます。

 すぐにコンクリートが発明されたわけではありませんが,強い建築や道路幅を広くする都市づくりは,この地震がきっかけだったといわれています。

 次はシカゴの大火です。それまでは木とレンガの街だったシカゴが,1871年にほとんど焼え尽きてしまいました。この大火をきっかけに,アメリカの建築技術は一挙にヨーロッパを追い越して,20世紀の最初には,ニューヨークに超高層ビルが数多く建てられました。

 1923年に関東大震災が起こりました。東京が焼け野原になり,死者も10万人といわれました。この時も,都市の不燃化が叫ばれ,建築基準法も改正され,日本は一挙に近代化が始まったといわれています。

 2011年3月には東日本大震災です。これを機会に,どんな防災建築が導き出されるか,世界中が注目しています。

 私は,これからは「場所の時代」が始まるのではないかと考えています。リスボンの大地震以来の近代建築は,世界中が強いコンクリートでの建築でした。いわば建築のグローバリゼーションです。しかし,東日本大震災は「コンクリートで強くするだけではだめ」という教訓を残してくれました。自然の力はもっと強いことを思い知らされました。

 新しい解決法を考える時にきました。建築デザインの側から言うと,建築は「場所の自然を大切にする」とか,「自然エネルギーを活用する」あるいは「場所の素材を使う」という方向に向かうのではないかと思います。

 私はこの10年ほど「場所」をテーマにして設計をしてきました。偶然ですが,石巻に,国の河川モデルプロジェクトで[北上川運河交流館]を造りました。北上川の土手の中に埋もれた感じがする建物ですが,自然の中に共生するというテーマの建築物です。幸い,今回の津波でも,ここは安全でした。

 私にとって,もう一つのメルクマールは,広重美術館です。安藤広重は,西洋にも大きな影響を与えた画家で,帝国ホテルの設計者ライト氏も「広重がいなかったら自分の建築はできなかった」と自伝に書いています。広重の持っている「自然に対する愛情」を受け継いで,この帝国ホテルが出来たというのも運命めいたものを感じます。

[広重美術館]
 地元の木,地元の石,地元の紙で造られました。地元の経済を考え,地元の自然と調和した建物です。建築資材のほとんどが,この村の数キロ以内で整えたものです。

[サントリー美術館]
 街中にありますが,サントリーの持っている自然素材を利用する目的で,床や天井,壁は木の樽の板を延ばして使っています。

[根津美術館]
 竹を外壁に使っています。自然素材を多用した建築物です。現行の法規では難しいのですが,特別に許可を得て造りました。瓦も日本を感じる素材です。庭園と室内をつなぐ設計も,日本独自の「場所」の選び方です。

[歌舞伎座]
 2007年から設計して,いよいよ来年4月にこけら落としです。新しい5代目の歌舞伎座は,後ろに29階建ての高層ビルを建て,経済的にサスティナブルな計画にしたわけです。

 建物のデザインは昔の考えを踏襲して,材料も瓦や金物などは使える物は可能な限り昔の材料を使いました。内部は,いろいろとバリアフリーに配慮され,座席も幅が広くなっています。快適ですが雰囲気は昔どおりで,音響も昔どおりです。

[浅草文化観光センター]
 歌舞伎座と同じような建物で,木造の建物が8戸積み重なったような建物です。それぞれのフロアーで,木造の家に居るような感じの建物にするという考えで造りました。
 現在は,木の不燃技術が発達したので,外壁は全て不燃の木材を使用しています。

[新潟県長岡市役所]
 4月に市役所が改装されました。今までの市役所の常識を越えたものです。一階の真ん中に「土間」のような空間があります。街の真ん中に,市民の生活のための市役所を復活させようという狙いを実現させました。

 越後杉をふんだんに使った屋根付きの広場は,子供たちが遊びに来たり,お年寄りの毎日の憩いの場所になったりしています。

[中国の竹の家]
 万里の長城のわきに,「場所」を大切にした「竹の家」を造りました。地形に合わせて造った建物です。先のオリンピックで,この建物を背景にしたテレビCMが中国中に流れ,お陰で中国からの仕事が殺到しています。

[北京のブティックホテル]
 大変人気のホテルになっています。ここも中国の古い建物から材料を持って来たり,再製材した中国の素材を使ったりしています。

[フランスのブザンソン芸術文化センター]
 「自然を建築に取り戻せないか」というテーマは,ヨーロッパでも同じです。
 ブザンソンの町の川岸に建っている古い建物をそのまま保存して,その建物の上に緑の屋根をかけるという発想です。屋根は緑化されていて,太陽光パネルの光りが当たっています。その下の,縁側のような空間には木漏れ日がさしています。

 この建物は,音楽大学,音楽ホール,美術館が一体になった新しい文化センターです。スイス国境の町なので安い落葉松が手に入り,それを材料にしています。

[マルセイユ現代美術センター]
 フランスの地域現代文化財団が文化事業として造っている美術館の一つに,来年3月に開場するマルセイユ現代美術センターがあります。地元産業から出る再生ガラスを利用した建物です。和紙のような素敵なテクスチャーのガラスなので,気に入って選んでいます。

 毎年,EUの中から一都市を選んで,そこを文化イベントの中心にしようという行事があります。マルセイユが来年その町に選ばれて,その行事の中心会場になるそうです。

[グラナダのオペラ劇場]
 この建物は「ザクロからヒントを得た建築」と現地の人に説明しています。グラナダの名物アルハンブラ宮殿は,イスラム風の独特な形で有名です。オペラ劇場も六角形の蜂の巣構造で全体を支えています。歌舞伎座を少し小さくした程度の劇場ですが,スペインでは代表的な劇場になる予定です。

[ヴィクトリア&アルバート博物館・スコットランド分館]
 もうすく工事に入ります。スコットランドの崖をヒントにしていて,政府が観光誘致の目玉として,川の中の敷地に美術館を建てようというプロジェクトです。私どもがコンペで選ばれた理由は,冬も市民が広場みたいに使える美術館というコンセプトが評価されました。音楽ホールとしても使える博物館になると思います。

[光をテーマにしたサスティナブルシティ]
 フランスのリヨンのプロジェクトは,二つの川の合流点に造ったサスティナブルシティです。20年がかりで進めています。その一角を設計しています。「光」というテーマで,太陽光が効率的に使え,夏の省エネにもなるというコンセプトで建物を建てる計画で設計を進めています。

 サスティナブルシティでは,オフィスと住まいに商業施設の機能が複合した都市設計が必要です。建材はリヨン近くの石や木を使います。特区にして,二輪車の輸送システムを導入しようという考えもあるそうです。

[イタリアの渓谷に新幹線の駅]
 フランスとイタリアを結ぶ新幹線のイタリア側の駅に,スサという所があります。渓谷に高速道路と新幹線が通っていて,そこに駅を造る計画です。地域の為にもなる駅のプランを提案してほしいと言われています。

 文化施設も併設され,地元の素材を使い,地元の民家のような石の屋根をモチーフにした提案をして設計を始めたところです。

 地方のローカルな物を使って地元の人たちが潤うことが,とても大切になってきている時代です。

 世界の建築は「場所の力を活かした建築がその土地の人々を幸せにする」という,一つの潮流に乗っています。「場所」が主人公になる時代がやってきたと思います。

(注)建築物を映写しながらの卓話でした。建築物の映像は隈研吾建築都市設計事務所のホームページでご覧頂けます。  HPアドレス http://kkaa.co.jp/