卓話


職業奉仕月間例会 CSRで拡げる社会のイノベーション

2008年10月8日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

(株)創コンサルティング
代表取締役 海野みづえ氏 

1.今なぜCSRが問われるのか
 Corporate Socia Responsibility (CSR)という言葉が広く使われています。訳せば「企業の社会的責任」です。社会的というと会社の外と思われがちですが,従業員への責任も含まれています。

何故いま,CSRが重要視されているか。その背景には,社会問題が世界規模で広がり深刻化している状況があります。

例えば,先進国では高齢化の問題,環境問題,地球の持続可能性を脅かす課題の増大などが社会問題として取り上げられています。

そこで,企業でも,グローバルな観点でのCSRが無視できなくなっているのです。

 企業が持続可能であるためには社会も持続可能でなければなりません。持続可能な社会を実現するために,社会の課題,問題を事業の中でどう解決するか。社会問題の解決は事業に直結しています。またそれは社会に変革をもたらすことにも繋がるといえます。

企業がビジネスだけに専心するのではなく,社会を変える活動をして社会的責任を果たし,社会が少しずつ変わっていけば,持続可能な状況が保たれるのです。それがCSRです。

日本の企業でよく使われる表現に「CSRは,社会との共生・地球との共生」があります。このキーワードをビジネスの中で,どう実践するか。ここで言う「社会」はステークホルダーです。取引のお客様,利害関係者,一般市民に,雇用関係者・社員までを含んだ人々を総称して「社会」と考えます。

 企業は責任ある行動をすることによって社会の支持を得ます。しかし,企業は従来のままの取り組みでは不十分です。

自社製品の品質について,自分のところだけでは処理できない問題が多発しています。従来の枠を超えて,関連会社と連携して対応することが求められています。

雇用問題も多様化しています。仕事と生活のバランスを,企業が考える時代です。

自分の会社の中だけではなく,原料を調達する海外の会社(サプライヤー)との関係まで経営管理の範囲を拡げなければなりません。

CSRの大切さがここにあります。

2.産業界の外からの動き
2006年4月,国連アナン事務総長が,ニューヨーク証券取引所で「責任投資原則」を発表しました。投資家に対し,財務だけでなく,環境・社会・ガバナンスを取り込んだ投資判断を盛り込むという原則です。

グローバル・コンパクトが企業向けであることに対し,これは投資家に対して呼びかけているものです。

ISOで,CSRの国際規格を決めようという動きもあります。

 現在のISO規格は法律ではないが,非常に強いものという印象があります。CSRはそれになじまないという意見が強く,全体的には,認証を目的としないガイダンス文書程度の策定が検討されているところです。CSRの範囲を「企業」だけではなく,各種の組織に適用できるようにする意図もあります。

 例えば,人権,労働慣行,組織のガバナンス,ビジネス慣行/市場ルール,コミュニティ参画,消費者課題などを範囲にする検討がなされています。

3.CSRの展開
CSRマネジメントの最初にあるのは会社の経営理念です。経営理念の下には企業戦略があり,それを実践する事業活動にはCSRが伴います。コーポレート・ガバナンスは内部統制の立場から事業活動でのCSRを支える体制に位置付けます。

基本的なCSRとは別に,事業に関連した特徴あるCSRを積極的に展開することも重要です。事業戦略を中央に,コーポレート・ガバナンスを右に,積極的CSR展開を左にという3本柱をイメージしてください。

CSRマネジメント・システムでは,社会へのマイナス影響の抑制という視点だけではなく,プラスとなる便益を提供するという視点も忘れてはなりません。

リスク対応だけではなく価値創造というプラス思考を実行している会社があります。

アメリカのGEはビジネスの中心を環境分野「エコマジネーション」に置いています。これからの新興市場に対しては,必ず「環境」を柱にした戦略を立てています。

GEは「事業を通してのCSRが社会問題の解決と両立するのだ」と外に向かって宣言しているわけです。

食品会社のネスレは,農産物を調達する農業従事者との間に,The Concept of Shared Value Creation(共通価値の創造)を掲げて,持続可能な農業支援を行っています。単なる社会貢献ではなく,それによって自分たちの企業も永続的に経営できるという相互協力のビジネスモデルです。

J&Jは1943年に「我が信条」という企業理念を掲げ,社員にも意識させ徹底することを実践している会社です。

4.新興市場のビジネスでのCSR展開
GEにしてもネスレにしても,欧米の大きな会社ですが,向いている所は新興国です。持続可能性を考えれば新興国とリンクしていることは明らかです。

新興国の経済成長の動向にはいろいろな要因がかかわりますが,魅力的なマーケットであることは事実です。これらの国の政治的発言力も強まっています。

ここで問題になるのは,それらの国の社会問題です。例えば政治機構,ガバナンスの問題もあり,欧米同様のビジネス展開はできません。そこをどう考えるか。

CSRで,新興市場とリンクする問題は,Sの部分,社会です。この部分を解決するという姿勢で押していかなければビジネスも成立しません。

今までは,貧しいから施すことが必要な住民たちへのODAという発想なので,民間があまり入っていけませんでした。

これからは,これらの人も経済力をつけて所得も上がってきます。消費者としての有力なマーケットになります。

私が新しい新興市場型ビジネスモデルとして考えるのは次のようなことです。

今までの新興国型(途上国型)モデルは,ODAが入って,道路や発電を整備するといったインフラ開発など,大規模なプロジェクトの仕事を国や政府が主体で行いました。

これはこれで,先々継続するのですが,最近注目されているのは,もっと貧困な人たちが少しずつ経済的に自立できるようにしていくためには,どうするかという視点で,Bottom of Pyramidといわれる経済の最底辺にいる何十億という人たちが上がっていくビジネスモデルを考えることです。
 
今まではビジネスとは考えられなかったところが,社会問題を解決することをニーズと考えビジネスにつなげることができます。

このモデルは国家主導ではなく民間企業が主役です。企業だけではなく,有力な個人や地域の連携も必要です。中央集約ではなく分散的なネットワーク型の構築です。

社会起業家の活躍も期待したい存在です。大きなビジネスをやる人よりも,意欲を持った地域の人たちの中から現れるのが一番です。

村の社会起業家が地域の人たちと連携して,行動すると社会が変わっていきます。
これが社会のイノベーションです。

ビジネスだけを考えても成功しません。社会,地域をどう変えるかを,地域の人たちと連携して考えれば道は開けます。

地域の,経済開発と社会イノベーションとは一体です。

 Public Private Partnership(PPP)という言葉がよく使われます。

Publicは,政府・官だけでなく,地域の連携,地域の市民機関です。自治会のような組織や女性同士の連携もあります。Privateは企業です。民間組織が中心になって社会のニーズに対応し,市民組織や社会企業家が協力して経済開発と社会改革を進める発想です。

特別な例では,バングラディシュのグラミン銀行のようなマイクロファイナンスも連携の環に加わります。

近隣の人たちが地べたに座って車座になって会議をするというローカルな組織と,地域を束ねる起業家が企業と協力してつくる組織のPPPが次のモデルになるだろうと言われています。

日本にもいろいろな社会の課題がありますが,会社だけ,地域だけ,消費者だけが動くのではなく,どうやったら連携できるかを考えることが求められています。政府が政策を進めるだけで解決できる問題ではなくなってきています。
 
次のステップとして,CSRの道が見えてきます。それは社会のイノベーションを牽引するCSRだと思います。